私の名前は「Blondie（ブロンディ）」 あなたと今宵を過ごします。

ブロンディ 雨の日の出会い

　雨が降りしきる闇夜に、小さな蚊は餌を求めて空中を舞っていた。

　多くの家の窓は閉まっており、

　雨に打たれながら、蚊のブロンディは、雨宿りできる家を探していた。

　「あぁぁ、、やっぱりあの男の家で我慢しておけばよかったのかな。」

　「でも、あいつの血は、汗臭いし、酒臭いし。」

　「どうせなら、もっと若くておいしいのがいいと思ったんだけど、安易に飛び出したのはバカだった。」

　「こんなに雨が降るなんて聞いてないよ。」

　黒く渦巻く空に風、

　「台風でも来るのかな？」

　「大失敗だ。」

　ブロンディはずぶ濡れになりながら、必死に飛んだ。

　最近は雨になるとみんな窓を締め切る。

　昔はクーラーがなかったから、窓をしめるなんてことはまれで、どこも少しくらいは開いていた。

　昔は仲間も多かったけれど、今は水辺もなくなり、薬も開発されて、私達蚊は生き残るに精一杯。

　私は今年、無事に子孫を残せるだろうか・・・。

　ブロンディはどれくらい飛んだだろうか？

　もう、今日は無理だと諦めかけたころ一軒だけ窓が開いている家があった。

　ブロンディは、好奇心と飛行術を駆使し、その窓に近づいていく。

　中からは若い男が机に向かい、カリカリと勉強している姿が見える。

　ブロンディは興味津々で、男の頑張りをじっと見守っていた。

　たまにカップを手を伸ばしては、離席することなく手を動かす若者。

　机には本が詰まれ、ヘッドフォンを見に付け、ブロンディが飛んできた音など、分からない様子であった。

　外の雨音は激しくなるばかりで、ブロンディも今夜はここで休むことにした。

　やがて夜があけて、男は疲れ果て、眠りに落ちていった。

　それを見届けたブロンディは、得意げに羽を震わせた。この無防備な男に近づき、白い肌の金髪の女性へと姿をかえた。

　「あぁ、やっとご飯」

　彼女はためらいもなく、男の耳元に近づいた。

　慎重に男の寝息を聞きながら、ブロンディはゆっくりと小さなさな口を突き出し、男の皮膚に刺し込む。

　血を吸い始めると同時に、ブロンディは男の温もりを感じた

　自分の存在が男に影響を与えていることに、ブロンディは喜びを感じるのだった。

　ブロンディは彼のあまりのおいしさに、違う箇所も吸い始めた。

　首元から始まり徐々に下へとおりるブロンディ。

　しかし、その欲望はブロンディを危険な道へと誘った。

　突然、男の目が開いたのだ！

　「かゆい！」

　男が叫び声を上げながら目をこすり、身体を起こすと、ブロンディは姿をかえ、羽を動かし、その場から逃げ出す。

　男は激しいかゆみに苦しむ中、追いかけることもできず、ただ叫び続けるしかなかった。

　「くっそぉ。マジかよ。なんだよこれ。」

　「かゆみ止めあったかなぁ？手首に２か所に、胸も刺されてるし、耳の後ろもかゆいなぁ。
　おいおい、足も刺されてるよ。しかもめっちゃ腫れてるし。吸い過ぎだろ。勘弁してくれよ。」

　ブロンディは重くなったお腹を抱えて、本棚の後ろへと逃げ隠れた。

　「どっから入ったんだよ。あー。窓が開いてらぁ。」

　男は、目をこすりながらがら窓をしめ、かゆみ止めのクリームを塗り、痛みとともにまた眠った。

　ブロンディもまた、若い男の甘い血にほろ酔いながら、その日は静かに眠りについた。