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黒の向こう
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#創作BLワンライ・ワンドロ
待ち合わせのカフェに男はメッセージ通りのいでたちで現れた。
短い髪と茶色と深緑の切り返しのリュック、夜はまだ肌寒いので軽い上着を着て、そして表情は大きめの真っ黒なサングラスで隠されていた。
「ミヤくん?」
男が発した声は柔らかく、耳に心地よかった。
「はい」
メッセージアプリでやり取りをしたことはあったが、どんな男かまだわからない。
こちらもすぐに手の内を明かすわけにはいかない。
ミヤは言葉少なく答えた。
ミヤはカフェラテを、男はブレンドを飲みながらぽつぽつと会話を交わす。
15分くらい経ったところで、ミヤが口を開いた。
「そろそろかな。
タイさん、どうします?
このまま分かれてもいいし、続行してもいいですよ」
くだけた口調になりながらも、客なので丁寧に話す。
「ミヤくんさえよければ、続行したいんだけど。
どうかな、いやじゃない?」
「契約とオプションをきちんと覚えていて、守っていただければ、俺はいいですよ」
「じゃあ、お願いします」
「はい」
2人は席を立つと、ダストボックスに紙コップを捨てて、カフェを出た。
タイにあてがなかったので、ミヤはいつも使っている同性同士のカップルでも利用できるホテルにタイを連れていった。
緊張しているようだったが、タイはミヤにシャワーを勧めた。
「あ、そうか。
前払いだったよね」
「はい」
契約時に伝えた額の札がミヤに手渡される。
ミヤはきっちりと確認すると、それを財布に仕舞い込み、シャワールームに向かった。
もしこのままタイがいなくなっても、きちんとリスクヘッジが取られているので安心だ。
部屋に戻ると、ミヤは逃げずにやや落ち着かない様子でベッドに座っていた。
そして自分もシャワー室へ消えた。
今夜のオーダーは「サングラスをしたままセックスする」、これだけだった。
あれこれ憶測したくなったが、会ってみると礼儀正しくて控えめな男だった。
シャワーを浴びてもタイはサングラスをしたままだった。
「あの、オーダーの」
「サングラスをしたまま?
いいですよ」
「ああ、よかった」
タイは安心したように言った。
ミヤは気持ちを引き締めた。
もしかしたらとんでもない変態プレイを強要されるかもしれない。
しかしそれは杞憂に終わった。
まるで恋人にするかのように優しいキスから始まり、おそろしく丁寧に愛撫され、奉仕され、快感に翻弄された。
「ミヤくん」
熱に濡れた声でタイが言った。
「…う?」
ミヤが蕩けた声で返事をした。
「君、東京の人じゃないでしょう。
方言でしゃべってみてほしい」
「な…?」
「僕には故郷がないんだ。
だから方言に強い憧れがあって。
オプション追加、できる?」
「…ん、だけど、うまく話せない、かも」
「ちょっとでも、いいんだ」
仕事だということを忘れそうなくらい、溶かされたミヤは少し痺れた頭でタイの言葉を理解し、
「うまくいかんかったらごめん」
と言った。
「ああ、そんな感じで。
必ず料金は支払うから。
でも、今は君がかわいすぎるからこのまま抱きたい。
いい?」
切羽詰まった声だった。
「ええ…よ」
「ミヤくん」
タイがミヤの唇をとらえ、熱く甘いキスをした。
タイは相当の手練れだった。
この仕事についてそう長いわけでもないが、これほどのテクニックで「めろめろ」といっていいほどほどかれたのは、ミヤは初めてだった。
タイとは初対面だったのに、的確にミヤの快楽を拾うポイントを探り当て確実にそこを攻めてくる。
それも無理強いはせず、とにかく優しい快楽を次から次へ与えていく。
「こんなに素直か身体を見たことがないよ、ミヤくん」
「あ、そこ、そんなにっ。
だめっ、だめじゃけ。
あ、あ、あ、あ、……んっ」
「気持ち、いい?」
「う、うん、うん」
タイのものはそう大きくはなかったが、硬さがあり、絶妙な腰使いでミヤを追い上げ、追い詰めていく。
こんなにナカで感じたことがない、というほどのポイントをこすられミヤは何度も飛びそうになった。
「いやぁっ、いけんっ、いけんけぇっ。
う、うわっ、うっ、うっ。
あっ」
ナカも顔もぐじゅぐじゅにしながら、声を上げる。
「俺は、気持ちいいよ」
タイの言葉にきゅんとなって中を締める。
「ふ、かわいいなぁ」
「やじゃ。
かわいい、とか言うな」
「だって俺が気持ちいい、って言ったら、ミヤくんの中、きゅっと締まったんだよ。
かわいい」
「やじゃ。
やめーや」
「そう?」
タイは止める気はなく、ミヤも本気で嫌がっているわけではない。
しかし、カフェで見せた少しおどおどした様子のタイから余裕を感じ、余裕を持っていたはずの自分がどうにもならないほどにでろでろにされて余裕を失っているのは、腹が立ってしまった。
「あふっ、んっ、んっ、あ」
もうちょっとで掴めそうな気持ちよさが得られるのに、タイが少しポイントを外してこすり始めた。
「やーじゃあっ、これ、やーじゃあっ!」
涙がにじむのもどうにもできなかった。
「意地悪、せんとって!」
「イキたい?」
「……ふ」
「ミヤくん、イキたい?」
うまく返事ができずにいると、タイが重ねて聞いた。
「イ、イキたいよっ。
どうにかしてーや、もうっ、タイさん!」
正常位でつながっていたタイの身体を腕で引き寄せて、ミヤが泣きながら言った。
「俺も、イキたい、ミヤくん。
イっていい?
君の中で、果てていい?」
「ん、うん。
ええよ」
「嬉しいな」
タイは深い深いキスをした。
サングラスのフレームがミヤの頬に何度も当たった。
この人はどんな顔をして自分を抱いているんだろう。
身体を揺すられ、深く熱く打ちつけられながらミヤは涙でにじむ視界の端でタイを顔をとらえた。
が、それは一瞬のことで、すぐに一番感じるところを突かれ、あっと言う間に衝動が弾け散っていった。
それから少しして、薄いゴム越しにタイの衝動を感じた。
時間が来て、事後のシャワーも浴び服も整えると、タイは財布から新たな札を抜き、ミヤに渡した。
「こんな俺を受け留めてくれてありがとう」
タイは少し寂し気に言った。
思わず、ミヤはその身体を抱きしめそうになった。
「よかったら、また指名して」
それだけを言い、ミヤはサングラスの向こうにいるタイの目を見た。
しかし見えるはずもなく、にこっと笑みを浮かべたタイの口元だけとらえると、2人は無言で部屋を出た。
<了>
待ち合わせのカフェに男はメッセージ通りのいでたちで現れた。
短い髪と茶色と深緑の切り返しのリュック、夜はまだ肌寒いので軽い上着を着て、そして表情は大きめの真っ黒なサングラスで隠されていた。
「ミヤくん?」
男が発した声は柔らかく、耳に心地よかった。
「はい」
メッセージアプリでやり取りをしたことはあったが、どんな男かまだわからない。
こちらもすぐに手の内を明かすわけにはいかない。
ミヤは言葉少なく答えた。
ミヤはカフェラテを、男はブレンドを飲みながらぽつぽつと会話を交わす。
15分くらい経ったところで、ミヤが口を開いた。
「そろそろかな。
タイさん、どうします?
このまま分かれてもいいし、続行してもいいですよ」
くだけた口調になりながらも、客なので丁寧に話す。
「ミヤくんさえよければ、続行したいんだけど。
どうかな、いやじゃない?」
「契約とオプションをきちんと覚えていて、守っていただければ、俺はいいですよ」
「じゃあ、お願いします」
「はい」
2人は席を立つと、ダストボックスに紙コップを捨てて、カフェを出た。
タイにあてがなかったので、ミヤはいつも使っている同性同士のカップルでも利用できるホテルにタイを連れていった。
緊張しているようだったが、タイはミヤにシャワーを勧めた。
「あ、そうか。
前払いだったよね」
「はい」
契約時に伝えた額の札がミヤに手渡される。
ミヤはきっちりと確認すると、それを財布に仕舞い込み、シャワールームに向かった。
もしこのままタイがいなくなっても、きちんとリスクヘッジが取られているので安心だ。
部屋に戻ると、ミヤは逃げずにやや落ち着かない様子でベッドに座っていた。
そして自分もシャワー室へ消えた。
今夜のオーダーは「サングラスをしたままセックスする」、これだけだった。
あれこれ憶測したくなったが、会ってみると礼儀正しくて控えめな男だった。
シャワーを浴びてもタイはサングラスをしたままだった。
「あの、オーダーの」
「サングラスをしたまま?
いいですよ」
「ああ、よかった」
タイは安心したように言った。
ミヤは気持ちを引き締めた。
もしかしたらとんでもない変態プレイを強要されるかもしれない。
しかしそれは杞憂に終わった。
まるで恋人にするかのように優しいキスから始まり、おそろしく丁寧に愛撫され、奉仕され、快感に翻弄された。
「ミヤくん」
熱に濡れた声でタイが言った。
「…う?」
ミヤが蕩けた声で返事をした。
「君、東京の人じゃないでしょう。
方言でしゃべってみてほしい」
「な…?」
「僕には故郷がないんだ。
だから方言に強い憧れがあって。
オプション追加、できる?」
「…ん、だけど、うまく話せない、かも」
「ちょっとでも、いいんだ」
仕事だということを忘れそうなくらい、溶かされたミヤは少し痺れた頭でタイの言葉を理解し、
「うまくいかんかったらごめん」
と言った。
「ああ、そんな感じで。
必ず料金は支払うから。
でも、今は君がかわいすぎるからこのまま抱きたい。
いい?」
切羽詰まった声だった。
「ええ…よ」
「ミヤくん」
タイがミヤの唇をとらえ、熱く甘いキスをした。
タイは相当の手練れだった。
この仕事についてそう長いわけでもないが、これほどのテクニックで「めろめろ」といっていいほどほどかれたのは、ミヤは初めてだった。
タイとは初対面だったのに、的確にミヤの快楽を拾うポイントを探り当て確実にそこを攻めてくる。
それも無理強いはせず、とにかく優しい快楽を次から次へ与えていく。
「こんなに素直か身体を見たことがないよ、ミヤくん」
「あ、そこ、そんなにっ。
だめっ、だめじゃけ。
あ、あ、あ、あ、……んっ」
「気持ち、いい?」
「う、うん、うん」
タイのものはそう大きくはなかったが、硬さがあり、絶妙な腰使いでミヤを追い上げ、追い詰めていく。
こんなにナカで感じたことがない、というほどのポイントをこすられミヤは何度も飛びそうになった。
「いやぁっ、いけんっ、いけんけぇっ。
う、うわっ、うっ、うっ。
あっ」
ナカも顔もぐじゅぐじゅにしながら、声を上げる。
「俺は、気持ちいいよ」
タイの言葉にきゅんとなって中を締める。
「ふ、かわいいなぁ」
「やじゃ。
かわいい、とか言うな」
「だって俺が気持ちいい、って言ったら、ミヤくんの中、きゅっと締まったんだよ。
かわいい」
「やじゃ。
やめーや」
「そう?」
タイは止める気はなく、ミヤも本気で嫌がっているわけではない。
しかし、カフェで見せた少しおどおどした様子のタイから余裕を感じ、余裕を持っていたはずの自分がどうにもならないほどにでろでろにされて余裕を失っているのは、腹が立ってしまった。
「あふっ、んっ、んっ、あ」
もうちょっとで掴めそうな気持ちよさが得られるのに、タイが少しポイントを外してこすり始めた。
「やーじゃあっ、これ、やーじゃあっ!」
涙がにじむのもどうにもできなかった。
「意地悪、せんとって!」
「イキたい?」
「……ふ」
「ミヤくん、イキたい?」
うまく返事ができずにいると、タイが重ねて聞いた。
「イ、イキたいよっ。
どうにかしてーや、もうっ、タイさん!」
正常位でつながっていたタイの身体を腕で引き寄せて、ミヤが泣きながら言った。
「俺も、イキたい、ミヤくん。
イっていい?
君の中で、果てていい?」
「ん、うん。
ええよ」
「嬉しいな」
タイは深い深いキスをした。
サングラスのフレームがミヤの頬に何度も当たった。
この人はどんな顔をして自分を抱いているんだろう。
身体を揺すられ、深く熱く打ちつけられながらミヤは涙でにじむ視界の端でタイを顔をとらえた。
が、それは一瞬のことで、すぐに一番感じるところを突かれ、あっと言う間に衝動が弾け散っていった。
それから少しして、薄いゴム越しにタイの衝動を感じた。
時間が来て、事後のシャワーも浴び服も整えると、タイは財布から新たな札を抜き、ミヤに渡した。
「こんな俺を受け留めてくれてありがとう」
タイは少し寂し気に言った。
思わず、ミヤはその身体を抱きしめそうになった。
「よかったら、また指名して」
それだけを言い、ミヤはサングラスの向こうにいるタイの目を見た。
しかし見えるはずもなく、にこっと笑みを浮かべたタイの口元だけとらえると、2人は無言で部屋を出た。
<了>
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