廃墟の中で……

須賀和弥

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廃墟の中で……

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「滅びた世界の中で、あなたの希望はなんですか?」


「暑い……」

 照りつける太陽をにらみながらボクはつぶやいた。
 見渡す限りの荒野。前を見ても後ろを振り返っても荒野。枯れた木がぽつんぽつんと立っている。
 長年住み慣れたホームを飛び出し、旅を続けて一か月は経っただろうか。
 やっと見つけた岩かげに体を横たえてボクは大きくため息をついた。
 ボクの名はハルカゼ。恐らくはこの辺り一帯で唯一生きている人間だ。
 人類が滅亡してからすでに一世紀が経過しているらしい。「らしい」というのはボクは記録でしかその事実を知らないからだ。
 ボクの記憶では天にまで届くほどに高いビル、夜を昼のように照らし眠ることを知らない街並み。
 星すら到達できる技術はまさに栄華の極みと言ってよかった。
 その世界が崩壊した。
 それは百年以上も前のできごと。
 ボクが覚えているのは月に向かう宇宙船の中。ふと宇宙船の窓から地球を眺めたその瞬間、ボクの記憶は途切れ目覚めた時にはこの荒廃した世界だった。
 少しの食料とわずかばかりの水を持ってボクは旅を続けている。
 ところどころで先人たちの造りだしたシェルターを見つけることがあった。そこまでたどりつければ食料と水を確保することができた。シェルターはビルなどが立ち並ぶ街の中にはない。街から少しだけ離れた場所にあるのだ。
 前回のシェルターはそうだった。だからと言って今回も同じようなのかどうかは分からないが、それでもあてもなくさ迷うよりはましだといえた。大まかなシェルターの位置を示した地図はある。しかし、この百年余りの時間の流れで地形は大きく変わりシェルターの発見を困難にしていた。
 やっとのことで目指していた街にたどり着いた。今回のシェルターはなんと街の中にある。
 街はいい。壊れかけたビルは危険だが、朽ちたビルは影と住居と地下にもぐれば水を提供してくれる。
 しばらくはこの街を拠点に活動することになりそうだった。
 その日は、ビルの中で一泊。ビルの中を少し散策したけど新しい発見はなかった。
 この世界はボクしか生き残っていないんじゃないか。
 時々そう思う。
 行けども行けども見えるのは立ち枯れた木と廃墟のビル。街と街をつなぐ道路のアスファルトもひび割れ砂に埋もれていた。どうしてこんな世界になってしまったのか。
 大きな戦争があった。と記録にはある。映画のように宇宙人が攻めてきたわけでも、地底から地底人が現れたわけでもないようだった。同じ歴史の繰り返し。歴史から学びその愚行を繰り返さないことが人間の人間たるゆえんではないのだろうか。
 でも、結果として人間は絶滅した。幾人かは生き残っているだろう。出会えるかどうかは分からないけど。
 人間の勝手な滅亡劇につきあわされる地球にとっては迷惑な話だ。何億年とかけて築き上げた命の鎖はたったひとつの種族の愚行のせいで滅亡など冗談では済まされない。
 しかし、現実はこの通りのありさまだ。
 日が昇り、ボクは探索を開始する。
 昨日の探索では奥まで行けていなかった。
 今回拠点としたのは、この街で一番大きいビル。街の中心にあり、ビルの痛みも比較的少なかった。
 大きな亀裂がアスファルトを大きく割いていた。かつて大規模な地震があったのだろうか。
 もしかしたらこのビル群は最後の力で立っているのかもしれなかった。 
 しばらくすると地下街への道を見つけた。
 地下へと続く階段も問題なく使えそうだ。
 ボクは明りを手に取り地下を進む。
 しばらくすると大きな扉の前に出た。
 開き扉だったが、片方は倒れ簡単に中に入ることができた。
 どうやらここは地下の遊園地か何かなのか。アトラクションの跡らしき設備を見ながら進む。
 これは期待できる。
 都市中心の娯楽施設はそのまま緊急用のシェルターを兼ねている場合があった。シェルターの地図でここだけ街の中心を示していたことも納得がいく。
 ならば、食料などの備蓄も期待できるというものだ。
 遊戯施設からはなれ、裏側に入る。
 食糧倉庫を探して探索する。
 その時に奥に明かりを発見した。人工的な明り。つまり設備として「生きて」いるということだ。
 ボクは期待に胸を膨らませながら明りに近づいた。
 コントロールパネルのようで、損傷も少ない。ボタンを押すと反応した。表示画面は壊れているようで何も映らなかった。
 いくつかのボタンを押して、機械が反応する。
 近くで音がした。みると金属の筒状のものがゆっくりと飛び出してくるところだった。
 金属の筒のフタが開く。その下にはガラスの筒。中にはガラスのごしにひとり女の子が眠っているのが見えた。
 この子は・・このアトラクションのスタッフか何かか?
 明らかに普段着ではないふわふわな感じの衣装。おおよそ、今の環境には不釣り合いな格好だった。
 彼女もボクと同じく冷凍保存されていたのだろうか。それが、ボクの到着を感知することで起動し、こうして目の前に現れたというのか。
 いきなり見たこともない施設で目覚めるというのはかなりの混乱してしまう。ボクの時がそうだった。
 彼女にはできるだけ混乱しないように説明しようと心に決める。
 起動用のコントロールパネルをタッチする。よかった、このコントロールパネルは動くみたいだった。
 ゆっくりとガラスの筒が開く。しばらくすると女の子が目を覚ました。

「あの……ここは?アトラクションの中ですか?」

 周囲の状況を見ながらボクを見て問いかけてきた。
 周囲は薄暗くしかもボロボロだった。
 彼女の名前はアンナ、この施設の案内係だということだった。
 今までの記憶はあまりないらしい。
 なんと説明したらいいものか。
 ボクはとりあえずわかっている範囲のことを説明する。世界が戦争によって滅亡していること、少なくともボクたちが知っている時代から百年は経過していること。
 ボクの話を彼女は黙って聞いてくれた。特に取り乱すということもなく淡々とした感じだった。

「状況は分かりました。とりあえず食料などがないか探しに行きましょう」

 彼女は状況を理解してくれた。案内係だったということもあり、彼女はこの施設の事を把握しているということだった。ありがたいことだ。
 思った通り、この施設は緊急用のシェルターをかねている。もっと深部に行けばまだ施設が生きている可能性があった。

「こちらです」

 アンナに案内されるままに通路を進む。

「本当に人類は戦争で滅んでしまったんでしょうか?」

 ボクは首を横に振った。そう簡単に人類が滅びるとは思えない。
 ボクのように、そしてアンナのように生き残っている可能性がゼロではないはずだ。

「ボクは仲間を探しているんだ」

 見渡す限りの荒野。行けども行けども人の生活している跡は見つけられなかった。
 それでも、ボクは望みを捨てきれない。
 ボクは今までの旅の話をした。
 目覚めてからずっとひとりだったからなのだろう。
 話をすることが楽しかった。
 話を聞いてくれるだけでうれしかった。
 この世界でやっと「仲間」を見つけることができたんだ。
 アンナはボクと一緒に仲間探しの旅に出てくれるだろうか。
 食料が見つかれば危険を冒してまで外の世界に出る必要はない。
 ある程度施設が無事であれば、ここで生活する分には可能であるはずだ。
 そんなことを考えているうちに大きな扉の前にたどり着いた。

「ここからがシェルターになっています。施設は……生きていますね。中は、入ってみないとわかりません」

 アンナがスイッチを入れると分厚い扉がゆっくりと開いた。
 中の空気が扉の向こうからもれてくる。
 ひんやりとした空気。
 通路に明かりが灯った。
 百年経過してもしっかりと起動してくれているらしい。

「扉が開いたことで、システムが再起動したようです」

 その時に大きく地面が揺れた。
 慌てて壁にしがみつく。
 きしんだ音が響く。システムの再起動に建物自体が耐えきれていない。百年という時間はゆっくりと確実に人間たちの作り上げたものを破壊していく。
 施設に入ると予想以上に施設内が荒れていることに気づかされた。施設はしばらく使われていた形跡があり、壁には銃弾の跡があった。
 通路の端には白骨化した人間がいた。

「施設内での……争い?」

 食料をめぐってなのか、それとも別の理由かはわからないが、生き残るために逃げ込んだシェルター内で殺し合いが起こった。そして、封鎖された。

「行こう。まだ奥まで行っていない」

 アンナを連れて歩き出す。この先に絶望しかなかったとしてもボクはそれを見届ける必要があった。
 思ったとおり、備蓄庫には完全密閉された長期保存食がわずかな量しかなかった。わずかと言っても二人で二ヶ月生きていけるだけの量はある。中身をしっかりと確認しないといけないが、他にも種などの備蓄もあるようだった。
 植物を育てることでこの地を拠点にして生活圏を確立することができるのかもしれない。

「花の種まである」

 食べ物以外のものがあるとは思っていなかった。シェルターにしては設備がいい。規模からしても相当に大きい。
 これではまるでノアの箱舟だ。

「花ですか?」

 アンナが興味深そうに聞いてきた。

「花を見たことは?」

 アンナは首をふる。知識では知っていても実際に見たことはないそうだ。

「それじゃあ、生活が落ち着いたら花の種を植えよう」

「そうですね。いいと思います」

 アンナも喜んでくれていた。
 ここには何度か足を運ぶことになるだろう。持てるだけ食料と植物の種をリュックに入れて出口へと向かった。
 時々、通路が揺れる。いや、このシェルター自体が揺れているんだ。
 通路の灯りが点滅しだした。
 地盤のゆるみがここにきて大きくなってきている。

「急ごう」

 よくない予感がした。

「かなり危険な状況です」

 慎重に通路を進む。
 ぐらりと大きく揺れた。
 ボクはバランスを崩してしまいその場にひざをつく。

「危ない!」

 アンナがボクを突き飛ばした。続いて響く鈍い音。通路の灯りが消え周囲は闇に包まれた。
 体の痛みはない。けがはしていないようだ。

「アンナ!」

 近くで何かが動く音。よかった。アンナも無事のようだ。

「アンナ無事か?」

「ダ……大丈夫です」

 くぐもった声。どこかひび割れた声。

「アンナ!」

 手探りで松明に火をつける。

「見ないで……下サイ」

「アンナ!!」

 松明の明かりの中に浮かび上がるアンナの姿。その腰から下がガレキに押しつぶされていた。
 ガレキに押しつぶされた彼女の身体は――機械だった。
 ロボット、つまりはアンドロイドだ。

「私は人間ではありません……アナタをだましていました。」

 そんなことはない。
 アンナの存在がどれだけ心の支えになったか。
 出会えてどれだけ嬉しかったか。
 アンドロイドだろうと人間だろうとそれは関係ない。

「あなたと一緒に……花を育てたかった……」

 声が出せなかった。アンナの手をにぎる。
 アンナが優しく握り返してきてくれる。

「生きて……下サイ」

 アンナの瞳から光が失われた。

「アンナ!!」

 ボクの叫びが暗い通路内に響いていった。

 ◆ ◆ ◆ ◆

 私は「アンナ」人工知能を搭載した独立起動型のアンドロイド。
 この娯楽施設「ドリームガーデン」のサポート役として、常時はお客様を案内し、緊急時にはシェルターへの誘導と施設の管理などを行うこと。
 私は休眠状態になるまでの間、何年もこの施設で働いていた。
 娯楽施設として機能している際には案内役として、戦争が起こりここがシェルターとして機能し始めた時には避難民の誘導と安全な生活を行うための補助を行った。
 核兵器の使用と地表の生物の死滅。世界は崩壊した。
 しばらくの間、シェルターの中は平和だった。皆生き残ったことに感謝し、協力し合って生きていくことを誓い合った。世界の滅亡を基に人類は生まれ変わったのだ。
 しかし、それも長くは続かなかった。
 最初は小さな亀裂だった。
 ちょっとしたいざこざ。
 人と人との間にわずかな傷が生じ始めた。
 私たちは避難民の心のケアを行いながら施設の管理維持に努めた。
 設計上このシェルターは百年以上避難民の生活維持を継続することが可能だ。
 閉鎖された空間。外の環境は衛星を通じて確認することができた。
 海洋を除いたほぼすべての地域での植物を含んだ生命体の死滅。
 その事実が、避難民たちをさらに精神的に追い込んでいった。
 自殺者が出始めた。
 シェルター内で新興宗教が誕生。
 争いの激化。保安用の武器が奪われ自警団と新興宗教との対立が激化していった。
 そして、住民は一人もいなくなった。
 記録では、最後に生き残った避難民たちはシェルターを離れ、放射能嵐の吹き荒れる外の世界へと旅立っていったようだ。
 私たちを置いて。
 私は奉仕すべき主を失った。
 私たちは再び眠りについた。
 来ることのない新たな人間のために。

 どれほど眠っていただろう。
 私はシェルターのシステムが再び軌道していることを感知した。
 限られたセンサーで感知できたのは一人の人間がこのシェルターに侵入したということだ。
 歓喜というのだろうか。
 私は心が満たされていくのが分かった。
 その時だった。
 私の人工頭脳にアクセスしてくるものがあった。
 あり得なかった。休眠状態の私は知覚センサーが機能していない。
 それは、私の人工知能に……心に語り掛けてきたのだ。

「私は死神のミライ」

 死神……検索。死を司る者。伝承上の存在。

「あなたの命は今日限りとなりました」

 命……検索。生命体の生命維持活動の停止。

(私には、「死」という定義は当てはまりません)

「……あなたからは「魂」の片鱗が感じられます」

 何のことを言っているのだろう。
 アンドロイドの私に魂などあるはずがない。

「あなたの願いをひとつだけ叶えます」

(私の望みは人間に奉仕することです)

 それが私の存在定義。存在理由。
 それ以外にはありえなかった。

「いいえ。あなたはいずれ魂の昇華に至ります」

 声が遠ざかっていく。

「その時に、あなたの願いを叶えましょう」

 声が遠ざかるのを感じながら私は再び眠りに落ちていった。

 再び意識が覚醒した時に、一人の人間が目の前にいた。
 彼は戦争勃発前に冷凍保存されていたということだった。
 私の心は喜びに満たされる。
 再び私の存在理由である「人間へのご奉仕」が達成されるのだ。
 彼の名はハルカゼ。
 彼と私たちの置かれている現在の状況を説明してくれた。
 私はハルカゼと一緒にシェルター内を探索する。
 ネットワークへのアクセスはできなかったので、私の持っている情報を頼りに散策を続ける。
 探索を続けながら私は自分の「心」が成熟していくのを感じた。
 百年前、避難民のケアをしていた時に時々感じていた「感情」というもの。
 それは百年という時間をかけてゆっくりと熟成されていたのだ。
 私はハルカゼと共にありたいと願うようになった。
 彼が最後の人類かもしれないというのもあったのかもしれない。
 でも、彼の笑顔を見る度に、彼と話しをするたびにわき起こる感情。
 しかし、百年を言う時間の流れはシェルターにとっても大きな負荷となっていることを私は知らなかった。
 稼働に合わせてシェルターの施設が崩壊を始めたのだ。
 もともと内乱で各設備は危機的状況になっていた。
 シェルターのを支える部分がすでに機能していなかったのだ。
 ついに、シェルターが崩壊を始める。
 私はハルカゼを安全な所へと誘導する。
 なんとしても、ここを離れなければ。

 ハルカゼと一緒に外の世界へと脱出しなければ。

 自分の考えに私はおどろいた。
 シェルターを放棄するという考えが、そう思うことが私にできたということに。
 ハルカゼとならどこにでも行ける。
 ネットワークから切り離された状態の私の考えは他のアンドロイドと均一化されていない。
 つまり、この考えは私自身で獲得した「自我」だった。
 私は自分自身を失いたくない。それ以上にハルカゼを失いたくない。

「かなり危険な状態です」 
 
 この危険な状態から抜け出したかった。
 地面が揺れた。ハルカゼがバランスを崩す。天井が崩れた。

「危ない!」

 自身の防衛機構が警報を鳴らした。
 私はそれを無理やり押し込んで、ハルカゼを突き飛ばし……がれきの下敷きになってしまった。
 
 松明の光が私を照らす。
 ハルカゼが私を見ている。

「見ないで……下サイ」

 ハルカゼには知られたくなかった。いずれは知られることになるとしても今ではないと思っていた。
 破損率八〇パーセント。
 電力低下。
 機能維持困難。
 現在のこの状況で、修復は不可能。
 もう少しで、私は機能を停止する。
 ハルカゼは無事だった。
 私は人間を守ることができた。存在意義を守ることができた。
 しかし、なぜだろう。
 無念という言葉が脳裏をよぎる。
 いやだ。いやだ。イヤだ。
 私は壊れたくない。
 私は死にたくない。
 心配そうに私を見つめるハルカゼ。
 ああ、ハルカゼは私がアンドロイドとわかっても、こんな目で私を見てくれる。
 何も心配することはなかった。
 ハルカゼはやっぱりハルカゼだ。
 電力がもうない。
 機能停止――カウントダウン。
 命のカウントダウン。

 時間です。と声が響いた。死神の声。告別の声。

 ――くやしい。
 ――悲しい。
 ――哀しい。

「あなたと一緒に……花を育てたかった……」

 それが私の最後の言葉となった。

 生きてください。
 私の分まで、生きてください。

「あなたの願い、叶えましょう」

 ミライの声が響いた。これは、幻聴なのだろうか。

 ◆ ◆ ◆ ◆

「アンナ!」

 私を呼ぶ声がする。
 意識の覚醒。
 センサーが周囲の状況を確認。
 ノイズがひどいけど、不明瞭ということはない。

「アンナ!」

 私を呼ぶ声。この声はハルカゼ!
 視野が回復する。
 カメラが焦点を合わせる。

 その時、私は……感動にふるえた。
 もう会えないと思っていた。
 二度とその声を聞けないと思っていた。

 心の奥が厚くなる。きゅんとしたこの感覚は何だ。

 ハルカゼが目の前にいた。

「ハルカゼ……無事に脱出できたのですか?」

 目の前にいるのはハルカゼだった。でも、少しだけ背丈が伸びたような。
 大人びた感じがする。
 私の知るハルカゼよりも、少しだけかっこいい感じだ。

「危なかったですね。回復がもう少し遅ければニューロチップが修復不可能な状態になっているとことでしたよ」

 他の声が響いた。
 それはハルカゼの隣にいる男性にものだった。

「よかった。間に合った!」

 ハルカゼのうれしそうな声。私もついうれしくなる。

「とりあえずの応急処置です。無理な行動はできなせんからね」

 私の体は以前の人間の身体に機械をつぎはぎしたものだった。
 腰から下はキャタピラになっていた。左腕は二本指のロボットアームになっていた。
 顔と上半身と右腕だけが元のままだった。

「君と別れてからボクは仲間を見つけることができたんだ」

 三年の歳月をかけてハルカゼは五人の人間たちを見つけることができた。

「アンナ、こっちに来てくれ」

 ハルカゼが私の手を引く。
 かつてはアスファルトだったところは今では耕され作物が育っていた。
 生活の基盤ができつつあった。

「ここだよ」

 私は驚く。
 ああ、あの時の約束を彼は覚えていてくれたのだ。
 私の目の前に広がっているのは、一面の花畑。

「君との約束だ」
 
 ハルカゼが嬉しそうに言った。
 心が震える。
 これが、歓喜。
 
「まだまだ他にも生き残りがいるはずだ」

 ハルカゼはこれからも仲間探しの旅を続ける。

「君にも手伝ってほしい」

 ハルカゼが言った。
 私の答えは決まっていた。

「はい。喜んで!」
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