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本編
05. もっと稼ぎたい - リノ
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ん…
甘いカモミールティーの匂い。
「旦那様、朝ですよ」
低く響く声
うん…もうちょ…
わっ!
「おおおおおおはようございます!
すみません、今朝も起きられませんでしたっ!」
「朝食の支度ができています。
顔を洗ってきてください」
そう言って、ジュリアス様は寝室から出ていった。
うわ~っ!また寝坊だ…
俺はもそもそとベッドから出て、服に着替え、顔を洗ってすっかり準備の整ったテーブルについた。
「すみません、今日こそは、と思っていたのですが…」
「仕方ありません。
昨日も遅くまで勉強をしていらしたから」
しょげている俺にジュリアス様が声をかけてくださる。
ジュリアス様、優しい…
俺はうながされて、もそもそと準備してもらった朝ごはんを食べ始めた。
結婚式の翌朝から、ジュリアス様は俺より早く起きて朝ごはんを作ってくれる。
はっきり言って、家事は俺より上手い!
長期の野営もあるから、と1人でなんでもできるように訓練されているんだって。
ご飯も「男飯!」みたいに豪快だけど、味つけもうまいし。
洗濯もちゃんとしわを伸ばして干すから、服もシーツもピンっとしているし。
この間は、庭師の仕事を手伝っている最中に枝でひっかけて破いてしまった服をきれいにかがってくれた。
ボタンつけは朝飯前らしい。
騎士団には制服があって、遠征中でもだらしない格好は許されない。
入団したばかりの頃は自分のものや上官のボタンつけをよくしていたんだって。
結婚する前の俺は、子どもの頃から1人だったので、ザクア伯爵様のお屋敷の階段下の小部屋で寝泊まりしていた。
料理は厨房でまかないを食べていたし、洗濯もカーティさんたちに教わって、休みの日にやっていた。
家事もできないことはないんだけど、下手なんだよね。
見かねて、たまにカーティさんが手伝ってくれることもあった。
しかし!
俺だって今年17歳になり、いくら息子のように関わってくれるからといって、年頃の男の子の下着を女性に洗わせるのは、ご遠慮申し上げまする~!
なので、できることは自分でできるようになろうと努力はしてきたんだ。
大人になって、かわいい嫁さんに俺の下着を洗わせるっていうのはどうなのよ!という妄想もしていたけどさ。
はぁ…
かわいい嫁さん、かぁ…
いやいやっ、今、俺はジュリアス様の夫だ。
だから、勉強も始めた。
夜、仕事から帰ってきてからジュリアス様に文字を教わっている。
小さな黒板に白墨で何度も字を書いては消す。
小文字もなかなか覚えられなくて、大文字はもっと覚えられていない。
睡魔と戦い、ろうそくをあまり使わないようにしながら頑張っているんだけどな。
身長はジュリアス様の2/3。
身体の厚みは1/3。
歳は俺が17でジュリアス様が35。
男前具合も負けている。
こんな俺だけど、もっと稼ぎたいの。
2人分の食い扶持を稼ぎたいし、ジュリアス様に少しでも楽をさせてあげたい。
俺がしっかりしなくっちゃ。
字が読めないけど、読めるようになったら仕事の幅も広がるからね。
「旦那様、急がないと遅れますよ」
「あ!はいっ!」
考え事をしていたら、手が止まっていた。
俺は慌てて、でもしっかり噛んで朝ごはんを食べ、ジュリアス様に見送られて仕事に出かけた。
「旦那様、旦那様」
う…ん…
もうちょい…
「今日はこのままお休みください」
あう…?
ジュリアス様に肩を揺すられ、テーブルからがばっと顔を上げる。
あれ…、俺…
「寝てた?」
今日の仕事はハードだった。
今、ザクア伯爵様はお庭に凝っていらして、庭に置いてある像を動かしたり、新しい東屋を作ろうとされている。
力仕事が多くなって、今日はへろへろになってしまった。
ジュリアス様が作ってくださった晩ごはんを食べた後、テーブルに突っ伏して寝ていたみたい。
「あ、寝てしまってすみません。
今夜も文字の勉強をします。
ジュリアス様、よろしくお願いします」
俺は少しふらつきながら、棚から小さな黒板と白墨を持ってきた。
「今夜はしません」
「え、どうして?
俺、まだ小文字もあやふやで。
やらないと忘れちゃいます」
ジュリアス様は俺を椅子に座らせ、姿勢を正し、俺を真正面から見た。
うっ…
さすが、元騎士団の副団長様だっただけある。
眼光は鋭いし、威厳というか、迫力というか、圧迫感ありすぎ。
「夫の体調管理も妻の役目、だとカーティさんが教えてくれました。
明後日はお休みの日ですから、そのときにやりましょう。
旦那様の覚えは悪くありませんよ。
慣れたらすぐに大文字も覚えられます」
ぎゃあ!
カーティさん、なにやってくれてんだ!
たまにジュリアス様に「新妻の心得」みたいなものを洗濯場で教えているらしい。
「相手が騎士様だからねぇ」と怖がっていたんじゃないのかよ!
それにジュリアス様も素直に聞きすぎだっていうんだ。
無視してください、頼みます。
「それから、旦那様、『ジュリ』です」
「はい?」
「呼び方が間違っていましたよ。よろしくお願いします」
うっ…
そのカーティさんのせいか、ジュリアス様は「自分のことを『様』をつけて呼ぶのはおかしい」と言い出して。
最初は「ジュリアス」と呼ぶようにおっしゃった。
「騎士様は絶対!」な俺にそんなことができますか?
できないですよね。
呼べずにいたらあろうことかジュリアス様は「ジュリアスだと堅苦しいからジュリにしましょう」なんてことを言い出しやがり始めました!
ますますできねぇよーっ!!
そんな、家族か、ここここここ恋人みたいに親しい仲みたいな呼び方、できないいいいっ!
いや、夫婦ですが。
それでも、だめええええええええっ!
全身がカッと熱くなる。
それからの攻防戦の末、「さん」をつけて「ジュリさん」と呼ぶことになった。
なに、この拷問。
内心、いつも「ジュリアス様」と呼びかけているのでたまにつるっとそう呼んでしまうと、ジュリアス様は必ず言い直させる。
「ジュ…ジュリ…さん」
「はい」
「俺、寝ます」
「はい、そのほうがいいと思います。
おやすみなさい、旦那様」
「おやすみなさい」
俺はもそもそと寝室に入って寝衣に着替え、ベッドに転がった。
枕に頭をつけたら、同時に眠ってしまった。
いろいろ疲れてるぜ、俺!
甘いカモミールティーの匂い。
「旦那様、朝ですよ」
低く響く声
うん…もうちょ…
わっ!
「おおおおおおはようございます!
すみません、今朝も起きられませんでしたっ!」
「朝食の支度ができています。
顔を洗ってきてください」
そう言って、ジュリアス様は寝室から出ていった。
うわ~っ!また寝坊だ…
俺はもそもそとベッドから出て、服に着替え、顔を洗ってすっかり準備の整ったテーブルについた。
「すみません、今日こそは、と思っていたのですが…」
「仕方ありません。
昨日も遅くまで勉強をしていらしたから」
しょげている俺にジュリアス様が声をかけてくださる。
ジュリアス様、優しい…
俺はうながされて、もそもそと準備してもらった朝ごはんを食べ始めた。
結婚式の翌朝から、ジュリアス様は俺より早く起きて朝ごはんを作ってくれる。
はっきり言って、家事は俺より上手い!
長期の野営もあるから、と1人でなんでもできるように訓練されているんだって。
ご飯も「男飯!」みたいに豪快だけど、味つけもうまいし。
洗濯もちゃんとしわを伸ばして干すから、服もシーツもピンっとしているし。
この間は、庭師の仕事を手伝っている最中に枝でひっかけて破いてしまった服をきれいにかがってくれた。
ボタンつけは朝飯前らしい。
騎士団には制服があって、遠征中でもだらしない格好は許されない。
入団したばかりの頃は自分のものや上官のボタンつけをよくしていたんだって。
結婚する前の俺は、子どもの頃から1人だったので、ザクア伯爵様のお屋敷の階段下の小部屋で寝泊まりしていた。
料理は厨房でまかないを食べていたし、洗濯もカーティさんたちに教わって、休みの日にやっていた。
家事もできないことはないんだけど、下手なんだよね。
見かねて、たまにカーティさんが手伝ってくれることもあった。
しかし!
俺だって今年17歳になり、いくら息子のように関わってくれるからといって、年頃の男の子の下着を女性に洗わせるのは、ご遠慮申し上げまする~!
なので、できることは自分でできるようになろうと努力はしてきたんだ。
大人になって、かわいい嫁さんに俺の下着を洗わせるっていうのはどうなのよ!という妄想もしていたけどさ。
はぁ…
かわいい嫁さん、かぁ…
いやいやっ、今、俺はジュリアス様の夫だ。
だから、勉強も始めた。
夜、仕事から帰ってきてからジュリアス様に文字を教わっている。
小さな黒板に白墨で何度も字を書いては消す。
小文字もなかなか覚えられなくて、大文字はもっと覚えられていない。
睡魔と戦い、ろうそくをあまり使わないようにしながら頑張っているんだけどな。
身長はジュリアス様の2/3。
身体の厚みは1/3。
歳は俺が17でジュリアス様が35。
男前具合も負けている。
こんな俺だけど、もっと稼ぎたいの。
2人分の食い扶持を稼ぎたいし、ジュリアス様に少しでも楽をさせてあげたい。
俺がしっかりしなくっちゃ。
字が読めないけど、読めるようになったら仕事の幅も広がるからね。
「旦那様、急がないと遅れますよ」
「あ!はいっ!」
考え事をしていたら、手が止まっていた。
俺は慌てて、でもしっかり噛んで朝ごはんを食べ、ジュリアス様に見送られて仕事に出かけた。
「旦那様、旦那様」
う…ん…
もうちょい…
「今日はこのままお休みください」
あう…?
ジュリアス様に肩を揺すられ、テーブルからがばっと顔を上げる。
あれ…、俺…
「寝てた?」
今日の仕事はハードだった。
今、ザクア伯爵様はお庭に凝っていらして、庭に置いてある像を動かしたり、新しい東屋を作ろうとされている。
力仕事が多くなって、今日はへろへろになってしまった。
ジュリアス様が作ってくださった晩ごはんを食べた後、テーブルに突っ伏して寝ていたみたい。
「あ、寝てしまってすみません。
今夜も文字の勉強をします。
ジュリアス様、よろしくお願いします」
俺は少しふらつきながら、棚から小さな黒板と白墨を持ってきた。
「今夜はしません」
「え、どうして?
俺、まだ小文字もあやふやで。
やらないと忘れちゃいます」
ジュリアス様は俺を椅子に座らせ、姿勢を正し、俺を真正面から見た。
うっ…
さすが、元騎士団の副団長様だっただけある。
眼光は鋭いし、威厳というか、迫力というか、圧迫感ありすぎ。
「夫の体調管理も妻の役目、だとカーティさんが教えてくれました。
明後日はお休みの日ですから、そのときにやりましょう。
旦那様の覚えは悪くありませんよ。
慣れたらすぐに大文字も覚えられます」
ぎゃあ!
カーティさん、なにやってくれてんだ!
たまにジュリアス様に「新妻の心得」みたいなものを洗濯場で教えているらしい。
「相手が騎士様だからねぇ」と怖がっていたんじゃないのかよ!
それにジュリアス様も素直に聞きすぎだっていうんだ。
無視してください、頼みます。
「それから、旦那様、『ジュリ』です」
「はい?」
「呼び方が間違っていましたよ。よろしくお願いします」
うっ…
そのカーティさんのせいか、ジュリアス様は「自分のことを『様』をつけて呼ぶのはおかしい」と言い出して。
最初は「ジュリアス」と呼ぶようにおっしゃった。
「騎士様は絶対!」な俺にそんなことができますか?
できないですよね。
呼べずにいたらあろうことかジュリアス様は「ジュリアスだと堅苦しいからジュリにしましょう」なんてことを言い出しやがり始めました!
ますますできねぇよーっ!!
そんな、家族か、ここここここ恋人みたいに親しい仲みたいな呼び方、できないいいいっ!
いや、夫婦ですが。
それでも、だめええええええええっ!
全身がカッと熱くなる。
それからの攻防戦の末、「さん」をつけて「ジュリさん」と呼ぶことになった。
なに、この拷問。
内心、いつも「ジュリアス様」と呼びかけているのでたまにつるっとそう呼んでしまうと、ジュリアス様は必ず言い直させる。
「ジュ…ジュリ…さん」
「はい」
「俺、寝ます」
「はい、そのほうがいいと思います。
おやすみなさい、旦那様」
「おやすみなさい」
俺はもそもそと寝室に入って寝衣に着替え、ベッドに転がった。
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