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第一章「勇者=男 私=女」

第005話「始まりの町にて ①」

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「とりあえずは経験値をためてレベルアップしないとな」

 スーファに連れられて郊外へとやってきた。街は城壁に囲まれているが、それ以外は管理されていない。周辺の小さな村などは自衛のために冒険者を雇ったり自警団を組織したりとそれぞれに工夫している。
 なので、近郊で魔物狩りをすることは冒険者にとっても、また周辺の町や村にとって有益なことだった。
 スーファと説明を受けながら私は森の中に入っていった。
 今――茂みの向こうに一匹のゴブリンがいる。
 醜悪な容姿。どう贔屓目に見てもオトモダチになれそうな雰囲気ではなかった。

「ええっと……私は何をすれば?」

「ん? ゴブリン狩り」

「はい?」

「ゴブリンを倒して、体の一部――例えばその耳を採取して冒険者ギルドに持っていく。すると、ギルドからその数に合わせて報酬が支払われる。って感じかな」

 いや、流れのことを聞いているんじゃなくって。
 私が納得していない顔をしているとスーファが言葉を続けた。

「最初の村では宿屋とフィールドを往復しながらコツコツと経験を積んでいきます。これ、冒険の基本です」

 えっ? 何言ってるのこの人。JKにいきなりゴブリン狩りをしろとおっしゃいますか?
 冒険者ギルドで登録をした後、私たちは防具屋に行って装備を一式買うことになった。
 ちなみに私の装備は以下の通り。

 ――――――――――

 頭 皮の帽子
 体 皮の鎧
 腕 皮のグローブ
 足 皮の靴
 盾 木の盾
 
 ――――――――――

 なんで皮の防具なんだろう?
 そう質問すると。

「初期装備はそんなものだよ」

 と謎の答えが返ってきた。まあ、金属製の装備を付けても動ける気はしないけど。

「駆け出しの冒険者の相手はゴブリンかスライムが常識だよ。まあ、ちゃっちゃと倒しちゃって」

 スーファはひらひらと手を振りながら私に剣を持たせてくれた。
 剣の柄をを握るとずっしりとした金属の重みが手に伝わってきた。
 この身体、筋力はそこそこあるみたいだけど剣を振るにはまだまだって感じだ。

「あの……この剣すごく重いんですけど」

「そうなんだよね、実際の剣ってかなり重いんだよね」

 スーファは何言ってんの? みたいな顔をしている。

「うーん、やっぱり剣は無理なのか……」

 棒状のものなんて掃除の時のほうき以外では握ったことがない。

「じゃあ、これにする?」

 そういって渡されたのはナイフだった。

「ショートソード、初心者冒険者はだいたいこれが初期装備だよね」

 先ほどの剣よりは軽い。しかし、ナイフでゴブリンに襲い掛かる自分の姿を想像することができなかった。

「……ええっと、やっぱりやるんですか?」

 私は涙目になりながら質問する。

「何言ってるの? ゴブリンぐらい倒せないと魔王なんて倒せないよ」

「魔王がいるんですか!」

「当然!」

 スーファの返事は淀みない。

「魔人族の長だよ。それぐらい倒せるようにならないと」

 こいつは私をどこに向かわせようとしているのだろうか。

「元の世界に戻るためなんだから、ここは頑張ろう!」

「ちなみに、スーファはゴブリン倒せるの?」

「モチのロン!」

 言っている意味はよくわからないけど、とにかくすごい自信である。

「では手本を!」

「えっ!?」

 スーファは明らかに動揺した。怪しい――これは絶対に怪しい。

「スーファがゴブリンを倒してくれたら、私も頑張るから!」

 まるで好き嫌いの子供みたいなことを言ってしまった。
 でも、こうでもしないと一歩踏み出す勇気が出ない。
 というか、ゴブリンを倒すなんて無理!

「う~ん。オレのはあんまり参考にならないんだけどな……」

 スーファはそう言ってしぶしぶ立ち上がる。

「では、見せてあげよう! オレの勇姿を!」

 ◆ ◆ ◆ ◆ 

【宿屋とフィールドを往復】
 RPGにおいて基本中の基本。スタートの町を足掛かりに敵を倒しお金や経験とを稼ぐ。ちなみに日本でモンスターを倒すとお金やアイテムが手に入る――はDQやFFなどが最初……ではないだろうか。
 実際、「モンスターを倒す=お金が手に入る」の流れは、作中の通りではないかと思われる。

【駆け出しの冒険者の相手はゴブリンかスライム】
 DQではスライムが、FFではゴブリンが最弱モンスターとして登場している。個人的な見解だがゴブリンにしろスライムにしろ、現実世界で出会ったとしたらどちらもそれなりに強いんじゃないの?……と思うのは気のせいか。

【皮装備】
 RPGの初期装備と言えばドラゴンクエストであれば「ひのきの棒」だろうか。皮鎧――レザーアーマーは軽くて丈夫だが、防御力で言えば最低ランク。 

【モチのロン】
 「もちろんであります」の意。すでに死語。これを言う人は確実に昭和。

【言っている意味はよくわからないけど】
 1979年、ゆでたまごによる日本の漫画作品「キン肉マン」の中でのセリフ。正しくは「言葉の意味はよく分からないが、とにかくすごい自身だ」キン肉マンの「へのつっぱりはいらんですよ」に対する返答常套句。

【実際の剣ってかなり重い】
 西洋の剣は「斬る」ではなく「叩き潰す」をメインとしている。日本刀のような「切れ味」ではなくあくまでも「打撃」による攻撃力がメイン。なので、ゲームのように素早く振り回すとか――無理!

【ショートソードは初期装備】
 武器や防具などは「装備」しないと意味がない。過去の話であるが、ファミコンのドラゴンクエスト(たしか3)において、装備をしないまま中盤ぐらいまで進めていたことがあった。「このEってなんだろう(※装備しているアイテムにはアイテム名の前にEの文字が入る)」といった感じだったのだ。友人に教えられ「鉄の爪」を装備して戦った時の無双感は今でも記憶に残っている。

【魔王】
 RPGのラストボス、習性としてよく世界を征服したがる。ザコ → 中ボス → ラストボスと徐々に強さのレベルが上がっていく。どうして世界を征服したいのか? という疑問は愚問である。

【見せてあげよう】
 わざわざこのセリフを吐いて何かをした人間はスタジオジブリ初制作作品「天空の城ラピュタ」(1986年)の悪役ムスカの「見せてあげよう、ラピュタの雷を!」ぐらいのものか? 悪役なのに主人公以上に名言が多い。「人がゴミのようだ」は超有名。
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