4 / 16
第4話 ジン(1)
しおりを挟む
あの時、もうこの人生はダメかと思った。
自暴自棄になって、滅茶苦茶な人生にしてしまうんだと思った。
17年やそこら生きてきただけで。
***
高2の年明け、体調が優れず起きられなかった。
身体全体が怠く重い。
どこか腫れぼったいようで、どこかでずっと鈍痛が続いていた。
最初は風邪のひき始めかと思っていたが、あまりに続くのでかかりつけの病院に行った。
あれこれ検査を受けたが、どこも異常はなかった。
俺の症状を聞いて医者は「もしかしたら、ということがあるかもしれないので」とゼン先生を紹介してくれた。
先生は俺から話を聞くとセックステストを受けるように言った。
なぜかと問うと、
「ジンの症状は、未熟なオメガの初めての発情期の前の症状に似ているから」
と、さらりと言った。
俺は「まさか」と思った。
ずっとアルファとして生きてきた。
両親ともアルファだ。
自分がベータや、ましてやオメガだなんて考えられなかった。
俺はゼン先生を笑い飛ばしてやろうと思い、テストを受けた。
結果はオメガだった。
信じられなくて結果を強引に見せてもらうと、くっきりとオメガのところに試薬の反応が出ていた。
冗談だと思った。
不安定になった俺を気遣って、ゼン先生は両親を呼んでくれた。
でも、その時の俺はそれさえもイラつかせるだけだった。
まさか。
俺がオメガ…?
ゼン先生は月に一回の受診を勧め、親に説明をしていた。
俺はそんなもの、聞いていられなかった。
俺が?
オメガ?
まさか?
そればかりが渦巻いていた。
それからの一か月はこれまでと変わらなく過ごした。
学校ではそのままアルファとして振る舞った。
いつ俺がオメガだとバレるかと思うと気が気ではなかった。
しかし、体調が戻るとそれまでと同じようになんでもできたので、俺はゼン先生の診断を「誤診」と思うことにした。
一か月後、母親にまた無理矢理病院に連れてこられた。
そのとき、何かの香りに気づいた。
が、それは正体を確かめる間もなくすぐに消えてしまった。
その日、診察の後ゼン先生は俺には無用の知識だった「オメガとして必要な知識と行動」についてのアリガタイご講義をご教授してくださった。
必要あるものか。
俺は話半分に聞いていた。
それよりも今つるんでいるやつらの家で、今度大きな集まりがある。
俺も招待を受けていて、なにを着ていくかを考えていた。
こういったイベントで顔見知りになった人とのつながりが、大学や卒業後、大きくものを言うことが多い。
できれば、見た目も中身もいい女にも出会いたい。
それが、だ。
3年に進級して間もなくのことだった。
放課後、愛用しているノートを買おうと出かけたところ、自分の身体の内側からひどい衝撃を受けた。
一体、自分になにが起こっているのかわからなかった。
カッと体温が上昇し、立っていられないくらい呼吸が激しくなった。
身体が切なかった。
なにかを求めてしまう。
肌にふれる服の摩擦でさえ、強い刺激になる。
欲しかった。
そこまできて、俺は自分を否定した。
まさか、そんなもの俺が欲しがるはずがない。
しかし、その衝動は激しさを増す。
欲しい。
欲しい。
突き入れ、動かし、腰を揺らし、奥に放ってほしい。
自分が欲しているものを想像するとカーーーーッと顔が赤く熱くなるのがわかった。
なにを考えているんだ、俺。
それは「考える」ものではなかった。
身体の奥底から抗いようもない欲望が這い上がる。
ヒートだ!
認めたくはなかったが、俺のアルファとしての知識でも、これはどうやってもヒートの症状としか考えられなかった。
くらりとめまいがする。
息が上がる。
思い出すゼン先生の言葉。
どうしてあのとき、もっときちんと聞いていなかったんだろう。
未熟なオメガはヒートに身体が慣れていないため、失神することもある。
失神したオメガをアルファが犯すこともある。
いつヒートが来てもいいように、発情期抑制剤と避妊薬を常時携帯するように。
望まない番関係を持たないようにネック・プロテクターを装着するのを勧める。
俺には全部、関係のないことだと思っていた。
それが、自分の身体に起こっている。
俺はビルとビルの間の狭い路地に入り込んだ。
せめてアルファからの強姦のリスクを少しでも低くしたかった。
火照る身体と激しい呼吸、そして乱れる欲望に翻弄され、だんだんめまいがひどくなり意識が遠のいてきた。
その中で思ったんだ。
俺はこの人生はもうダメだと思った。
アルファに犯されて、人生を滅茶苦茶にされ、それを悔いてずっと荒れた人生を送るのかもしれない、と思った。
耐えられなくて自殺するのかもしれない、とも考えた。
そう思いながら、俺は崩れ落ちたこともわからなくなっていった。
自暴自棄になって、滅茶苦茶な人生にしてしまうんだと思った。
17年やそこら生きてきただけで。
***
高2の年明け、体調が優れず起きられなかった。
身体全体が怠く重い。
どこか腫れぼったいようで、どこかでずっと鈍痛が続いていた。
最初は風邪のひき始めかと思っていたが、あまりに続くのでかかりつけの病院に行った。
あれこれ検査を受けたが、どこも異常はなかった。
俺の症状を聞いて医者は「もしかしたら、ということがあるかもしれないので」とゼン先生を紹介してくれた。
先生は俺から話を聞くとセックステストを受けるように言った。
なぜかと問うと、
「ジンの症状は、未熟なオメガの初めての発情期の前の症状に似ているから」
と、さらりと言った。
俺は「まさか」と思った。
ずっとアルファとして生きてきた。
両親ともアルファだ。
自分がベータや、ましてやオメガだなんて考えられなかった。
俺はゼン先生を笑い飛ばしてやろうと思い、テストを受けた。
結果はオメガだった。
信じられなくて結果を強引に見せてもらうと、くっきりとオメガのところに試薬の反応が出ていた。
冗談だと思った。
不安定になった俺を気遣って、ゼン先生は両親を呼んでくれた。
でも、その時の俺はそれさえもイラつかせるだけだった。
まさか。
俺がオメガ…?
ゼン先生は月に一回の受診を勧め、親に説明をしていた。
俺はそんなもの、聞いていられなかった。
俺が?
オメガ?
まさか?
そればかりが渦巻いていた。
それからの一か月はこれまでと変わらなく過ごした。
学校ではそのままアルファとして振る舞った。
いつ俺がオメガだとバレるかと思うと気が気ではなかった。
しかし、体調が戻るとそれまでと同じようになんでもできたので、俺はゼン先生の診断を「誤診」と思うことにした。
一か月後、母親にまた無理矢理病院に連れてこられた。
そのとき、何かの香りに気づいた。
が、それは正体を確かめる間もなくすぐに消えてしまった。
その日、診察の後ゼン先生は俺には無用の知識だった「オメガとして必要な知識と行動」についてのアリガタイご講義をご教授してくださった。
必要あるものか。
俺は話半分に聞いていた。
それよりも今つるんでいるやつらの家で、今度大きな集まりがある。
俺も招待を受けていて、なにを着ていくかを考えていた。
こういったイベントで顔見知りになった人とのつながりが、大学や卒業後、大きくものを言うことが多い。
できれば、見た目も中身もいい女にも出会いたい。
それが、だ。
3年に進級して間もなくのことだった。
放課後、愛用しているノートを買おうと出かけたところ、自分の身体の内側からひどい衝撃を受けた。
一体、自分になにが起こっているのかわからなかった。
カッと体温が上昇し、立っていられないくらい呼吸が激しくなった。
身体が切なかった。
なにかを求めてしまう。
肌にふれる服の摩擦でさえ、強い刺激になる。
欲しかった。
そこまできて、俺は自分を否定した。
まさか、そんなもの俺が欲しがるはずがない。
しかし、その衝動は激しさを増す。
欲しい。
欲しい。
突き入れ、動かし、腰を揺らし、奥に放ってほしい。
自分が欲しているものを想像するとカーーーーッと顔が赤く熱くなるのがわかった。
なにを考えているんだ、俺。
それは「考える」ものではなかった。
身体の奥底から抗いようもない欲望が這い上がる。
ヒートだ!
認めたくはなかったが、俺のアルファとしての知識でも、これはどうやってもヒートの症状としか考えられなかった。
くらりとめまいがする。
息が上がる。
思い出すゼン先生の言葉。
どうしてあのとき、もっときちんと聞いていなかったんだろう。
未熟なオメガはヒートに身体が慣れていないため、失神することもある。
失神したオメガをアルファが犯すこともある。
いつヒートが来てもいいように、発情期抑制剤と避妊薬を常時携帯するように。
望まない番関係を持たないようにネック・プロテクターを装着するのを勧める。
俺には全部、関係のないことだと思っていた。
それが、自分の身体に起こっている。
俺はビルとビルの間の狭い路地に入り込んだ。
せめてアルファからの強姦のリスクを少しでも低くしたかった。
火照る身体と激しい呼吸、そして乱れる欲望に翻弄され、だんだんめまいがひどくなり意識が遠のいてきた。
その中で思ったんだ。
俺はこの人生はもうダメだと思った。
アルファに犯されて、人生を滅茶苦茶にされ、それを悔いてずっと荒れた人生を送るのかもしれない、と思った。
耐えられなくて自殺するのかもしれない、とも考えた。
そう思いながら、俺は崩れ落ちたこともわからなくなっていった。
0
お気に入りに追加
331
あなたにおすすめの小説
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。
婚約破棄?しませんよ、そんなもの
おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。
アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。
けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり……
「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」
それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。
<嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
金色の恋と愛とが降ってくる
鳩かなこ
BL
もう18歳になるオメガなのに、鶯原あゆたはまだ発情期の来ていない。
引き取られた富豪のアルファ家系の梅渓家で
オメガらしくないあゆたは厄介者扱いされている。
二学期の初めのある日、委員長を務める美化委員会に
転校生だというアルファの一年生・八月一日宮が参加してくれることに。
初のアルファの後輩は初日に遅刻。
やっと顔を出した八月一日宮と出会い頭にぶつかって、あゆたは足に怪我をしてしまう。
転校してきた訳アリ? 一年生のアルファ×幸薄い自覚のない未成熟のオメガのマイペース初恋物語。
オメガバースの世界観ですが、オメガへの差別が社会からなくなりつつある現代が舞台です。
途中主人公がちょっと不憫です。
性描写のあるお話にはタイトルに「*」がついてます。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
運命の息吹
梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。
美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。
兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。
ルシアの運命のアルファとは……。
西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》
市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。
男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。
(旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる