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第四章「カルネアデス編」
第206話「沈黙 ④」
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「この世界がおかしいのは薄々気づいていた」
静かな声でシスティーナが語りだす。
「記憶の食い違い……というのか、今のこの世界に違和感を感じているのだ。もっとも……」
システィーナはアメリアを見つめる。
「アメリアはそれを強く感じていたみたいだ」
「そうなのか?」
「ええ、でもまだはっきりとした感じではないんですけど」
症状から言えば、アープルやアンナと同じだ。今でも思うが、アープルが多重人格でなければオレたちは完全に詰んでいた。
アメリアはそれだけ言うとオレの方へと向き直る。
「私はこれからこの子をジンモンします」
「――それなら、私にやらせてもらえないだろうか」
システィーナが挙手する。
「大丈夫。すぐに終わりますから」
アメリアがオレを立たせた。
「ノゾミ様!」
アンナが立ち上がろうとするが、システィーナが立ちはだかり阻止された。
「大丈夫」
オレは明るく振る舞う。まあ、いきなり殺されるようなことはないだろう。
それに――
「アンナ。いざとなったらタニアと一緒にミーシャとシスティーナを守ってくれ」
言葉の意味を理解してかアンナが小さく頷いた。
「何を言っている? この状況が理解できないのか?」
システィーナがいぶかしげな顔をするが、今はそれでいい。一番の解決策は全員が和解してこの世界を穏便に脱出することだ。
その気になれば銃など何の障害にもならない。
「さあ、行きますよ」
アメリアに促されオレは外に出た。
◆ ◆ ◆ ◆
オレが連れてこられたのは体育館倉庫だった。
きちんと整理された倉庫内。倉庫特有のにおい。
バレーボール用のネットや折りたたまれた卓球台、体操マットがおかれている。
「いったいどういうつもりだ?」
尋問するなら、こんな所まで来る必要はない。極端な話、みんなの前で銃を突き付けて尋問すればいいだけの話だ。それをしないということは、何か理由があるのか、それとも――
ドン。
背中に衝撃が走った。痛みはない。むしろ柔らかい。
はらりとオレを拘束していた縄がほどかれた。
「ノゾミ君!」
背中から涙声が響いた。
細くて小さな手が身体に回される。ぎゅと力がこめられる。
「よぉ、アメリア先生。元気だったか?」
「うん。私は元気だよ」
アメリアは抱きついたまま離れようとしない。感覚をかみしめているようだった。
「いつから記憶が?」
「う~ん。この学校に入ってくるタニアを見た時くらいかな」
じゃあオレ達のことは出会った最初の頃から知っていたということなのか。
そのことを聞くとアメリアは困った顔になった。
彼女の危惧していることはもちろんシスティーナのことだ。
記憶が戻るまで、アメリア自身もオレたちのことを「世界の異変の元凶」と認識していたらしい。それでも態度が横暴でなかったのは元々の性格があったからだろう。彼女は腐ってもお嬢様なのである。
「数日前、タニアがスーパーで見かけたみたいだが」
「その頃は、海外からこの国に観光でやってきた――そんな感じに思っていたんだと思う」
マザーに都合のいい記憶を植え付けられこの世界に転移させられたのか。
「分かった。じゃあこちらで把握している情報を教えておく」
「うん」
オレはとりあえず体操マットの上に座る。
アメリアは何のためらいもなくオレの腕の中に入り込んでくる。ちょうどお姫様抱っこをして座った感じだった。
「あのー、アメリア先生」
「アメリア!」
頬を膨らませて抗議してくる。うーん。かわいい。
全く変わっていない。
いつものアメリアにオレは安堵する。
さて、どこから説明したものか……
静かな声でシスティーナが語りだす。
「記憶の食い違い……というのか、今のこの世界に違和感を感じているのだ。もっとも……」
システィーナはアメリアを見つめる。
「アメリアはそれを強く感じていたみたいだ」
「そうなのか?」
「ええ、でもまだはっきりとした感じではないんですけど」
症状から言えば、アープルやアンナと同じだ。今でも思うが、アープルが多重人格でなければオレたちは完全に詰んでいた。
アメリアはそれだけ言うとオレの方へと向き直る。
「私はこれからこの子をジンモンします」
「――それなら、私にやらせてもらえないだろうか」
システィーナが挙手する。
「大丈夫。すぐに終わりますから」
アメリアがオレを立たせた。
「ノゾミ様!」
アンナが立ち上がろうとするが、システィーナが立ちはだかり阻止された。
「大丈夫」
オレは明るく振る舞う。まあ、いきなり殺されるようなことはないだろう。
それに――
「アンナ。いざとなったらタニアと一緒にミーシャとシスティーナを守ってくれ」
言葉の意味を理解してかアンナが小さく頷いた。
「何を言っている? この状況が理解できないのか?」
システィーナがいぶかしげな顔をするが、今はそれでいい。一番の解決策は全員が和解してこの世界を穏便に脱出することだ。
その気になれば銃など何の障害にもならない。
「さあ、行きますよ」
アメリアに促されオレは外に出た。
◆ ◆ ◆ ◆
オレが連れてこられたのは体育館倉庫だった。
きちんと整理された倉庫内。倉庫特有のにおい。
バレーボール用のネットや折りたたまれた卓球台、体操マットがおかれている。
「いったいどういうつもりだ?」
尋問するなら、こんな所まで来る必要はない。極端な話、みんなの前で銃を突き付けて尋問すればいいだけの話だ。それをしないということは、何か理由があるのか、それとも――
ドン。
背中に衝撃が走った。痛みはない。むしろ柔らかい。
はらりとオレを拘束していた縄がほどかれた。
「ノゾミ君!」
背中から涙声が響いた。
細くて小さな手が身体に回される。ぎゅと力がこめられる。
「よぉ、アメリア先生。元気だったか?」
「うん。私は元気だよ」
アメリアは抱きついたまま離れようとしない。感覚をかみしめているようだった。
「いつから記憶が?」
「う~ん。この学校に入ってくるタニアを見た時くらいかな」
じゃあオレ達のことは出会った最初の頃から知っていたということなのか。
そのことを聞くとアメリアは困った顔になった。
彼女の危惧していることはもちろんシスティーナのことだ。
記憶が戻るまで、アメリア自身もオレたちのことを「世界の異変の元凶」と認識していたらしい。それでも態度が横暴でなかったのは元々の性格があったからだろう。彼女は腐ってもお嬢様なのである。
「数日前、タニアがスーパーで見かけたみたいだが」
「その頃は、海外からこの国に観光でやってきた――そんな感じに思っていたんだと思う」
マザーに都合のいい記憶を植え付けられこの世界に転移させられたのか。
「分かった。じゃあこちらで把握している情報を教えておく」
「うん」
オレはとりあえず体操マットの上に座る。
アメリアは何のためらいもなくオレの腕の中に入り込んでくる。ちょうどお姫様抱っこをして座った感じだった。
「あのー、アメリア先生」
「アメリア!」
頬を膨らませて抗議してくる。うーん。かわいい。
全く変わっていない。
いつものアメリアにオレは安堵する。
さて、どこから説明したものか……
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