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本編
18. 花街のインティア(4) - リノ
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馬車でザクア伯爵様のお屋敷の裏口まで送ってくれた。
インティアは最後に小さな包みを俺に渡した。
「じゃあまたね、リノ」
インティアは俺の頬を手でなぞり、そして馬車を出した。
俺は自分の小屋に戻った。
「ただいま」
「おかえりなさい…旦那様」
俺はなんとなくジュリアス様の顔がまともに見られなくて、ドアを閉めると俯いて足枷の鍵を外した。
だだだだだって、インティアがさんざん、ジュリアス様が抱くの抱かれるのって言うから、なんだかちょっと意識しちゃって。
どんな顔をしていいのかわかんないよ。
と、とりあえずベッドに横になろうかな。
なんだか疲れちゃったし。
あれ…?
いつもならジュリアス様はもっと労いの言葉をかけてくれたり、晩ご飯のメニューについて話してくれるのに、今日は何も言わないなぁ。
調子悪いのかな?
俺は帰ってきて初めてジュリアス様のほうをきちんと見た。
いや、別に変ったところはなさそうな気がするけど…
でもなんだか、いつもと違う。
「ジュリさん、なにかありましたか?」
「いいえ。
旦那様のほうこそ、なにかあったのではありませんか?」
う?
なななななんだか、声が怖い…?
「いいいいや、別になにもないけど…」
「そうですか。
いい香りをさせているから、素敵なところに行かれたのかと思いました」
にっこり笑うジュリアス様だけどっ。
目がっ!
目がっ!
全然笑っていませんっ、ジュリアス様!
怒ってる?
なにか怒ってる?
俺、なにかした?
「あの…ジュリさん?
なにか怒っていらっしゃいますか?」
「別に」
いや、それは怒ってるでしょう!
怒ってないはずがない。
うっわあ、俺、なにした?
なにかしたっけ?
「香り?」
「ええ、それは西の古都で珍重されているアルティシモという香水ですよ。
生産量が少ないし高価なのでなかなか手に入らないことで有名です」
へー、さすがジュリアス様、物知りだなぁ。
じゃなくて!
俺はシャツの袖をくんくん嗅いでみる。
甘くいい匂いがする。
これはインティアの香り。
「あ、これは花街の…」
「花街に行かれたのですね」
ここここ怖いよーーーーー!!
怒ってる!
完全にジュリアス様は怒ってらっしゃる!
「い、行ったけど…」
「そうですか。
楽しかったですか?」
うー、インティアとのおしゃべりは、ちょっとからかわれたのはいやだったけど、楽しかったなぁ。
「うん」
「よかったですね。
では、もうお疲れでしょうからお休みになりますか」
ええええええええええええ!
なんでそうなっちゃうの?
いつもみたいに今晩のおかずについて話してよ。
「ちょちょちょちょちょっ!
待ってよ、ジュリさん。
なに怒ってるの?」
「怒っていません」
嘘だあ。
そんな笑っていない、凍り付くような視線で俺を見て怒ってないはずがないじゃないか。
俺はジュリアス様に近づいたが、ジュリアス様は一歩下がって距離を取った。
むっとした俺はジュリアス様に手を伸ばそうとしたが、外したばかりの足枷につまづいてしまった。
それをジュリアス様が抱きとめてくれたけど、
「げふっ!」
「え?」
俺は腹を抱えて倒れてしまった。
ジュリアス様が俺を支えてくれた腕がちょうど殴られた腹を直撃して、痛みで息ができなくなってしまった。
「旦那様、怪我をしていますね?」
俺はそのまま有無も言わさぬ状態でジュリアス様に連れられ、俺のベッドに座らせられると、「ちょっと見せてください」とシャツのボタンを全部外された。
腹の包帯を見ると、ぎりっとジュリアス様が奥歯を噛みしめる音がした。
「一体、なにがあったのですか?
怪我の状態を見ます。
包帯を外しますよ」
ジュリアス様が慣れた手つきで包帯を解いていく。
そして薬が塗られた布を腹から取ると、息を詰めた。
「これは…」
それから俺は、お使いの帰りの男に絡まれ、ラバグルトさんに助けられ、インティアの館に行き、手当とシャツの修繕をしてもらってここまで馬車で帰ってきたことを洗いざらい話させられた。
ジュリアス様は黙ってそれを聞きながら、また薬のついた布を腹に当て、包帯を巻いてくれた。
そして、腹に気を使いながら俺をきゅっと抱きしめてくれた。
「あ、あの、花街に行ったし、インティアは男娼で綺麗でしたけど、俺、浮気はしていませんから!」
俺もぎゅっと抱きしめ返す。
「…いいんです、そうしてもいいと言ったのは私なので」
「そんなこと言わないでください、ジュリさん。
それより心配かけてごめんなさい。
もっと気をつけます」
「旦那様…」
「そうだ、インティアが紅茶という珍しいお茶を分けてくれたんですよ。
きっとジュリさんも気に入ると思います。
ご飯の後、飲みましょう」
俺はなんとなくしゅんとしてしまったジュリアス様の頬にキスをした。
元気になって。
そう思いながら、今度は唇に小さくキスをした。
シャツは「洗濯しますね」とジュリアス様に持って行かれ、別のシャツを着せられた。
食後、紅茶を取り出すために小包を開けると、腹の軟膏と潤滑油の小瓶が口紅のキスマークのついたカードと一緒に出てきて、俺はまた窮地に立たされることになる。
「花街ではお楽しみだったんですね」
低い声でジュリアス様がどっしりと言う。
ぎゃああああああっ!
ジュリアス様の視線がまた凍り付いてるぅぅぅぅっ!
インティアのばかぁっ!
インティアは最後に小さな包みを俺に渡した。
「じゃあまたね、リノ」
インティアは俺の頬を手でなぞり、そして馬車を出した。
俺は自分の小屋に戻った。
「ただいま」
「おかえりなさい…旦那様」
俺はなんとなくジュリアス様の顔がまともに見られなくて、ドアを閉めると俯いて足枷の鍵を外した。
だだだだだって、インティアがさんざん、ジュリアス様が抱くの抱かれるのって言うから、なんだかちょっと意識しちゃって。
どんな顔をしていいのかわかんないよ。
と、とりあえずベッドに横になろうかな。
なんだか疲れちゃったし。
あれ…?
いつもならジュリアス様はもっと労いの言葉をかけてくれたり、晩ご飯のメニューについて話してくれるのに、今日は何も言わないなぁ。
調子悪いのかな?
俺は帰ってきて初めてジュリアス様のほうをきちんと見た。
いや、別に変ったところはなさそうな気がするけど…
でもなんだか、いつもと違う。
「ジュリさん、なにかありましたか?」
「いいえ。
旦那様のほうこそ、なにかあったのではありませんか?」
う?
なななななんだか、声が怖い…?
「いいいいや、別になにもないけど…」
「そうですか。
いい香りをさせているから、素敵なところに行かれたのかと思いました」
にっこり笑うジュリアス様だけどっ。
目がっ!
目がっ!
全然笑っていませんっ、ジュリアス様!
怒ってる?
なにか怒ってる?
俺、なにかした?
「あの…ジュリさん?
なにか怒っていらっしゃいますか?」
「別に」
いや、それは怒ってるでしょう!
怒ってないはずがない。
うっわあ、俺、なにした?
なにかしたっけ?
「香り?」
「ええ、それは西の古都で珍重されているアルティシモという香水ですよ。
生産量が少ないし高価なのでなかなか手に入らないことで有名です」
へー、さすがジュリアス様、物知りだなぁ。
じゃなくて!
俺はシャツの袖をくんくん嗅いでみる。
甘くいい匂いがする。
これはインティアの香り。
「あ、これは花街の…」
「花街に行かれたのですね」
ここここ怖いよーーーーー!!
怒ってる!
完全にジュリアス様は怒ってらっしゃる!
「い、行ったけど…」
「そうですか。
楽しかったですか?」
うー、インティアとのおしゃべりは、ちょっとからかわれたのはいやだったけど、楽しかったなぁ。
「うん」
「よかったですね。
では、もうお疲れでしょうからお休みになりますか」
ええええええええええええ!
なんでそうなっちゃうの?
いつもみたいに今晩のおかずについて話してよ。
「ちょちょちょちょちょっ!
待ってよ、ジュリさん。
なに怒ってるの?」
「怒っていません」
嘘だあ。
そんな笑っていない、凍り付くような視線で俺を見て怒ってないはずがないじゃないか。
俺はジュリアス様に近づいたが、ジュリアス様は一歩下がって距離を取った。
むっとした俺はジュリアス様に手を伸ばそうとしたが、外したばかりの足枷につまづいてしまった。
それをジュリアス様が抱きとめてくれたけど、
「げふっ!」
「え?」
俺は腹を抱えて倒れてしまった。
ジュリアス様が俺を支えてくれた腕がちょうど殴られた腹を直撃して、痛みで息ができなくなってしまった。
「旦那様、怪我をしていますね?」
俺はそのまま有無も言わさぬ状態でジュリアス様に連れられ、俺のベッドに座らせられると、「ちょっと見せてください」とシャツのボタンを全部外された。
腹の包帯を見ると、ぎりっとジュリアス様が奥歯を噛みしめる音がした。
「一体、なにがあったのですか?
怪我の状態を見ます。
包帯を外しますよ」
ジュリアス様が慣れた手つきで包帯を解いていく。
そして薬が塗られた布を腹から取ると、息を詰めた。
「これは…」
それから俺は、お使いの帰りの男に絡まれ、ラバグルトさんに助けられ、インティアの館に行き、手当とシャツの修繕をしてもらってここまで馬車で帰ってきたことを洗いざらい話させられた。
ジュリアス様は黙ってそれを聞きながら、また薬のついた布を腹に当て、包帯を巻いてくれた。
そして、腹に気を使いながら俺をきゅっと抱きしめてくれた。
「あ、あの、花街に行ったし、インティアは男娼で綺麗でしたけど、俺、浮気はしていませんから!」
俺もぎゅっと抱きしめ返す。
「…いいんです、そうしてもいいと言ったのは私なので」
「そんなこと言わないでください、ジュリさん。
それより心配かけてごめんなさい。
もっと気をつけます」
「旦那様…」
「そうだ、インティアが紅茶という珍しいお茶を分けてくれたんですよ。
きっとジュリさんも気に入ると思います。
ご飯の後、飲みましょう」
俺はなんとなくしゅんとしてしまったジュリアス様の頬にキスをした。
元気になって。
そう思いながら、今度は唇に小さくキスをした。
シャツは「洗濯しますね」とジュリアス様に持って行かれ、別のシャツを着せられた。
食後、紅茶を取り出すために小包を開けると、腹の軟膏と潤滑油の小瓶が口紅のキスマークのついたカードと一緒に出てきて、俺はまた窮地に立たされることになる。
「花街ではお楽しみだったんですね」
低い声でジュリアス様がどっしりと言う。
ぎゃああああああっ!
ジュリアス様の視線がまた凍り付いてるぅぅぅぅっ!
インティアのばかぁっ!
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