龍王の姫 世紀末の世界で救世の姫と呼ばれ

須賀和弥

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第一章 龍王の姫

宮殿統括長 エアリス・ソアラ

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「おや、王が宮殿にいるとは珍しい」

 鈴の音が如く――凛とした声が廊下に響いた。

 ハボリムとイグニスの視線の先に水色の髪の長身の女性――宮殿統括長エアリス・ソアラがいた。
 宮殿の統括を行い宮殿および結界の管理を行う。

「ここは王の宮殿である。王がいて当たり前だ」

 ハボリムの言葉にエアリスはふんと不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「その結界をことあるごとに壊しているのはどこのどいつだ?」
「いやぁ、すまんすまん。いちいち門をくぐるよりもそのまま外に出た方が早いもんでな!」

 ガハハと笑うイグニスをエアリスは睨みつけた。

「結界はいわば私の芸術品、外出の度に壊されてはこちらもたまったものじゃない」

「う、うむ……気をつけよう」
「気をつけるではなくて止めていただきたい!」

 ずいと顔を近づけてイグニスに言い寄るエアリス。王妃グレイシアにも負けない気迫にイグニスはたじろぐ。

「わ、分かった……」
「今度やったらグレイシアに言いつけるからな!」
「……!!」

 イグニスの表情が目に見えて強張った。グレイシアとエアリスはいわば親友同士。付き合いだけでいえばイグニスよりも長い。なので、付き合いだけでいえばエアリスとの付き合いは一番長いと言えた。

「そ、それだけは勘弁してほしいのだ」
「だったら、正門からちゃんと出ろ! 何も外出するなと言っているわけじゃないんだからな!」

 言いたいことだけ言うと気が済んだのかエアリスは委縮するイグニスを無視してずんずんと進む。

「俺……エアリス苦手……」

 イグニスの呟きに合わせてエアリスが殺意のこもった満面の笑顔で振り返った。
 
「あら、王様。ご要望でしたらあなたのおそばにいつでもはせ参じますわ!」

 それはイグニスにとっての死刑宣告だった。

「それにしても、先ほどは何を揉めていたのかな?」

 興味津々の顔でイグニスとハボリムの二人を見比べた。
 龍族は長命の種族。見た目がいかに若くともその年齢は裕に三桁を超える。故に刺激に飢えているといってよかった。

「件の少年のことについてでございます」

 ハボリムは丁寧に答えた。
 ピクリとエアリスの眉が動く。

「ほほう。あの魔人族の少年のことか……我が結界を抜けてこの宮殿に侵入した手腕、見事としか言いようがない」

 口ではそう言っているが、発見された当初、そのことに一番腹を立てていたのは何を隠そうこの目の前の貴婦人に他ならない。
 不可解な点は多かったが、とりあえずは回復し、話を聞いてみないことには始まらないと静観を決め込んでいたのだ。しかし、少年は目覚めはしたものの記憶はあいまいなままでどうやって宮殿にたどり着いたのか知らない様子だった。

「どうやってここに来たのか、何のためにここにきたのか。そのうち思い出すだろうさ」

 イグニスの答えはそっけない。

「それにしても、アメリアはまだその少年のところに通い詰めているのか?」

 ずいと顔を寄せてエアリスはイグニスに詰め寄る。
 その気迫に押されて悪魔の睨みですら笑顔で受け流すイグニスが一歩下がる。

「あ、ああ……そうだ」
「なんということだ!」

 エアリスは手を顔に当て天を仰ぐ。

「私の姫様との楽しいお茶の時間がまたも削られるということなのか!」
「別にお前のものじゃ……」
「嗚呼! 我が愛しの姫様! その胸に抱かれて私は永遠に眠りたい!」
「いや自重しろ!」

 危険な発言をするエアリスにイグニスがツッコミを入れる。

「まったく無粋だね。お前は……」
「お前にだけは言われたくないな」

 イグニスが苦々しく言い放った。

「答えが分かったときには教えてくれ、絶対にだぞ!」

 それだけ言い残してエアリスは忽然と消える。彼女はただそれだけを言いたいがために現れたのだった。
 
「まったく、面倒なことを……」

 イグニスは小さくため息をつくとハボリムを伴って足を進める。
 龍族はそれぞれに己が種族に誇りを持ち自分こそが一番だと思っていた。なので弱みを見せること、隙を伺わせることを極端に嫌う。
 自分の管理する結界を平気でぶち破るイグニスに腹を立て、あっさりと結界内に侵入した魔人族の子供を警戒していたのだった。
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