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第二章「魔法学園の劣等生 入学編」
第100話「セレスとアンナ」
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「ええっと……セレスさんでいいんだよね?」
「はい!アンナ様に名前を覚えて頂けるなんて光栄です!」
アンナはセレスの反応に小さくため息をついた。
先程からセレスの態度は変わらない。彼女はどこかアンナを尊敬――というよりももはや崇拝レベルに近い――感じがあった。
「私はあなたの事よく知らないんだけど」
彼女にとってセレスは同じ魔術競技大会に出場する選手の一人というくらいの認識しかない。それに、主人であるノゾミに声をかけられていた要注意人物。
最近、ノゾミの周囲には女の姿が増え始めている。ミーシャやシスティーナ、マヤは別問題だ。彼女たちはアンナがノゾミと出会う前からの先輩であり、敬うべき存在だといえた。しかし、アープルとアメリア、メリッタ先生……もしかするとこのセレスも加わるかもしれない。
ノゾミは自らが仕えるべき主人であり、彼女の全てだ。彼の決定であればどんな事であれ従うつもりでいた。しかし、彼の周囲に集う女については別問題だった。
もし、悪い虫だったら早めに駆除しなければ……
彼女の第一優先事項はノゾミの安全である。アープルやアメリアについては信頼に値すると判断していた。メリッタ先生については未だ保留中だ。時おり見せる彼女のノゾミに対する熱烈な視線にはアンナですら戦慄するものがあった。
――ノゾミ様の貞操管理は私の義務なのです!
アンナは心の中でグッとこぶしを握りしめる。
この女はもしかしたらノゾミを狙っているのかもしれない。メリッタ先生に取り入り、魔術競技大会の選手になったのも偶然ではないはずだ。
――私のノゾミ様に唾をつけようだなんて、許せない!
メラメラと勝手な闘争心を燃やすアンナ。
主人であるノゾミに愛されたのは昨夜の事だ。その事を思い返すだけで、アンナは頬が熱くなる。
――ノゾミ様が望まれるのであれば、いつでも構わないのに♡
ノゾミの事を思うだけで愛おしさに胸が張り裂けそうになる。
「あなたはノゾミ様のことをどう思っているのですか?」
「ノゾミ?……ああ、あの死んだ魚のような目をした男の事ですか?」
ブチッ!
「あなたにはノゾミ様の素晴らしさを魂に刻まなければならないようですね」
「あの……アンナ様?」
ずいと迫るアンナにセレスは顔を赤らめた。
「こんな所でなんて……いいえ、アンナ様が望まれるのであれば、どこでも構わないのですが……」
「はい?」
セレスの言葉にアンナは首を傾げた。
アンナにはセレスの言っている意味が分からなかった。
「できれば、アンナ様のお部屋か、あたしの部屋でお話ししませんか?」
そういえば、ミーシャはアメリア先生の手伝いで夜は遅くなると言ってなかったか。
ならば、好都合だ。
「いいでしょう。あなたとはじっくりとお話しないといけないようです」
「はい。アンナ様!」
セレスはアンナの後ろを素直についていく。
「アンナ様と二人っきり……チャンスです!」
セレスの呟きはアンナの耳には届かなかった。
◆ ◆ ◆ ◆
部屋に到着した。ミーシャは当然帰ってきていない。
「ここがアンナ様のお部屋なのですね」
セレスは感激したように部屋を見回す。
寮なのだからどの部屋も間取りは同じはずだ。アンナたちはそれほど多くの荷物を持っていなかった。そもそも調査のためにこの学園にきているのだ。長居するつもりはない……はずだ。
しかし、調査は遅々として進まない。スパイなどこの学園にいるのだろうかと逆に疑いたくなるくらいだ。
「アンナ様……」
「その……アンナ様というのは止めてくれない? なんかむずがゆいわ」
あまりそう呼ばれることになれていないせいか、逆に気恥ずかしい。
「いいえ。あたしたち魚人族にとって竜人族は崇拝の対象なのです」
魚人族と竜人族は親密関係にあるとアンナは聞いたことがあった。しかし、それははるか以前のことであり、今では廃れてしまった考えだ。親交自体はあるものの崇拝などしている者はいない。
「それは昔の話でしょう?」
ため息交じりにアンナは言う。
「いいえ。巫女様は別格です!」
セレスの瞳はキラキラと輝いている。
「私が巫女だと……どうして?」
巫女だということは秘密にしていたはずだ。黒竜族の件はまだ解決していない。この件に関してはバージル卿の調査連絡を待たなければならないからだ。
「以前、あたしたちの部族の祭りでアンナ様をお見かけしたことがあります」
祭壇で白衣に身を包み、神技の舞を踊る白竜族の巫女。
その神々しい姿にセレスは衝撃を受け、魅了された。
それは一種の一目ぼれに近い。
「アンナ様はあたしの憧れなんです!」
ずいとセレスがアンナに接近する。
「私ですか!?」
予想外の答えにアンナは驚きの声を上げる。
――ノゾミ様を狙っているわけではないみたいですね。
恋の宿敵でないのであれば問題ない。ノゾミに対する障害になりえないのであれば、このまま解放してもいいだろう。
「あなたの考えはわかりました」
「それじゃぁ!」
セレスが瞳を輝かせる。
「もう帰って結構です」
「いや……えーっと……」
困惑した顔のセレス。アンナはその表情にさらに困惑した。
これ以上、この少女は何を求めているのだろう。
「あっ、そういうことですか!」
アンナは納得したように手を打った。
憧れの巫女に会ったのだ。きっと誰かしらに自慢したいのだろう。
「サインでいいですか……あんまりこんなことしたことないので……」
「そうじゃないです!」
セレスはダンと机をたたく。
「あたしをアンナ様の弟子にして下さい!」
セレスは真剣な目でアンナに懇願した。
「……それは無理よ」
セレスの懇願をあっさりと却下するアンナ。
「どうしてですか!」
セレスは必死になって懇願する。
しかし、アンナの返答は「否」だった。
「……あの男ですね……!」
静かな決意を胸にセレスが呟く。
「あの男に脅されているんですか?」
「違います。私はノゾミ様と誓約を結んだのです」
アンナの言葉にセレスは絶句した。誓約とは魂の結びつき。竜族の巫女のみが行える神聖なる契約。
「それ程の価値があると……あの男にそれだけの大望を見出したというのですか!」
セレスの言葉にアンナは静かに頷く。
「認めません……あたしはあの男を認めません!」
「あなたの思いがどうであろうと私の想いは変わりません」
セレスは一瞬だけ泣き笑いの表情になる。
「分かりました……ならば証明してみせますよ。あたしがあの男よりも勝っていることを!」
半泣きになりながらセレスは部屋を飛び出していく。
「あっ……水魔法は?」
アンナの声はすでにセレスには届いていなかった。
「はい!アンナ様に名前を覚えて頂けるなんて光栄です!」
アンナはセレスの反応に小さくため息をついた。
先程からセレスの態度は変わらない。彼女はどこかアンナを尊敬――というよりももはや崇拝レベルに近い――感じがあった。
「私はあなたの事よく知らないんだけど」
彼女にとってセレスは同じ魔術競技大会に出場する選手の一人というくらいの認識しかない。それに、主人であるノゾミに声をかけられていた要注意人物。
最近、ノゾミの周囲には女の姿が増え始めている。ミーシャやシスティーナ、マヤは別問題だ。彼女たちはアンナがノゾミと出会う前からの先輩であり、敬うべき存在だといえた。しかし、アープルとアメリア、メリッタ先生……もしかするとこのセレスも加わるかもしれない。
ノゾミは自らが仕えるべき主人であり、彼女の全てだ。彼の決定であればどんな事であれ従うつもりでいた。しかし、彼の周囲に集う女については別問題だった。
もし、悪い虫だったら早めに駆除しなければ……
彼女の第一優先事項はノゾミの安全である。アープルやアメリアについては信頼に値すると判断していた。メリッタ先生については未だ保留中だ。時おり見せる彼女のノゾミに対する熱烈な視線にはアンナですら戦慄するものがあった。
――ノゾミ様の貞操管理は私の義務なのです!
アンナは心の中でグッとこぶしを握りしめる。
この女はもしかしたらノゾミを狙っているのかもしれない。メリッタ先生に取り入り、魔術競技大会の選手になったのも偶然ではないはずだ。
――私のノゾミ様に唾をつけようだなんて、許せない!
メラメラと勝手な闘争心を燃やすアンナ。
主人であるノゾミに愛されたのは昨夜の事だ。その事を思い返すだけで、アンナは頬が熱くなる。
――ノゾミ様が望まれるのであれば、いつでも構わないのに♡
ノゾミの事を思うだけで愛おしさに胸が張り裂けそうになる。
「あなたはノゾミ様のことをどう思っているのですか?」
「ノゾミ?……ああ、あの死んだ魚のような目をした男の事ですか?」
ブチッ!
「あなたにはノゾミ様の素晴らしさを魂に刻まなければならないようですね」
「あの……アンナ様?」
ずいと迫るアンナにセレスは顔を赤らめた。
「こんな所でなんて……いいえ、アンナ様が望まれるのであれば、どこでも構わないのですが……」
「はい?」
セレスの言葉にアンナは首を傾げた。
アンナにはセレスの言っている意味が分からなかった。
「できれば、アンナ様のお部屋か、あたしの部屋でお話ししませんか?」
そういえば、ミーシャはアメリア先生の手伝いで夜は遅くなると言ってなかったか。
ならば、好都合だ。
「いいでしょう。あなたとはじっくりとお話しないといけないようです」
「はい。アンナ様!」
セレスはアンナの後ろを素直についていく。
「アンナ様と二人っきり……チャンスです!」
セレスの呟きはアンナの耳には届かなかった。
◆ ◆ ◆ ◆
部屋に到着した。ミーシャは当然帰ってきていない。
「ここがアンナ様のお部屋なのですね」
セレスは感激したように部屋を見回す。
寮なのだからどの部屋も間取りは同じはずだ。アンナたちはそれほど多くの荷物を持っていなかった。そもそも調査のためにこの学園にきているのだ。長居するつもりはない……はずだ。
しかし、調査は遅々として進まない。スパイなどこの学園にいるのだろうかと逆に疑いたくなるくらいだ。
「アンナ様……」
「その……アンナ様というのは止めてくれない? なんかむずがゆいわ」
あまりそう呼ばれることになれていないせいか、逆に気恥ずかしい。
「いいえ。あたしたち魚人族にとって竜人族は崇拝の対象なのです」
魚人族と竜人族は親密関係にあるとアンナは聞いたことがあった。しかし、それははるか以前のことであり、今では廃れてしまった考えだ。親交自体はあるものの崇拝などしている者はいない。
「それは昔の話でしょう?」
ため息交じりにアンナは言う。
「いいえ。巫女様は別格です!」
セレスの瞳はキラキラと輝いている。
「私が巫女だと……どうして?」
巫女だということは秘密にしていたはずだ。黒竜族の件はまだ解決していない。この件に関してはバージル卿の調査連絡を待たなければならないからだ。
「以前、あたしたちの部族の祭りでアンナ様をお見かけしたことがあります」
祭壇で白衣に身を包み、神技の舞を踊る白竜族の巫女。
その神々しい姿にセレスは衝撃を受け、魅了された。
それは一種の一目ぼれに近い。
「アンナ様はあたしの憧れなんです!」
ずいとセレスがアンナに接近する。
「私ですか!?」
予想外の答えにアンナは驚きの声を上げる。
――ノゾミ様を狙っているわけではないみたいですね。
恋の宿敵でないのであれば問題ない。ノゾミに対する障害になりえないのであれば、このまま解放してもいいだろう。
「あなたの考えはわかりました」
「それじゃぁ!」
セレスが瞳を輝かせる。
「もう帰って結構です」
「いや……えーっと……」
困惑した顔のセレス。アンナはその表情にさらに困惑した。
これ以上、この少女は何を求めているのだろう。
「あっ、そういうことですか!」
アンナは納得したように手を打った。
憧れの巫女に会ったのだ。きっと誰かしらに自慢したいのだろう。
「サインでいいですか……あんまりこんなことしたことないので……」
「そうじゃないです!」
セレスはダンと机をたたく。
「あたしをアンナ様の弟子にして下さい!」
セレスは真剣な目でアンナに懇願した。
「……それは無理よ」
セレスの懇願をあっさりと却下するアンナ。
「どうしてですか!」
セレスは必死になって懇願する。
しかし、アンナの返答は「否」だった。
「……あの男ですね……!」
静かな決意を胸にセレスが呟く。
「あの男に脅されているんですか?」
「違います。私はノゾミ様と誓約を結んだのです」
アンナの言葉にセレスは絶句した。誓約とは魂の結びつき。竜族の巫女のみが行える神聖なる契約。
「それ程の価値があると……あの男にそれだけの大望を見出したというのですか!」
セレスの言葉にアンナは静かに頷く。
「認めません……あたしはあの男を認めません!」
「あなたの思いがどうであろうと私の想いは変わりません」
セレスは一瞬だけ泣き笑いの表情になる。
「分かりました……ならば証明してみせますよ。あたしがあの男よりも勝っていることを!」
半泣きになりながらセレスは部屋を飛び出していく。
「あっ……水魔法は?」
アンナの声はすでにセレスには届いていなかった。
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