騎士が花嫁

Kyrie

文字の大きさ
上 下
39 / 61
番外編 騎士が花嫁こぼれ話

39. 天使と騎士

しおりを挟む
先王死去と新王問題が解決して、クラディウスとジュリアスがクラディウスの館に戻ってきた。
二人とも寝る場所が館に変わっただけ、と言ってもよさそうなくらい朝早くから夜遅くまで出かけているが、それでも少しでも姿を目にするだけで嬉しくなるものがあった。

そんな中、屋敷内でジュリアスがインティアとすれ違ったとき目くばせをした。
インティアは微かにうなずいて、声を出さずに「へやにきて」と口を動かすとジュリアスは口の端で笑い了解の意を表した。


数日後の深夜、インティアの部屋をジュリアスが訪れた。
すでに眠っていたインティアは白く薄い寝衣のしどけない姿でジュリアスを出迎えた。

「遅くにすまない」

「かまわないよ。どうしたの?」

ジュリアスを招き入れるとインティアはそっとドアを閉め、小さな声で聞いた。
が、すぐには答えは返ってこなかった。
インティアが暗闇の中、目を凝らして見るとジュリアスは少し俯いて、なにかを言い淀んでいるようだった。
少し肌寒さを感じたので、椅子の背にかけてあった白いショールを肩に羽織り再びジュリアスを見ると、意を決したようにジュリアスが口を開くのがわかった。

「相談があるのだが」

「うん」

「その……」

「ん」

「潤滑油を手配してはもらえないだろうか」

それを聞いたインティアは口を両手で押さえ、花のように笑った。

「ついに、なの?」

「…ああ」

ジュリアスは首を横にやり、インティアの視線から逃げた。
よくは見えないが、きっとこの「赤熊」と呼ばれた騎士は顔を赤くしているに違いない、とインティアは思った。

必死。
かわいい。

「近々、三日間の休みを取ることになった。
だから、多分…」

「よかったね!
僕もすごく嬉しいよ!」

思わず声が大きくなりそうなのを抑えながら、インティアは言った。

「ちょっと待ってて」

インティアは軽やかな足取りで荷物を置いている隣の小部屋に入り、すぐに戻ってきた。
手には小瓶が三本。

「座って、ジュリアス」

ベッドにジュリアスを座らせ、インティアも程よく離れて座った。

「はい、これ」

「三本?」

「そ。
こっちの青い瓶は無臭のもの。
ジュリアスが準備するのに使ったらいいよ。
二本で足りるよね」

「あ、ああ…多分」

「こっちの茶色い瓶は花の香りがするもの」

インティアが少し瓶のふたをずらすとほのかに花の香りが漂った。

「お客さんの中にはこの香りが好きな人と嫌いな人がいるから、両方持っているんだ。
ちょっとタネ明かししちゃうと、茶色い瓶を一本、リノに渡してある」

ジュリアスがかっと体温を上げた。
それを知ってか知らずか、インティアはジュリアスの手を包むようにして三本の瓶を渡した。

「僕からのお祝いだよ。
リノをオトナにしてやってくれる?」

「……はい」

「きっとリノの一本じゃ足りない」

「どうかな」

「17歳の性欲を舐めたらいけないよ」

「リノが幻滅することもあるだろう?」

「もしするのなら、とっくの昔にしているんじゃないの?
リノとお風呂にも一緒に入っているんでしょ?」

「それとこれは違うだろ」

「心配しないで、ジュリアス。
リノはジュリアスのことが大好きで、すべてを受け留めてくれるはずだよ」

「そうだといいのだが」

こんなに自信がなく不安そうなジュリアスをインティアは初めて見た。

本当にかわいい人。

「リノを信じてあげて。
いいね?」

ジュリアスは少し黙ったが、うなずいた。

「ありがとう、インティア」

「ううん、僕も嬉しい。
君たちが結ばれるのも嬉しいし、ジュリアスが僕を頼ってくれたことも嬉しい」

インティアはふわりと立ち上がり、ジュリアスの前に立った。

「ねぇ、祝福のハグをしてもいい?」

ジュリアスがうなずくと、インティアはその大きな身体を精一杯抱きしめた。
まるで天使が騎士を大きく包んでいるようだった。

「あなたとリノが素敵な時間を過ごせるように祈ってる」

インティアがそう囁いた。
ジュリアスも「ありがとう」と囁いた。

気が済むまでインティアがジュリアスにハグをし、腕をほどいた。
そして、ドアのところまで促す。
ジュリアスはそれに従い、ドアの前に立った。
二人は視線と「おやすみ」の言葉を交わすと、微笑み合った。
そしてジュリアスがドアを開け、部屋から去っていった。

ジュリアスの気配がなくなってから、インティアはドアを閉め、そしてベッドに潜り込んだ。
少し冷えてしまった足先どうしをこすりながら、口の端からは次から次へと笑みがこぼれていった。
そして、満たされた気持ちを抱え、いつの間にか寝入っていた。






しおりを挟む
Twitter @etocoria_
ブログ「ETOCORIA」
サイト「ETOCORIA」

感想 10

あなたにおすすめの小説

没落貴族の愛され方

シオ
BL
魔法が衰退し、科学技術が躍進を続ける現代に似た世界観です。没落貴族のセナが、勝ち組貴族のラーフに溺愛されつつも、それに気付かない物語です。 ※攻めの女性との絡みが一話のみあります。苦手な方はご注意ください。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました

あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。 完結済みです。 7回BL大賞エントリーします。 表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)

若き新隊長は年上医官に堕とされる

垣崎 奏
BL
セトは軍部の施設で育った武官である。新しく隊長に任命され、担当医官として八歳年上のネストールを宛てがわれた。ネストールは、まだセトが知らない軍部の真実を知っており、上官の立場に就いたばかりのセトを導いていく。 ◇ 年上の医官が攻め、ガチムチ年下武官が受けで始まるBL。 キーワードが意味不明ですみません。何でも許せる方向け。 ムーンライトノベルズにも掲載しています。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

経験豊富な将軍は年下医官に絆される

垣崎 奏
BL
軍部で働くエンリルは、対だった担当医官を病で亡くし失意の中にいたが、癒えないまま新しい担当医官を宛がわれてしまった。年齢差が十八もあるものの、新しい担当医官にも事情があり、仕方なく自らの居室に囲うことにする。 ◇ 年上武官が年下医官を導く主従BL。 『若き新隊長は年上担当医官に堕とされる』と同じ世界のお話です。 ムーンライトノベルズにも掲載しています。

嘘はいっていない

コーヤダーイ
BL
討伐対象である魔族、夢魔と人の間に生まれた男の子サキは、半分の血が魔族ということを秘密にしている。しかしサキにはもうひとつ、転生者という誰にも言えない秘密があった。 バレたら色々面倒そうだから、一生ひっそりと地味に生きていく予定である。

俺は勇者のお友だち

むぎごはん
BL
俺は王都の隅にある宿屋でバイトをして暮らしている。たまに訪ねてきてくれる騎士のイゼルさんに会えることが、唯一の心の支えとなっている。 2年前、突然この世界に転移してきてしまった主人公が、頑張って生きていくお話。

処理中です...