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第四章「カルネアデス編」

 第228.5話 050「if-story 美琴 ②」

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 シャワーの音が遠くから聞こえる。
 オレがシャワーを浴び終わると入れ替わるように美琴がシャワーを浴びた。
 オレは何も言わない。
 美琴も何も言わない。
 二人とも無言のまま――やけに熱っぽい視線だけ交わして――美琴がサワーを浴びている間、オレは居間でソファに座ってテレビを観る。
 番組の内容なんて全く頭に入ってこなかった。
 何を観ても頭に入ってこないし、目にも映っていない。

 ただ、心臓の鼓動だけがやけに大きく聞こえていた。

 カチャリ。

 ドアが開く。濡れた髪を拭きながら美琴が姿を現した。
 Tシャツに短パンというラフな格好だ。
 しかし、その恰好が余計に煽情的な雰囲気を醸し出している。
 彼女はゆっくりとした動作で明かりを消すとオレの隣に腰を下ろす。
 ぴったりと身を寄せてきた。
 ふわりと石鹸とシャンプーの香り。
 それだけで、オレは口内がカラカラになっているのを感じる。
 美琴の手がオレの手に触れる。
 それだけで心臓の鼓動が高鳴る。
 
 ――やばい。何も考えられない。

 心臓は高鳴ったまま、呼吸は浅く早い。

「ねえ、望……」

 美琴の声がどこか遠くで聞こえた気がした。

「……ねえ」

「は、はい」

 ギギギと首を美琴へと向ける。美琴の顔がすぐ目の前にあった。
 いつもなら軽口をたたいてくる美琴が今はやけに静かだ。
 彼女の目はじっとオレを見つめている。
 彼女の顔は上気し瞳も心なしか潤んでいるように見える。

「ア、アタシのことどう思っているの?」

 どストレートの質問が来た。

「どどどどど、どうって?」

 我ながら挙動不審だ。
 落ち着けオレ。
 そう、彼女は友達だ。
 何を遠慮することがある。
 しばらく沈黙が続いた。
 
「もう。好きかだどうか聞いてるのよ!」

 ちょっと拗ねたように美琴。
 
 ――か、可愛い。

 学校でいつも見慣れている彼女と今の彼女はまるで別人だった。濡れた髪、石鹸の香り――それだけでオレの心臓が高鳴る。
 心臓は爆発寸前。
 ぐるぐると様々なことが頭の中をめぐるが、その中で一つだけ辞すかな部分があった。
 オレの芯なる部分。そこだけは冷静に美琴のことを考えていた。
 ああ、とオレは気づく。
 
 ――オレはこいつのことが好きなんだ。

 そのことが、すんなりとオレの中に入ってくる。

「ねえ。アタシの事好き?」
 
 美琴がオレの手を握った。
 オレは美琴を見つめる。
 オレは美琴の手を握り返した。

「す、好きだ」

 情けないほどにオレの声は上ずっていた。
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