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第二章「魔法学園の劣等生 入学編」

第54話「決着、そして……」

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 オレはアイザックの元へと歩み寄る。

「こんなことが……シルバーである私がブロンズごときに……」

 アイザックはすでに自失しており何やらブツブツと呟いている。しばらくはこのままにしておこう。

「おい!」

「は、はい!」

「この男を部屋に連れていけ!」

「了解しました! ノゾミ様!」

 取り巻きが敬礼してアイザックを担ぎ上げると脱兎のごとくその場から逃げ出していく。
 
 ――あ。金貨百枚の件はどうなったのだろう。

 くそ、怒りのあまり支払の件に関してしっかりと確認するのを失念していた。 
 まあ、別にいいか。

「やったね。お兄ちゃん!」

「ノゾミなら勝てると信じていました」

「ノゾミ様、流石です」

「う、嬉しいのだが……抱きしめたいのだが……私は今講師! お前たちが羨ましいのだ……」

 マヤは抱きつき、ミーシャ、アンナも嬉しそうだ。システィーナは講師という立場上抱きついたりできない。泣く泣く他の講師と共に破壊された建物の様子を確認に行った。

「ノゾミ君。学園長がお呼びだ。事の経緯を説明してほしいとの事だ」

 講師の一人がオレに声をかけてきた。
 ですよね。ちょっとはっちゃけ過ぎたもんね。

「あの……」

 先程助けた女の子が声をかけてきた。
 見た目はマヤと同じくらいの年齢だろうか。
 緑色の髪が太陽の光を受けてキラキラと輝いている。

「先程は助けて頂いて、ありがとうございました」

 彼女の腕にはシルバーのブレスレット。
 マヤと同じ初等部の新入生だということだった。

「私の名前はアープルって言います。樹人族です」

 もじもじしながらもしっかりとお礼が言えましたね。
 
「樹人族は滅多に人の前に姿を現さないものなのですが……」

 アンナが不思議そうにアープルの顔をのぞき込んだ。

「族長が見聞を広げるために世界を見てこいということで、学園長にかけ合ってくれたのです」

「やっと長年の夢が叶いました」

 へぇー、長年というのはどれくらいなのだろうか。樹人族は長命なのだろうか。

「樹人族は竜人族やエルフ等と同じく長命な種族です」

「ということは、寿命ってどれくらいだ?」

「五千年は下らないと思いますよ」

 長っが! そんなに生きて飽きないのか?

「私はまだまだ未熟者なので皆さんに色々と教えて欲しいです」

 アープルはペコリと頭を下げた。
 それは逆にこちらからお願いしたいくらいだ。樹人族が珍しいというのであれば、オレの調査にも役に立つだろう。
 ふふふ。そうだとも色々な調査だ!

「えっと……服とか燃えちゃいましたね」

 そう言えば、燃やされたあとに盛大に脱いだんだったな。
 いかん。このままではオレはヘンタイ裸族の称号を与えられてしまうかもしれない。

(報告。魔法学園の制服の複製に成功しました。着用しますか?)

 なぬ。それってあの万能猫型決戦兵器の秘密道具にあった「着せ替え写真機」みたいなものか。
 是非ともお願い致します!
 オレはパチンと指を鳴らす。
 そのタイミングに合わせ、オレの服が異空間から転送される。

「なんですか? 魔法ですか?」

 アープルが驚きに目を見開いた。

「うーんと……手品だ」

「…………!!! さすがです。ノゾミ様!」

「もはや何でもありね」

 アンナは驚き、ミーシャは呆れていた。
 驚くはいいとして、呆れるとは……態度がなってないな。あとでお仕置きだ。

「できないことってあるんですか?」

 いやいや、むしろできないことだらけですよ。

「しかし、封魔のブレスレットを二つか……普通の魔法使いなら死んどるぞ」

 ん? アープルがいきなり渋い声を出した気がした。
 気のせいか? アープルの目つきも今までの幼さが消え全てを見透かすようなそんな鋭い眼光すら感じる。髪の毛も一瞬だが青みがかった色に変わったような――

「どうかしましたか?」

 アープルが首を傾げた。
 幼さの残るあどけない表情の少女。髪の色も鮮やかな緑だ。
 どうやら気のせいだったようだ。

「おーい、お兄ちゃーん」

 そうしているうちにマヤがやってきた。
 
「えーっと、アープルちゃんだったかな」

「アープルでいいよ」

「じゃあ私はマヤよ。これから仲良くしましょうね」

 いつもながらマヤの社交スキルの高さには驚かされる。これで学年首席なのだから呆れるばかりだ。

(回答。身体構成は同じでも異なる経験を積んでいる為、もはや別の個体と言えます)

 つまりはオレとマヤは全くの別物と考えていいのか?

(推測。精神の成長にも違いが見られます。有機調査対体名「望月望」は元の人格が存在しており、その経験を元に現在の意識が構成されています)

 オレには元人格が存在する。それに比べ人工の人格から知性を獲得したマヤの場合は違う。記憶や演算など魔法に関わる処理速度はオレの比ではない。
 しかし、デメリットもまたあった。魔力総量だ。そこがオレとマヤの決定的な違いだった。
 根底が人間のオレは魔力という点では魂の力が強い。しかし、それ故に制御が難しく暴走の危険性があった。
 それはこれから経験を通して学ばなければならない。単なる暗記ではない経験を通した学び。
 それが完成すれば、呪文詠唱をマザーさんに任せ、同時に多重魔法の発動も可能だ。

「お兄ちゃん。アープルを送ってくるね」

 小さくなる二人の背中を見送る。
 さて、今からラップ学園長の所に行くか。
 気が重いが仕方あるまい。降りかかる火の粉を払っただけなのだ。
 払うことに問題はない。だが、払い方が問題だった。
 長くなりそうだな。

 案の定。夕方近くまでラップ学園長の説教を聞く羽目になりました。
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