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本編
33. 全部ください(1) - リノ
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しばらく慌ただしい日が続いたけど、ジュリさんが「5日後から3日間、お休みをいただきました」と言った。
俺は顔を赤くしながら、全身を緊張させた。
それは、その、俺がジュリさんの全てをもらう時がきた、ってことだから。
2人とも何事もないように過ごしていたけれど、俺はどこか意識してしまって、様子がおかしかったと思う。
休みの前の日、クラディウス様のはからいでジュリさんはいつもより早く帰ってきた。
クラディウス様の館に戻って来られたとはいえ、ジュリさんは基本、朝早くに出かけていき、夜遅く帰ってこられるので、俺たちはベッドに入って寝るまでの短い時間、お互いがそばにいることを確かめるだけだった。
今夜は部屋でゆっくりと一緒に晩ごはんを食べた。
このお屋敷に来てからずっと、食事は厨房で作ってもらったものを部屋に運んで食べていた。
俺が怪我をして、ジュリさんが部屋で看病をしていたせいなんだけど、俺が治ってもずっとそうしていた。
でも。
なんだか今日はまだザクア伯爵様の小屋で、ジュリさんが作ってくれた食事を食べていたことを思い出した。
「凝ったものは作れないから、味気なかったでしょう?」
ジュリさんはそう言うけど、あの頃の俺は嬉しかった。
ジュリさんの足枷を1秒でも早く外したい、という気持ちもあったけど、帰ったらジュリさんがいて、その日のおかずについて話してくれることが嬉しくてたまらなかった。
「俺は楽しみでしたよ。
今日はなにを作ってくれたのかな、って」
「そうでしたか」
ジュリさんはちょっと照れたように、そう言った。
食後、なんとなくそわそわして落ち着かなくなった。
そんな俺にジュリさんがお風呂を勧めてくれた。
い、いよいよかな…
俺はぎこちなく歩き、部屋の風呂に入った。
そして、できるだけ丁寧に全身を洗った。
俺が出ると、今度はジュリさんがお風呂に入った。
落ち着かない。
とにかく落ち着かない。
あ、でもいろいろやっとかなくちゃ。
俺は甘い花の香りのする潤滑油の入った小瓶をジュリさんのベッドのそばのチェストの引き出しに入れた。
これはインティアからもらったものだ。
ジュリさんが帰ってきてから、「するんでしょう?」と詰め寄られた。
そして、受け入れる側はどれくらい負担が大きいのかこんこんと聞かされ、できるだけ負担を軽くしてあげるのが大切だ、と言われた。
さすがに実践はなかったものの、インティアからどうやったら負担なく、そしてカッコよくできるのかを教わった。
インティアはからかいもしたが、しごく真面目に教えてくれた。
そして、「前にあげたのはもう半年経つから使わないで」と新しく手に入れた潤滑油の小瓶を俺にくれた。
「僕の大切な商売道具だからね」
と綺麗にウィンクをしたけど、インティアはこの屋敷を出たら花街に戻るんだろうか?
インティアはそうしたのかな?
身請けってどれくらいするんだろう?
インティアは俺を祝福しながら「最後は技じゃなくて、どれだけ相手のことを想っているかだよ」と言ってくれた。
経験もないから、そういう技は俺にはないけど、ジュリさんのことが好きなのは誰にも負ける気がしないから。
そんなことを考えていたら、ほかほかになったジュリさんが風呂から上がってきた。
2人ともいつものように、普段着ている寝衣を着ている。
俺がジュリさんのベッドに座って考え事をしているのを見て、ジュリさんがちょっと笑ったような気がした。
「火を消しますね」
オイルランプに手を伸ばしたジュリさんが言った。
「待って。
それじゃ、ジュリさんが見えないよ」
「見えないほうが落胆しないかも?」
「そんなこと、ないです!」
「私が恥ずかしいです」
ぶっ!
なななななんですか、突然!
普段、風呂上がりに平気で上半身裸でうろうろしてるじゃん!!
「では、火を小さくしましょうか」
ジュリさんがオイルランプの炎を小さくした。
「それ、小さすぎ!」
ほぼ暗がり状態なので、俺が文句を言うと、ジュリさんはもう少し炎を大きくしてくれた。
薄明り。
ぼんやりと相手が見えるくらいになった。
うん、ジュリさん、顔、見せて。
ジュリさんがベッドに上がってきた。
ベッドが少し軋んで、ジュリさんの重さだけへこんだ。
俺は上掛けをはいで、シーツの上にジュリさんを座らせた。
俺は膝立ちになり、ジュリさんをそっと抱きしめた。
こうすると今だけ、俺のほうがちょっと背が高くなったような錯覚になる。
「おかえり、ジュリさん…」
「ただいま」
俺はジュリさんの頬に触れ、キスをした。
ジュリさんも俺の背中に腕を回し、キスに応えてくれた。
何度かついばむように短く唇を触れ合わせていたけど、だんだん、深くなっていく。
ジュリさんはキスが上手い。
これまで何度も持っていかれそうになった。
気持ちいい。
俺、ジュリさんとキスするの、好き。
キスをしながら、ジュリさんの髪に指を入れる。
赤い長い髪。
素敵。
うっとりして、1度、唇を離す。
息を吐くと、熱く腫れぼったいものになった。
「ジュリさん…」
両手でジュリさんの顔を挟むと、緑の瞳が目に入った。
綺麗。
「旦那様…」
えー、それ、やだ。
「ねぇ、名前、呼んで」
「リノ」
「ん」
俺はジュリさんの鼻の頭にキスをする。
ジュリさんは可笑しそうにくすくすと笑う。
俺も嬉しくなって、ジュリさんの顔中にキスをして回る。
それが一息ついたところで、ジュリさんは寝衣の上を脱いだ。
そして俺のも脱がせる。
そうして、抱き寄せられた。
初めて肌と肌が密着する。
なにこれ、気持ちいい。
直接触れるって、こんなに気持ちいいんだ。
知らなかった。
こんなに気持ちいいんだ…
俺は顔を赤くしながら、全身を緊張させた。
それは、その、俺がジュリさんの全てをもらう時がきた、ってことだから。
2人とも何事もないように過ごしていたけれど、俺はどこか意識してしまって、様子がおかしかったと思う。
休みの前の日、クラディウス様のはからいでジュリさんはいつもより早く帰ってきた。
クラディウス様の館に戻って来られたとはいえ、ジュリさんは基本、朝早くに出かけていき、夜遅く帰ってこられるので、俺たちはベッドに入って寝るまでの短い時間、お互いがそばにいることを確かめるだけだった。
今夜は部屋でゆっくりと一緒に晩ごはんを食べた。
このお屋敷に来てからずっと、食事は厨房で作ってもらったものを部屋に運んで食べていた。
俺が怪我をして、ジュリさんが部屋で看病をしていたせいなんだけど、俺が治ってもずっとそうしていた。
でも。
なんだか今日はまだザクア伯爵様の小屋で、ジュリさんが作ってくれた食事を食べていたことを思い出した。
「凝ったものは作れないから、味気なかったでしょう?」
ジュリさんはそう言うけど、あの頃の俺は嬉しかった。
ジュリさんの足枷を1秒でも早く外したい、という気持ちもあったけど、帰ったらジュリさんがいて、その日のおかずについて話してくれることが嬉しくてたまらなかった。
「俺は楽しみでしたよ。
今日はなにを作ってくれたのかな、って」
「そうでしたか」
ジュリさんはちょっと照れたように、そう言った。
食後、なんとなくそわそわして落ち着かなくなった。
そんな俺にジュリさんがお風呂を勧めてくれた。
い、いよいよかな…
俺はぎこちなく歩き、部屋の風呂に入った。
そして、できるだけ丁寧に全身を洗った。
俺が出ると、今度はジュリさんがお風呂に入った。
落ち着かない。
とにかく落ち着かない。
あ、でもいろいろやっとかなくちゃ。
俺は甘い花の香りのする潤滑油の入った小瓶をジュリさんのベッドのそばのチェストの引き出しに入れた。
これはインティアからもらったものだ。
ジュリさんが帰ってきてから、「するんでしょう?」と詰め寄られた。
そして、受け入れる側はどれくらい負担が大きいのかこんこんと聞かされ、できるだけ負担を軽くしてあげるのが大切だ、と言われた。
さすがに実践はなかったものの、インティアからどうやったら負担なく、そしてカッコよくできるのかを教わった。
インティアはからかいもしたが、しごく真面目に教えてくれた。
そして、「前にあげたのはもう半年経つから使わないで」と新しく手に入れた潤滑油の小瓶を俺にくれた。
「僕の大切な商売道具だからね」
と綺麗にウィンクをしたけど、インティアはこの屋敷を出たら花街に戻るんだろうか?
インティアはそうしたのかな?
身請けってどれくらいするんだろう?
インティアは俺を祝福しながら「最後は技じゃなくて、どれだけ相手のことを想っているかだよ」と言ってくれた。
経験もないから、そういう技は俺にはないけど、ジュリさんのことが好きなのは誰にも負ける気がしないから。
そんなことを考えていたら、ほかほかになったジュリさんが風呂から上がってきた。
2人ともいつものように、普段着ている寝衣を着ている。
俺がジュリさんのベッドに座って考え事をしているのを見て、ジュリさんがちょっと笑ったような気がした。
「火を消しますね」
オイルランプに手を伸ばしたジュリさんが言った。
「待って。
それじゃ、ジュリさんが見えないよ」
「見えないほうが落胆しないかも?」
「そんなこと、ないです!」
「私が恥ずかしいです」
ぶっ!
なななななんですか、突然!
普段、風呂上がりに平気で上半身裸でうろうろしてるじゃん!!
「では、火を小さくしましょうか」
ジュリさんがオイルランプの炎を小さくした。
「それ、小さすぎ!」
ほぼ暗がり状態なので、俺が文句を言うと、ジュリさんはもう少し炎を大きくしてくれた。
薄明り。
ぼんやりと相手が見えるくらいになった。
うん、ジュリさん、顔、見せて。
ジュリさんがベッドに上がってきた。
ベッドが少し軋んで、ジュリさんの重さだけへこんだ。
俺は上掛けをはいで、シーツの上にジュリさんを座らせた。
俺は膝立ちになり、ジュリさんをそっと抱きしめた。
こうすると今だけ、俺のほうがちょっと背が高くなったような錯覚になる。
「おかえり、ジュリさん…」
「ただいま」
俺はジュリさんの頬に触れ、キスをした。
ジュリさんも俺の背中に腕を回し、キスに応えてくれた。
何度かついばむように短く唇を触れ合わせていたけど、だんだん、深くなっていく。
ジュリさんはキスが上手い。
これまで何度も持っていかれそうになった。
気持ちいい。
俺、ジュリさんとキスするの、好き。
キスをしながら、ジュリさんの髪に指を入れる。
赤い長い髪。
素敵。
うっとりして、1度、唇を離す。
息を吐くと、熱く腫れぼったいものになった。
「ジュリさん…」
両手でジュリさんの顔を挟むと、緑の瞳が目に入った。
綺麗。
「旦那様…」
えー、それ、やだ。
「ねぇ、名前、呼んで」
「リノ」
「ん」
俺はジュリさんの鼻の頭にキスをする。
ジュリさんは可笑しそうにくすくすと笑う。
俺も嬉しくなって、ジュリさんの顔中にキスをして回る。
それが一息ついたところで、ジュリさんは寝衣の上を脱いだ。
そして俺のも脱がせる。
そうして、抱き寄せられた。
初めて肌と肌が密着する。
なにこれ、気持ちいい。
直接触れるって、こんなに気持ちいいんだ。
知らなかった。
こんなに気持ちいいんだ…
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