騎士が花嫁

Kyrie

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本編

26. あなたの帰る場所 - リノ

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甲冑を脱いだジュリさんが部屋に戻り、インティアとロバート様が帰っていった。
ジュリさんと俺は、なんだか口数が少なかった。
何を言っていいのか、俺はわからなかった。

2人ともいつものように食事をし、今日あったことを少し話した。
いつもは弾む会話も大人しかった。
そして少し早いけれど、寝ることにした。
明日、ジュリさんは朝早くにここを発つから。



「ジュリさん、少しだけ、俺、ジュリさんのベッドに行ってもいいですか?」

「はい、どうぞ」

ジュリさんは前もしてくれたように自分の右を空けてくれたので、俺はそこに潜り込んだ。
俺がベッドに上がりきったことを確認すると、ジュリさんが静かにランプの明かりを落とした。

「ジュリさん、ジュリさん」

俺はごそごそと上のほうに上がっていった。

「旦那様?」

「ちょっと下に下がって」

ぐっ、重っ!
俺はジュリさんの首の下に自分の腕を通し、自分の胸にジュリさんの頭を抱え込んだ。

「な?」

「俺が腕枕をします!」

俺はジュリさんがいつも俺にしてくれるように、そっと髪に指を埋め梳いた。

「随分伸びましたね」

「そうですね。メリニャに来て1度も切っていません。
似合いませんか?」

「いいえ!似合っていますよ、ジュリさん。
最近、どんどんカッコよくなっています!」

今は暗闇で見えないはずなのに、ジュリさんの精悍な顔が見えた気がした。
その顔を俺は今、抱きしめてる。
そう思うと照れてしまう。
伸びた髪に指を絡める。

「腕枕、してもらうのは気持ちいいですね」

「そうですか?よかった!
ジュリさんが行く前に1度したかったんです。
いつもしてもらってばかりだし。
ジュリさんが帰ってくるところはここですよ」

「え」

「覚えておいてください。
ジュリさんは俺の妻です。
帰ってくるのは、ここです」

俺はジュリさんの髪に口づけた。

「夫らしいことは何もできませんでした。
王様のハチャメチャな命令で結婚してしまいましたけど、俺、ジュリさんと一緒にいられて幸せでした。
まだまだ一緒にいたいです。
だからここに帰ってきてください。
また俺と過ごしてください。
あの、もしジュリさんが嫌じゃなかったら…」

き、緊張する。
これは俺にとってプロポーズ。
ロバート様のプロポーズの話を聞いてとても羨ましかった。
きっかけは王様のひどい命令だったけど、俺はどんどんジュリさんを好きになっていった。

ジュリさんを自由にしてあげたい。
これは最初からずっと願っていた。
今回、クラディウス様のお陰もあってジュリさんは自由になる。
王様の命令もなにも聞かなくてよくなって、俺はジュリさんが望むなら、離縁して、本当にジュリさんを自由にしてあげようと思っていた。
けれど、いつからだろう。
俺はジュリさんを離したくない、と思うようになっていた。
ジュリさんともっと一緒にいたい。

王様に命令をされたからじゃない。
俺は、自分の意志でジュリさんと結婚したくなった。
それをジュリさんにも知ってほしくなった。
できればジュリさんも同じように思ってほしくなった。

俺、随分我儘になったんだなぁ。

ロバート様はプロポーズのとき、綺麗な花と甘いお菓子を用意したって。
今、俺はなに一つない。
あるのは俺、だけ。
俺、また稼げるようになったら緑の髪紐と北の火酒を用意するから、それまで待ってて。



…あれ、ジュリさん…???

ジュリさんは何も言わない。
あれ?
ダメだった?

「ちょ、ジュリさん?
そんな黙らないでください。
俺、ヘンなこと言っちゃったかな。
気分を害されました?
すみません、俺、考えなしだったかなぁ。
もう自分のベッドに戻りますね…
あうっ…??!!」

俺はすっかり痺れてしまった腕をジュリさんの首の下から引き抜いて、ジュリさんのベッドから出ようとした。
が、ぐっと腰を抱き寄せられ、ジュリさんが俺の胸に顔を埋めた。
俺はジュリさんの頭を覆うようにそっと抱きしめて、髪にキスをした。

「リノ…」

ジュリさんが掠れた声で俺の名前を呼んだ。

「はい、なんですか、ジュリさん」

「俺は1度帰るところを失くしました。
スラークはもうない。
スラークの騎士は捕虜になった時点で国に戻ることを恥とする。
そんな俺にリノは、俺が望めばいつまでもリノの家にいてもいいと言ってくれました」

そういえば、そんなこと言ったなぁ。
「行くところがないからこのまま置いてほしい」って言われて。
あのときはただ、この結婚は仮初で、ジュリさんの安全がこんなばかげたことで守れるのなら、俺はジュリさんの夫でいようと決めたんだ。

「そしてまた、リノは俺に帰る場所を与えてくれた。
家ではなく、あなたのところに。
それも未来に続く時間まで」

あ、改めて聞くと…ちょっと恥ずかしいです、ジュリさん。

「まるでプロポーズですね」

「まるで、じゃありません。
プロポーズです!
俺と結婚してください。
俺とずっと一緒にいてください。
今は何もないけど、ちゃんとプレゼントも用意しますから!」

俺、真剣ですよ!
さっさと怪我を完治させて、しっかり働いてプレゼント買って、もう1回プロポーズするから!

…あれ?

「ねぇ、ジュリさん。
返事は?
俺じゃだめ?
頼りない?
俺、まだまだこれからだと思うんですよ!
17歳だから伸びしろはたっぷりあると思うし!
ねぇ、何か言って」

ん?

「ジュリさん、もしかして泣いてる?」

「…泣いてません」

うそつき。

俺はあやすように、ジュリさんの髪をなでる。

「帰ってきますよ、リノ」

うん。

「今日見せた鎧の内側の、丁度俺の心臓の辺りにリノの名前を刻んでもらいました。
いつもあなたの傍にいます。
そして、帰ってきます、あなたのところに。
それからずっと一緒にいましょう」

「じゃあ、俺のプロポーズ、受けてくれますか?」

「はい」

「やったあああああああ!
ジュリアス!ジュリアス!
キスしていい?
キスさせて!」

俺たちは心を込めて誓いのようなキスをした。

俺、待ってるから!
ジュリさんの居場所を守って待っているから!






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