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まにときり 第一稿
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ひよこのまにとねこのきりは大のなかよしでした。
二匹はいつもいっしょにいました。
ねこのきりはひよこのまにが、
「大きくなったらまいあさ早く時をつげるりっぱなおんどりになる」
と、ぴーぴー話すのを聞くのが好きでした。
ひよこのまにはねこのきりが、
「大きくなったらおひるねするさいこうのばしょを見つけるのがうまいおすねこになるんだ」
と、のんびり話すのを聞くのが好きでした。
きょうもおだやかな日ざしのひるさがり、うとうととしはじめたきりのせなかの毛をまにが小さなくちばしですいてやりました。
きりがくすぐったそうにすると、まにはますますやさしくくちばしをつかい、きりをなでてやります。
きりはきもちよくなって「もっとして」とおねだりをしました。
「きりちゃんは甘えんぼさんだね」
まにはそう言いながらも、ねだられたとおりにしてやりました。
すると、きりのお腹のあたりでクゥという小さな音がしました。
「お腹がすいたらぼくの左っかわを食べていいよ」
まにのことばを聞いて、きりはとびおきました。
「そんなことしたらまにがいなくなっちゃうよ。
ぼくはそんなことしたくない」
きりはまじめに言いました。
まには、じつはきいろいけーきのひよこでした。
右がわをニンゲンに食べられていたところを見たきりが助けたのでした。
今でもまにの右がわからはぶるーべりーそーすが流れていました。
きりがまだ、まにのことがよくわからなかったころ、きりはそれまでいっしょにいた母ねこやほかのきょうだいがじぶんにしてくれたように、まにをひとなめしたことがありました。
「だいすきなあいてには毛づくろいをするのよ」
と母ねこが教えてくれました。
しかし、きりがなめたまにの左の先は消えてなくなってしまいました。
そして口には甘いくりーむの味が広がりました。
きりはおどろきました。
そのときやっと、きりはまにがけーきのひよこだということに気がつきました。
じぶんがなめつづけると、まにが消えてしまうことも。
だいすきということもつたえられず、きりはたいそうつらく思いました。
それでもまにとずっといたいので、それからはまにをなめることはいっさいしませんでした。
「きりちゃん、よだれがいっぱいたれてるよ。
あかちゃんみたい」
まにはわらいながら言いました。
「お腹がすいたらぼくを食べて、きりちゃん」
まにはむじゃきに言います。
「ぼく、お腹がすいたんじゃなくてねむたいの」
きりはグゥグゥとなるお腹をごまかして、まるくなってねむることにしました。
まにはきりのせなかにぽすんともたれかかり、じぶんもねむることにしました。
きりはまにのくりーむの甘いかおりとぽってりとした重さを感じながら、うとうととしはじめました。
いつのころだったか、まにときりはとても静かな中でくらしていました。
あんなにうるさかったのが、どうして静かになったのでしょう。
大きく聞こえるのはきりのお腹の音だけです。
きりはなんとかこの音を止めようとしましたが、ほねとかわとになってしまったきりにはどうしようもありませんでした。
さいきん、ずっとよこになっているきりをしんぱいして、まにはずっと言い続けました。
「ぼくを食べてよ、きりちゃん」
きりはぜったいに「うん」とは言いませんでした。
まには朝はやくにときをつげるりっぱなおんどりにならなければなりません。
消えてしまうわけにはいかないのです。
まにがぴーぴーときりの顔の前で声をかけるたびに、甘い甘いくりーむのかおりがしました。
きりは思わず、小さな舌を出してしまいそうになりましたが、それをしませんでした。
ぼーっとなる頭で、きりは考えていました。
前はどうしてお腹がすかなかったんだろう。
お腹がすいたときには、きりは母ねこのおっぱいをすっていました。
母ねこはニンゲンからたっぷりとえさとみずをもらっていました。
そして「もうちょっとしたら、みんなもこのえさを食べられるようになりますよ」と言っていました。
そういえば、お母さんやほかのきょうだいはどこに行ったんだろう。
気がつけば、にひきの大きいニンゲンとにひきの小さいニンゲンもいません。
あそこにしかくいてーぶるがあったのになぁ。
きょうだいねこと上までのぼるきょうそうをしていたてーぶるも、じゃんぷしすぎてしかられたそふぁもありません。
あたりはおそろしいほどしんとしていました。
きりはだいすきなまにといっしょにいられることがうれしくてうれしくて、まにをニンゲンからまもりたくて、母ねこやきょうだいねこのところにもどらずに、ずっとずっとまにのそばにいたのでした。
だんだんとよわっていくきりに、まにはどうすることもできませんでした。
いぜんはきりのつやつやした毛をくしばしですいてやると、くすぐったそうにわらっていたのに、今ではそれもできなくなりました。
いつもうつろな目でよこになっていました。
聞こえるのはわらいごえではなく、きりのお腹のあたりする大きな音だけでした。
もう目も開けられなくなったきりはゆめをみました。
なんとニンゲンに食べられたまにの右がわは、元どおりになっていました。
「まに、もどってる!」
きりはうれしくてさけびました。
「きりちゃん、ぼくをなめて」
「いやだよ」
「だいじょうぶだから!」
あまりに強くまにが言うので、きりはしぶしぶ舌の先っちょでまにの左がわをほんの少しだけ、ぺろりとなめました。
甘いクリームのあじをかんじながら、きりはおそるおそるまにを見ました。
「まに、消えてない!」
「ね、だいじょうぶだって言っただろ」
まには言いました。
にひきははじめて、こんなにじゃれあいました。
きりはおもうぞんぶん、「だいすき」というきもちをこめてまにをなめました。
まにはきりの毛にうずもれたり、きりのからだじゅうをのぼったりおりたりしました。
まにのくちばしをなめるとちょこれーとのあじがしました。
にひきはかおをみあわせると、こみあげてきたうれしさに「うふふ」とどちらからともなくわらいました。
「きりちゃん、よこになって。
もっとちゃんと毛をすいてあげる」
まにに言われたようにきりがよこになると、まにはいつもよりもていねいにくちばしで毛をととのえはじめました。
きりはきもちよくなって、うとうとしてきました。
「きりちゃん、きもちいい?」
「うん、とっても」
「きりちゃん、ここは?」
「ん、きもちいい」
あまりにきもちよすぎて、きりはねむりこけてしまいました。
ふと、お腹の中があたたかくなりました。
ほんわりとしたぬくもりは、いつもせなかにもたれかかっていたまにのおもさににていました。
「まに…?」
まにをよぶためにきりがこえを出したとき、きりは目をさましました。
「まに?」
こんどはしっかりとこえを出し、おきあがってあたりをさがしました。
きりは気づきました。
じぶんのお腹の音が止まっていること。
おきあがれるようになっていること。
口の中がちょこれーととくりーむのあまさでいっぱいになっていること。
そして、にどとまにを見つけることはできませんでした。
きゅうにげんきになったきりは、あたりをあるきまわり、われているまどからそとにでました。
はじめて、いっぴきでそとにでました。
いっぴきです。
いっぴきしかいませんでした。
きりはそとのせかいでしにものぐるいで生きぬきました。
どんなにこわくても、どんなにふあんでも、どんなにまにのなまえをよんでも、きりはいっぴきでした。
なので、きりはいっぴきで生きぬきました。
水たまりの水をなめ、ニンゲンのごみばこをあさり、こごえるふゆは少しでもあたたかいばしょをさがしてさまよい、ニンゲンやいぬにおいかけられ、からすからつつかれながら。
やがて、きりのお腹が大きくなり、ある日、白いたまごをひとつ産みました。
きりは出かけることをせず、たべののみもせず、ひっしにたまごをあたためました。
聞こえるのがきりのお腹からする大きな音だけになり、きりがまたおきあがれなくなったころ、たまごにひびが入りました。
きりがかすむ目で見つめていると、中から小さな小さなねこが出てきました。
そのねこのせなかにはやわらかなきいろいはねが生えていました。
こねこは「みゅう」となきました。
きりもなみだをぼろぼろこぼしてなきました。
「きみのなまえは『まに』だよ。
おいで、ぼくのまに」
きりは小さなまにをよび、ほっぺたをぺろりとなめました。
小さなまにのどこも消えはしませんでした。
きりはぺろぺろと小さなまにをなめました。
小さなまにはきもちよさそうに目をとじました。
おしまい
20170531~20170604
二匹はいつもいっしょにいました。
ねこのきりはひよこのまにが、
「大きくなったらまいあさ早く時をつげるりっぱなおんどりになる」
と、ぴーぴー話すのを聞くのが好きでした。
ひよこのまにはねこのきりが、
「大きくなったらおひるねするさいこうのばしょを見つけるのがうまいおすねこになるんだ」
と、のんびり話すのを聞くのが好きでした。
きょうもおだやかな日ざしのひるさがり、うとうととしはじめたきりのせなかの毛をまにが小さなくちばしですいてやりました。
きりがくすぐったそうにすると、まにはますますやさしくくちばしをつかい、きりをなでてやります。
きりはきもちよくなって「もっとして」とおねだりをしました。
「きりちゃんは甘えんぼさんだね」
まにはそう言いながらも、ねだられたとおりにしてやりました。
すると、きりのお腹のあたりでクゥという小さな音がしました。
「お腹がすいたらぼくの左っかわを食べていいよ」
まにのことばを聞いて、きりはとびおきました。
「そんなことしたらまにがいなくなっちゃうよ。
ぼくはそんなことしたくない」
きりはまじめに言いました。
まには、じつはきいろいけーきのひよこでした。
右がわをニンゲンに食べられていたところを見たきりが助けたのでした。
今でもまにの右がわからはぶるーべりーそーすが流れていました。
きりがまだ、まにのことがよくわからなかったころ、きりはそれまでいっしょにいた母ねこやほかのきょうだいがじぶんにしてくれたように、まにをひとなめしたことがありました。
「だいすきなあいてには毛づくろいをするのよ」
と母ねこが教えてくれました。
しかし、きりがなめたまにの左の先は消えてなくなってしまいました。
そして口には甘いくりーむの味が広がりました。
きりはおどろきました。
そのときやっと、きりはまにがけーきのひよこだということに気がつきました。
じぶんがなめつづけると、まにが消えてしまうことも。
だいすきということもつたえられず、きりはたいそうつらく思いました。
それでもまにとずっといたいので、それからはまにをなめることはいっさいしませんでした。
「きりちゃん、よだれがいっぱいたれてるよ。
あかちゃんみたい」
まにはわらいながら言いました。
「お腹がすいたらぼくを食べて、きりちゃん」
まにはむじゃきに言います。
「ぼく、お腹がすいたんじゃなくてねむたいの」
きりはグゥグゥとなるお腹をごまかして、まるくなってねむることにしました。
まにはきりのせなかにぽすんともたれかかり、じぶんもねむることにしました。
きりはまにのくりーむの甘いかおりとぽってりとした重さを感じながら、うとうととしはじめました。
いつのころだったか、まにときりはとても静かな中でくらしていました。
あんなにうるさかったのが、どうして静かになったのでしょう。
大きく聞こえるのはきりのお腹の音だけです。
きりはなんとかこの音を止めようとしましたが、ほねとかわとになってしまったきりにはどうしようもありませんでした。
さいきん、ずっとよこになっているきりをしんぱいして、まにはずっと言い続けました。
「ぼくを食べてよ、きりちゃん」
きりはぜったいに「うん」とは言いませんでした。
まには朝はやくにときをつげるりっぱなおんどりにならなければなりません。
消えてしまうわけにはいかないのです。
まにがぴーぴーときりの顔の前で声をかけるたびに、甘い甘いくりーむのかおりがしました。
きりは思わず、小さな舌を出してしまいそうになりましたが、それをしませんでした。
ぼーっとなる頭で、きりは考えていました。
前はどうしてお腹がすかなかったんだろう。
お腹がすいたときには、きりは母ねこのおっぱいをすっていました。
母ねこはニンゲンからたっぷりとえさとみずをもらっていました。
そして「もうちょっとしたら、みんなもこのえさを食べられるようになりますよ」と言っていました。
そういえば、お母さんやほかのきょうだいはどこに行ったんだろう。
気がつけば、にひきの大きいニンゲンとにひきの小さいニンゲンもいません。
あそこにしかくいてーぶるがあったのになぁ。
きょうだいねこと上までのぼるきょうそうをしていたてーぶるも、じゃんぷしすぎてしかられたそふぁもありません。
あたりはおそろしいほどしんとしていました。
きりはだいすきなまにといっしょにいられることがうれしくてうれしくて、まにをニンゲンからまもりたくて、母ねこやきょうだいねこのところにもどらずに、ずっとずっとまにのそばにいたのでした。
だんだんとよわっていくきりに、まにはどうすることもできませんでした。
いぜんはきりのつやつやした毛をくしばしですいてやると、くすぐったそうにわらっていたのに、今ではそれもできなくなりました。
いつもうつろな目でよこになっていました。
聞こえるのはわらいごえではなく、きりのお腹のあたりする大きな音だけでした。
もう目も開けられなくなったきりはゆめをみました。
なんとニンゲンに食べられたまにの右がわは、元どおりになっていました。
「まに、もどってる!」
きりはうれしくてさけびました。
「きりちゃん、ぼくをなめて」
「いやだよ」
「だいじょうぶだから!」
あまりに強くまにが言うので、きりはしぶしぶ舌の先っちょでまにの左がわをほんの少しだけ、ぺろりとなめました。
甘いクリームのあじをかんじながら、きりはおそるおそるまにを見ました。
「まに、消えてない!」
「ね、だいじょうぶだって言っただろ」
まには言いました。
にひきははじめて、こんなにじゃれあいました。
きりはおもうぞんぶん、「だいすき」というきもちをこめてまにをなめました。
まにはきりの毛にうずもれたり、きりのからだじゅうをのぼったりおりたりしました。
まにのくちばしをなめるとちょこれーとのあじがしました。
にひきはかおをみあわせると、こみあげてきたうれしさに「うふふ」とどちらからともなくわらいました。
「きりちゃん、よこになって。
もっとちゃんと毛をすいてあげる」
まにに言われたようにきりがよこになると、まにはいつもよりもていねいにくちばしで毛をととのえはじめました。
きりはきもちよくなって、うとうとしてきました。
「きりちゃん、きもちいい?」
「うん、とっても」
「きりちゃん、ここは?」
「ん、きもちいい」
あまりにきもちよすぎて、きりはねむりこけてしまいました。
ふと、お腹の中があたたかくなりました。
ほんわりとしたぬくもりは、いつもせなかにもたれかかっていたまにのおもさににていました。
「まに…?」
まにをよぶためにきりがこえを出したとき、きりは目をさましました。
「まに?」
こんどはしっかりとこえを出し、おきあがってあたりをさがしました。
きりは気づきました。
じぶんのお腹の音が止まっていること。
おきあがれるようになっていること。
口の中がちょこれーととくりーむのあまさでいっぱいになっていること。
そして、にどとまにを見つけることはできませんでした。
きゅうにげんきになったきりは、あたりをあるきまわり、われているまどからそとにでました。
はじめて、いっぴきでそとにでました。
いっぴきです。
いっぴきしかいませんでした。
きりはそとのせかいでしにものぐるいで生きぬきました。
どんなにこわくても、どんなにふあんでも、どんなにまにのなまえをよんでも、きりはいっぴきでした。
なので、きりはいっぴきで生きぬきました。
水たまりの水をなめ、ニンゲンのごみばこをあさり、こごえるふゆは少しでもあたたかいばしょをさがしてさまよい、ニンゲンやいぬにおいかけられ、からすからつつかれながら。
やがて、きりのお腹が大きくなり、ある日、白いたまごをひとつ産みました。
きりは出かけることをせず、たべののみもせず、ひっしにたまごをあたためました。
聞こえるのがきりのお腹からする大きな音だけになり、きりがまたおきあがれなくなったころ、たまごにひびが入りました。
きりがかすむ目で見つめていると、中から小さな小さなねこが出てきました。
そのねこのせなかにはやわらかなきいろいはねが生えていました。
こねこは「みゅう」となきました。
きりもなみだをぼろぼろこぼしてなきました。
「きみのなまえは『まに』だよ。
おいで、ぼくのまに」
きりは小さなまにをよび、ほっぺたをぺろりとなめました。
小さなまにのどこも消えはしませんでした。
きりはぺろぺろと小さなまにをなめました。
小さなまにはきもちよさそうに目をとじました。
おしまい
20170531~20170604
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