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第四章「カルネアデス編」

第174話「十六夜美琴 ①」

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 どうして美琴がここにいる?
 オレは平静を装いながら考える。
 確かこの席には認識阻害と遮音の魔法をかけているはずだ。
 魔法をかけたアープルを見ると彼女自身も驚いているようだった。

「どうしたの? そんなにびっくりすること?」

 ずいと美琴が顔を寄せてきた。

「ねぇ望、ちょっと教えて欲しいんだけど」

 真剣な表情でオレに顔を近づけてくる。
 整った顔が間近に迫りどぎまぎとしてしまった。

「な、なんだよ……」

「あの……本命の子とか……いたりするの?」

「…………はい?」

 しばらく意味を理解できなかった。

「いや……言いたくなかったら別にいいんだけど……友人として……その……気になるじゃない」

 何故か顔を赤らめかなり言いにくそうだった。

「どの子が好きなの?」

「…………はい?」

 我ながら間の抜けた声だったと思う。もじもじしながら恥じらい問いかける乙女=美琴という図式がオレの中でどうしても成り立たない。

「お兄ちゃんが好きなのは私ですよ!」

 マヤが勢いよく手を上げた。

「いくらマヤちゃんでも、それは譲れません。お兄さんは私のものです」

 アープルも負けじと手を上げる。アンナとミーシャはちょっとびっくりしたように二人を眺めていた。

「望……犯罪に走らないように」

 何故か美琴に憐れんだ目で見られてしまった。
 いや、ちょっと待て。それは誤解……ではないがオレに弁明の機会を与えてはくれないだろうか。
 時間さえあればオレは無実を証明でき……ないな。
 あきらめよう。

「まあ、冗談はさておき――いったいどういう風の吹き回しですか?」

 マヤの口調はそっけない。

「ふ~ん。言うようになったじゃない。たかがサポートAIの分際で!」

「おい……」

 すんと表情の消えた仮面のような美琴の顔。
 それはオレの知る美琴ではなかった。

「お前は誰だ?」

「私は美琴だよ」

 いつもの笑顔でオレに笑いかける。
 違う。これは美琴じゃない。少なくとも美琴は人を傷つけるようなあんな言い方はしない。

「もう一度言う。お前は誰だ?」

「どれだけ言っても信じてもらえないんだね」

 美琴はわざとらしくため息をつくとオレの横にちょこんと座る。
 妙に身体を密着してきていると感じているのは気のせいだろう。

「私がどれだけ望の為に頑張ってきたか……」

 何を言っているんだ。それはこの世界での学校生活のことを言っているのか?
 そうならば、確かに美琴にはそれなりにお世話になっていた。
 宿題を見せてもらったりとか、アイスおごってもらったりとか……

「まあ、色々とお世話にはなっているよな」

「そういう事じゃない」

 美琴はちょっと不機嫌に言った。

「私が言っているのは、あっちの世界でのことよ!」

「あっち?」

 いやまて、そんな馬鹿な。そんなはずはない。
 オレを助けてくれた存在。曲がりなりにも助言を与えてくれ、戦闘や能力獲得に大きく貢献してくれた存在。

「お前が……マザーなのか?」

(報告。正解です)

 頭の中に声が響いた。

「お兄ちゃん」

 マヤが囁くような声で言う。

「十六夜美琴はカルネアデスを管理するシステム【マザー】そのものです」
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