上 下
171 / 406
第三章「魔法学園の劣等生 魔法技術大会編」

第131話「氷結演武 ③ 科学の力」

しおりを挟む
「何なの……あれは……!」

 中央会場の来賓席。その中央の特別席でアルシアータ国の第三皇女、サラクニークルス・ディ・アルシアータ姫は我が目を疑った。
 中央の石柱の上部に設置された巨大ブロックには魔法で競技会場の映像がリアルタイムで流れている。
 各学園の競技が映し出されていた。魔術競技大会は生徒達の実力を示す場であり、また、学園の日頃の成果を発表する場でもある。ここで成績を残せば後々の就職先にも有利になる。国の機関に引き抜かれ国王直属の役人になるということも過去にはあったくらいだ。
 それ故に、学園も生徒も競技に対しては真剣だ。学園の優劣も今後の予算に関わってくる。
 先程の飛行レースは他の学園の魔法使いたちに衝撃をもたらした。飛行魔法は夢の魔法だ。浮遊というのは簡単なようで実は難しい。
 物体には常に地面に落ちようとする力が働いている――この力を過去には木から落ちる果物を見て「物体同士には引っ張り合う力が働いている」という説を唱えた研究者がいたが、何故そうなるかを説明できず異端とされた。
 風の力で飛ぶ、鳥のように翼をつける等々、色々な取り組みが成されたがほとんどがうまくいかずにいた。そもそもが魔法ありきの世界において、科学の進歩はあり得ない。そうせずとも魔法という力によって生活は便利になっているからだ。
 だから――今回の飛行レースは衝撃的的だった。

「何故あれほど簡単なものを……各研究機関の魔法使い達は作れなかったの?」

 サラクニークルス姫は直ぐにメーヴェを調べさせた。自由に空を飛ぶ秘密を早く解明し、国の力としたかった。
 調べさせた魔法使いからもたらされた情報は姫を驚嘆させる。
 メーヴェには、複雑な魔法術式は施されていなかったというのだ。施されていた術式はただ一つ――中央の胴体部分から後方に風を噴射する。というものだ。

「では、なぜあの様に自由に空を飛べるの?」

 姫の質問に研究者達は頭をひねった。
 しかし、その謎はマヤが呼び出され、姫の質問に答えることですぐに判明する。

「体重移動……ですか?」

 目からウロコとはこの事だ。研究者を始め、学園の魔法使い達でさえ全て魔法の力で飛んでいると考えていたのだ。

「魔法の力で浮き上がっているのではないのですか?」

 マヤの言葉によれば、前進することによってつばさに揚力が生まれ機体が浮き上がるということだった。確かに、翼ち見れば僅かに膨らみがあった。これだけの事で浮き上がる力が生まれるなど信じられなかった。

「鳥を見てください。鳥たちは魔法の力なしで飛んでいるではありませんか」
 
 マヤに言われ、姫はなるほどと納得した。
 そして、この考えはマヤが考えたのかと問いに対して、マヤは「兄の考えです」と答えたのだ。

「また、あの男……ノゾミ……」

 目の前で地図を描いてみせた男。その知識、力……全てが謎だ。
 魔術競技大会が終われば、色々と質問しなければならない。
 そう考えていたところに、氷結演武の映像が流れた。
 各学園の生徒の力は目を見張るものがあった。
 セービル魔法学園のセレスは魚人族ということもあり水魔法に長けている。一瞬で湖を凍らせた手腕は大したものだと感心したくらいだ。
 その次にマーリルの氷結の舞は演舞詠唱と呼ばれるものだった。使用者が少なく研究もそれほどされていない部門だ。威力はセレスの比ではない。今後、研究するに値する大きな成果を残したと言える。
 バストーク魔法学園のタニアもまた規格外の魔法使いだった。飛行レースでは爆裂魔法で飛び出すというぶっ飛んだ方法で失格となったが、その実力は確かなものだと秘めは確信していた。その彼女が見せたのは氷の柱を出現させるというもの。

「火魔法と水魔法を使う事ができるのか!」

 二つの属性魔法を持つ者は稀にいる。しかし、あれ程に巨大な氷を作り出せる魔法力となると並の魔法使いではない。

「どうなっているのよ。今年の魔術競技大会は……」

 サラクニークルスはため息をついた。悪魔の苗床の一件以降、何かと問題続きだ。いっそのこと悪魔祓いでもしてみようかしらと本気で考えている。

「あっ、お兄ちゃん……」

 マヤの言葉に思わず目がスクリーンへと向かう。

 全てはあの男が原因だ。

 考えてみれば、すべてノゾミというあの男が関わっている。何もかもが……だ。
 これは偶然などという言葉だけでは片付けられない。

「姫様……あれを……!」

 隣にいた研究員が驚きの声を上げた。

「あれは……風の精霊……シルフ!!」

「バカな! 精霊魔法は上級魔法使いでも高難易度の魔法……何故あのようなブロンズ風情が召喚できる!?」

 魔法使いの男も驚きを隠せていない様子だった。大会とはいえ所詮は学生と高を括っていたのだ。
 ところがふたを開けてみれば見たこともないような高難易度の魔法や技術。驚かない方が無理という話だ。
 だが、彼らは更に驚くことになる。
 シルフの召喚などまだ序の口でしかなかったのだ。
 スクリーンが一瞬で白い煙に包まれた。
 そして――
 煙が晴れると、そこには一面の銀世界が広がっていたのだ。

「広域魔法……これを……一人の魔法使いが行ったというのか……」

 もしこれが本当であれば国家戦術級の魔法だ。
 馬鹿げている。
 こんな魔法使いが存在するなどありえない。

「これは……何が起こったというの」

「空気を高圧縮させて、それを一気に解放しただけだよ」

 サラクニークルス姫の問いかけにマヤが答えた。

「空気を圧縮?」

「そう……それを一気に解放することで周囲の温度が一気に下がったの」

「それは魔法の力だけではないということか……」

 マヤの言葉に姫は舌を巻く。これは先ほどの飛行魔法と同じだ。
 魔法だけで成し得た事ではない。魔法の力はこの際きっかけにしか過ぎないのだ。

「これは魔法の力だけじゃないよ」

 マヤの言葉に姫は「では、何の力なのだ」と問う。

「もちろん――科学の力だよ」

 マヤは平然とそう答えた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

異世界エステ〜チートスキル『エステ』で美少女たちをマッサージしていたら、いつの間にか裏社会をも支配する異世界の帝王になっていた件〜

福寿草真@植物使いコミカライズ連載中!
ファンタジー
【Sランク冒険者を、お姫様を、オイルマッサージでトロトロにして成り上がり!?】 何の取り柄もないごく普通のアラサー、安間想介はある日唐突に異世界転移をしてしまう。 魔物や魔法が存在するありふれたファンタジー世界で想介が神様からもらったチートスキルは最強の戦闘系スキル……ではなく、『エステ』スキルという前代未聞の力で!? これはごく普通の男がエステ店を開き、オイルマッサージで沢山の異世界女性をトロトロにしながら、瞬く間に成り上がっていく物語。 スキル『エステ』は成長すると、マッサージを行うだけで体力回復、病気の治療、バフが発生するなど様々な効果が出てくるチートスキルです。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...