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第一章「いきなり冒険者」
第41話「風車小屋」
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穴を掘り石柱をすべて設置したオレたちは、最初の場所へと戻っていた。
そこではすでに小屋の骨組みが出来上がっている。さすが大工さんだ仕事が早い。
「仕事の進み具合は?」
オレが問いかけると、この場の現場監督の男がニヤリと笑った。
「ノゾミ様! 全て順調です!」
みんなの態度がやたらと変わった。
作業に集中してくれることはいい事だ。
小屋を建てる傍らで風車を作る作業も行われていた。
「ノゾミ様。これで水を汲みだすことができるのですか?」
アンナが興味津々に聞いてきた。
「そうだ。風の力で地下からの水を汲みだす」
作物には大量の水が必要だった。それをいちいち手作業で汲み出していては効率が悪い。
ならば風力を利用してしまえということで、風車を作っているのだ。
「さすがですノゾミ様!」
アンナが感動しているが。これはあくまでもマザーさんの知識であり、力だ。それにマヤがいなければオレは何もできなかった。それに今小屋を作っているのは大工さんたちであってオレではない。バージル卿の力あってのことだ。
「オレだけの力ではここまでのことはできなかった。みんなの力が集まったから出来たんだよ」
みんなの手伝いもあって夕方には一台目の風車が完成した。ポンプはマザーさんの力で作ってある。しかし、これは最初の一台だけだ。あとは鍛冶屋の仕事だ。
「おーい。そこのお嬢さん。差し入れが届いているんだが、運ぶのを手伝ってくれないか?」
遠くから声をかけられた。
差し入れとはありがたい。
「では、私が手伝います」
アンナが申し出た。風車は今からいよいよ稼働という段階だ。なにか起こる可能性があるかもしれない。オレは動くことができなかった。
「よろしく頼む」
オレに頷いてアンナが離れた。
「ノゾミ様。準備ができました」
大工の一人が声をかけてくる。
みんなの期待のこもった目がオレに集まる。
「いよいよだね。お兄ちゃん」
マヤも嬉しそうだ。
ミーシャも満足げな表情だった。
「よし、回してくれ!」
オレの合図と共に風車を固定していたロープが外された。
風を受け羽が回る。ゆっくりとした動きは次第に回転力を増し安定した回転となった。
夕日に照らされた風車。情緒があるねえ。
ギアを入れ回転の力を上下運動へと変える。ポンプが動き出し、やがて水口の部分からにごった水が出始める。水はしばらくすると澄んだ透明になった。
「やった! 水が出たぞ!」
水は次から次にあふれ出る。水はやがて水路に流れ始めた。時間が経てば畑まで到達する。
「やったなノゾミ!」
システィーナが抱きついてきた。
「お見事です!」
リューシャも喜んでくれた。
一番喜んでいるのは民たちの方だ。実際に水が出ることが証明されたのだ。彼らの目には力強い輝きがあった。
「明日からみんなで力を合わせて行って欲しい」
これから先は民の仕事だ。
ポンプの制作には時間がかかる。鍛冶屋に頼んでいるが最低でもと十日はかかるとのことだ。
流石にそれまでこの領地に留まるつもりはない。できる限りのことを伝えるつもりでいた。
自分たちのことは自分たちで。
既にかなり干渉している気もしないでもないが……気にしない気にしない。
それに自分たちで作っていなければいざという時に修理ができないということにもなりかねない。
嵐などで壊れる危険性もあった。その度に修理に訪れるなど論外だ。
まあ、メイドさんたちのサービス次第では考えないこともなくはないが。
「ノゾミ様、明日からはどんどん風車が出来上がっていきますよ」
リューシャが嬉しそうに言う。
他の場所では既に小屋の骨組みが組みあがっているはずだ。明日からは最初の作業に加わった大工たちがそれぞれの場所へと移動しアドバイス兼フォローを行うようにしている。つまりは後半になればなる程作業効率が上がっていく計算だ。
「さすがノゾミだな。見事としか言いようがない」
システィーナも感心している。あまり褒められるとむずがゆい。
「そろそろ屋敷に戻らなければならないな」
システィーナが空を見上げる。
日が沈み、暗くなりはじめている。
「そういえば、アンナを見ませんでしたか?」
リューシャに尋ねられてはたと気づく。
「確か、差し入れがあるから取りに来てくれと言われていたな」
先程の会話を思い出した。
それにしては戻りが遅い。
それ程に大量の差し入れだろうか?
それ程に遠くに取りに行ったのか?
何かがおかしい。
「ノゾミ……何か変だぞ」
システィーナが耳打ちする。
「お兄ちゃん!」
マヤが叫んだ。
彼女の指さす方向に土煙が上がっている。
(警告。この場から立ち去る馬車を確認。距離500)
「リューシャここは頼んだ。システィーナ!」
オレは一気に走り出す。身体の強化とLVの補正で走るスピードも半端ない。
(観測結果。現在の位置と予想経路を表示します)
脳内に周囲の地図と最短ルートがイメージとして浮かんだ。さすがマザーさんだ。
まさに飛ぶような速さで相手との距離が縮まっていく。
――見えた!
ものの数秒もしないうちに馬車に追いつく。
馬車を追い越し、その行く手をさえぎった。
馬車に乗っているのは四人の男たち。
フードを被った大柄な男が一人と、剣士風の男が三人。
どう見ても普通じゃない雰囲気だ。
(報告。幌車内に生命反応。98%の確率でアンナと判定。状況からして意識を失っているものと推測されます)
ビンゴだ。
「ちょっと訪ねたいことがあるんだが?」
オレの問いかけに男たちは答えない。
その代わり、剣を抜いてオレに切りかかってきた。
そこではすでに小屋の骨組みが出来上がっている。さすが大工さんだ仕事が早い。
「仕事の進み具合は?」
オレが問いかけると、この場の現場監督の男がニヤリと笑った。
「ノゾミ様! 全て順調です!」
みんなの態度がやたらと変わった。
作業に集中してくれることはいい事だ。
小屋を建てる傍らで風車を作る作業も行われていた。
「ノゾミ様。これで水を汲みだすことができるのですか?」
アンナが興味津々に聞いてきた。
「そうだ。風の力で地下からの水を汲みだす」
作物には大量の水が必要だった。それをいちいち手作業で汲み出していては効率が悪い。
ならば風力を利用してしまえということで、風車を作っているのだ。
「さすがですノゾミ様!」
アンナが感動しているが。これはあくまでもマザーさんの知識であり、力だ。それにマヤがいなければオレは何もできなかった。それに今小屋を作っているのは大工さんたちであってオレではない。バージル卿の力あってのことだ。
「オレだけの力ではここまでのことはできなかった。みんなの力が集まったから出来たんだよ」
みんなの手伝いもあって夕方には一台目の風車が完成した。ポンプはマザーさんの力で作ってある。しかし、これは最初の一台だけだ。あとは鍛冶屋の仕事だ。
「おーい。そこのお嬢さん。差し入れが届いているんだが、運ぶのを手伝ってくれないか?」
遠くから声をかけられた。
差し入れとはありがたい。
「では、私が手伝います」
アンナが申し出た。風車は今からいよいよ稼働という段階だ。なにか起こる可能性があるかもしれない。オレは動くことができなかった。
「よろしく頼む」
オレに頷いてアンナが離れた。
「ノゾミ様。準備ができました」
大工の一人が声をかけてくる。
みんなの期待のこもった目がオレに集まる。
「いよいよだね。お兄ちゃん」
マヤも嬉しそうだ。
ミーシャも満足げな表情だった。
「よし、回してくれ!」
オレの合図と共に風車を固定していたロープが外された。
風を受け羽が回る。ゆっくりとした動きは次第に回転力を増し安定した回転となった。
夕日に照らされた風車。情緒があるねえ。
ギアを入れ回転の力を上下運動へと変える。ポンプが動き出し、やがて水口の部分からにごった水が出始める。水はしばらくすると澄んだ透明になった。
「やった! 水が出たぞ!」
水は次から次にあふれ出る。水はやがて水路に流れ始めた。時間が経てば畑まで到達する。
「やったなノゾミ!」
システィーナが抱きついてきた。
「お見事です!」
リューシャも喜んでくれた。
一番喜んでいるのは民たちの方だ。実際に水が出ることが証明されたのだ。彼らの目には力強い輝きがあった。
「明日からみんなで力を合わせて行って欲しい」
これから先は民の仕事だ。
ポンプの制作には時間がかかる。鍛冶屋に頼んでいるが最低でもと十日はかかるとのことだ。
流石にそれまでこの領地に留まるつもりはない。できる限りのことを伝えるつもりでいた。
自分たちのことは自分たちで。
既にかなり干渉している気もしないでもないが……気にしない気にしない。
それに自分たちで作っていなければいざという時に修理ができないということにもなりかねない。
嵐などで壊れる危険性もあった。その度に修理に訪れるなど論外だ。
まあ、メイドさんたちのサービス次第では考えないこともなくはないが。
「ノゾミ様、明日からはどんどん風車が出来上がっていきますよ」
リューシャが嬉しそうに言う。
他の場所では既に小屋の骨組みが組みあがっているはずだ。明日からは最初の作業に加わった大工たちがそれぞれの場所へと移動しアドバイス兼フォローを行うようにしている。つまりは後半になればなる程作業効率が上がっていく計算だ。
「さすがノゾミだな。見事としか言いようがない」
システィーナも感心している。あまり褒められるとむずがゆい。
「そろそろ屋敷に戻らなければならないな」
システィーナが空を見上げる。
日が沈み、暗くなりはじめている。
「そういえば、アンナを見ませんでしたか?」
リューシャに尋ねられてはたと気づく。
「確か、差し入れがあるから取りに来てくれと言われていたな」
先程の会話を思い出した。
それにしては戻りが遅い。
それ程に大量の差し入れだろうか?
それ程に遠くに取りに行ったのか?
何かがおかしい。
「ノゾミ……何か変だぞ」
システィーナが耳打ちする。
「お兄ちゃん!」
マヤが叫んだ。
彼女の指さす方向に土煙が上がっている。
(警告。この場から立ち去る馬車を確認。距離500)
「リューシャここは頼んだ。システィーナ!」
オレは一気に走り出す。身体の強化とLVの補正で走るスピードも半端ない。
(観測結果。現在の位置と予想経路を表示します)
脳内に周囲の地図と最短ルートがイメージとして浮かんだ。さすがマザーさんだ。
まさに飛ぶような速さで相手との距離が縮まっていく。
――見えた!
ものの数秒もしないうちに馬車に追いつく。
馬車を追い越し、その行く手をさえぎった。
馬車に乗っているのは四人の男たち。
フードを被った大柄な男が一人と、剣士風の男が三人。
どう見ても普通じゃない雰囲気だ。
(報告。幌車内に生命反応。98%の確率でアンナと判定。状況からして意識を失っているものと推測されます)
ビンゴだ。
「ちょっと訪ねたいことがあるんだが?」
オレの問いかけに男たちは答えない。
その代わり、剣を抜いてオレに切りかかってきた。
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