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第一章「いきなり冒険者」
第48.5話 009「ゲルガと白竜族 ④」
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――ゲルガ!
遠くから声が聞こえる。
懐かしい兄の声だ。
――ゲルガ!
今度は父親の声だった。
懐かしい……かつてのような威厳のある声。オレは父や兄のような立派な白竜族の戦士になりたかったのだ――白竜族の巫女を守る戦士として――
「目を覚まして! ゲルガ!」
今度ははっきりと聞き取ることができた。
それは鋭い鋭利な針となってゲルガの耳に突き刺さる。
それは守るべき巫女。自らが敬愛する白竜族の巫女の声。
「アンナ様!」
巫女の声に応えなければならない。
たとえ死の淵にいようとも目を覚まさなければならない。
「いい加減目を覚ましやがれ!」
人間の声が聞こえた。アンナ様と共にいた人間の声だ。
「お前に言われる筋合いなどない!」
ゲルガは目を開ける。
――すると、そこには目の前を悠々と飛ぶ鳥の姿が目に入ってきた。
◆ ◆ ◆ ◆
くそ……こいつ重い!
手にかかる重圧。片方の手は岩の壁面に、もう片方の手はぐったりとしたゲルガの腕にかかっている。どちらも竜人化した腕だが、オレの力ではいつまでこの状態を維持できるか分からない。
だいたい、身体は元のままなのだ。耐久力で言えばそれほど強いとは思えなかった。もとをただせばこいつの暴走が原因だ。
オレの攻撃を受けて一度は膝をついたガルガだったが、その後、意識を失い暴走。挙句――光で壁を突き破りそのまま外に飛び出したというわけだ。
迷惑極まりない。わがままな子供か!
慌ててオレも飛び出し意識を失って落下していくゲルガの身体をギリギリのところで掴んだというわけだ。
意識を失ってもゲルガの竜人化は解けることがなかった。
竜人化すると身体が大きくなり当然のことながら体重も増える。物理法則はいったいどうなっているんだと叫びたくなるがそもそも魔法世界において物理法則がどこまで適用されるかもよく分からない。
「ノゾミ様、大丈夫ですか!」
「な、なんとか……」
強がってみたがどこまでもつのか。
「お兄ちゃんちょっと待っててね」
マヤがロープを垂らす。村の男たちもロープを伝い降りてきた。
さすがにオレの力だけでは持ち上げることは難しい。
早くしてくれないとオレの腕がもげるか、岩が崩れるかするだろう。
「冒険者よ。何故……オレを助ケるのだ?」
ゲルガが問いかける。
「知らん。理由なんかない」
オレは素直に答えた。
「気が付いたら自然に身体が動いていた……それだけだ」
「……ソウか」
ゲルガはそれだけ言うと黙り込んだ。
様々な思いが心の中で渦巻いているのだろう。
「人間の冒険者よ……名は?」
「ノ、ノゾミだ……」
そう答えるのがやっとだった。そろそろ腕が……というか掴んでいる岩がなんかメキメキと変な音を立ててるんですけど。
下を見れば絶壁。うまく掴まることができれば何とかなりそうだが、二人で落ちると望み薄だろう。
「そうカ、恩にきる!」
ゲルガの言葉よりも早く、二人を支えていた岩が崩れた。
「ノゾミ様!」
「お兄ちゃん!」
「ゲルガ!」
アンナとマヤ、老婆の声が交錯する。
――ここまでか!
◆ ◆ ◆ ◆
「ゲルガ!」
アンナ様の声が聞こえる。
ああ、オレは……なんてことをしてしまったのだ。
巫女様を守ってきた人間に対し、牙をむくなどと。
なんと恐れ多いことを。
オレは守りたかったのだ。
アンナ様を、白竜族のみんなを。
力が欲しい。
何者にも負けない強い力を。
何者をも守り抜く強い力を。
オレの手を握る人間の手。唯一オレを助けようとしてくれた人間。
――このままでいいのか?
アンナ様を傷つけ、人間を傷つけ。それが誉れ高き戦士だというのか。
――このままでいいのか?
いいはずがない。これでは兄者に顔向けできない。
死んでいった者たちになんと言い訳すればいいのだろうか。
――このままでいいのか?
わかっている。
――力が欲しいか・
ああ、欲しい。
力が欲しい。
――だが、今本当に欲しいのは――
この人間を救うための――翼だ!
◆ ◆ ◆ ◆
――さすがにこの高さはヤバい。
掴んでいた岩は崩れ、ぐんぐん加速しながら地表へと向かっている。
オレはともかく、ゲルガを何とかして救わないと。
いけ好かない奴だが、アンナを守りたいというその気持ちには共感できた。
そんなやつを死なせるわけにはいかない。
――くぞ!
竜人化にはまだ慣れていない。翼を出して果たして飛ぶことができるだろうか。
一か八かだがやるしかない。
地面の激突を覚悟したオレだったが、不意にふわりとした浮遊感がオレを包み込んだ。
――と、飛んでる?
「ノゾミ殿、我が名はゲルガ。あなたの危機には必ず馳せ参じましょう!」
声がかけられる。
ゲルガは己の翼を使って飛翔していた。
竜人化!
飛べるのかよ。
心配して損したじゃねーか!
「まだ、竜人化に慣れておりませんのでいささか不自由をおかけしております」
そうだよね。竜人化して暴走してだもんね。
「わかったよゲルガ。それじゃ、みんなのところまで運んでくれ」
「御意!」
オレをお姫様抱っこしたゲルガはふわりと上昇していく。
「ノゾミ様! ゲルガ!」
アンナの嬉しそうな声がオレたちの耳に飛び込んできた。
遠くから声が聞こえる。
懐かしい兄の声だ。
――ゲルガ!
今度は父親の声だった。
懐かしい……かつてのような威厳のある声。オレは父や兄のような立派な白竜族の戦士になりたかったのだ――白竜族の巫女を守る戦士として――
「目を覚まして! ゲルガ!」
今度ははっきりと聞き取ることができた。
それは鋭い鋭利な針となってゲルガの耳に突き刺さる。
それは守るべき巫女。自らが敬愛する白竜族の巫女の声。
「アンナ様!」
巫女の声に応えなければならない。
たとえ死の淵にいようとも目を覚まさなければならない。
「いい加減目を覚ましやがれ!」
人間の声が聞こえた。アンナ様と共にいた人間の声だ。
「お前に言われる筋合いなどない!」
ゲルガは目を開ける。
――すると、そこには目の前を悠々と飛ぶ鳥の姿が目に入ってきた。
◆ ◆ ◆ ◆
くそ……こいつ重い!
手にかかる重圧。片方の手は岩の壁面に、もう片方の手はぐったりとしたゲルガの腕にかかっている。どちらも竜人化した腕だが、オレの力ではいつまでこの状態を維持できるか分からない。
だいたい、身体は元のままなのだ。耐久力で言えばそれほど強いとは思えなかった。もとをただせばこいつの暴走が原因だ。
オレの攻撃を受けて一度は膝をついたガルガだったが、その後、意識を失い暴走。挙句――光で壁を突き破りそのまま外に飛び出したというわけだ。
迷惑極まりない。わがままな子供か!
慌ててオレも飛び出し意識を失って落下していくゲルガの身体をギリギリのところで掴んだというわけだ。
意識を失ってもゲルガの竜人化は解けることがなかった。
竜人化すると身体が大きくなり当然のことながら体重も増える。物理法則はいったいどうなっているんだと叫びたくなるがそもそも魔法世界において物理法則がどこまで適用されるかもよく分からない。
「ノゾミ様、大丈夫ですか!」
「な、なんとか……」
強がってみたがどこまでもつのか。
「お兄ちゃんちょっと待っててね」
マヤがロープを垂らす。村の男たちもロープを伝い降りてきた。
さすがにオレの力だけでは持ち上げることは難しい。
早くしてくれないとオレの腕がもげるか、岩が崩れるかするだろう。
「冒険者よ。何故……オレを助ケるのだ?」
ゲルガが問いかける。
「知らん。理由なんかない」
オレは素直に答えた。
「気が付いたら自然に身体が動いていた……それだけだ」
「……ソウか」
ゲルガはそれだけ言うと黙り込んだ。
様々な思いが心の中で渦巻いているのだろう。
「人間の冒険者よ……名は?」
「ノ、ノゾミだ……」
そう答えるのがやっとだった。そろそろ腕が……というか掴んでいる岩がなんかメキメキと変な音を立ててるんですけど。
下を見れば絶壁。うまく掴まることができれば何とかなりそうだが、二人で落ちると望み薄だろう。
「そうカ、恩にきる!」
ゲルガの言葉よりも早く、二人を支えていた岩が崩れた。
「ノゾミ様!」
「お兄ちゃん!」
「ゲルガ!」
アンナとマヤ、老婆の声が交錯する。
――ここまでか!
◆ ◆ ◆ ◆
「ゲルガ!」
アンナ様の声が聞こえる。
ああ、オレは……なんてことをしてしまったのだ。
巫女様を守ってきた人間に対し、牙をむくなどと。
なんと恐れ多いことを。
オレは守りたかったのだ。
アンナ様を、白竜族のみんなを。
力が欲しい。
何者にも負けない強い力を。
何者をも守り抜く強い力を。
オレの手を握る人間の手。唯一オレを助けようとしてくれた人間。
――このままでいいのか?
アンナ様を傷つけ、人間を傷つけ。それが誉れ高き戦士だというのか。
――このままでいいのか?
いいはずがない。これでは兄者に顔向けできない。
死んでいった者たちになんと言い訳すればいいのだろうか。
――このままでいいのか?
わかっている。
――力が欲しいか・
ああ、欲しい。
力が欲しい。
――だが、今本当に欲しいのは――
この人間を救うための――翼だ!
◆ ◆ ◆ ◆
――さすがにこの高さはヤバい。
掴んでいた岩は崩れ、ぐんぐん加速しながら地表へと向かっている。
オレはともかく、ゲルガを何とかして救わないと。
いけ好かない奴だが、アンナを守りたいというその気持ちには共感できた。
そんなやつを死なせるわけにはいかない。
――くぞ!
竜人化にはまだ慣れていない。翼を出して果たして飛ぶことができるだろうか。
一か八かだがやるしかない。
地面の激突を覚悟したオレだったが、不意にふわりとした浮遊感がオレを包み込んだ。
――と、飛んでる?
「ノゾミ殿、我が名はゲルガ。あなたの危機には必ず馳せ参じましょう!」
声がかけられる。
ゲルガは己の翼を使って飛翔していた。
竜人化!
飛べるのかよ。
心配して損したじゃねーか!
「まだ、竜人化に慣れておりませんのでいささか不自由をおかけしております」
そうだよね。竜人化して暴走してだもんね。
「わかったよゲルガ。それじゃ、みんなのところまで運んでくれ」
「御意!」
オレをお姫様抱っこしたゲルガはふわりと上昇していく。
「ノゾミ様! ゲルガ!」
アンナの嬉しそうな声がオレたちの耳に飛び込んできた。
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