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第19話
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昼を少し過ぎた頃、ルーポが薬を持って屋敷に戻ってきた。
遅かったのでアルベルトに心配をされたが、「すみません」と謝るとそそくさと自分にあてがわれている客室に入った。
昼食の準備ができている、とアルベルトに言われ、「わかりました」と答えたものの、ルーポが食事に現れたのはそれから半刻近く経ってからだった。
遅い到着にアルベルトに小言を言わながら、ルーポは何も言わずきちんとマナーを守って食事をした。
とりあえず合格点はもらえたようで、ルーポは安心した。
それからアルベルトと共に厨房に行き、持ち帰った薬ときっちりと計った水とで昨日のように薬湯を作ってもらうよう指示をした。
薬についてはアルベルトがピリピリとしていたので、ルーポは水の量からとろ火での煮詰め方、薬湯に適した鍋まで細かく教えると、アルベルトが自分でやってみたい、と火の前に立ち、汗をかきながら薬湯の番を始めた。
カヤは今日一日は安静にしておくように町医者に言われたので、自室で横になっていた。
食欲もあり、自室で付き添いの弟のロダを共に昼食を平らげたと聞いて、ルーポも安心した。
「カヤ様もルーポに会いたがっていらっしゃいましたよ。
顔を見せてあげてください」
「わかりました」
そう返事をして厨房から去ったが、ルーポはまた客室に戻っていった。
ドアを後ろ手にぱたんと閉じて一人になったことを確認すると、足ががくがくと震え始め、背中をドアにすがらせた。
そしてずるずるとしゃがみ込んでしまった。
何事もなかったふりをしていたが、限界だった。
それは、今朝の、あの明けやらぬ時のこと。
気配を感じてむっくりと起きてみると、見たかった黒曜石の瞳が穏やかに開いていた。
カヤの名前を呼んだつもりだったが、喉がからからで声にならなかった。
じっと見つめられ、後頭部を抱くように引き寄せられた。
目をそらすこともできず、されるがまま顔が近づいていく。
自分の息を詰めてみてもカヤの息遣いがはっきりと伝わってきて、このままでは唇がぶつかってしまう!
というところで、階下で大きな音と声がした。
ルーポは驚き、身を離した。
カヤの腕からは呆気ないほどするりと逃げることができた。
今のはなんだったんだ。
しかし、ゆっくり考えることはできなかった。
すぐにカヤの部屋のドアが開き、アルベルトに案内されたロダと町医者が入ってきたからだ。
あれから考えないようにしていたが、ずっと頭から離れなかった。
もうすぐ二十歳になるルーポはキスも知っているし、王都にいたので成人になった十五のときに、慣例として年上の男たちに連れられて花街に行き、それなりの経験も済ませている。
しかし、それだけだった。
たまに自分の中の熱を仕方なく吐き出すことはあったが、薬局の寮にいたので他人の目が気になったり、研究に没頭してそれどころではなかったりして、回数はほんのわずかだった。
恋愛に関しても故郷でほんわりと同い年くらいの眩しい少女がいいな、と思う程度のものだった。
あんなふうに。
射抜かれるような、大きく包み込まれるような目で見られたことはなかった。
不意に風呂の浴槽の中で股間を握られたことも思い出した。
カヤがふざけただけだとわかってはいたが。
「あっ」
生温かい声が小さく上がった。
それがきっかけで、溺れそうになったルーポを抱えるために濡れた肌に密着したことも思い出してきた。
傷だらけの身体にみっちりとついた筋肉。
背中に長い黒髪が貼りつき、その隙間からピンクの花びらと青い水が描かれた右肩が見え隠れする。
肌を通して感じる高い体温。
傭兵と騎士として戦ってきた頼もしい人。
そんな人が自分の名前を優しい響きを持って何度も呼ぶ。
名前だけでなく、目も髪も外側も内側も認めてくれる。
なのに。
思い出してもぞっとする、床に倒れ脂汗をかき意識も朦朧となった苦しむ姿。
自分より大きくたくましいのに、負けるはずはないのに。
襟の高い上着を着、ラピスラズリのついた紐できりりと黒髪を結った悠然とした姿。
きゅっと締まったデボラ嬢の腰をホールドして歩くのがとてもお似合いだ。
痩せっぽちでそばかすだらけで、目だけがやたらと大きくて、何も持っていない僕なんかじゃない。
そうだ、僕が好きになっちゃいけない人だ。
僕は僕の道を行く。
薬師として、もうあんなに苦しむ姿を見たくないです。
僕、薬局に戻ったらもっともっと頑張りますから。
カヤ様の痛みを取り去る方法を見つけますから。
だから、アルベルトさんが望むように素敵な女性と結婚をして幸せになってくださ……
ルーポがひゅっと息を飲んだ。
今、僕、何を考えた?
自分の考えにどくどくと音を立て、血液が身体中をめぐる。
動悸が激しくなり、ますますがくがくと身体が震えてきたので、思わず自分の肩を抱く。
落ち着け、ルーポ。
今、僕はなにを考えた?
好きになっちゃいけない、って何?
どういうこと?
感情が溢れ、それが涙となった。
ルーポはドアにもたれかかって座ったまま、ぼたぼたと涙をこぼした。
ぬぐってもぬぐっても止まらなかった。
今朝、カヤ様が目を開けた時、僕は、僕は、本当に嬉しかったんだ。
心の奥底から嬉しくて。
嬉しくて嬉しくてたまらなかったんだ。
客室のドアがノックされた。
「……はい」
涙で震える声を懸命に抑え、ルーポが返事をするとアルベルトの声がした。
「ルーポ、ここにいらしたのですね。
薬湯ができました。
カヤ様のところにいると思っていたのにいないから、カヤ様も心配されていました」
「あ、はいっ。
すみません。
今、取り込んでいるので終わったら、すぐに参ります」
「わかりました。
では、後ほど」
アルベルトの足音が遠のく。
ああ。
ルーポは両手で顔を覆う。
どんな顔をして、僕はカヤ様にお会いすればいいんだ?
半刻して、ルーポはカヤの部屋を訪れた。
カヤはベッドにはいたが、背中に枕を当て身体を起こしていた。
辺りには青くさい臭いが漂っていた。
薬湯を飲み終わっているようだった。
「お待たせして、すみません」
ベッドの脇にはくつろいだ様子のロダが椅子に座り、アルベルトがその横に立っていた。
「ルーポ」
カヤは嬉しそうな声を上げた。
ロダが席を立とうとしたのをルーポは止め、呼ばれたのでカヤのそばに近づいていった。
カヤは手を伸ばし、ルーポを引き寄せると両手でルーポの両頬を包み、空色の瞳を覗き込んだ。
「どうした、泣いたのか?」
「い、いいえ……」
「元気がないじゃないか。
ちゃんと食ってるか」
「はい、皆さんが気を配ってくださっています」
「そうか」
カヤはにっこりと笑った。
「カヤ様……」
「心配かけたな。
おまえのお陰で助かった」
「……カヤ様」
「それにおまえ飲ませてくれた薬のせいか、以前より痛みが軽くなった気がする。
実際に歩いてみたいが、うるさいのが大勢いてな」
カヤがにやりとした。
ルーポは思わずカヤの唇を見てしまった。
意識が朦朧としたカヤに口移しで薬を飲ませた、あの唇に。
なにかがぐっと尾骶骨からぐっとこみ上げてきそうになったが、ルーポはそれに耐えた。
「僕が調合したのは、気休め程度のものですよ」
ルーポは薬師の顔をして答えた。
「今日、薬局からもらった薬のほうがよく効きます。
しっかり飲んでくださいね」
にっこりと微笑んで、カヤを見た。
カヤは少し、眉をひそめたが、何も言わなかった。
「もしおつらくなかったら、マッサージをしましょうか。
明日、先生の許可が下りたらベッドから出られるのでしょう」
「ああ、頼む」
アルベルトが大きな敷布を持ってこさせ、分厚い絨毯の上に敷かせた。
ルーポの指示でカヤがそこに横になった。
昨夜のことを思い出して、ぐらりとしそうになったのをルーポはこらえた。
そして、またゆっくりと左の膝を両手で包み、しばらくしてから優しくなで、そして指先に集中して筋肉をほぐしていった。
「昨日より随分柔らかいですよ。
もう少しほぐしましょう」
「ああ」
「こんなのは初めて見たな」
ロダがルーポの手つきを興味深そうに見つめ、言った。
「これは僕しかやっていないことです。
やはり薬だけでは限界があるので、こうやって筋肉を柔らかくするマッサージをするとより効果が持続する…ようです。
すみません、これは僕の祖父から教わったもので、薬局ではまだきちんと研究できていないのです」
「これで痛みが和らぐのなら、是非とも一般に広めたいものだが」
「僕はまだ、薬師見習いだし。
カヤ様、膝を曲げてください」
ルーポはてきぱきとカヤに指示を出し、今度は身体の大きなカヤに対し全身を使って膝を曲げたり伸ばしたり、微妙な角度をつけながら足のつけ根もほぐしていった。
「本業は薬の、調合なんです。
だから、まだ、そこまでは至ってなくて。
んっ、カヤ様、痛いですか?」
「いや、気持ちいいぞ」
「はい」
「勲章を受けたら、そういったことに時間は割けないのか」
「さぁ、僕には、わかりかねます」
「薬局長のイリヤ戻ってくるから、聞いてみることにしよう」
「わたくしも習いたいです」
アルベルトは真剣なまなざしでルーポの動きを見ている。
「今日は、ふっ、難しいですが、明日からは大丈夫かな。
アルベルトさん、お時間を取ってくださったらお教えいたします。
カヤ様、今度は右足に移りますね」
ルーポは力を込め息を切らしながら話すと、カヤの右足にふれ始めた。
こうして、ルーポは両足のマッサージを終わらせ、昨日できなかった腰にもふれた。
「む、硬い」
「どれ」
「ああ、ロダ様、そんな乱暴にしてはいけません。
指先だけでそっと。
ほら、ここを触ってみてください」
「ごりごりしてるじゃないか」
「私にもさせてください」
アルベルトもやってきたので、ルーポはロダとアルベルトにカヤの腰を触らせた。
それから汗だくになりながら、馬乗りになるような体勢でカヤの腰をさすり、押し、揉んでいく。
決して強い力ではないのだが、ぐっぐっと絶妙な力加減で手のひらや指先を使いほぐす。
「さすがカヤ様だ。
大きいから、時間がかかりますね。
しんどくないですか」
「ああ」
「ロダ様、アルベルトさん、さっきのところをそっと触ってみてください」
言われるままに2人が手を伸ばしカヤの腰にふれてみる。
「全然硬さが違う」
「本当だ」
「柔らかいほうが痛みが小さくなります。
やっぱり、右の腰に負担がいってますね。
湿布もしておいたほうがいいかな」
説明が終わるとルーポは広い腰をほぐすため、また全身全霊を込めてマッサージを再開した。
そして、それが終わる頃、ルーポはふらふらになっていた。
カヤは自分で立ち上がり、ベッドまでの数歩を歩いたが、驚いた顔をしていた。
「すごい。
ルーポ、すごいぞ。
おまえ、魔法が使えるのか?
腰の痛みやだるさが全然違う!」
「よかったです」
ルーポは嬉しくてたまらず、大きな笑みを作った。
そしてうっかりカヤの顔を真正面から見てしまい、黒曜石の瞳に絡めとられそうになり、慌てて視線を逸らした。
顔が熱くなるのを感じたが、必死に薬師の顔になろうと取り繕った。
「ルーポ、疲れただろう。
アルベルト、お茶の準備をしてくれ。
我が薬師様を休憩させなくては」
おどけたように言うロダに、アルベルトが大きくうなずくと用意をするために部屋から出ていった。
ロダは先ほどまで自分が座っていた椅子にルーポを座らせ、慌てるルーポに「休んでおいで」と髪をなでた。
「見事なフェアリーヘアだね」
「あ、ありがとうございます」
「長く伸ばして凝った編み込みをするのもいいかもしれない」
「は、はぁ」
いつまでもロダが髪をなでているので、ルーポはずっと緊張していた。
「ロダ、いい加減にしてやれ。
それじゃルーポが休めないだろ」
「ああ、そうか。
悪かったね、ルーポ」
カヤの声にロダは優しく言うと、別の椅子に座った。
「明日また先生に診ていただくことになっている。
それで許可が出たら、またカヤからいろいろ教わるといい。
受勲式まで時間がないのに、申し訳なかったね。
アルベルトには私から言っておこう」
「あ、いえ、そんな」
「もらえるところからはたっぷり受け取るといいよ、ルーポ。
機会は生かすべきだ。
次があるとは限らないからね」
ロダが笑って話していると、アルベルトが給仕係を連れて戻ってきたので、お茶の時間になった。
そしてひとしきり茶を飲むと、「ルーポがカヤに付き添ってくれるなら、私は少し席を外してもいいかな。アルベルトから報告を聞きたいし」とロダはカヤの部屋から出ていった。
ロダは屋敷の主の執務室へアルベルトを連れていった。
アルベルトが扉を閉める音をしっかり確認すると、振り向いて言った。
「アルベルトが兄さんのことを溺愛しているのはわかっているつもりだけど、人には向き不向きがあるだろう、アルベルト」
「……」
「兄さんに貴族として、屋敷や領地を治める才がないとは言っていないよ。
ここにある書類だって、カヤに作らせたものだろう。
よくやっているよ。
しかし、だ」
ロダは直立不動になっているアルベルトに近づき、声を低くして言った。
「カヤは望んでいない。
アルベルトには理想のカヤ像があるのだと思うけれど、それを押し付けるのはどうかと思うよ。
私も、おまえもカヤに守られてばかりだ。
違うか?」
「ですが」
「ん?まだなにか言いたいのか?
父もアルベルトもこれだから、カヤがこの屋敷に戻ってこなくなったのを忘れたのか?
2人にとってはカヤも俺も小さな子どもだと思うが、いつまでもそうやっていると終わらない反抗期が続くよ」
アルベルトは言葉を失う。
カヤが傭兵になるためにこの屋敷を飛び出していった時のことは、今でも繰り返し見る悪夢だ。
生きた心地がしない年月を長く過ごした。
「だから、もうカヤを自由にしてやってくれ。
父のような職に就き、屋敷や領地を治め、結婚し子どもを育てていく、というアルベルトの理想から外れることを許してやってほしい。
代わりは務まらないが、おまえの力を借りて私がこの屋敷のことも治めていこう」
「いえ、今まででも十分でございます」
ロダは父親から仕事だけでなく、家督を継ぐことも必死になって学んでいる。
アルベルトは頭を下げた。
「俺たち兄弟は両親と乳母とアルベルトに育てられた幸せ者だよ。
きっと兄もそう思っている」
「ありがとうございます」
「これから書類を見ておこうか?
滞っているんだろう」
「いいえ、カヤ様がしっかりお勤めくださいました」
「ルーポも面倒を見る代償としてか?
兄さんもよく耐えたな」
ロダは執務室の机に近づき、その上にある作成された書類を1枚つまみ上げざっと目を通す。
「本当に才はあるのになぁ。
俺が困ったときには手助けくらいはしてもらえるだろう。
なぁ、アルベルト、ルーポのことでかかった費用のことでこれ以上兄さんに要求するのは止めてくれないか。
大切な薬師様だ。
カヤは彼に助けられた」
「承知いたしました」
「盛大に受勲のための準備をして差し上げようじゃないか。
なにかうまいものを食わせよう。
あれじゃ細すぎだ」
ロダは楽しそうに言った。
アルベルトは黙ってしまった。
「どうした?」
「いえ……
私も歳を取ったのだと思いました」
「しおらしいことを言ってもなにも出ないよ、アルベルト」
ロダは快活に笑い、そしてぼそりと言った。
「今でも頼りにしているよ、アルベルト」
「ありがとうございます」
「仕事は明日からにしてもいいかな」
「はい、急ぎのものはございません」
「そうか」
ロダは大きく伸びをして、アルベルトを促し2人で執務室から出ていった。
遅かったのでアルベルトに心配をされたが、「すみません」と謝るとそそくさと自分にあてがわれている客室に入った。
昼食の準備ができている、とアルベルトに言われ、「わかりました」と答えたものの、ルーポが食事に現れたのはそれから半刻近く経ってからだった。
遅い到着にアルベルトに小言を言わながら、ルーポは何も言わずきちんとマナーを守って食事をした。
とりあえず合格点はもらえたようで、ルーポは安心した。
それからアルベルトと共に厨房に行き、持ち帰った薬ときっちりと計った水とで昨日のように薬湯を作ってもらうよう指示をした。
薬についてはアルベルトがピリピリとしていたので、ルーポは水の量からとろ火での煮詰め方、薬湯に適した鍋まで細かく教えると、アルベルトが自分でやってみたい、と火の前に立ち、汗をかきながら薬湯の番を始めた。
カヤは今日一日は安静にしておくように町医者に言われたので、自室で横になっていた。
食欲もあり、自室で付き添いの弟のロダを共に昼食を平らげたと聞いて、ルーポも安心した。
「カヤ様もルーポに会いたがっていらっしゃいましたよ。
顔を見せてあげてください」
「わかりました」
そう返事をして厨房から去ったが、ルーポはまた客室に戻っていった。
ドアを後ろ手にぱたんと閉じて一人になったことを確認すると、足ががくがくと震え始め、背中をドアにすがらせた。
そしてずるずるとしゃがみ込んでしまった。
何事もなかったふりをしていたが、限界だった。
それは、今朝の、あの明けやらぬ時のこと。
気配を感じてむっくりと起きてみると、見たかった黒曜石の瞳が穏やかに開いていた。
カヤの名前を呼んだつもりだったが、喉がからからで声にならなかった。
じっと見つめられ、後頭部を抱くように引き寄せられた。
目をそらすこともできず、されるがまま顔が近づいていく。
自分の息を詰めてみてもカヤの息遣いがはっきりと伝わってきて、このままでは唇がぶつかってしまう!
というところで、階下で大きな音と声がした。
ルーポは驚き、身を離した。
カヤの腕からは呆気ないほどするりと逃げることができた。
今のはなんだったんだ。
しかし、ゆっくり考えることはできなかった。
すぐにカヤの部屋のドアが開き、アルベルトに案内されたロダと町医者が入ってきたからだ。
あれから考えないようにしていたが、ずっと頭から離れなかった。
もうすぐ二十歳になるルーポはキスも知っているし、王都にいたので成人になった十五のときに、慣例として年上の男たちに連れられて花街に行き、それなりの経験も済ませている。
しかし、それだけだった。
たまに自分の中の熱を仕方なく吐き出すことはあったが、薬局の寮にいたので他人の目が気になったり、研究に没頭してそれどころではなかったりして、回数はほんのわずかだった。
恋愛に関しても故郷でほんわりと同い年くらいの眩しい少女がいいな、と思う程度のものだった。
あんなふうに。
射抜かれるような、大きく包み込まれるような目で見られたことはなかった。
不意に風呂の浴槽の中で股間を握られたことも思い出した。
カヤがふざけただけだとわかってはいたが。
「あっ」
生温かい声が小さく上がった。
それがきっかけで、溺れそうになったルーポを抱えるために濡れた肌に密着したことも思い出してきた。
傷だらけの身体にみっちりとついた筋肉。
背中に長い黒髪が貼りつき、その隙間からピンクの花びらと青い水が描かれた右肩が見え隠れする。
肌を通して感じる高い体温。
傭兵と騎士として戦ってきた頼もしい人。
そんな人が自分の名前を優しい響きを持って何度も呼ぶ。
名前だけでなく、目も髪も外側も内側も認めてくれる。
なのに。
思い出してもぞっとする、床に倒れ脂汗をかき意識も朦朧となった苦しむ姿。
自分より大きくたくましいのに、負けるはずはないのに。
襟の高い上着を着、ラピスラズリのついた紐できりりと黒髪を結った悠然とした姿。
きゅっと締まったデボラ嬢の腰をホールドして歩くのがとてもお似合いだ。
痩せっぽちでそばかすだらけで、目だけがやたらと大きくて、何も持っていない僕なんかじゃない。
そうだ、僕が好きになっちゃいけない人だ。
僕は僕の道を行く。
薬師として、もうあんなに苦しむ姿を見たくないです。
僕、薬局に戻ったらもっともっと頑張りますから。
カヤ様の痛みを取り去る方法を見つけますから。
だから、アルベルトさんが望むように素敵な女性と結婚をして幸せになってくださ……
ルーポがひゅっと息を飲んだ。
今、僕、何を考えた?
自分の考えにどくどくと音を立て、血液が身体中をめぐる。
動悸が激しくなり、ますますがくがくと身体が震えてきたので、思わず自分の肩を抱く。
落ち着け、ルーポ。
今、僕はなにを考えた?
好きになっちゃいけない、って何?
どういうこと?
感情が溢れ、それが涙となった。
ルーポはドアにもたれかかって座ったまま、ぼたぼたと涙をこぼした。
ぬぐってもぬぐっても止まらなかった。
今朝、カヤ様が目を開けた時、僕は、僕は、本当に嬉しかったんだ。
心の奥底から嬉しくて。
嬉しくて嬉しくてたまらなかったんだ。
客室のドアがノックされた。
「……はい」
涙で震える声を懸命に抑え、ルーポが返事をするとアルベルトの声がした。
「ルーポ、ここにいらしたのですね。
薬湯ができました。
カヤ様のところにいると思っていたのにいないから、カヤ様も心配されていました」
「あ、はいっ。
すみません。
今、取り込んでいるので終わったら、すぐに参ります」
「わかりました。
では、後ほど」
アルベルトの足音が遠のく。
ああ。
ルーポは両手で顔を覆う。
どんな顔をして、僕はカヤ様にお会いすればいいんだ?
半刻して、ルーポはカヤの部屋を訪れた。
カヤはベッドにはいたが、背中に枕を当て身体を起こしていた。
辺りには青くさい臭いが漂っていた。
薬湯を飲み終わっているようだった。
「お待たせして、すみません」
ベッドの脇にはくつろいだ様子のロダが椅子に座り、アルベルトがその横に立っていた。
「ルーポ」
カヤは嬉しそうな声を上げた。
ロダが席を立とうとしたのをルーポは止め、呼ばれたのでカヤのそばに近づいていった。
カヤは手を伸ばし、ルーポを引き寄せると両手でルーポの両頬を包み、空色の瞳を覗き込んだ。
「どうした、泣いたのか?」
「い、いいえ……」
「元気がないじゃないか。
ちゃんと食ってるか」
「はい、皆さんが気を配ってくださっています」
「そうか」
カヤはにっこりと笑った。
「カヤ様……」
「心配かけたな。
おまえのお陰で助かった」
「……カヤ様」
「それにおまえ飲ませてくれた薬のせいか、以前より痛みが軽くなった気がする。
実際に歩いてみたいが、うるさいのが大勢いてな」
カヤがにやりとした。
ルーポは思わずカヤの唇を見てしまった。
意識が朦朧としたカヤに口移しで薬を飲ませた、あの唇に。
なにかがぐっと尾骶骨からぐっとこみ上げてきそうになったが、ルーポはそれに耐えた。
「僕が調合したのは、気休め程度のものですよ」
ルーポは薬師の顔をして答えた。
「今日、薬局からもらった薬のほうがよく効きます。
しっかり飲んでくださいね」
にっこりと微笑んで、カヤを見た。
カヤは少し、眉をひそめたが、何も言わなかった。
「もしおつらくなかったら、マッサージをしましょうか。
明日、先生の許可が下りたらベッドから出られるのでしょう」
「ああ、頼む」
アルベルトが大きな敷布を持ってこさせ、分厚い絨毯の上に敷かせた。
ルーポの指示でカヤがそこに横になった。
昨夜のことを思い出して、ぐらりとしそうになったのをルーポはこらえた。
そして、またゆっくりと左の膝を両手で包み、しばらくしてから優しくなで、そして指先に集中して筋肉をほぐしていった。
「昨日より随分柔らかいですよ。
もう少しほぐしましょう」
「ああ」
「こんなのは初めて見たな」
ロダがルーポの手つきを興味深そうに見つめ、言った。
「これは僕しかやっていないことです。
やはり薬だけでは限界があるので、こうやって筋肉を柔らかくするマッサージをするとより効果が持続する…ようです。
すみません、これは僕の祖父から教わったもので、薬局ではまだきちんと研究できていないのです」
「これで痛みが和らぐのなら、是非とも一般に広めたいものだが」
「僕はまだ、薬師見習いだし。
カヤ様、膝を曲げてください」
ルーポはてきぱきとカヤに指示を出し、今度は身体の大きなカヤに対し全身を使って膝を曲げたり伸ばしたり、微妙な角度をつけながら足のつけ根もほぐしていった。
「本業は薬の、調合なんです。
だから、まだ、そこまでは至ってなくて。
んっ、カヤ様、痛いですか?」
「いや、気持ちいいぞ」
「はい」
「勲章を受けたら、そういったことに時間は割けないのか」
「さぁ、僕には、わかりかねます」
「薬局長のイリヤ戻ってくるから、聞いてみることにしよう」
「わたくしも習いたいです」
アルベルトは真剣なまなざしでルーポの動きを見ている。
「今日は、ふっ、難しいですが、明日からは大丈夫かな。
アルベルトさん、お時間を取ってくださったらお教えいたします。
カヤ様、今度は右足に移りますね」
ルーポは力を込め息を切らしながら話すと、カヤの右足にふれ始めた。
こうして、ルーポは両足のマッサージを終わらせ、昨日できなかった腰にもふれた。
「む、硬い」
「どれ」
「ああ、ロダ様、そんな乱暴にしてはいけません。
指先だけでそっと。
ほら、ここを触ってみてください」
「ごりごりしてるじゃないか」
「私にもさせてください」
アルベルトもやってきたので、ルーポはロダとアルベルトにカヤの腰を触らせた。
それから汗だくになりながら、馬乗りになるような体勢でカヤの腰をさすり、押し、揉んでいく。
決して強い力ではないのだが、ぐっぐっと絶妙な力加減で手のひらや指先を使いほぐす。
「さすがカヤ様だ。
大きいから、時間がかかりますね。
しんどくないですか」
「ああ」
「ロダ様、アルベルトさん、さっきのところをそっと触ってみてください」
言われるままに2人が手を伸ばしカヤの腰にふれてみる。
「全然硬さが違う」
「本当だ」
「柔らかいほうが痛みが小さくなります。
やっぱり、右の腰に負担がいってますね。
湿布もしておいたほうがいいかな」
説明が終わるとルーポは広い腰をほぐすため、また全身全霊を込めてマッサージを再開した。
そして、それが終わる頃、ルーポはふらふらになっていた。
カヤは自分で立ち上がり、ベッドまでの数歩を歩いたが、驚いた顔をしていた。
「すごい。
ルーポ、すごいぞ。
おまえ、魔法が使えるのか?
腰の痛みやだるさが全然違う!」
「よかったです」
ルーポは嬉しくてたまらず、大きな笑みを作った。
そしてうっかりカヤの顔を真正面から見てしまい、黒曜石の瞳に絡めとられそうになり、慌てて視線を逸らした。
顔が熱くなるのを感じたが、必死に薬師の顔になろうと取り繕った。
「ルーポ、疲れただろう。
アルベルト、お茶の準備をしてくれ。
我が薬師様を休憩させなくては」
おどけたように言うロダに、アルベルトが大きくうなずくと用意をするために部屋から出ていった。
ロダは先ほどまで自分が座っていた椅子にルーポを座らせ、慌てるルーポに「休んでおいで」と髪をなでた。
「見事なフェアリーヘアだね」
「あ、ありがとうございます」
「長く伸ばして凝った編み込みをするのもいいかもしれない」
「は、はぁ」
いつまでもロダが髪をなでているので、ルーポはずっと緊張していた。
「ロダ、いい加減にしてやれ。
それじゃルーポが休めないだろ」
「ああ、そうか。
悪かったね、ルーポ」
カヤの声にロダは優しく言うと、別の椅子に座った。
「明日また先生に診ていただくことになっている。
それで許可が出たら、またカヤからいろいろ教わるといい。
受勲式まで時間がないのに、申し訳なかったね。
アルベルトには私から言っておこう」
「あ、いえ、そんな」
「もらえるところからはたっぷり受け取るといいよ、ルーポ。
機会は生かすべきだ。
次があるとは限らないからね」
ロダが笑って話していると、アルベルトが給仕係を連れて戻ってきたので、お茶の時間になった。
そしてひとしきり茶を飲むと、「ルーポがカヤに付き添ってくれるなら、私は少し席を外してもいいかな。アルベルトから報告を聞きたいし」とロダはカヤの部屋から出ていった。
ロダは屋敷の主の執務室へアルベルトを連れていった。
アルベルトが扉を閉める音をしっかり確認すると、振り向いて言った。
「アルベルトが兄さんのことを溺愛しているのはわかっているつもりだけど、人には向き不向きがあるだろう、アルベルト」
「……」
「兄さんに貴族として、屋敷や領地を治める才がないとは言っていないよ。
ここにある書類だって、カヤに作らせたものだろう。
よくやっているよ。
しかし、だ」
ロダは直立不動になっているアルベルトに近づき、声を低くして言った。
「カヤは望んでいない。
アルベルトには理想のカヤ像があるのだと思うけれど、それを押し付けるのはどうかと思うよ。
私も、おまえもカヤに守られてばかりだ。
違うか?」
「ですが」
「ん?まだなにか言いたいのか?
父もアルベルトもこれだから、カヤがこの屋敷に戻ってこなくなったのを忘れたのか?
2人にとってはカヤも俺も小さな子どもだと思うが、いつまでもそうやっていると終わらない反抗期が続くよ」
アルベルトは言葉を失う。
カヤが傭兵になるためにこの屋敷を飛び出していった時のことは、今でも繰り返し見る悪夢だ。
生きた心地がしない年月を長く過ごした。
「だから、もうカヤを自由にしてやってくれ。
父のような職に就き、屋敷や領地を治め、結婚し子どもを育てていく、というアルベルトの理想から外れることを許してやってほしい。
代わりは務まらないが、おまえの力を借りて私がこの屋敷のことも治めていこう」
「いえ、今まででも十分でございます」
ロダは父親から仕事だけでなく、家督を継ぐことも必死になって学んでいる。
アルベルトは頭を下げた。
「俺たち兄弟は両親と乳母とアルベルトに育てられた幸せ者だよ。
きっと兄もそう思っている」
「ありがとうございます」
「これから書類を見ておこうか?
滞っているんだろう」
「いいえ、カヤ様がしっかりお勤めくださいました」
「ルーポも面倒を見る代償としてか?
兄さんもよく耐えたな」
ロダは執務室の机に近づき、その上にある作成された書類を1枚つまみ上げざっと目を通す。
「本当に才はあるのになぁ。
俺が困ったときには手助けくらいはしてもらえるだろう。
なぁ、アルベルト、ルーポのことでかかった費用のことでこれ以上兄さんに要求するのは止めてくれないか。
大切な薬師様だ。
カヤは彼に助けられた」
「承知いたしました」
「盛大に受勲のための準備をして差し上げようじゃないか。
なにかうまいものを食わせよう。
あれじゃ細すぎだ」
ロダは楽しそうに言った。
アルベルトは黙ってしまった。
「どうした?」
「いえ……
私も歳を取ったのだと思いました」
「しおらしいことを言ってもなにも出ないよ、アルベルト」
ロダは快活に笑い、そしてぼそりと言った。
「今でも頼りにしているよ、アルベルト」
「ありがとうございます」
「仕事は明日からにしてもいいかな」
「はい、急ぎのものはございません」
「そうか」
ロダは大きく伸びをして、アルベルトを促し2人で執務室から出ていった。
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