【短編未満集】かけらばこ

Kyrie

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若君、ひとり

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見事に晴れ渡った朝、千代丸は意気揚々と草履に足を入れました。
そして、のっしのっしと歩き始めました。

門のところまで来ると、きょろきょろと辺りを見回しました。

「よし!」

かわいらしい声を上げ、確認を終えると門番に丁寧に挨拶をして、門の外に出ていきました。
いよいよ、千代丸の初めてのひとりお散歩が始まるのです。





千代丸がいるこの国は片田舎の小さな国でした。
温暖な気候でのんびりとしており、大きな争いごとなどは忘れるほど大昔にあったらしいと文書もんじょで残っているくらいでした。


大好きなお散歩にはいつも、口うるさい佐助がついてきました。
すぐに「若、これをしてはいけません」、「若、それはなりません」、「若、それは危のうございます」とやかましく言うのです。
千代丸はこの正月で、数えで四歳になりました。
もう立派な男子おのこだと思います。
なので先日、父上に「ひとりで散歩に行きたい」と申し出てみました。
そばに控えていた佐助がさっそく「若、それは危のうございます。わたくしめがお供いたしますので」と言い始めました。

「父上!」

千代丸はきりりとした顔つきで正座をし、父上を見上げました。
後ろからは小さな袴からちんまりとした足の親指が見えます。

「わたくしは十分おとなになりました。
ひとりでも大丈夫だと思います!」

きらきらとした黒い目で千代丸は自信満々に言います。
父上はしばらく考えましたが、静かに口を開きました。

「よろしい。
三日後に晴れたら、ひとりで散歩に行くがよい」

桃のようなほっぺたがぷるるんと震え、千代丸は嬉しさのあまり父上に手をつき頭を下げました。

「ありがとうございます、父上!
早速、てるてる坊主を作り、晴れるようにお祈りいたします!」

佐助は慌てましたが、殿様の言うことには逆らうことができませんでした。






門から少し歩いて、千代丸はもう一度辺りを見回しました。
佐助の姿はありません。
てっきり隠れてついてくると思ったのに、じいも乳兄弟の菊之丞もいません。
ちょっぴり不安になってきましたが、かぶりを振り、気を取り直して「ひとりでもだいじょうぶ!ひとりでもだいじょうぶ!」と大声で言いながら、武家屋敷が並ぶ道をひとりで歩いていきました。






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