【短編未満集】かけらばこ

Kyrie

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騎士が花嫁こぼれ話 かけら(6)

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走る走る走る。
仕事が終わると同時に俺はユエ先生の診療所を飛び出した。

「責任を持って仕事をすることもきっちり覚えていただかないと」

と、早く帰る許可は出なかったけど、後片付けは免除してあげる、とユエ先生が出してくれた。
ありがとうございます、ユエ先生!

人にぶつからないように気をつけながら、俺はとにかく走った。
こんなに走って家に帰るの、いつぐらいぶりだろう。
まだジュリさんが足枷をしているとき、とにかく急いで家に帰っていたのを思い出した。
距離は全然違うけど、とにかく早く帰りたい。
ごめん、ジュリさん、ごめん。




も、だめ。
息が上がる。
乱暴に家のドアを開ける。
ひどい音がする。

「ジュ、ジュ…リ…」

ぜいぜいと呼吸する俺をテーブルにカトラリーを並べていたジュリさんが驚いたように見た。

「俺…きの…う……っあぅ」

唾液を飲み込まないとしゃべれない。
でも口の中からっからっ!
閉じても唾なんか出てきやしねぇっ!

「あ…の」

息、落ち着け。

ジュリさんがどこかへ行く。
行かないで。
行っちゃいやだ!

酸欠。
頭、くらくらする。

ジュリさん。

ジュリさんはただ、水をもってきてくれただけだった。
木の器を口元に差し出してくれる。
俺は奪うように受け取ると、ごくごく飲み干す。

「んはあはあはあはあはあはあ」

空いた木の器にジュリさんが水差しから水を注いでくれる。
俺は有り難くそれも飲み干し、ようやく一心地ついた。

「あ、ありがと、ジュリさん」

まだ息が整わないけど、しゃべられるまでになった。

「あの、昨日はごめんなさい」

ジュリさんは何も言わない。

このときになって、俺はやっとジュリさんをまともに見た。
太い首には痛々しいほど白い包帯が巻かれていた。
ユエ先生がおっしゃったように、怒りかなにかを抑えているせいか目の縁が赤くなって、緑の目が潤んでいる。

「あ」

こんなときなのに。

ジュリさん、綺麗だ。
とっても綺麗だ…

俺は思わずジュリさんに見惚れていた。

唇もなぜか真っ赤だ。
それが赤い髪に映えていた。
俺に対して怒っているはずなのに、怒りきれていない。
ジュリさんが本気で怒ったら、もっと容赦のない射抜く目になるもの。

俺はふらふらとジュリさんに近づいて、抱きしめた。

「本当にごめんなさい」

ジュリさんは一言も発しない。
俺は見上げてジュリさんを見た。

「お酒のこと、気をつけます。
許さなくてもいいから、このままぎゅっとさせて」

だって、わかる。
ジュリさんは俺を欲していたんだもん。
今も、そう。

黙って、ちょっと悲しそうな目をしているけれど、それは俺が放っていて寂しかったから。
俺は腕の力を強める。
昨日はごめん。
今はここにいるから。
あなたを抱きしめるために帰ってきたから。
今、抱きしめてあげるから、そんなに寂しい目をしないで。

「ばか」

ジュリさんは、ただそれだけを言った。

「ああ、ジュリさん、ごめんなさーいっ!
本当に本当にごめんなさーいっ!」

俺は叫びながら、ぎゅうぎゅうとジュリさんを抱きしめる。

「煽るだけ煽って…
ばか」

「悪かったですぅぅぅぅぅ!!!」

俺、もう泣きそう。
ジュリさんはこんなことを言ってるけど、目の色が変わったのに気がついた。
ふんわりと艶めいている。
俺のこと、許してくれている。

「昨日、できなかったこと、今からさせて。
いい?」

ジュリさんの身体に力がぎゅっと入った。
でも大丈夫。
拒否じゃない。
証拠に、俺の腹の下あたりに感じてる。
ジュリさんがその気になりつつあるのを。

俺がジュリさんから離れて、手を引く。
ジュリさんは嫌がらずについてくる。
そうして俺たちは寝室に入った。




まずはジュリさんをジュリさんのベッドに座らせた。

「包帯取って、首の後ろ見てもいい?」

ジュリさんは黙ってうなずいた。
俺はまず、ジュリさんのシャツのボタンを上から三つくらい外した。
それからベッドに上がりこんで、ジュリさんの背中に回り、襟を後ろにひっぱってよく見えるようにして、そっと包帯をほどいていく。
怪我をしているわけじゃないけど、なんだか痛々しい。

うわぁっ!

声には出さなかったけれど、包帯をほどき終わって現れたジュリさんのうなじを見て、俺は驚いた。
キスマーク、というかわいいものじゃなくて、青紫に変色した痕が無数。
それから痛そうな噛み痕も幾つか。
ちょちょちょちょちょっと昨日の俺!
これはやりすぎだろ!

「ごめんなさい。
この噛み痕なんて、痛いよね。
ごめんなさい」

ジュリさんが黙ったまま、首を振る。
それがまた痛々しくて、俺は痕がついていないところに唇を寄せ、触れるだけのキスをする。
ジュリさんの身体がそのたびにぴくっと反応する。
そうだった。
昨日、うなじに俺が吸いつくとすんごい反応したかれ、俺、嬉しくてつい…
やりすぎちゃったけど、でも愛おしくて、ジュリさんが食べたくなって…

見るとジュリさんはシーツを握り込んでいた。
なんだか、いつもと違う。
これほど反応しないのに。
もしかして、いつもより感じてる?

俺はベッドから下りてジュリさんの顔を見た。
真っ赤になって俯いている。

「さっきの、いやだった?」

ジュリさんは首を振る。
ちょっとほっとする。

「ね、どうしてほしい?
俺、ジュリさんがしたいようにしてあげたい」

しばらく待っていたけど、ジュリさんは何も言わない。

「ん、わかった。
嫌だったら言って」

俺はジュリさんのシャツのボタンを全部外すと、脱がしにかかった。
ジュリさんは腕を曲げたりして、協力してくれる。
俺はまたベッドに上がって、広い背中じゅうにさっきみたいな触れるだけのキスをした。
柔らかなキス。
痛くありませんように。

「こんなキス、嫌?」

首を振るジュリさん。
ん、よかった。
俺に首で返事をしたあと、感度が増したような気がする。
シーツを掴む手に力が入って、シーツがしわしわだ。
時々、小さな小さなうめき声が聞こえる。

「声、抑えないで」

ジュリさんは首を振る。
もう、こういうところは強情なんだから。
俺はまだ、「喘ぐジュリさん」を知らない。
いつも声を抑えている。
いざとなると俺も恥ずかしくて理由は聞いていないけど、唇を噛むわけじゃないのに声を抑えている。

俺は後ろから手を伸ばすと、ジュリさんのズボンの中に手を入れた。
ジュリさんがびくっと反応する。

「あ、ごめん。
驚かせた?」

そして、ズボンを下にずらし下着の中から取り出してみる。
まだ完全じゃないけど、半勃ちにはなっている。

「ね、昨日、俺が酔い潰れちゃったあと、ジュリさんはどうしたの?」

ジュリさんの左脇から股間を覗き込む。
先が濡れてる。

「ひとりでした?」

ジュリさんは何も言わない。
首も振らない。

「したんだ。
ね、見せて、ジュリさんがひとりでしてるところ」

今度はジュリさんが反応して俺の顔を見た。

「だって、ジュリさん何も言ってくれないんだもん。
昨日、寂しかったよね。
ごめん。
でも今は大丈夫。
俺、見ててあげるから、ほら」

俺はひょいと身体を伸ばし、ジュリさんの右手にペニスを握らせた。
そして俺は自分の左手を添える。

「手伝ってあげる。
ジュリさんが俺にしてくれるのを真似したらいいんでしょう?



20170212





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