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鳥の踊り子(1) フルール・オランジュ
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夜を迎えたはずなのに、そのシティはギラギラと輝くライトで溢れていた。
カジノをはじめ多くの娯楽施設が集まるそのシティの最近のトレンドは「フルール・オランジュ」だった。
フランス語で「オレンジ色の花」を意味する店には、文字通りたくさんの花があった。
眩いライトに照らされる広いステージに、花々が次々に現れる。
ちらりちらりと焦らすように見える肌を薄衣が覆う。
そして妖しくも儚い踊りを見せていく。
そう、「フルール・オランジュ」の花とは全員が美しい青少年の「踊り子」のことだった。
踊りのショーが終わると、オーナーによるオークションが行われる。
「フルール・オランジュ」のステージは1階にあり、3階から上はすべて特別な個室になっている。
客はショーの間にお目当ての踊り子を見定め、オークションで大金を積んで競り落とすと、上階に行き、その夜をその踊り子と過ごせるのだ。
今、人気の踊り子はシンシアという海から上がってきたばかりの人魚のような儚さを持つ髪の長い男だった。
貢いでもらったエメラルドと金の首飾りとそろいの耳飾り、腕輪をつけ、いつもステージで踊っている。
ソロで踊ることも多く、ライトで照らされると妖しい緑の輝きを放つ。
誰もがその飾りを自分の贈り物と交換させようとするが、その飾り以上のものを用意できずすごすごと諦めてしまう。
そんな眩い踊り子たちに紛れて、簡素な金の細い鎖の飾りだけを身に着けている少年がいた。
今日もオークションで選ばれなかったらどうしよう。
またお腹が空くのかな。
客に贔屓にされたことがないため、装飾品も少なく、ずっとオークションで競り落とされなかったのでオーナーからは穀つぶし扱いされ、食事をまともに与えられなかった。
空腹でめまいしながら、今夜のステージに立ち、踊るには踊ったが見栄えがするはずもない。
オークションは進んでいる。
本来ならば、この冴えない少年の番はとっくに過ぎていた。
オーナーが忘れていたので、なんと最後の大目玉のシンシアの前に少年の番が回ってきた。
オーナーは少年をオークションにかけずにおこうかと思った。
しかし少年は自分の食事と賃金がかかっているので、必死にオーナーに縋りつき、渋々オークションにかけることになった。
名前を呼ばれ、ステージに立つ。
しかし、客の間には白けた空気が漂った。
今、鼻息荒くしているのは、最後のシンシア目当ての客ばかりだ。
さっさと終わらせてしまえ、と言わんばかりの雰囲気に、少年は戸惑い、ぐずぐずと泣きそうになった。
でも、でも、ここでなんとかしないと、オレは死んでしまうんだ。
誰か…
ここで選ばれなければ、フルール・オランジュもクビになるかもしれない。
そうなったら、本当に野垂れ死んでしまう可能性も高かった。
そんな死体はこのシティの朝、ごろごろ転がっている。
「どなたもいませんか?
よろしいですか?
では、これで次の…」
オーナーが締めきろうとしたとき、「待った!」と手を上げた男がいた。
客が声のしたほうを向き、店内がざわついた。
それもそのはず、声の主は今をときめくザウロスだったからだ。
ザウロスはオークションが始まってすぐに緊急の電話がかかり、その対応をし、戻ってきたところだった。
「その子を買おう。
他に希望者はいなんだろう」
ザウロスは最近、名前を聞くようになった若い投資家だった。
精悍な顔つきと甘い言動、派手な金遣いと手堅い仕事ぶりに多くの人が夢中になり、そして嫉妬した。
踊り子たちの中でもザウロスの指名を受けることを夢見る子も少なくない。
滅多にフルール・オランジュにも来店しないため、今夜の来店を知ると、踊り子たちもいつもより念入りに着飾り、しなを作り腰を振って踊った。
それがあの冴えない少年を落とした。
それも少年のあとのオークションでシンシアが競り落とされた倍の値段で。
ザウロスは最上階の部屋を取り、少年を連れて上がっていった。
20170519
カジノをはじめ多くの娯楽施設が集まるそのシティの最近のトレンドは「フルール・オランジュ」だった。
フランス語で「オレンジ色の花」を意味する店には、文字通りたくさんの花があった。
眩いライトに照らされる広いステージに、花々が次々に現れる。
ちらりちらりと焦らすように見える肌を薄衣が覆う。
そして妖しくも儚い踊りを見せていく。
そう、「フルール・オランジュ」の花とは全員が美しい青少年の「踊り子」のことだった。
踊りのショーが終わると、オーナーによるオークションが行われる。
「フルール・オランジュ」のステージは1階にあり、3階から上はすべて特別な個室になっている。
客はショーの間にお目当ての踊り子を見定め、オークションで大金を積んで競り落とすと、上階に行き、その夜をその踊り子と過ごせるのだ。
今、人気の踊り子はシンシアという海から上がってきたばかりの人魚のような儚さを持つ髪の長い男だった。
貢いでもらったエメラルドと金の首飾りとそろいの耳飾り、腕輪をつけ、いつもステージで踊っている。
ソロで踊ることも多く、ライトで照らされると妖しい緑の輝きを放つ。
誰もがその飾りを自分の贈り物と交換させようとするが、その飾り以上のものを用意できずすごすごと諦めてしまう。
そんな眩い踊り子たちに紛れて、簡素な金の細い鎖の飾りだけを身に着けている少年がいた。
今日もオークションで選ばれなかったらどうしよう。
またお腹が空くのかな。
客に贔屓にされたことがないため、装飾品も少なく、ずっとオークションで競り落とされなかったのでオーナーからは穀つぶし扱いされ、食事をまともに与えられなかった。
空腹でめまいしながら、今夜のステージに立ち、踊るには踊ったが見栄えがするはずもない。
オークションは進んでいる。
本来ならば、この冴えない少年の番はとっくに過ぎていた。
オーナーが忘れていたので、なんと最後の大目玉のシンシアの前に少年の番が回ってきた。
オーナーは少年をオークションにかけずにおこうかと思った。
しかし少年は自分の食事と賃金がかかっているので、必死にオーナーに縋りつき、渋々オークションにかけることになった。
名前を呼ばれ、ステージに立つ。
しかし、客の間には白けた空気が漂った。
今、鼻息荒くしているのは、最後のシンシア目当ての客ばかりだ。
さっさと終わらせてしまえ、と言わんばかりの雰囲気に、少年は戸惑い、ぐずぐずと泣きそうになった。
でも、でも、ここでなんとかしないと、オレは死んでしまうんだ。
誰か…
ここで選ばれなければ、フルール・オランジュもクビになるかもしれない。
そうなったら、本当に野垂れ死んでしまう可能性も高かった。
そんな死体はこのシティの朝、ごろごろ転がっている。
「どなたもいませんか?
よろしいですか?
では、これで次の…」
オーナーが締めきろうとしたとき、「待った!」と手を上げた男がいた。
客が声のしたほうを向き、店内がざわついた。
それもそのはず、声の主は今をときめくザウロスだったからだ。
ザウロスはオークションが始まってすぐに緊急の電話がかかり、その対応をし、戻ってきたところだった。
「その子を買おう。
他に希望者はいなんだろう」
ザウロスは最近、名前を聞くようになった若い投資家だった。
精悍な顔つきと甘い言動、派手な金遣いと手堅い仕事ぶりに多くの人が夢中になり、そして嫉妬した。
踊り子たちの中でもザウロスの指名を受けることを夢見る子も少なくない。
滅多にフルール・オランジュにも来店しないため、今夜の来店を知ると、踊り子たちもいつもより念入りに着飾り、しなを作り腰を振って踊った。
それがあの冴えない少年を落とした。
それも少年のあとのオークションでシンシアが競り落とされた倍の値段で。
ザウロスは最上階の部屋を取り、少年を連れて上がっていった。
20170519
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