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第三章「魔法学園の劣等生 魔法技術大会編」

 第142.5話 003「暴走 ③」

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 兎人族の少女が鉄の板の前に立つ。小柄な彼女が前に立つと鉄の板はまさしく巨大な壁だった。
 少女の元へ白い髪の少女が駆け寄っていく。

「あれは……白竜族の巫女! しばらく行方不明と聞いていたが」

 ドメイス学園長が驚いた声を上げ立ち上がる。

「ああアンナの事か……しばらくこちらで預かっていた」

 バージル卿が事もなげに言う。

「何だと……貴様が匿っていたのか」

「黒竜族が何やら怪しい動きをしていたんでな……オレが保護していたが何か問題でもあるか?」

 ニヤリとバージル卿が挑戦的な笑みを浮かべた。

「いや……何でもない。お前の保護下なら問題ない」

 ドメイス学園長は少し安堵したように座り直した。

「……今はオレの息子と誓約を結んで、屋敷を出ちまっているがな」

「なんだと! お前の息子……ということは!」

 ドメイス学園長の呟きにサラクニークルスは「ああ」と手を打った。

「あのノゾミとかいう男は……アメリアのみならず白竜族の巫女にも手を出したということか!」

「なん……だと!?」

 ギリギリと歯ぎしりし憎々しげに画面に映るアンナを睨みつけた。

「人間と誓約するとは……竜人族の誇りを捨てたか白竜族の巫女!」

「そうとも限らんぞ」

 ドメイス学園長の言葉にサラクニークルスは首を振る。

「まあ、見てみようではないか……あの兎人族の娘の魔法を見てからでも判断は遅くないぞ」

 ミーシャはアンナから杖を受け取った。
 二本の杖を受け取る兎人族を見、ドメイス学園長は目を丸くする。

「まさか……合成魔法を使うつもりか」

「バカな……不可能だ」

「杖を二本にしたからといって魔法が使えるようになるなら苦労しない」

 周囲の魔法使いも意見を述べる。
 全員の見守る中で、ミーシャは呪文の詠唱に入った。
 右手側の杖を振るが何も起こらない。

「不発か?」

 誰かの呟きにアメリアはいいえと首を横に振った。その証拠に彼女の右後ろに五つの魔法陣が浮かぶ。
 魔法は詠唱終了後。即時発動が原則だ。それが起こらないということはあり得なかった。
 続い彼女の左側に五つの魔法陣が現れた。

「まさか……あれは……」

 全員の見守る中、ミーシャは杖をクロスさせて魔法を発動させる。
 炎と雷の合成魔法――ファイアーボルト。
 その威力は凄まじく、魔法はあっさりと鉄の板を貫通した。

「なんと……合成魔法を使える者がまた一人!」

「しかも、何だあれは……二つの魔法を別々に詠唱し……合瀬魔法として放つなどあり得ん」

「アメリアはあの魔法の正体を知っているのか?」

 アメリアはその問いに対して首を縦に振る。

「あれは遅延魔法を応用した合成魔法よ」

「遅延魔法だと……」

 魔法使いと研究者たちはアメリアの言葉に目を丸くする。ならばミーシャは遅延魔法の後に風魔法と火魔法を行使したことになる。遅延魔法は光魔法の初期魔法に属しているが、覚える者もほとんどいない廃れた魔法というイメージが定着していた。いかに早く魔法を発動させるか――時間短縮に全てをかけてきた魔法の研究者達にとって革命ともいえる出来事であった。

「まさか……このような手段で幻とされる合成魔法を実現させるとは……」

 かつて、合成魔法の例がなかった訳ではない。双子であったり双人族であったり、長年の修行の末――合成魔法に成功した例はあった。しかし、それはあくまでも一例であり、魔法使いであれば誰でもというわけではない。
 しかし、今回は違う。遅延魔法――初期の魔法であり誰でも使用できる――これを行使することで誰でも合成魔法を行使することができるのだ。

「またしても……魔法史に新しい風を呼び込んだか……」

 サラクニークルスは嬉しそうに呟く。
 飛行魔法、合成魔法と……今回の魔法競技大会は今までの競技大会とは選手のレベルも技術も桁違いだ。確かに、氷結演武(ペークシス)においては風の精霊召喚という特殊要因はあったものの、概ね応用次第によっては有益な――というよりも魔法史がひっくり変える出来事ばかりだったが――収穫があったのだ。

「こんなお遊びだと思っていた魔術協議大会で魔法の力を再認識させられるとはな……」

 サラクニークルスが笑う。

「……次の選手は……バストーク魔法学園のタニア……またこの娘か!」

 全種目フル出場でないだろうな? とサラクニークルスの目が訴えている。

「…………………………」

 じつはそうなのだ。とも言えずダクール学園長は沈黙を守り続けた。
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