【短編未満集】かけらばこ

Kyrie

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空と傷 かけら(6)

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和やかにダ・カンの屋敷で3日間を過ごしたカヤとルーポは、第三騎士団団長のクラディウスの屋敷に呼ばれたので向かった。
カヤの腰には剣が携えられていたが、歩みはのんびりとしている。
到着すると今後のことが話された。

ルーポは午前中、王宮に行き宰相にエトコリアでのことを報告することになった。
彼が見てきたことに有益なものがたくさんある。
それを聞き取り、王に報告し、必要ならば専門の職人の手配をすることになっている。

午後からは薬局やくきょくに行き、新しい局長のサキムにエトコリアの薬草のことを報告しながら、薬の調合をすることになった。

カヤはルーポの護衛をしながら、時には訓練所に顔を出すことになった。
優秀な指導者でもあるカヤが抜ける穴は大きく、それを補充できる人材が見つからなかった。
騎士として自分の技を磨くためにも、カヤにとってよかった。
カヤが訓練所に行っている間には別の騎士がルーポの護衛につくことになった。



それからルーポの家の希望を聞かれた。
ルーポは「2人で住むんだから」とカヤの意見も聞こうとしたが、「俺はベッドがあって眠れればそれでいい」と言うだけだった。
ただ、ルーポがうっとりと希望をつぶやくがなかなかまとめられないので、カヤが相槌を打ちながらそれを聞き、まとめることとなった。
「いいな、それ」とカヤが言うので、ルーポはますます嬉しくなって家と薬草園についての夢を語った。
まとめを提出したときに、ちらりと羊皮紙を覗いたクラディウスは苦い顔をした。

「いくらかかると思ってるんだ」

「そんなことは度外視ですよ。
ただ夢を語らせました」

カヤは飄々とした様子で言った。

「まぁ、イリヤが残した財産も結構な額だったし、足りないところは王がなんとかするかもしれないな。
とりあえず、このまま王に提出してみよう」

「ありがとうございます」

「家具までは手が回らないかもな」

「その分は私が」

クラディウスはカヤが長年傭兵をしていたことを思い出した。

「ならば安心だな。
多少は私からも出そう」

「ありがとうございます」

カヤはクラディウスに礼を言った。





当面のルーポの住むところとして、クラディウスの屋敷の広い客室の一つが提供された。
案内したのはクラディウスの伴侶であり、うた巫人みこのインティアだった。

「この部屋がいいと思うんだけど、どう?」

ドアを開けてルーポとカヤに中を見せると、ルーポはその豪華さに驚いた。

「あ、あの、落ち着きません」

「なに言ってるの。
すぐに慣れるよ。
ルーポはこれから忙しくなるんだから、いいベッドで寝なくちゃね。
この部屋のベッドが一番寝心地がいいんだよ」

インティアはルーポの手を引いて中に入るとベッドに一緒に座り、その弾力を試すようにふかふかとベッドを揺らしてみた。

「カヤもきっと気に入ると思う」

「私、ですか?」

「そうだよ。
カヤもここで一緒に暮らすんだから」

「私は寮に部屋があります」

「ルーポの護衛、でしょ。
いつでもどこでも一緒にいなきゃ。
それに」

インティアは猫っぽい目を細めて笑う。

「あんなところでセックスしたら、他の騎士が眠れないから」

「せっ!」

一番に反応したのはルーポで、顔を真っ赤にしている。

インティアは立ち上がり、ベッドのそばの小さなチェストのひきだしを引いた。

「ここに潤滑油を入れているから。
なくなったら教えて。
補充する。
ここに入っている布は清潔だから、どんどん使って」

カヤはインティアと一緒にチェストを覗き込んで「ありがとうございます」と言った。

「お風呂も使うでしょ。
うちの人たちはそういうのも慣れてるし。
いつでも入れるようにできるから」

インティアの言う「うちの人たち」はクラディウスの屋敷の使用人のことを指していた。

「な、慣れてる?
なにに?」

ルーポがいっぱいいっぱいになりながら聞いてみる。

「君たちがセックスしたあとすぐにお風呂が使えるように準備したり、使ったあとのシーツを清潔なものに交換したり」

「ちょっと待って、待って。
それって、どういう……?」

ルーポの問いにインティアは呆れる。

「お風呂が魔法を使うみたいに勝手に沸くと思っているの?
セックスが終わるタイミングを計って彼らが準備しているんだよ。
ダ・カン様の屋敷でもそうだったでしょ」

「?!」

ルーポは悲鳴にならない声を上げる。
インティアは畳み込むように言う。

「貴族の夜の営みについては使用人は知っているんだって。
じゃないといろいろ準備できないでしょ」

「って、ことは、え?
え?
皆さん、僕たちの、その、こと、全部、ご存じ、なんで……すか?」

こわごわルーポはカヤに聞いてみる。

「ああ、そうだ」

涼しい顔をして答えるカヤにルーポは恥ずかしくて両手で顔を覆う。

「やっ、そんな。
もう、どんな顔をしてお会いしたらいいかわからない」

「慣れればどうってことないから。
それにそういうのを気づかせないように教育されているから、気にしないであげてよ」

「無理ですぅぅぅ」

ルーポはベッドに倒れ込んで、顔を上げようとはしなかった。





20181116




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