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番外編 騎士が花嫁こぼれ話
39. 天使と騎士
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先王死去と新王問題が解決して、クラディウスとジュリアスがクラディウスの館に戻ってきた。
二人とも寝る場所が館に変わっただけ、と言ってもよさそうなくらい朝早くから夜遅くまで出かけているが、それでも少しでも姿を目にするだけで嬉しくなるものがあった。
そんな中、屋敷内でジュリアスがインティアとすれ違ったとき目くばせをした。
インティアは微かにうなずいて、声を出さずに「へやにきて」と口を動かすとジュリアスは口の端で笑い了解の意を表した。
数日後の深夜、インティアの部屋をジュリアスが訪れた。
すでに眠っていたインティアは白く薄い寝衣のしどけない姿でジュリアスを出迎えた。
「遅くにすまない」
「かまわないよ。どうしたの?」
ジュリアスを招き入れるとインティアはそっとドアを閉め、小さな声で聞いた。
が、すぐには答えは返ってこなかった。
インティアが暗闇の中、目を凝らして見るとジュリアスは少し俯いて、なにかを言い淀んでいるようだった。
少し肌寒さを感じたので、椅子の背にかけてあった白いショールを肩に羽織り再びジュリアスを見ると、意を決したようにジュリアスが口を開くのがわかった。
「相談があるのだが」
「うん」
「その……」
「ん」
「潤滑油を手配してはもらえないだろうか」
それを聞いたインティアは口を両手で押さえ、花のように笑った。
「ついに、なの?」
「…ああ」
ジュリアスは首を横にやり、インティアの視線から逃げた。
よくは見えないが、きっとこの「赤熊」と呼ばれた騎士は顔を赤くしているに違いない、とインティアは思った。
必死。
かわいい。
「近々、三日間の休みを取ることになった。
だから、多分…」
「よかったね!
僕もすごく嬉しいよ!」
思わず声が大きくなりそうなのを抑えながら、インティアは言った。
「ちょっと待ってて」
インティアは軽やかな足取りで荷物を置いている隣の小部屋に入り、すぐに戻ってきた。
手には小瓶が三本。
「座って、ジュリアス」
ベッドにジュリアスを座らせ、インティアも程よく離れて座った。
「はい、これ」
「三本?」
「そ。
こっちの青い瓶は無臭のもの。
ジュリアスが準備するのに使ったらいいよ。
二本で足りるよね」
「あ、ああ…多分」
「こっちの茶色い瓶は花の香りがするもの」
インティアが少し瓶のふたをずらすとほのかに花の香りが漂った。
「お客さんの中にはこの香りが好きな人と嫌いな人がいるから、両方持っているんだ。
ちょっとタネ明かししちゃうと、茶色い瓶を一本、リノに渡してある」
ジュリアスがかっと体温を上げた。
それを知ってか知らずか、インティアはジュリアスの手を包むようにして三本の瓶を渡した。
「僕からのお祝いだよ。
リノをオトナにしてやってくれる?」
「……はい」
「きっとリノの一本じゃ足りない」
「どうかな」
「17歳の性欲を舐めたらいけないよ」
「リノが幻滅することもあるだろう?」
「もしするのなら、とっくの昔にしているんじゃないの?
リノとお風呂にも一緒に入っているんでしょ?」
「それとこれは違うだろ」
「心配しないで、ジュリアス。
リノはジュリアスのことが大好きで、すべてを受け留めてくれるはずだよ」
「そうだといいのだが」
こんなに自信がなく不安そうなジュリアスをインティアは初めて見た。
本当にかわいい人。
「リノを信じてあげて。
いいね?」
ジュリアスは少し黙ったが、うなずいた。
「ありがとう、インティア」
「ううん、僕も嬉しい。
君たちが結ばれるのも嬉しいし、ジュリアスが僕を頼ってくれたことも嬉しい」
インティアはふわりと立ち上がり、ジュリアスの前に立った。
「ねぇ、祝福のハグをしてもいい?」
ジュリアスがうなずくと、インティアはその大きな身体を精一杯抱きしめた。
まるで天使が騎士を大きく包んでいるようだった。
「あなたとリノが素敵な時間を過ごせるように祈ってる」
インティアがそう囁いた。
ジュリアスも「ありがとう」と囁いた。
気が済むまでインティアがジュリアスにハグをし、腕をほどいた。
そして、ドアのところまで促す。
ジュリアスはそれに従い、ドアの前に立った。
二人は視線と「おやすみ」の言葉を交わすと、微笑み合った。
そしてジュリアスがドアを開け、部屋から去っていった。
ジュリアスの気配がなくなってから、インティアはドアを閉め、そしてベッドに潜り込んだ。
少し冷えてしまった足先どうしをこすりながら、口の端からは次から次へと笑みがこぼれていった。
そして、満たされた気持ちを抱え、いつの間にか寝入っていた。
二人とも寝る場所が館に変わっただけ、と言ってもよさそうなくらい朝早くから夜遅くまで出かけているが、それでも少しでも姿を目にするだけで嬉しくなるものがあった。
そんな中、屋敷内でジュリアスがインティアとすれ違ったとき目くばせをした。
インティアは微かにうなずいて、声を出さずに「へやにきて」と口を動かすとジュリアスは口の端で笑い了解の意を表した。
数日後の深夜、インティアの部屋をジュリアスが訪れた。
すでに眠っていたインティアは白く薄い寝衣のしどけない姿でジュリアスを出迎えた。
「遅くにすまない」
「かまわないよ。どうしたの?」
ジュリアスを招き入れるとインティアはそっとドアを閉め、小さな声で聞いた。
が、すぐには答えは返ってこなかった。
インティアが暗闇の中、目を凝らして見るとジュリアスは少し俯いて、なにかを言い淀んでいるようだった。
少し肌寒さを感じたので、椅子の背にかけてあった白いショールを肩に羽織り再びジュリアスを見ると、意を決したようにジュリアスが口を開くのがわかった。
「相談があるのだが」
「うん」
「その……」
「ん」
「潤滑油を手配してはもらえないだろうか」
それを聞いたインティアは口を両手で押さえ、花のように笑った。
「ついに、なの?」
「…ああ」
ジュリアスは首を横にやり、インティアの視線から逃げた。
よくは見えないが、きっとこの「赤熊」と呼ばれた騎士は顔を赤くしているに違いない、とインティアは思った。
必死。
かわいい。
「近々、三日間の休みを取ることになった。
だから、多分…」
「よかったね!
僕もすごく嬉しいよ!」
思わず声が大きくなりそうなのを抑えながら、インティアは言った。
「ちょっと待ってて」
インティアは軽やかな足取りで荷物を置いている隣の小部屋に入り、すぐに戻ってきた。
手には小瓶が三本。
「座って、ジュリアス」
ベッドにジュリアスを座らせ、インティアも程よく離れて座った。
「はい、これ」
「三本?」
「そ。
こっちの青い瓶は無臭のもの。
ジュリアスが準備するのに使ったらいいよ。
二本で足りるよね」
「あ、ああ…多分」
「こっちの茶色い瓶は花の香りがするもの」
インティアが少し瓶のふたをずらすとほのかに花の香りが漂った。
「お客さんの中にはこの香りが好きな人と嫌いな人がいるから、両方持っているんだ。
ちょっとタネ明かししちゃうと、茶色い瓶を一本、リノに渡してある」
ジュリアスがかっと体温を上げた。
それを知ってか知らずか、インティアはジュリアスの手を包むようにして三本の瓶を渡した。
「僕からのお祝いだよ。
リノをオトナにしてやってくれる?」
「……はい」
「きっとリノの一本じゃ足りない」
「どうかな」
「17歳の性欲を舐めたらいけないよ」
「リノが幻滅することもあるだろう?」
「もしするのなら、とっくの昔にしているんじゃないの?
リノとお風呂にも一緒に入っているんでしょ?」
「それとこれは違うだろ」
「心配しないで、ジュリアス。
リノはジュリアスのことが大好きで、すべてを受け留めてくれるはずだよ」
「そうだといいのだが」
こんなに自信がなく不安そうなジュリアスをインティアは初めて見た。
本当にかわいい人。
「リノを信じてあげて。
いいね?」
ジュリアスは少し黙ったが、うなずいた。
「ありがとう、インティア」
「ううん、僕も嬉しい。
君たちが結ばれるのも嬉しいし、ジュリアスが僕を頼ってくれたことも嬉しい」
インティアはふわりと立ち上がり、ジュリアスの前に立った。
「ねぇ、祝福のハグをしてもいい?」
ジュリアスがうなずくと、インティアはその大きな身体を精一杯抱きしめた。
まるで天使が騎士を大きく包んでいるようだった。
「あなたとリノが素敵な時間を過ごせるように祈ってる」
インティアがそう囁いた。
ジュリアスも「ありがとう」と囁いた。
気が済むまでインティアがジュリアスにハグをし、腕をほどいた。
そして、ドアのところまで促す。
ジュリアスはそれに従い、ドアの前に立った。
二人は視線と「おやすみ」の言葉を交わすと、微笑み合った。
そしてジュリアスがドアを開け、部屋から去っていった。
ジュリアスの気配がなくなってから、インティアはドアを閉め、そしてベッドに潜り込んだ。
少し冷えてしまった足先どうしをこすりながら、口の端からは次から次へと笑みがこぼれていった。
そして、満たされた気持ちを抱え、いつの間にか寝入っていた。
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