騎士が花嫁

Kyrie

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番外編 騎士が花嫁こぼれ話

061. テーブルの下の

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第三騎士団で街に飲みに行くことになり、「インティアも来るから」とリノも誘われた。
金の山猫亭にみんなが集まると、なかなか迫力がある。
店の女はこれぞとばかり注文をさばき、愛想を振りまく。
18歳になったリノも大きな男たちに交じって麦酒をあおっていた。
しかし、話題は騎士団内のことが多く、普段見られないジュリアスの顔を知ることができるのは嬉しかったが、いささか退屈してきた。
ちらりとインティアを見ると同じように退屈そうにはしているが、以前の商売で身につけた話術で場を盛り上げるような受け答えをしていた。

ふと、足に違和感を覚えた。
テーブルの下でジュリアスがしゅるりとリノの足に自分の足を絡ませる。
んぐっ、と驚いた顔をして声を我慢しているリノを見ながら、ジュリアスは横で静かにワインを舐めている。
周りの騎士たちはヴェルミオンの話に笑っている。
なにしてるんですか、とリノの大きな目が訴えてみたが、ジュリアスは組んだ足の爪先をもっとリノの太腿の内側に挿し込み、なでるように動かす。

声を上げるわけにも、「やめてくれ」と言うわけにもいかず、リノはとりあえずは耐えた。
それをいいことに、ジュリアスは太腿のつけ根もやんわりとつっついてくる。

「っぐ」

思わず声が漏れてしまい、リノはテーブルに突っ伏すように顔をつけた。

「どうした」

ジュリアスはリノの肩に手をかけ、下から覗き込むようにするがリノは何かを囁いただけだった。
その間も爪先はやわやわと股間をなぞる。
ちらりとジュリアスの顔を見たリノは、真っ赤になって大きな黒い目に涙がにじんで、とてもかわいらしかった。

「すまない、リノが酔ってしまったようだから、俺たちはこれで失礼するよ」

「あら、そんなに飲んだかしら?
気をつけてね、リノ」

ジュリアスの言葉にヴェルミオンが声をかける。
リノは黙ってうなずくと、顔を伏せたまま、しゃがんで背中を差し出したジュリアスにおぶさった。
ジュリアスは銅貨を何枚かテーブルに置くと、店から出ていった。

それを機に、他の騎士も抜ける者がいた。






残ったのは、ヴェルミオン、ジャスティ、インティア、クラディウス、クリスの5人だった。
人数が減ったので、近寄ってまた飲み始める。

「あれで気づかれていないことになっているんですかね」

ジャスティがワインをあおる。

「なによ、あれ!
ジュリアスって独占欲強いの?」

ヴェルミオンも負けじとワインを飲む。
インティアとクラディウスは溜息をつき、わかっていないクリスは小首を傾げた。

「だからおまえは恋人ができないんだよ、クリス。
気がつかなかったのか、ジュリアスがテーブルの下であれこれやってたの」

幼馴染のジャスティがクリスに言った。
クリスは首を横に振る。

「んー、大したことじゃないわよう。
足でちょっとリノをつついていただけじゃない」

「んっ!」

ヴェルミオンがジュリアスがしていたようにクリスの足に自分の足を絡め、滑らせてみた。

「は、は?
ほんとに?
ジュリアスが?」

驚いたクリスが声が上げたのが面白かったのか、インティアがけらけらと笑う。

「ほんとはもっと際どそうだったけどね」

笑いながらワインを舐めたインティアの腰にクラディウスが腕を回してきた。

「するならもっと堂々とすればいい」

「いやいや、困りますから!」

ジャスティが大袈裟に困った顔をする。

「それにしてもねぇ、ジュリアスって案外リノにべったりなのね」

「嫉妬もすごいよ」

ヴェルミオンのつぶやきに、しれっとインティアが答える。

「僕が初めてリノに会ったときは、暴漢に襲われていたのを助けたときだったんだけど」

「うん」

「手当もあったから僕の娼館に連れていったんだよね」

「うん」

「そのあと帰ってからどうだったかリノに聞いたらさ。
まず、ジュリアスは僕がつけていたアルティシモを知ってた」

「あの香水を知ってたの?!
やるわね、ジュリアス」

「そのあとアルティシモがついたシャツを早々に脱がされて、新しいシャツを着せられたって」

「きゃー、嫉妬ね!
他の女か男かの移り香のついたシャツをすぐに剥ぎ取った!」

「単に好きな匂いじゃなかったからじゃないか」

のんびり話すクリスにジャスティがぽかっと頭をこづく。

「だーから、おまえは恋愛できないんだってっ!」

「そうなのか?」

クリスの視線はなんとクラディウスに向けられた。
クラディウスは「まぁな」と答えた。

「あの2人、今頃どうしてるかしらねぇ」

「やめろっ!
考えたくない!」

騒ぐジャスティにヴェルミオンが笑う。

「なによ、溜まってるの?
お疲れ?
おっぱい揉む?」

「いらねーっ!!!」





金の山猫亭の夜はこれから。




***
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感想 10

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みんなの感想(10件)

HANA
2022.05.31 HANA

どこかでこの2人が北の国を旅する話を目に出来るのを心待ちにします。

Kyrie
2022.06.01 Kyrie

HANAさん

見せあげたいなぁ。リノにジュリアスの故郷を。返してあげたいなぁ、ジュリアスを故郷に。
ただジュリアスにとってはつらいことにもなりそうなので、私にそれを描ける力があるのかどうかわかりません。
もしそんな2人を見ることができたら、書きたいと思います。
コメント、ありがとうございます。嬉しいです!

解除
たろじろさぶ

数ヶ月前にこの作品に出会い、折りにふれ何回も読み返させてもらっています。ぜひ永久保存版にしたいので、書籍化希望です😄

完結後に出会ったので、嬉しいけど寂しい…。またふたりに会いたいです。ほんと素敵なふたり🥰年に1回でもいいから、読めたらいいなぁ。お気に入り登録しましたので、その時には見逃しませんよ❗

Kyrie
2022.05.17 Kyrie

たろじろさぶさま

コメント、そしてこのお話をかわいがってくださり、ありがとうございます。

5年くらい前のアルファさんのBL大賞のいいところまで残ったのですが、時代を先取りしすぎたせいか(?)その先へは進めませんでした。
ですが、今、読み返しても設定がぐらついていて勢いだけで書いているような気がします。書籍化となれば嬉しいですが、シビアな世界です。きっと本にするには力がないでしょう。

ただあのときしか書けなかった「なにか」があるような気がしています。
魂を削りながら書いていたような、熱にうなされるように書いていたような、あの時間はしんどかったですがとても素晴らしい時間でした。

番外編にもちらり書きましたが、「空と傷」というお話の中にほんのちょっぴりリノとジュリアスは登場します。

元気がないとき、私は自分のお話のキャラに会いたくなることがあります。
それは2人いて、一人は桐谷、そしてもう一人はリノです。
私もまたリノとジュリアスに会いたいです。

もし、二人の姿が見えたときにはまたお話が書けたらいいなぁ、と思います。

本編ではありませんが、舞台裏ちら見せのようなものがブログにもあります。
まだお読みではなく、興味をひかれましたらそちらもお読みください。

コメント、嬉しいです。ありがとうございます。



解除
Liberté
2018.10.11 Liberté

更新ありがとうございます!
この作品がとても好きで、今でも日をおいては読み返してキュンキュンしておりましたので、新しく更新されてとても嬉しいです!!

Kyrie
2018.10.11 Kyrie

Libertéさん

コメント、ありがとうございます。
今、更新している「空と傷」第29話とリンクしているお話です。
あれから10年後の2人を想像するのは難しかったですが、それでもリノはあのまんまぴゅあぴゅあだし、ジュリアスは包容力抜群のままだったし、「ああ、2人とも元気そうでよかったなぁ」と思いました。
私もまた「騎士が花嫁」のお話が書けて嬉しいです。

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