騎士が花嫁

Kyrie

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番外編 騎士が花嫁こぼれ話

56. あなたの好きなところ(3)

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走る走る走る。
仕事が終わると同時に俺はユエ先生の診療所を飛び出した。

「責任を持って仕事をすることもきっちり覚えていただかないと」

と、早く帰る許可は出なかったけど、後片付けは免除してあげる、とユエ先生が出してくれた。
ありがとうございます、ユエ先生!

人にぶつからないように気をつけながら、俺はとにかく走った。
こんなに走って家に帰るの、いつぐらいぶりだろう。
まだジュリさんが足枷をしているとき、とにかく急いで家に帰っていたのを思い出した。
距離は全然違うけど、とにかく早く帰りたい。
ごめん、ジュリさん、ごめん。




も、だめ。
息が上がる。
乱暴に家のドアを開ける。
ひどい音がする。

「ジュ、ジュ…リ…」

ぜいぜいと呼吸する俺をテーブルにカトラリーを並べていたジュリさんが驚いたように見た。

「俺…きの…う……っあぅ」

唾液を飲み込まないとしゃべれない。
でも口の中からっからっ!
閉じても唾なんか出てきやしねぇっ!

「あ…の」

息、落ち着け。

ジュリさんがどこかへ行く。
行かないで。
行っちゃいやだ!

酸欠。
頭、くらくらする。

ジュリさん。

ジュリさんはただ、水をもってきてくれただけだった。
木の器を口元に差し出してくれる。
俺は奪うように受け取ると、ごくごく飲み干す。

「んはあはあはあはあはあはあ」

空いた木の器にジュリさんが水差しから水を注いでくれる。
俺は有り難くそれも飲み干し、ようやく一心地ついた。

「あ、ありがと、ジュリさん」

まだ息が整わないけど、しゃべられるまでになった。

「あの、昨日はごめんなさい」

ジュリさんは何も言わない。

このときになって、俺はやっとジュリさんをまともに見た。
太い首には痛々しいほど白い包帯が巻かれていた。
ユエ先生がおっしゃったように、怒りかなにかを抑えているせいか目の縁が赤くなって、緑の目が潤んでいる。

「あ」

こんなときなのに。

ジュリさん、綺麗だ。
とっても綺麗だ…

俺は思わずジュリさんに見惚れていた。

唇もなぜか真っ赤だ。
それが赤い髪に映えていた。
俺に対して怒っているはずなのに、怒りきれていない。
ジュリさんが本気で怒ったら、もっと容赦のない射抜く目になるもの。

俺はふらふらとジュリさんに近づいて、抱きしめた。

「本当にごめんなさい」

ジュリさんは一言も発しない。
俺は見上げてジュリさんを見た。

「お酒のこと、気をつけます。
許さなくてもいいから、このままぎゅっとさせて」

だって、わかる。
ジュリさんは俺を欲していたんだもん。
今も、そう。

黙って、ちょっと悲しそうな目をしているけれど、それは俺が放っていて寂しかったから。
俺は腕の力を強める。
昨日はごめん。
今はここにいるから。
あなたを抱きしめるために帰ってきたから。
今、抱きしめてあげるから、そんなに寂しい目をしないで。

「ばか」

ジュリさんは、ただそれだけを言った。

「ああ、ジュリさん、ごめんなさーいっ!
本当に本当にごめんなさーいっ!」

俺は叫びながら、ぎゅうぎゅうとジュリさんを抱きしめる。

「煽るだけ煽って…
ばか」

「悪かったですぅぅぅぅぅ!!!」

俺、もう泣きそう。
ジュリさんはこんなことを言ってるけど、目の色が変わったのに気がついた。
ふんわりと艶めいている。
俺のこと、許してくれている。

「昨日、できなかったこと、今からさせて。
いい?」

ジュリさんの身体に力がぎゅっと入った。
でも大丈夫。
拒否じゃない。
証拠に、俺の腹の下あたりに感じてる。
ジュリさんがその気になりつつあるのを。

俺がジュリさんから離れて、手を引く。
ジュリさんは嫌がらずについてくる。
そうして俺たちは寝室に入った。




まずはジュリさんをジュリさんのベッドに座らせた。

「包帯取って、首の後ろ見てもいい?」

ジュリさんは黙ってうなずいた。
俺はまず、ジュリさんのシャツのボタンを上から三つくらい外した。
それからベッドに上がりこんで、ジュリさんの背中に回り、襟を後ろにひっぱってよく見えるようにして、そっと包帯をほどいていく。
怪我をしているわけじゃないけど、なんだか痛々しい。

うわぁっ!

声には出さなかったけれど、包帯をほどき終わって現れたジュリさんのうなじを見て、俺は驚いた。
キスマーク、というかわいいものじゃなくて、青紫に変色した痕が無数。
それから痛そうな噛み痕も幾つか。
ちょちょちょちょちょっと昨日の俺!
これはやりすぎだろ!

「ごめんなさい。
この噛み痕なんて、痛いよね。
ごめんなさい」

ジュリさんが黙ったまま、首を振る。
それがまた痛々しくて、俺は痕がついていないところに唇を寄せ、触れるだけのキスをする。
ジュリさんの身体がそのたびにぴくっと反応する。
そうだった。
昨日、うなじに俺が吸いつくとすんごい反応したから、俺、嬉しくてつい…
やりすぎちゃったけど、でも愛おしくて、ジュリさんが食べたくなって…

見るとジュリさんはシーツを握り込んでいた。
なんだか、いつもと違う。
これほど反応しないのに。
もしかして、いつもより感じてる?

俺はベッドから下りてジュリさんの顔を見た。
真っ赤になって俯いている。

「さっきの、いやだった?」

ジュリさんは首を振る。
ちょっとほっとする。

「ね、どうしてほしい?
俺、ジュリさんがしたいようにしてあげたい」

しばらく待っていたけど、ジュリさんは何も言わない。

「ん、わかった。
嫌だったら言って」

俺はジュリさんのシャツのボタンを全部外すと、脱がしにかかった。
ジュリさんは腕を曲げたりして、協力してくれる。
俺はまたベッドに上がって、広い背中じゅうにさっきみたいな触れるだけのキスをした。
柔らかなキス。
痛くありませんように。

「こんなキス、嫌?」

首を振るジュリさん。
ん、よかった。
俺に首で返事をしたあと、感度が増したような気がする。
シーツを掴む手に力が入って、シーツがしわしわだ。
時々、小さな小さなうめき声が聞こえる。

「声、抑えないで」

ジュリさんは首を振る。
もう、こういうところは強情なんだから。
俺はまだ、「喘ぐジュリさん」を知らない。
いつも声を抑えている。
いざとなると俺も恥ずかしくて理由は聞いていないけど、唇を噛むわけじゃないのに声を抑えている。

俺は後ろから手を伸ばすと、ジュリさんのズボンの中に手を入れた。
ジュリさんがびくっと反応する。

「あ、ごめん。
驚かせた?」

そして、ズボンを少し下にずらし下着の中から取り出してみる。
まだ完全じゃないけど、半勃ちにはなっている。

「ね、昨日、俺が酔い潰れちゃったあと、ジュリさんはどうしたの?」

ジュリさんの左脇から股間を覗き込む。
先が濡れてる。

「ひとりでした?」

ジュリさんは何も言わない。
首も振らない。

「したんだ。
ね、見せて、ジュリさんがひとりでしてるところ」

今度はジュリさんが反応して俺の顔を見た。

「だって、ジュリさん何も言ってくれないんだもん。
昨日、寂しかったよね。
ごめん。
でも今は大丈夫。
俺、見ててあげるから、ほら」

俺はひょいと身体を伸ばし、ジュリさんの右手にペニスを握らせた。
そして俺は自分の左手を添える。

「手伝ってあげる。
ジュリさんが俺にしてくれるのを真似したらいいんでしょう?
最初はね、ジュリさんは親指で先をくりくりするのからいつも始めるの。
ほら、ジュリさんもして」

俺が親指の腹ですでにぬるついている先をくるくるといじった。
そしてジュリさんの指を誘うように突っつくと、ジュリさんも指を動かし始めた。
そこからはジュリさんの熱い吐息と漏れる喘ぎ声が響いた。
知ってるよ、俺。
今度は上下にしごくんでしょ、ほら同じようにして。
どんどん硬度が増し上を向く。
ジュリさんは僕に見られていることも、僕が手伝っていることも忘れたように手を動かす。
ね、気持ちいい?
ジュリさんの身体が次第に汗ばんでくる。
俺はジュリさんの指の動きとは違うことを始めた。
片手では溢れてしまう袋を柔らかく手で包み、慎重に揉んでみる。

「うっ」

見上げるとジュリさんは目を閉じている。
目尻にはうっすら涙。
肌は赤く染まっている。
色っぽい。
たまらないよ、ジュリさん。

足のつけ根に指を這わしたり、ジュリさんの脇腹にキスしたり、先の割れ目を刺激したり、乳首を弾いたり。
そんなことをしていたら、反応が変わった。
イきそうなの?
ジュリさんが俺の手ごと雄を包み、激しく動かし始めた。
乱れる呼吸。
揺らめく腰。
堪えられない呻き。

「はっはっはっはっ………ん、……くっぅぅぅぅぅぅぅっ!」

どくんと衝撃が走り、ジュリさんは先から大量に精液を放った。
赤い髪が汗で額や頬に張り付き、目を閉じて叫びに近い声を上げる。
切なそうな、それでいて恍惚の表情を浮かべるジュリさんは美しかった。
どくどくと自分の腹やズボン、二人の手を濡らし、ジュリさんはまだイっている。
俺はそれを全部見ていた。

ふっと力が抜けるとジュリさんが後ろに倒れ込んだ。
まだ息が上がったままで、胸が大きく上下している。

「大丈夫、ジュリさん?」

俺はジュリさんの顔を覗き込み聞いた。
しばらくは目を閉じて呼吸を整えていたが、やがてうっすらと目を開けてジュリさんが言った。

「抱いて」

がああああああああああっと俺の体温が上がった。
どくどくと血が巡る。
俺は乱暴にジュリアスのズボンを足から引き抜き、彼を裸にした。
そして俺も服を全部脱ぎ捨てた。
ベッドの上の全裸のジュリアスを見た。

「綺麗だ、ジュリさん。
欲しい、欲しいよ」

俺たちはいつになく激しく抱き合い、貪るようにキスをした。
お互いに本能のままに、どっちかが食べられてしまうんじゃないかと思うばかりに身体に触れ、反応し、喘いだ。

こんなに乱れたジュリアスを初めて見たかもしれない。
いつもは声や反応を抑え気味なのに、今日はそれを止めて感じるままにびくびくと反応し、シーツを握り、喘ぐ。

「リノっ、リノっ」

俺の名前をいっぱい呼ぶ。
強く強く求められる。
俺はジュリさんの身体中に触れ、キスを降らせる。
ジュリさんも俺の身体をまさぐり、赤い痕をつけ、早く欲しいと言わんばかりに俺の雄に手を伸ばす。

俺はいつもの引き出しから潤滑油の瓶を取り出した。
ふたを開けると優しい花の香り。
それを合図にしたように、ジュリさんが膝を立て、足を開いてくれた。
俺はその間に入り、つま先からずっと足の内側に沿ってキスをしていった。
そして油を手で温めて、少しずつ中指を孔に沈めていった。

「んっ」

ジュリさんが身体を弓なりに反らす。
指を入れただけなのに、これだけの反応を示すジュリさんが愛おしくてたまらない。

「もうすぐあげるから、ちょっと待ってて」

油を足しながら、指を奥に滑り込ませる。
内側のジュリさんが好きなところを刺激しながら指を出し入れする。

「はや…く…」

やだ、ジュリさん。
こんなに求められたことないよっ。
どうしたの、なにがあったの。
いてっ、もう下半身直撃だからさっきの。

「だめ……きちんとほぐさないとジュリさんがつらいよ。
俺、ジュリさんが痛いのいやだから」

えらい!
俺、ちゃんと断ったよ!
これはもう、インティアからずっとずっと言われ続けていることだから。
『いくら求められても、きちんとほぐすまでは入れてはいけません』、ってね。
すぐに入れたいのは俺も同じ。
でも乱暴にしたいわけじゃない。
愛し合いたいんだ、ジュリさん。

その代わり。
俺は指を二本にし、中でばらばらと動かした。

「はぁっあっあっあっ」

うわあああああ、その声も腰にクる。
ジュリさんは何度も声を上げた。
すっごく試されている気分。
その試練に耐えに耐え、ついに俺は指を三本に増やした。
ジュリさんの雄もそそり立って、先からだらだらと液を流している。
それが伝い下りてきて、孔まで濡らす。
潤滑油とそれとで、俺が指を動かすたびにぬちゃぬちゃと大きな音が響く。
いつもならその音を聞くに堪えないと、ジュリさんはとても恥ずかしがるのに、今はあられもなく喘いでいる。
素敵。
でも限界。

「はああああああっんっ」

俺が一気に三本の指を引き抜くとジュリさんは一際大きな声を上げ、くったりとした。
その間に俺は自分の雄に潤滑油をたっぷり塗りつけた。
こっちも我慢できない。

「ジュリさん」

俺はジュリさんの顔の横に両手をついて、覆うように見下ろした。

「目、開けて」

息が乱れたままのジュリさんが薄く目を開けて俺を見てくれる。
目には熱が籠ったまま。
嬉しい。

「愛してます、ジュリアス」

ジュリさんは大きな手を伸ばして俺の頬を包み、幸せそうに微笑んだ。

「私も愛してます、リノ」

ああ、好き。
大好き。
愛してるよ、ジュリさん。

「いくよ」

かすかなうなずき。

俺は孔に雄をあてがうと、一気に差し入れた。

「あああああああああっ」

ふぅぅぅぅぅぅんっ!
あつっ
ジュリさんの中は熱くてとろとろしている。
そしてぎゅっと締まって俺を離さない。

「気持ちい…よ、ジュリ…」

俺はそのまま腰を動かした。
俺の動きに合わせてジュリさんが反応する。
内側がきゅんと締まる。
そして蠢く。
あうあうあうあうっ、そんなに激しくされたらすぐにイっちゃうじゃない!

「リノっ、リノっ、リノっ」

ジュリさんは俺の突き上げを受け止めながら、また俺の名前を呼び続ける。
ぐっと強く奥に穿つ。

「はあっ」

ほら、今ジュリさん、雌の顔になったでしょ。
かわい。

少し引いて浅いところばかりをこする。
ここも、ジュリさん好きなところでしょ。
面白いように反応するジュリさん。
なんて素直で、なんて愛おしくて、なんてやらしいんだろう。
俺、もう、つらい。

「……も」

「も?」

「も…っと……奥」

「ばっ、やめてよジュリさんっ、俺、イっちゃうじゃん!」

なに、こんなにかわいいジュリさん、初めてだ!
こんなに求められたことがないかもしれない。
俺はより深いところに届くよう、腰を進める。
ジュリさんもそれに合わせて、もっと奥に導くように腰を動かす。
奥もジュリさんが好きなところ。
この奥の左の上のほう。

「うっうっ」

お互いに呻く。
だって、そうでしょっ。
気持ちいいしかないもん。

「ジュ…リさん、俺……気持ち…い…よ」

「お…れも…き…もち…い……リノぉ……」

はああああああああっ!
ばかあああああああっ!
今のはキた!
もうがつんがつんと奥をえぐる。
いや、もう、だめ。

「あっあっあっ…リノ、リノ、リノっ」

なに、ジュリさん。

「………イく………」

え?

「はあああああああっ!」

俺は大声を出してイった。
持って行かれた。
だめ、もう。
ジュリさんが「気持ちいい」とか「イく」とか自分からこんなに積極的に言ったことないもん。
ばかああああああああっ!
突然、そんなこと言うなぁぁぁぁぁぁっ!

ジュリさんも射精し、俺や自分の腹をまた濡らした。
俺はジュリさんに入れたまま、ジュリさんの腹の上に倒れ込んだ。

なんなの、今日。
なんだか、もう「すごい」しか言えない。



これで終わるはずもなく、俺はジュリさんから抜くことなくもう一回やった。
中に出した俺の精液でぐちゃぐちゃとひどい音を出した。
さっきより音が大きく聞こえたせいか、ジュリさんはいつもみたいに照れて恥ずかしがっていたけれど、それもすぐに乱れた姿と声に消えていった。




明け方まで俺たちは抱き合い、熱くなる身体をぶつけ合った。
すっごく満足した。
心もだけど、身体が満ち足りた。
さっぱりして二人でベッドで抱きしめ合った。
今までより、もっとジュリさんが愛おしくなった。
さすがにジュリさんもぐったりしている。
俺はジュリさんの唇に小さくキスをした。

「好きです、ジュリさん」

ジュリさんは嬉しそうに目を閉じてうなずき、俺の胸に縋りつくようにして丸くなって眠っていった。
俺はかわいいかわいいジュリさんを抱きしめ、ふれるかふれないかのキスをして、そして俺も丸くなって眠った。










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