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第三章「魔法学園の劣等生 魔法技術大会編」
第131話「氷結演武 ③ 科学の力」
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「何なの……あれは……!」
中央会場の来賓席。その中央の特別席でアルシアータ国の第三皇女、サラクニークルス・ディ・アルシアータ姫は我が目を疑った。
中央の石柱の上部に設置された巨大ブロックには魔法で競技会場の映像がリアルタイムで流れている。
各学園の競技が映し出されていた。魔術競技大会は生徒達の実力を示す場であり、また、学園の日頃の成果を発表する場でもある。ここで成績を残せば後々の就職先にも有利になる。国の機関に引き抜かれ国王直属の役人になるということも過去にはあったくらいだ。
それ故に、学園も生徒も競技に対しては真剣だ。学園の優劣も今後の予算に関わってくる。
先程の飛行レースは他の学園の魔法使いたちに衝撃をもたらした。飛行魔法は夢の魔法だ。浮遊というのは簡単なようで実は難しい。
物体には常に地面に落ちようとする力が働いている――この力を過去には木から落ちる果物を見て「物体同士には引っ張り合う力が働いている」という説を唱えた研究者がいたが、何故そうなるかを説明できず異端とされた。
風の力で飛ぶ、鳥のように翼をつける等々、色々な取り組みが成されたがほとんどがうまくいかずにいた。そもそもが魔法ありきの世界において、科学の進歩はあり得ない。そうせずとも魔法という力によって生活は便利になっているからだ。
だから――今回の飛行レースは衝撃的的だった。
「何故あれほど簡単なものを……各研究機関の魔法使い達は作れなかったの?」
サラクニークルス姫は直ぐにメーヴェを調べさせた。自由に空を飛ぶ秘密を早く解明し、国の力としたかった。
調べさせた魔法使いからもたらされた情報は姫を驚嘆させる。
メーヴェには、複雑な魔法術式は施されていなかったというのだ。施されていた術式はただ一つ――中央の胴体部分から後方に風を噴射する。というものだ。
「では、なぜあの様に自由に空を飛べるの?」
姫の質問に研究者達は頭をひねった。
しかし、その謎はマヤが呼び出され、姫の質問に答えることですぐに判明する。
「体重移動……ですか?」
目からウロコとはこの事だ。研究者を始め、学園の魔法使い達でさえ全て魔法の力で飛んでいると考えていたのだ。
「魔法の力で浮き上がっているのではないのですか?」
マヤの言葉によれば、前進することによってつばさに揚力が生まれ機体が浮き上がるということだった。確かに、翼ち見れば僅かに膨らみがあった。これだけの事で浮き上がる力が生まれるなど信じられなかった。
「鳥を見てください。鳥たちは魔法の力なしで飛んでいるではありませんか」
マヤに言われ、姫はなるほどと納得した。
そして、この考えはマヤが考えたのかと問いに対して、マヤは「兄の考えです」と答えたのだ。
「また、あの男……ノゾミ……」
目の前で地図を描いてみせた男。その知識、力……全てが謎だ。
魔術競技大会が終われば、色々と質問しなければならない。
そう考えていたところに、氷結演武の映像が流れた。
各学園の生徒の力は目を見張るものがあった。
セービル魔法学園のセレスは魚人族ということもあり水魔法に長けている。一瞬で湖を凍らせた手腕は大したものだと感心したくらいだ。
その次にマーリルの氷結の舞は演舞詠唱と呼ばれるものだった。使用者が少なく研究もそれほどされていない部門だ。威力はセレスの比ではない。今後、研究するに値する大きな成果を残したと言える。
バストーク魔法学園のタニアもまた規格外の魔法使いだった。飛行レースでは爆裂魔法で飛び出すというぶっ飛んだ方法で失格となったが、その実力は確かなものだと秘めは確信していた。その彼女が見せたのは氷の柱を出現させるというもの。
「火魔法と水魔法を使う事ができるのか!」
二つの属性魔法を持つ者は稀にいる。しかし、あれ程に巨大な氷を作り出せる魔法力となると並の魔法使いではない。
「どうなっているのよ。今年の魔術競技大会は……」
サラクニークルスはため息をついた。悪魔の苗床の一件以降、何かと問題続きだ。いっそのこと悪魔祓いでもしてみようかしらと本気で考えている。
「あっ、お兄ちゃん……」
マヤの言葉に思わず目がスクリーンへと向かう。
全てはあの男が原因だ。
考えてみれば、すべてノゾミというあの男が関わっている。何もかもが……だ。
これは偶然などという言葉だけでは片付けられない。
「姫様……あれを……!」
隣にいた研究員が驚きの声を上げた。
「あれは……風の精霊……シルフ!!」
「バカな! 精霊魔法は上級魔法使いでも高難易度の魔法……何故あのようなブロンズ風情が召喚できる!?」
魔法使いの男も驚きを隠せていない様子だった。大会とはいえ所詮は学生と高を括っていたのだ。
ところがふたを開けてみれば見たこともないような高難易度の魔法や技術。驚かない方が無理という話だ。
だが、彼らは更に驚くことになる。
シルフの召喚などまだ序の口でしかなかったのだ。
スクリーンが一瞬で白い煙に包まれた。
そして――
煙が晴れると、そこには一面の銀世界が広がっていたのだ。
「広域魔法……これを……一人の魔法使いが行ったというのか……」
もしこれが本当であれば国家戦術級の魔法だ。
馬鹿げている。
こんな魔法使いが存在するなどありえない。
「これは……何が起こったというの」
「空気を高圧縮させて、それを一気に解放しただけだよ」
サラクニークルス姫の問いかけにマヤが答えた。
「空気を圧縮?」
「そう……それを一気に解放することで周囲の温度が一気に下がったの」
「それは魔法の力だけではないということか……」
マヤの言葉に姫は舌を巻く。これは先ほどの飛行魔法と同じだ。
魔法だけで成し得た事ではない。魔法の力はこの際きっかけにしか過ぎないのだ。
「これは魔法の力だけじゃないよ」
マヤの言葉に姫は「では、何の力なのだ」と問う。
「もちろん――科学の力だよ」
マヤは平然とそう答えた。
中央会場の来賓席。その中央の特別席でアルシアータ国の第三皇女、サラクニークルス・ディ・アルシアータ姫は我が目を疑った。
中央の石柱の上部に設置された巨大ブロックには魔法で競技会場の映像がリアルタイムで流れている。
各学園の競技が映し出されていた。魔術競技大会は生徒達の実力を示す場であり、また、学園の日頃の成果を発表する場でもある。ここで成績を残せば後々の就職先にも有利になる。国の機関に引き抜かれ国王直属の役人になるということも過去にはあったくらいだ。
それ故に、学園も生徒も競技に対しては真剣だ。学園の優劣も今後の予算に関わってくる。
先程の飛行レースは他の学園の魔法使いたちに衝撃をもたらした。飛行魔法は夢の魔法だ。浮遊というのは簡単なようで実は難しい。
物体には常に地面に落ちようとする力が働いている――この力を過去には木から落ちる果物を見て「物体同士には引っ張り合う力が働いている」という説を唱えた研究者がいたが、何故そうなるかを説明できず異端とされた。
風の力で飛ぶ、鳥のように翼をつける等々、色々な取り組みが成されたがほとんどがうまくいかずにいた。そもそもが魔法ありきの世界において、科学の進歩はあり得ない。そうせずとも魔法という力によって生活は便利になっているからだ。
だから――今回の飛行レースは衝撃的的だった。
「何故あれほど簡単なものを……各研究機関の魔法使い達は作れなかったの?」
サラクニークルス姫は直ぐにメーヴェを調べさせた。自由に空を飛ぶ秘密を早く解明し、国の力としたかった。
調べさせた魔法使いからもたらされた情報は姫を驚嘆させる。
メーヴェには、複雑な魔法術式は施されていなかったというのだ。施されていた術式はただ一つ――中央の胴体部分から後方に風を噴射する。というものだ。
「では、なぜあの様に自由に空を飛べるの?」
姫の質問に研究者達は頭をひねった。
しかし、その謎はマヤが呼び出され、姫の質問に答えることですぐに判明する。
「体重移動……ですか?」
目からウロコとはこの事だ。研究者を始め、学園の魔法使い達でさえ全て魔法の力で飛んでいると考えていたのだ。
「魔法の力で浮き上がっているのではないのですか?」
マヤの言葉によれば、前進することによってつばさに揚力が生まれ機体が浮き上がるということだった。確かに、翼ち見れば僅かに膨らみがあった。これだけの事で浮き上がる力が生まれるなど信じられなかった。
「鳥を見てください。鳥たちは魔法の力なしで飛んでいるではありませんか」
マヤに言われ、姫はなるほどと納得した。
そして、この考えはマヤが考えたのかと問いに対して、マヤは「兄の考えです」と答えたのだ。
「また、あの男……ノゾミ……」
目の前で地図を描いてみせた男。その知識、力……全てが謎だ。
魔術競技大会が終われば、色々と質問しなければならない。
そう考えていたところに、氷結演武の映像が流れた。
各学園の生徒の力は目を見張るものがあった。
セービル魔法学園のセレスは魚人族ということもあり水魔法に長けている。一瞬で湖を凍らせた手腕は大したものだと感心したくらいだ。
その次にマーリルの氷結の舞は演舞詠唱と呼ばれるものだった。使用者が少なく研究もそれほどされていない部門だ。威力はセレスの比ではない。今後、研究するに値する大きな成果を残したと言える。
バストーク魔法学園のタニアもまた規格外の魔法使いだった。飛行レースでは爆裂魔法で飛び出すというぶっ飛んだ方法で失格となったが、その実力は確かなものだと秘めは確信していた。その彼女が見せたのは氷の柱を出現させるというもの。
「火魔法と水魔法を使う事ができるのか!」
二つの属性魔法を持つ者は稀にいる。しかし、あれ程に巨大な氷を作り出せる魔法力となると並の魔法使いではない。
「どうなっているのよ。今年の魔術競技大会は……」
サラクニークルスはため息をついた。悪魔の苗床の一件以降、何かと問題続きだ。いっそのこと悪魔祓いでもしてみようかしらと本気で考えている。
「あっ、お兄ちゃん……」
マヤの言葉に思わず目がスクリーンへと向かう。
全てはあの男が原因だ。
考えてみれば、すべてノゾミというあの男が関わっている。何もかもが……だ。
これは偶然などという言葉だけでは片付けられない。
「姫様……あれを……!」
隣にいた研究員が驚きの声を上げた。
「あれは……風の精霊……シルフ!!」
「バカな! 精霊魔法は上級魔法使いでも高難易度の魔法……何故あのようなブロンズ風情が召喚できる!?」
魔法使いの男も驚きを隠せていない様子だった。大会とはいえ所詮は学生と高を括っていたのだ。
ところがふたを開けてみれば見たこともないような高難易度の魔法や技術。驚かない方が無理という話だ。
だが、彼らは更に驚くことになる。
シルフの召喚などまだ序の口でしかなかったのだ。
スクリーンが一瞬で白い煙に包まれた。
そして――
煙が晴れると、そこには一面の銀世界が広がっていたのだ。
「広域魔法……これを……一人の魔法使いが行ったというのか……」
もしこれが本当であれば国家戦術級の魔法だ。
馬鹿げている。
こんな魔法使いが存在するなどありえない。
「これは……何が起こったというの」
「空気を高圧縮させて、それを一気に解放しただけだよ」
サラクニークルス姫の問いかけにマヤが答えた。
「空気を圧縮?」
「そう……それを一気に解放することで周囲の温度が一気に下がったの」
「それは魔法の力だけではないということか……」
マヤの言葉に姫は舌を巻く。これは先ほどの飛行魔法と同じだ。
魔法だけで成し得た事ではない。魔法の力はこの際きっかけにしか過ぎないのだ。
「これは魔法の力だけじゃないよ」
マヤの言葉に姫は「では、何の力なのだ」と問う。
「もちろん――科学の力だよ」
マヤは平然とそう答えた。
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