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第一章「いきなり冒険者」

 第48.5話 006「ゲルガと白竜族 ①」

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 ゲルガの体躯が膨らむ。

「グガガガ……人間如きがぁ!!」

 断片的に漏れるゲルガの声はもはや人間の時のものではなかった。

「竜人族は竜神の末裔……しかし、今やその力も薄れかつての栄光は見る影もない」

 自嘲気味に笑う老婆。その顔には今まで背負ってきた苦渋が見て取れた。

「死ねぇ!!」

 繰り出されるゲルガの拳はしかし、威力だけでまったく脅威には感じられなかった。拳は岩壁にぶち当たり壁を破壊する。岩をも砕く竜の拳――だが、当たらなければ意味がない。

「があああああ!」

 狂ったように暴れ出すゲルガ。オレは余裕を見て躱していく。

「お前にアンナは守れない」

「そんな……そんナことはない!」

 血走った目で、オレとアンナを見比べる。

「アンナ……愛しいアンナ……おレのあんな……」

 よろよろと力なく足を進める。

「力に溺れ……我を見失うとは……」

「うルさい! おマエにナニがワかる!」

 ゲルガの殺意が老婆に向けられた。

「大婆様!」

 老婆に向かう拳から彼女を守るようにアンナが身を盾にする。

 ガシッ!

 がルガのかぎ爪をオレの黒いかぎ爪が防ぐ。

「お前にアンナは守れない」

「な、なにを……!」

 オレの放った蹴りで、ゲルガは壁まで吹き飛ばされた。

「おのれ……」

 ゲルガは立ち上がるがすぐに膝をついてしまう。

「オレには果たさなければならない使命があるのだ!」

 ゲルガは咆哮した。
 身体中から力が湧き出し吹き上がる。

「まずい! 暴走じゃ!?」

 大婆の悲鳴に似た声が響いた。
 ゲルガは光を放つ。光はやすやすと壁を突き破り大穴をあけた。

「オレは……最強の戦士なのだぁ!!!」

 外に身を躍らせる。

「ゲルガ――!」 

 アンナの悲鳴が空にこだました。
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