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第8話
しおりを挟むランさんに案内されてやって来たのは、領主の館です。
陽の樹ではなく、木造の二階建てで、見た目のイメージは時代劇などに出て来る板張り屋根の長屋みたいで、周りの建物から少し浮いています。
「あ、悪いけど、ここで履物を脱いでね」
玄関で靴を脱ぎ、私達は入り口に近い部屋に通されました。
出入り口は襖で仕切られており、部屋の中は畳敷、長方形の座卓には、向かい合せに六つの座布団がセットされています。
そこに皆はあぐらをかき、私は正座をして座ります。
部屋を見回すと、床の間には花が飾ってあり、掛け軸もどきには日本語でそれっぽく【食う寝る遊ぶ】と崩した文字で書いてありますねぇ……。
私がそれをじっと見ていると、お茶を配っていたランさんが、
「それはあの子が考え出した、うちの家訓が書かれているの」
と教えてくださいました。
………食う寝る遊ぶが?
配られた温かい麦茶を飲みながら聴いていますと、
『生きるのに食事は大切だ。
肉ばかり、魚ばかりではなく、野菜も食べないと健康を損ねる。
だからバランスよくしっかり食べること。
睡眠をしっかりとらないと、寿命を縮める事もある。
だからしっかり眠ること。
働いてばかりだと心が疲弊する。
休むときは休んで、気分転換をし、心に余裕を持たせること。
余裕があれば、どんな事態に出くわしてもなんとかなる』
と言うのを纏めた事が書いてある、と仰るのです。
食う寝る遊ぶが?
「立派な事ですね。
しかし見たことのない文字?なのですね」
尋ねたアインへの、ランさんの答えは、
「天のお告げで授かった神界の文字なのよ」
だそうです。
いや、日本語だろう。
突っ込みたい気持ちをグッと抑えてお茶を飲んでいると、コンコンコンと襖がノックされました。
どうやら一見襖ですけど、木にそれっぽく紙を貼っているだけの様ですね。
「失礼します、領主様がお呼びですので、詳しい話のわかる方、お越しいただけますか?」
「それでは私が伺います」
アインが立ち上がろうとすると、ランさんに止められました。
「あー、貴方が一番話し合いなんかは上手そうだけど、悪いけどそっちのあんたが行ってくれるかい。
弟が会いたいのはあんただろうから」
先方は私がご指名ですね。
予想はつきますよ。
きっと弟さんも私と同じ日本から来た方で、周りの人達には秘密にしているのでしょう。
そこに日本食を知る私が来たと、お姉さんから聞いて、まずは二人だけで話を……と言う事でしょう。
心配そうにこちらを見る皆に、大丈夫ですと頷き、私は農家の息子さんこと、領主様の部屋へ通されました。
部屋の中央の掘り炬燵に座っている金髪に青い瞳の外国人青年……違和感がありますね。
その青年がこちらを見て、日本語で話しかけて来ました。
「お、日本人!
うわー、久々に見ると懐かし~。
見た目が日本人のままって事は転生じゃなくて転移者?
神様に移動させられたバージョン?
それとも気付いたらこっちに来てたパターン?」
半分程意味がわからずに、答えられずにいると、
「まずはそっちに座りなよ。
久々に日本人見たからテンション上がっちゃったね。
いきなりでごめんね、先ずは自己紹介からだよね。
俺の名前は 佐藤 耕太………」
そこから始まる怒涛の自己紹介。
口を挟む暇もなく、私は黙って聞いていました。
「…………ようこそ、俺の領地、ダイズスキーへ!!
で、君の話を聞かせてくれるかい?」
アイン達にはあまり人に話さない様にと言われていますけど、この場合は言っても大丈夫でしょう。
私は妻に先立たれた事、死後に出会った黒服の二人からいくつか便利なものを頂き、いずれ妻と再会する為に、家族を増やしながら永住できる土地を探している事を話しました。
「うわー、随分年上なんだ……ですね。
絶対年下だと思って『君』とか言っちゃいましたよ」
「気にしなくて結構ですよ。
実際今の体は19歳なので、年下ですから。
言葉遣いも普段通りでどうぞ。
私はこの話し方が一番使い慣れていますから、このままで」
感情が昂りますと、ヤンチャ時代の言葉になってしまいますけど、そこは話す必要もないですよね。
「そう?じゃあ普通で。
勿論改まった話し方もできるよ?
これでも王様にも会った事あるんだからね」
王様ですか。
アインもコニーも王様なのですけど、これも言う必要は無いですよね。
「しかし料理スキルと四属性魔法だけじゃなくて、転送魔法と鑑定と念話とナビゲーションとか、チート過ぎて羨まし過ぎる!」
ポイントの事は言わない方がいいと思い、話していません。
ただこの世界の知識を知る為にティちゃんが…ナビゲーションがある事と、いつ彼の前で使うか分からない物…鑑定と念話、後は普段頻繁に使っている転送魔法に付いては話しました。
それはほら、取り引きするかもしれないのですからね。
それ以上は今言う必要は無いと思いますからね。
……いえ、決して日本のワカゾーは信用できないとか思っているわけでは無いですよ?
以前新入社員に散々手を焼かされて振り回されて、上司から受けたとばっちりを忘れられない、というわけでは無いのですよ?
出会ってすぐ信用するのは無防備過ぎますからね。
チャック達家族は別ですよ?
それにほら、アインにも注意されていますしね。
「奥さん蘇えさせるって事は、死者蘇生?それとも召喚?」
ワクワク顔で聞いて来ますけど、これも誤魔化しておいた方がいい案件だと思います。
「詳しいことは時が成ればわかるそうですので、今はなんとも……」
「そっかー、下手な知識は目をつけられてヤバイからね」
何から目をつけられるのかわかりませんが、うんうんと頷き納得してくれます。
どうやら日本の若者の間では、異世界へ行く話は漫画や小説などでよくある事で、その先にどんな出来事があるかも、手を替え品を替え、幾つものパターンが綴られていたそうです。
飯テロとか、内政チート、モフモフとスローライフ、日本の知識で世界を変えるなどなど、色々詳しく話してくれています。
いくつか黒服の方からも伺った言葉ですね。
一生懸命話す彼の話しを、私はずっと相槌を打ちながら聞いていました。
陽の樹ではなく、木造の二階建てで、見た目のイメージは時代劇などに出て来る板張り屋根の長屋みたいで、周りの建物から少し浮いています。
「あ、悪いけど、ここで履物を脱いでね」
玄関で靴を脱ぎ、私達は入り口に近い部屋に通されました。
出入り口は襖で仕切られており、部屋の中は畳敷、長方形の座卓には、向かい合せに六つの座布団がセットされています。
そこに皆はあぐらをかき、私は正座をして座ります。
部屋を見回すと、床の間には花が飾ってあり、掛け軸もどきには日本語でそれっぽく【食う寝る遊ぶ】と崩した文字で書いてありますねぇ……。
私がそれをじっと見ていると、お茶を配っていたランさんが、
「それはあの子が考え出した、うちの家訓が書かれているの」
と教えてくださいました。
………食う寝る遊ぶが?
配られた温かい麦茶を飲みながら聴いていますと、
『生きるのに食事は大切だ。
肉ばかり、魚ばかりではなく、野菜も食べないと健康を損ねる。
だからバランスよくしっかり食べること。
睡眠をしっかりとらないと、寿命を縮める事もある。
だからしっかり眠ること。
働いてばかりだと心が疲弊する。
休むときは休んで、気分転換をし、心に余裕を持たせること。
余裕があれば、どんな事態に出くわしてもなんとかなる』
と言うのを纏めた事が書いてある、と仰るのです。
食う寝る遊ぶが?
「立派な事ですね。
しかし見たことのない文字?なのですね」
尋ねたアインへの、ランさんの答えは、
「天のお告げで授かった神界の文字なのよ」
だそうです。
いや、日本語だろう。
突っ込みたい気持ちをグッと抑えてお茶を飲んでいると、コンコンコンと襖がノックされました。
どうやら一見襖ですけど、木にそれっぽく紙を貼っているだけの様ですね。
「失礼します、領主様がお呼びですので、詳しい話のわかる方、お越しいただけますか?」
「それでは私が伺います」
アインが立ち上がろうとすると、ランさんに止められました。
「あー、貴方が一番話し合いなんかは上手そうだけど、悪いけどそっちのあんたが行ってくれるかい。
弟が会いたいのはあんただろうから」
先方は私がご指名ですね。
予想はつきますよ。
きっと弟さんも私と同じ日本から来た方で、周りの人達には秘密にしているのでしょう。
そこに日本食を知る私が来たと、お姉さんから聞いて、まずは二人だけで話を……と言う事でしょう。
心配そうにこちらを見る皆に、大丈夫ですと頷き、私は農家の息子さんこと、領主様の部屋へ通されました。
部屋の中央の掘り炬燵に座っている金髪に青い瞳の外国人青年……違和感がありますね。
その青年がこちらを見て、日本語で話しかけて来ました。
「お、日本人!
うわー、久々に見ると懐かし~。
見た目が日本人のままって事は転生じゃなくて転移者?
神様に移動させられたバージョン?
それとも気付いたらこっちに来てたパターン?」
半分程意味がわからずに、答えられずにいると、
「まずはそっちに座りなよ。
久々に日本人見たからテンション上がっちゃったね。
いきなりでごめんね、先ずは自己紹介からだよね。
俺の名前は 佐藤 耕太………」
そこから始まる怒涛の自己紹介。
口を挟む暇もなく、私は黙って聞いていました。
「…………ようこそ、俺の領地、ダイズスキーへ!!
で、君の話を聞かせてくれるかい?」
アイン達にはあまり人に話さない様にと言われていますけど、この場合は言っても大丈夫でしょう。
私は妻に先立たれた事、死後に出会った黒服の二人からいくつか便利なものを頂き、いずれ妻と再会する為に、家族を増やしながら永住できる土地を探している事を話しました。
「うわー、随分年上なんだ……ですね。
絶対年下だと思って『君』とか言っちゃいましたよ」
「気にしなくて結構ですよ。
実際今の体は19歳なので、年下ですから。
言葉遣いも普段通りでどうぞ。
私はこの話し方が一番使い慣れていますから、このままで」
感情が昂りますと、ヤンチャ時代の言葉になってしまいますけど、そこは話す必要もないですよね。
「そう?じゃあ普通で。
勿論改まった話し方もできるよ?
これでも王様にも会った事あるんだからね」
王様ですか。
アインもコニーも王様なのですけど、これも言う必要は無いですよね。
「しかし料理スキルと四属性魔法だけじゃなくて、転送魔法と鑑定と念話とナビゲーションとか、チート過ぎて羨まし過ぎる!」
ポイントの事は言わない方がいいと思い、話していません。
ただこの世界の知識を知る為にティちゃんが…ナビゲーションがある事と、いつ彼の前で使うか分からない物…鑑定と念話、後は普段頻繁に使っている転送魔法に付いては話しました。
それはほら、取り引きするかもしれないのですからね。
それ以上は今言う必要は無いと思いますからね。
……いえ、決して日本のワカゾーは信用できないとか思っているわけでは無いですよ?
以前新入社員に散々手を焼かされて振り回されて、上司から受けたとばっちりを忘れられない、というわけでは無いのですよ?
出会ってすぐ信用するのは無防備過ぎますからね。
チャック達家族は別ですよ?
それにほら、アインにも注意されていますしね。
「奥さん蘇えさせるって事は、死者蘇生?それとも召喚?」
ワクワク顔で聞いて来ますけど、これも誤魔化しておいた方がいい案件だと思います。
「詳しいことは時が成ればわかるそうですので、今はなんとも……」
「そっかー、下手な知識は目をつけられてヤバイからね」
何から目をつけられるのかわかりませんが、うんうんと頷き納得してくれます。
どうやら日本の若者の間では、異世界へ行く話は漫画や小説などでよくある事で、その先にどんな出来事があるかも、手を替え品を替え、幾つものパターンが綴られていたそうです。
飯テロとか、内政チート、モフモフとスローライフ、日本の知識で世界を変えるなどなど、色々詳しく話してくれています。
いくつか黒服の方からも伺った言葉ですね。
一生懸命話す彼の話しを、私はずっと相槌を打ちながら聞いていました。
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