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銀狐の章

第020話「晩御飯はシチュー也」

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 あーちゃん先輩は夕方には帰っていった。

「今日は夕方からもシフトが入っているのよ」

「ふふん。お主のいない間に我様が【きせいじじつ】とやらを作っておくのじゃ」

「はいはい。二人共アホなこと言ってないで、あーちゃん先輩もシェンが本気にするでしょ」

「なっ!モー君のイジワル!」

 あーちゃん先輩は泣き真似しながら帰っていった。

「お主様、ありったけの塩をまくのじゃ!」

 シェンは台所から塩の袋を持ち出して叫ぶ。

「やめろ、もったいないことするな!」

 なんだろろう。この不毛な争い。
 
 ――今日もどっと疲れた。

 オレは妙な疲れを感じつつ家の中に入っていった。

 ◆ ◆ ◆ ◆

 ガチャリ。

 玄関のドアを閉める。
 するとシェンがコアラよろしくオレの身体にしがみついてきた。
 耳も尻尾もしゅんとしてしまっている――いつもの感じではない。
 
「どうした?」

「お主様が……あの女に奪われるかと思った……」

 その小さな肩ははかなげに細かく震えている。
  
「我様のモノを……ぬけぬけと盗もうとしおって!あの女狐が!」

 お前も女狐だろ。
 その前にオレはお前の所有物じゃない。

「かくなる上は【きせいじじつ】とやらで先手を打たねば……」

 既成事実を予防接種みたいに言うんじゃねぇ。

「ぬおおおおおお!」

 やたら気合を入れているシェン。
 なんだかこのままにしておくと銀色から金色にレベルアップしてしまいそうだ。

「シェン。そろそろ晩飯にしよう」

「コン!」

 シェンは急におとなしくなった。

「今夜はなんじゃ、【かっぷらーめん】か!」

 んなわけないだろ。毎日食ったら体壊すわ!

「じゃあ、おにぎりか!」

 それは今日の昼めしだ。オレ特製の【ばくだんおにぎり】を彼女は気に入ってくれたらしい。

「おにぎりはいいのう。世界のすべてが詰まっておるのじゃ!」

 おにぎりへの信頼度がスゲエ。
 よし、これからはお昼はおにぎりにしよう。

「こんやの晩御飯はシチューだ」

「おお!【しちゅー】とな!」

 彼女の頭の中でどんなものが想像されているのか分からないが、食べさせてびっくりさせてやろう。

 □■□■□■□■用語解説□■□■□■□■

【銀色から金色にレベルアップ】
 激しい修行の末、激しい怒りと共に目覚める伝説の戦士。
 特徴として光のようなオーラを発し髪の色が金色になる。
 ステータス効果として、力が3、魔力が2、知力が1上がる。

【ばくだんおにぎり】
 全国各地に存在する伝説のおにぎり。球形で大型のおにぎりを意味する俗称。バクダンむすびなどとも呼ばれる。一般的には、中にたっぷりと具材を入れ、全体を海苔で包んだものを指す。これ一個でお腹いっぱいなのじゃ!
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