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第二章「魔法学園の劣等生 入学編」
第62話「委員長は振り向かない」 ※イラストあり〼
しおりを挟む「ちょっと、ノゾミ君!」
講堂を出た時に呼び止められた。
振り返ればピンクの髪の活発そうな女の子。
こ、これは学園生活では縁のなかった告白というやつなのか。
――というかどちら様?
「同じクラスの統括役の方です」
つまりは委員長!
なんか学園って感じがしていいな!
「ちょっと話があるんだけど!」
オレはアンナたちと目を合わせた。昨日の出来事の事もある。まさかとは思うが仇討のようなことも考えられた。彼女を見る限りその可能性はなさそうだが。
「ノゾミ様?」
アンナが心配そうにオレを見ている。
「心配するな。オレは大丈夫だ」
大抵のことならなんとかなる。
そこまでの自信はあった。
「そうではなくて、彼女が心配でその……」
どうやら。彼女のことを心配してのことらしい。
なんて失礼なことを平気で言うんだ。
見ればミーシャも同じような顔をしている。
信用ないなぁ。
日頃の所作を見ていれば、オレがどういった人間かは分かるというものなのに――
おや、全然説得力ないぞ。
「……だそうだが、ここではできない話か?」
今度の講義は実技だ。ブロンズのオレはアンナやミーシャとは別となる。
委員長の腕輪はブロンズだった。つまりはおなじ講義を受けるということだ。
「次の講義は一緒みたいだ。そこで話をするってのは?」
委員長は少し考えてから「分かった」と頷いた。
「ところで。君の名は?」
うーん。アニメ映画のタイトルみたいだ。
「ボクの名前はタニアだよ。ちゃんと覚えてよね」
タニアは元気に自己紹介した。
「それじゃあ、タニアさん」
「タニアでいいよ」
「それじゃあ、オレはノゾミでいい。次の場所に移動しよう」
オレはタニアと連れ立って歩き出した。
◆ ◆ ◆ ◆
タニア LV 047 魔法使い見習い。
これといって特徴のないが元気な女の子。そんな印象だった。
しかし、やたらとレベルが高い。これで見習いというのはどういうことだ。
魔法使い見習いというのはあくまでもマザーさんが便器上つけているものだ。
「ええっと、オレは君とあんまり面識ないんだけど」
実際、学園生活二日目だ。この期間では友情とか愛情とかなかなか芽生えないだろう。
「君はオレのことを知っているみたいだね」
「今この学園で君の事を知らない生徒なんていないと思うよ」
嫌味なのか何なのか、彼女はきっぱりと言った。
そうなんだ。知らなかった。
そんなに人気者なのかオレは。
「そのせいで、色々と変な噂も耳するようになってるんだ」
自覚なかったの?とタニアは目で訴えかけてくる。学園にきて二日目で噂が立つとかどんだけだよ。
まあ、噂の出所は予想はつくけどな。きっと、あのアンパンマンとかいうバカ貴族が言いふらしているんだろう。まったく、馬鹿のすることは程度が低い。
「へぇー」
とりあえずは、聞いてみることにする。どう思われようと構わないが、噂の内容によっては考えないといけないかもしれない。
「うーんとね。まずはノゾミは女といえば見境なく襲う性欲の塊みたいな男だと噂されてる」
――あ、否定できない。
「それにミーシャさんやアンナさんはノゾミに弱みをにぎられていて逆らうことができず。毎晩……その……夜の相手をさせられているとか」
弱みを握られているのはむしろこちらではないか? 最近、アンナたちに逆らえなくなってきているような気がするのだが。
それに毎晩ではありません。当番制です。
「あと、妹やその友達にまで毒牙にかける鬼畜野郎だとも噂されているよ」
なんてことだ……それは最新の情報ではないか!
情報の統制はどうなっている! それは噂ではなく、ほぼ真実ではないか!
「なんてことだ――」
魔法学園怖ぇぇぇぇぇ!
「さすがの君もここまでねじ曲げられた噂に恐怖したみたいだね」
はい。真実すぎて怖いくらいです。
「そして、極めつけの噂……実は鬼畜野郎ノゾミは聖騎士のシスティーナ様も性奴隷にしようと企んでいるという噂があるのだ!」
「なんやてぇ~!」
いやいやいや! 情報早すぎ!
それついさっきの出来事ですがな。
しかも後半はオレ襲われたんですけど、淫乱聖騎士様に陵辱されたんですけど。
真実はいつも一つじゃないのか!
「けしからん!」
「変な噂が立つのは仕方のないことかもね……まあ、人気者の宿命だと思ってあきらめてよ」
優しい瞳でタニアが語りかけた。噂というかあまりの正確無比な情報に言葉が出ない。
「あと、ノゾミは魔人族のバージル卿の子供で、彼とも互角に戦うことができるなんてデタラメな噂まであるんだ」
嗚呼、それも真実なり。
「……そうなんだ。あはははは」
「あははは!」
タニアはオレの腕にしがみついてきた。
弾力のある胸の感触が腕に伝わってくる。
「ボクは君に俄然興味が湧いてきているんだよ。昨日の戦闘は実に見事だった。聖騎士もかくやという腕前だね」
うーん。剣もあまり使わなかったつもりだが。
「そうかな……たまたま運が良かっただけだよ」
「へぇ……魔法が打ち消されたりしていたみたいだけど?」
ドン。背中に壁が当たる。いや、いつの間にか壁際に追い込まれていたらしい。
タニアの顔が目の前に迫った。かわいい顔が目前だ。
「特に、あの女の子を救った時はすごかったね」
何だろう、瞳の奥には何とも言えない光があった。
「一瞬、腕が竜になったように見えちゃったよ」
「ははは、それは錯覚だよ」
「そうだね。黒竜族のヤムダが名もなき一人の男に倒されたって噂を聞いていてね。その男の腕かと思っちゃったよ」
なんでそんなことを魔法学園の生徒が知っている?
何なんだこいつは――
得体が知れない。
かわいい顔をしているが、正体が不明だ。
とにかく、今はこの場をなんとかしなければ。
「黒竜族って竜人族じゃないか。そんな奴と戦って勝つなんてすごいなぁ」
ほぼ棒読みなオレのセリフ。
つつつーっと、指がオレの胸に当てられる。弧を描くようにゆっくりと回される。
「君の二の腕についている腕輪だけど、バージル卿の持つ封魔の腕輪じゃなかったかなぁ?」
バージル卿の腕輪のことを何故知っている?
何なんだこの娘。
「似たデザインの腕輪じゃないの? ほら、オレってオシャレだから、そういったデザインとかすぐに似たものを探しちゃうんだよね」
「へえええぇ」
傍から見たら恋人同士の甘い語らいに見えるかもしれないだろうが、これは詰問されている図だ。
「まあ、そんなわけないよね。ノゾミはボクと同じブロンズだしね」
不意に、タニアの呪縛が解ける。
オレは盛大に息をついた。
「なんだよ」
「いやあ、気になったことはいろいろと興味を持っちゃうタチでさ」
タニアは笑顔で語りかけてきた。
「これからも色々とよろしくねノゾミン!」
別れ際のあいさつ。気がつけば勝手に仇名を付けられていた。
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