龍王の姫 世紀末の世界で救世の姫と呼ばれ

須賀和弥

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第一章 龍王の姫

侵入者

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「こってりとしぼられたのです。おこったかかさまこわいです」
「うむ。アレには……勝てる気がせんのだ」

 がっくりと肩を落として歩く大男と小さな女の子。その後ろをとてとてとついて歩く白い子虎。

「こんなときこそポチがわたしをまもらなきゃいけないのに!」
「そうだぞ。お前だけが頼りだからな!」
「そんなごむたいな……」

 アメリアとイグニスに笑顔で迫られポチはげんなりした様子で息を吐く。
 そう言いながらもポチは嬉しそうに尻尾を振りながらアメリアの後をついていく。生まれてからずっとポチはアメリアと一緒に過ごしている。寝る時も遊ぶ時も学ぶ時も常に一緒だった。これからも――死が二人を分かつまで――二人の関係は続くだろう。いついかなる時もポチはアメリアのそばを離れるつもりはないし、たとえ世界を敵に回したとしてもアメリアを守り続けるつもりだ。アメリアは龍王の娘だ。他の種族と違いその寿命は不老とさえ思えるほどに永い。エルフ族でさえかすんでしまうほどに龍種は長寿だ。白虎は霊獣――その本質は神霊に近い。寿命もほぼないといってよかった。
 死が二人を分かつまで――それは永遠ともいえる二人の絆の誓いの言葉なのだ。

「うむ。お姫様と遊びたいところではあるが……俺も仕事に行かねばならない」

 わざとらしくイグニスがため息をつく。

「ととさま……?」
「こ、これは決してグレイシアが怖いからではないぞ!」
「そうですか、それではかかさまにはそのようにおつたえします」
「待つのだ! 我が愛しの姫よ!」

 巌の大男がアメリアの前に片膝をついた。

「今日のおやつで勘弁していただけないであろうか?」

 イグニスとアメリアの目が合った。
 互いに見つめ合い同時に噴き出す。

「そのねがい。しかとききとどけました!」

 アメリアはイグニスの太い首に抱き着くと力いっぱいぎゅっと抱きしめる。

「おひげがちくちくします」
「ガハハ! これは龍の髭であるからな!姫様の柔肌にはちと痛かろう!」

 アメリアを首に巻いたままイグニスは立ち上がった。やんわりと腰を抱きそのまま歩き出す。

「ととさまどちらにいくのですか?」
「ふむ。もちろん姫様の勉強部屋にである」
「ととさまのいじわる!」

 口ではそう言ってはいるが、アメリアは笑顔だった。少しの間とはいえ父親と会うことができた。日々の公務の中、アメリアが父親であるイグニスに出会える時間は少ない。こうして話ができただけでも僥倖といえた。

「では、参ろうか……!」

 イグニスが歩みを止める。

「ととさま?」

アメリアがイグニスの顔を覗き込む。
 
「王よ」

 廊下の石畳から声が響いた。

「何事だ?」

 わずかに視線を床に向ける。
 影が揺れ透明な液体が人の形を造り出す。
 宮殿の衛兵には様々な種族が存在していた。
 風霊リヴァ。宮殿を守る守護霊兵だ。

「門の方に気配が……どうやら侵入者の様です」
「しんにゅうしゃ?」
「侵入者?」

 リヴァの言葉に二人とも首を傾げる。
 ここは強固な結界に守られている。転移門をくぐれる者は少ない。それ以前に転移門は入口と出口の双方を開放しなければ使用することはできない。ならば考えられる可能性は一つ。

「まだ下界に――あの山を踏破する馬鹿者がいるとはな……」

 あきれたようにイグニス。
 龍族といえど山の厳しさは心得ている。いかに龍族といえど龍の姿でなく人の姿でこの山に挑もうとは思わない。
 霊峰セレスティアルピーク――その侵入者は極寒の気温の中、厳しい山を踏破し正規のルートでここに辿り着いたことになる。それほどの危険を冒してここに訪れるなど正気の沙汰とは思えない。
 狂気か勇猛か――イグニスはその侵入者に興味が湧いた。

「その者は?」
「門前で気を失っております」
「そうか……よし!」

 イグニスは歩き出す。その方向は門に向かっていた。

「ととさま?」

 問いかける愛娘にイグニスはにやりと笑う。

「事は急を要する。姫様には……」
「わたしもいきます!」

 アメリアの言葉にイグニスはじっと彼女の瞳を覗き込む。

「それでこそ我が姫様だ!」

 ガハハと笑いリヴァと共に歩き出した。

「侵入者は医務室にて手当てしております」
「うむ」

 イグニスは一つ頷くとゆっくりと歩きだした。
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