18 / 61
本編
18. 花街のインティア(4) - リノ
しおりを挟む
馬車でザクア伯爵様のお屋敷の裏口まで送ってくれた。
インティアは最後に小さな包みを俺に渡した。
「じゃあまたね、リノ」
インティアは俺の頬を手でなぞり、そして馬車を出した。
俺は自分の小屋に戻った。
「ただいま」
「おかえりなさい…旦那様」
俺はなんとなくジュリアス様の顔がまともに見られなくて、ドアを閉めると俯いて足枷の鍵を外した。
だだだだだって、インティアがさんざん、ジュリアス様が抱くの抱かれるのって言うから、なんだかちょっと意識しちゃって。
どんな顔をしていいのかわかんないよ。
と、とりあえずベッドに横になろうかな。
なんだか疲れちゃったし。
あれ…?
いつもならジュリアス様はもっと労いの言葉をかけてくれたり、晩ご飯のメニューについて話してくれるのに、今日は何も言わないなぁ。
調子悪いのかな?
俺は帰ってきて初めてジュリアス様のほうをきちんと見た。
いや、別に変ったところはなさそうな気がするけど…
でもなんだか、いつもと違う。
「ジュリさん、なにかありましたか?」
「いいえ。
旦那様のほうこそ、なにかあったのではありませんか?」
う?
なななななんだか、声が怖い…?
「いいいいや、別になにもないけど…」
「そうですか。
いい香りをさせているから、素敵なところに行かれたのかと思いました」
にっこり笑うジュリアス様だけどっ。
目がっ!
目がっ!
全然笑っていませんっ、ジュリアス様!
怒ってる?
なにか怒ってる?
俺、なにかした?
「あの…ジュリさん?
なにか怒っていらっしゃいますか?」
「別に」
いや、それは怒ってるでしょう!
怒ってないはずがない。
うっわあ、俺、なにした?
なにかしたっけ?
「香り?」
「ええ、それは西の古都で珍重されているアルティシモという香水ですよ。
生産量が少ないし高価なのでなかなか手に入らないことで有名です」
へー、さすがジュリアス様、物知りだなぁ。
じゃなくて!
俺はシャツの袖をくんくん嗅いでみる。
甘くいい匂いがする。
これはインティアの香り。
「あ、これは花街の…」
「花街に行かれたのですね」
ここここ怖いよーーーーー!!
怒ってる!
完全にジュリアス様は怒ってらっしゃる!
「い、行ったけど…」
「そうですか。
楽しかったですか?」
うー、インティアとのおしゃべりは、ちょっとからかわれたのはいやだったけど、楽しかったなぁ。
「うん」
「よかったですね。
では、もうお疲れでしょうからお休みになりますか」
ええええええええええええ!
なんでそうなっちゃうの?
いつもみたいに今晩のおかずについて話してよ。
「ちょちょちょちょちょっ!
待ってよ、ジュリさん。
なに怒ってるの?」
「怒っていません」
嘘だあ。
そんな笑っていない、凍り付くような視線で俺を見て怒ってないはずがないじゃないか。
俺はジュリアス様に近づいたが、ジュリアス様は一歩下がって距離を取った。
むっとした俺はジュリアス様に手を伸ばそうとしたが、外したばかりの足枷につまづいてしまった。
それをジュリアス様が抱きとめてくれたけど、
「げふっ!」
「え?」
俺は腹を抱えて倒れてしまった。
ジュリアス様が俺を支えてくれた腕がちょうど殴られた腹を直撃して、痛みで息ができなくなってしまった。
「旦那様、怪我をしていますね?」
俺はそのまま有無も言わさぬ状態でジュリアス様に連れられ、俺のベッドに座らせられると、「ちょっと見せてください」とシャツのボタンを全部外された。
腹の包帯を見ると、ぎりっとジュリアス様が奥歯を噛みしめる音がした。
「一体、なにがあったのですか?
怪我の状態を見ます。
包帯を外しますよ」
ジュリアス様が慣れた手つきで包帯を解いていく。
そして薬が塗られた布を腹から取ると、息を詰めた。
「これは…」
それから俺は、お使いの帰りの男に絡まれ、ラバグルトさんに助けられ、インティアの館に行き、手当とシャツの修繕をしてもらってここまで馬車で帰ってきたことを洗いざらい話させられた。
ジュリアス様は黙ってそれを聞きながら、また薬のついた布を腹に当て、包帯を巻いてくれた。
そして、腹に気を使いながら俺をきゅっと抱きしめてくれた。
「あ、あの、花街に行ったし、インティアは男娼で綺麗でしたけど、俺、浮気はしていませんから!」
俺もぎゅっと抱きしめ返す。
「…いいんです、そうしてもいいと言ったのは私なので」
「そんなこと言わないでください、ジュリさん。
それより心配かけてごめんなさい。
もっと気をつけます」
「旦那様…」
「そうだ、インティアが紅茶という珍しいお茶を分けてくれたんですよ。
きっとジュリさんも気に入ると思います。
ご飯の後、飲みましょう」
俺はなんとなくしゅんとしてしまったジュリアス様の頬にキスをした。
元気になって。
そう思いながら、今度は唇に小さくキスをした。
シャツは「洗濯しますね」とジュリアス様に持って行かれ、別のシャツを着せられた。
食後、紅茶を取り出すために小包を開けると、腹の軟膏と潤滑油の小瓶が口紅のキスマークのついたカードと一緒に出てきて、俺はまた窮地に立たされることになる。
「花街ではお楽しみだったんですね」
低い声でジュリアス様がどっしりと言う。
ぎゃああああああっ!
ジュリアス様の視線がまた凍り付いてるぅぅぅぅっ!
インティアのばかぁっ!
インティアは最後に小さな包みを俺に渡した。
「じゃあまたね、リノ」
インティアは俺の頬を手でなぞり、そして馬車を出した。
俺は自分の小屋に戻った。
「ただいま」
「おかえりなさい…旦那様」
俺はなんとなくジュリアス様の顔がまともに見られなくて、ドアを閉めると俯いて足枷の鍵を外した。
だだだだだって、インティアがさんざん、ジュリアス様が抱くの抱かれるのって言うから、なんだかちょっと意識しちゃって。
どんな顔をしていいのかわかんないよ。
と、とりあえずベッドに横になろうかな。
なんだか疲れちゃったし。
あれ…?
いつもならジュリアス様はもっと労いの言葉をかけてくれたり、晩ご飯のメニューについて話してくれるのに、今日は何も言わないなぁ。
調子悪いのかな?
俺は帰ってきて初めてジュリアス様のほうをきちんと見た。
いや、別に変ったところはなさそうな気がするけど…
でもなんだか、いつもと違う。
「ジュリさん、なにかありましたか?」
「いいえ。
旦那様のほうこそ、なにかあったのではありませんか?」
う?
なななななんだか、声が怖い…?
「いいいいや、別になにもないけど…」
「そうですか。
いい香りをさせているから、素敵なところに行かれたのかと思いました」
にっこり笑うジュリアス様だけどっ。
目がっ!
目がっ!
全然笑っていませんっ、ジュリアス様!
怒ってる?
なにか怒ってる?
俺、なにかした?
「あの…ジュリさん?
なにか怒っていらっしゃいますか?」
「別に」
いや、それは怒ってるでしょう!
怒ってないはずがない。
うっわあ、俺、なにした?
なにかしたっけ?
「香り?」
「ええ、それは西の古都で珍重されているアルティシモという香水ですよ。
生産量が少ないし高価なのでなかなか手に入らないことで有名です」
へー、さすがジュリアス様、物知りだなぁ。
じゃなくて!
俺はシャツの袖をくんくん嗅いでみる。
甘くいい匂いがする。
これはインティアの香り。
「あ、これは花街の…」
「花街に行かれたのですね」
ここここ怖いよーーーーー!!
怒ってる!
完全にジュリアス様は怒ってらっしゃる!
「い、行ったけど…」
「そうですか。
楽しかったですか?」
うー、インティアとのおしゃべりは、ちょっとからかわれたのはいやだったけど、楽しかったなぁ。
「うん」
「よかったですね。
では、もうお疲れでしょうからお休みになりますか」
ええええええええええええ!
なんでそうなっちゃうの?
いつもみたいに今晩のおかずについて話してよ。
「ちょちょちょちょちょっ!
待ってよ、ジュリさん。
なに怒ってるの?」
「怒っていません」
嘘だあ。
そんな笑っていない、凍り付くような視線で俺を見て怒ってないはずがないじゃないか。
俺はジュリアス様に近づいたが、ジュリアス様は一歩下がって距離を取った。
むっとした俺はジュリアス様に手を伸ばそうとしたが、外したばかりの足枷につまづいてしまった。
それをジュリアス様が抱きとめてくれたけど、
「げふっ!」
「え?」
俺は腹を抱えて倒れてしまった。
ジュリアス様が俺を支えてくれた腕がちょうど殴られた腹を直撃して、痛みで息ができなくなってしまった。
「旦那様、怪我をしていますね?」
俺はそのまま有無も言わさぬ状態でジュリアス様に連れられ、俺のベッドに座らせられると、「ちょっと見せてください」とシャツのボタンを全部外された。
腹の包帯を見ると、ぎりっとジュリアス様が奥歯を噛みしめる音がした。
「一体、なにがあったのですか?
怪我の状態を見ます。
包帯を外しますよ」
ジュリアス様が慣れた手つきで包帯を解いていく。
そして薬が塗られた布を腹から取ると、息を詰めた。
「これは…」
それから俺は、お使いの帰りの男に絡まれ、ラバグルトさんに助けられ、インティアの館に行き、手当とシャツの修繕をしてもらってここまで馬車で帰ってきたことを洗いざらい話させられた。
ジュリアス様は黙ってそれを聞きながら、また薬のついた布を腹に当て、包帯を巻いてくれた。
そして、腹に気を使いながら俺をきゅっと抱きしめてくれた。
「あ、あの、花街に行ったし、インティアは男娼で綺麗でしたけど、俺、浮気はしていませんから!」
俺もぎゅっと抱きしめ返す。
「…いいんです、そうしてもいいと言ったのは私なので」
「そんなこと言わないでください、ジュリさん。
それより心配かけてごめんなさい。
もっと気をつけます」
「旦那様…」
「そうだ、インティアが紅茶という珍しいお茶を分けてくれたんですよ。
きっとジュリさんも気に入ると思います。
ご飯の後、飲みましょう」
俺はなんとなくしゅんとしてしまったジュリアス様の頬にキスをした。
元気になって。
そう思いながら、今度は唇に小さくキスをした。
シャツは「洗濯しますね」とジュリアス様に持って行かれ、別のシャツを着せられた。
食後、紅茶を取り出すために小包を開けると、腹の軟膏と潤滑油の小瓶が口紅のキスマークのついたカードと一緒に出てきて、俺はまた窮地に立たされることになる。
「花街ではお楽しみだったんですね」
低い声でジュリアス様がどっしりと言う。
ぎゃああああああっ!
ジュリアス様の視線がまた凍り付いてるぅぅぅぅっ!
インティアのばかぁっ!
10
お気に入りに追加
713
あなたにおすすめの小説
没落貴族の愛され方
シオ
BL
魔法が衰退し、科学技術が躍進を続ける現代に似た世界観です。没落貴族のセナが、勝ち組貴族のラーフに溺愛されつつも、それに気付かない物語です。
※攻めの女性との絡みが一話のみあります。苦手な方はご注意ください。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
経験豊富な将軍は年下医官に絆される
垣崎 奏
BL
軍部で働くエンリルは、対だった担当医官を病で亡くし失意の中にいたが、癒えないまま新しい担当医官を宛がわれてしまった。年齢差が十八もあるものの、新しい担当医官にも事情があり、仕方なく自らの居室に囲うことにする。
◇
年上武官が年下医官を導く主従BL。
『若き新隊長は年上担当医官に堕とされる』と同じ世界のお話です。
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
男だって愛されたい!
朝顔
BL
レオンは雑貨店を営みながら、真面目にひっそりと暮らしていた。
仕事と家のことで忙しく、恋とは無縁の日々を送ってきた。
ある日父に呼び出されて、妹に王立学園への入学の誘いが届いたことを知らされる。
自分には関係のないことだと思ったのに、なぜだか、父に関係あると言われてしまう。
それには、ある事情があった。
そしてその事から、レオンが妹の代わりとなって学園に入学して、しかも貴族の男性を落として、婚約にまで持ちこまないといけないはめに。
父の言うとおりの相手を見つけようとするが、全然対象外の人に振り回されて、困りながらもなぜだか気になってしまい…。
苦労人レオンが、愛と幸せを見つけるために奮闘するお話です。
若き新隊長は年上医官に堕とされる
垣崎 奏
BL
セトは軍部の施設で育った武官である。新しく隊長に任命され、担当医官として八歳年上のネストールを宛てがわれた。ネストールは、まだセトが知らない軍部の真実を知っており、上官の立場に就いたばかりのセトを導いていく。
◇
年上の医官が攻め、ガチムチ年下武官が受けで始まるBL。
キーワードが意味不明ですみません。何でも許せる方向け。
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる