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エピローグ
それから
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国を上げての結婚式から数年後、マヤはあいも変わらず全く国王らしくない冒険者時代からの純白のブラウスと濃紺のスカートに大きめのローブを羽織ったスタイルで、シロちゃんにまたがって走り回る男の子を追いかけていた。
「こらっ! 待ちなさーいっ!」
マヤの姿で変わったことといえば、出産を経て多少身体つきがふっくらしたことくらいだが、それもスタイルが崩れるほどではないので、ほぼ昔のままと言っていいだろう。
「あははははっ! たのしー!」
強化魔法でシロちゃんを強化するその男の子は、マヤと同じ白い髪と蒼緑の瞳に、ウォーレンと同じ浅黒い肌と年の割には大柄でがっしりとした体躯をしていた。
「もうっ! シロちゃんもシンヤのこと止めてよー!」
「わふっ! それは無理なのです、魔物使いの命令は絶対なのです!」
「はははっ、まさかマヤから魔物を奪うやつがいるなんてなー」
マヤとシンヤの追いかけっこを、ウォーレンは楽しそうに見ていた。
そんなのんきなウォーレンに、マヤの視線が突き刺さる。
「感心してないであなたも手伝って!」
「お、おう……でも、何でマヤはそんなに必死にシンヤを追いかけてるんだ?」
「うぐっ…………そ、それは……」
マヤは途端に勢いが弱まって言葉に詰まる。
「おっ、と、シンヤ、くん、久し、ぶり」
マヤがウォーレンの言葉になにも返せないでいる間に、逃げ回っていたシンヤとシロちゃんは、マヤを訪ねて来たカーサに突進してそのまま受け止められる。
「あっ! カーサおばさん、こんにちは!」
「シンヤくん!」
「パーリちゃん!」
シンヤはあっという間に興味がカーサとパコの娘、パーリに移ってしまったようで、手に持っていた1冊の本を放り投げて、シロちゃんから降りると、パーリの手をとって走って行ってしまう。
カーサはパコがキャッチしようとしたその本を、横からかすめ取る。
「カーサ、何するんだよ」
「たぶん、あなたは、みちゃ、駄目な、気が、した」
カーサはその本もといマヤが密かに書いていた日記を見て、自分の判断は間違っていなかったと頷いた。
「マヤさん、返す、ね。今度は、取られちゃ、だめ、だよ」
「ありがとう……っ! ありがとうっ、カーサ!」
「なあカーサ、何が書いてあったんだよ」
「パコ、は、見ちゃ、だめな、こと」
「えー、気になるじゃんかー」
「もし、見たら、私、でも、守って、あげ、られるか、わから、ない」
カーサが指差す先に目を向けたパコは、思わずヒッと息を詰まらせた。
そこには、鬼の形相で日記を抱えてこちらを見るマヤの姿があったのだ。
「わ、わかった、もう聞かない……」
「うん、それが、いい」
カーサはパコの頭を撫でる。
「それにしても、シンヤはパーリちゃんと仲がいいんだな」
「そうみたいですね。そうだお義兄さん、この前の書類なんですが……」
カーサとパコのところにやってきたウォーレンに、パコが仕事の話を始めた。
パコはカーサと結婚したため、王であるマヤと姻戚関係にあるわけだが、そもそもキサラギ亜人王国は王であるマヤからして貴族っぽさが全く無いので、パコもカーサもウォーレンも、それぞれ書記官、王立騎士団団長、王立騎士団副団長として働いている。
「休みの日くらい安めばいいのに……」
「うん、休むの、大事。そうだ、休むと、言えば、ラッセルが、ずっと、休んで、ない、って、この前、ナタリーさんに、聞いた」
「あー、らしいね。ラッセルくんに後で言っとくよ」
せっかく新婚なのに、全く休んでいないラッセルに、マヤは後で王の命令として休むように伝えようと決める。
とはいえ、先日ついに完成したパソコンに情報を入れて諜報部隊の仕事を効率化しよう、とずっとパソコンに向かっているようなので、休ませるのも難しいかもしれないが、国王の命令だと言うことにすれば流石に休むだろう。
「うん、言って、おいて。ナタリーさん、が、かわい、そう、だから」
「それで、今日はどうしたの?」
「そう、だった。これ」
「手紙? もしかしてオリガから?」
「うん。昨日、届いた」
「どれどれ……」
マヤは手紙の内容に目を通して、いたずらっぽく笑った。
「ウォーレンさん、数日シンヤの面倒を見ててくれるかな?」
「…………はあ、またか……」
マヤの言葉に、ウォーレンはやれやれと肩をすくめる。
そのやり取りに何かを察したパコは、カーサが何か言う前にため息をついた。
「パコ、酷い。まだ、私、何も、言って、無い」
「はあ…………言わなくてもわかる。行くんだろ?」
「うん、パーリを、よろしく」
「よっし、そうと決まればさっそくオリガを手伝いに行こうか!」
「うん、久し、ぶりに、戦える。ちょっと、太って、きてた、から、助かる」
カーサはお腹の肉をつまみながら、無表情でそんなことを言う。
「えー、全然わからないけどなあ……」
「そんな、こと、ない。マヤさん、も、ちょっと、太って、るよ?」
「なっ!? た、確かにちょっとお肉がついてきちゃったかなあ、って思ってたけど、太ったほどじゃないでしょ?」
マヤは慌てて自分のお腹や二の腕などを揉んだり摘んだりする。
「ううん、太った。それは、それで、可愛い、けど」
気にするほどじゃない、と言う視線でマヤの身体を見ながらフォローするカーサの言葉に、マヤは余計に傷ついた。
「う~~、フォローするってことは本当に太ってるってことじゃんっ。こうなったら、本気で戦って、ちょっとでも痩せてやる! マッシュ!」
マヤが地面に手をかざして叫ぶとマッシュが強制的に召喚される。
「…………まさかマヤ、また出るのか?」
突然召喚されたにも関わらず、マッシュは驚いた様子もなくマヤに尋ねる。
「うん、今回は本気でいくからね。マッシュにも来てもらうよ!」
「ふふっ、マヤさんが、本気、って、相手が、かわい、そう」
今回オリガが戦っているらしい相手は、キサラギ亜人王国と同盟関係にあるヘンダーソン王国内の有力貴族らしい。
亜人でオリガの妹でもあるハーフエルフのクロエを妻に迎えたジョン王に対する反乱らしく、強さは大したことはないが、数の多さと範囲の広さが厄介で、手伝ってほしいらしい。
SAMASを派遣してもいいのだが、一応キサラギ亜人王国の正規軍である彼らを同盟国とはいえ他国の内戦に派遣するのははばかられる、ということでマヤとカーサが向かうことにしたのだ。
と、言うのは建前で、マヤがただたんに久しぶりに身体を動かしたいだけである。
「さっ、行くよ、マッシュ! カーサ!」
「はあ、了解だ」
「うんっ」
マヤに続いて、マッシュとカーサもシロちゃんに跳び乗ると、マヤたちは高速で街道をかけていく。
あっという間にオリガのところにやってきたマヤたちは、すでにたくさんの敵を魔法で無力化しているオリガを見て思わず笑ってしまった。
「あははっ、相変わらずすごいね、オリガは。これ、私たち必要だった?」
「必要でしたよっ。まだ何箇所もこういう戦場があるんですから」
「そっか。それにしても、なんだか久しぶりだね、こういうの」
マヤが楽しそうにそう言って――
「久しぶりなものか。半年くらい前にもこうして出撃していたではないか。全く、お前いつまで経っても国王としての自覚が足りんぞ?」
マッシュが呆れ気味にマヤをたしなめ――
「ふふっ、やっぱり、マヤさんと、いると、退屈、しない」
カーサがわずかに笑って――
「確かに、お二人が結婚する前に戻ったみたいですね。昔みたいにお願いしますよ?」
オリガがからかうようにマヤたちへと問いかけ――
「「まかせて」」
マヤとカーサが異口同音に答える。
ある日突然異世界に女の子として転生し、如月真也からマヤになった彼、もとい彼女の異世界生活は、これからも続いていく。
~おしまい~
「こらっ! 待ちなさーいっ!」
マヤの姿で変わったことといえば、出産を経て多少身体つきがふっくらしたことくらいだが、それもスタイルが崩れるほどではないので、ほぼ昔のままと言っていいだろう。
「あははははっ! たのしー!」
強化魔法でシロちゃんを強化するその男の子は、マヤと同じ白い髪と蒼緑の瞳に、ウォーレンと同じ浅黒い肌と年の割には大柄でがっしりとした体躯をしていた。
「もうっ! シロちゃんもシンヤのこと止めてよー!」
「わふっ! それは無理なのです、魔物使いの命令は絶対なのです!」
「はははっ、まさかマヤから魔物を奪うやつがいるなんてなー」
マヤとシンヤの追いかけっこを、ウォーレンは楽しそうに見ていた。
そんなのんきなウォーレンに、マヤの視線が突き刺さる。
「感心してないであなたも手伝って!」
「お、おう……でも、何でマヤはそんなに必死にシンヤを追いかけてるんだ?」
「うぐっ…………そ、それは……」
マヤは途端に勢いが弱まって言葉に詰まる。
「おっ、と、シンヤ、くん、久し、ぶり」
マヤがウォーレンの言葉になにも返せないでいる間に、逃げ回っていたシンヤとシロちゃんは、マヤを訪ねて来たカーサに突進してそのまま受け止められる。
「あっ! カーサおばさん、こんにちは!」
「シンヤくん!」
「パーリちゃん!」
シンヤはあっという間に興味がカーサとパコの娘、パーリに移ってしまったようで、手に持っていた1冊の本を放り投げて、シロちゃんから降りると、パーリの手をとって走って行ってしまう。
カーサはパコがキャッチしようとしたその本を、横からかすめ取る。
「カーサ、何するんだよ」
「たぶん、あなたは、みちゃ、駄目な、気が、した」
カーサはその本もといマヤが密かに書いていた日記を見て、自分の判断は間違っていなかったと頷いた。
「マヤさん、返す、ね。今度は、取られちゃ、だめ、だよ」
「ありがとう……っ! ありがとうっ、カーサ!」
「なあカーサ、何が書いてあったんだよ」
「パコ、は、見ちゃ、だめな、こと」
「えー、気になるじゃんかー」
「もし、見たら、私、でも、守って、あげ、られるか、わから、ない」
カーサが指差す先に目を向けたパコは、思わずヒッと息を詰まらせた。
そこには、鬼の形相で日記を抱えてこちらを見るマヤの姿があったのだ。
「わ、わかった、もう聞かない……」
「うん、それが、いい」
カーサはパコの頭を撫でる。
「それにしても、シンヤはパーリちゃんと仲がいいんだな」
「そうみたいですね。そうだお義兄さん、この前の書類なんですが……」
カーサとパコのところにやってきたウォーレンに、パコが仕事の話を始めた。
パコはカーサと結婚したため、王であるマヤと姻戚関係にあるわけだが、そもそもキサラギ亜人王国は王であるマヤからして貴族っぽさが全く無いので、パコもカーサもウォーレンも、それぞれ書記官、王立騎士団団長、王立騎士団副団長として働いている。
「休みの日くらい安めばいいのに……」
「うん、休むの、大事。そうだ、休むと、言えば、ラッセルが、ずっと、休んで、ない、って、この前、ナタリーさんに、聞いた」
「あー、らしいね。ラッセルくんに後で言っとくよ」
せっかく新婚なのに、全く休んでいないラッセルに、マヤは後で王の命令として休むように伝えようと決める。
とはいえ、先日ついに完成したパソコンに情報を入れて諜報部隊の仕事を効率化しよう、とずっとパソコンに向かっているようなので、休ませるのも難しいかもしれないが、国王の命令だと言うことにすれば流石に休むだろう。
「うん、言って、おいて。ナタリーさん、が、かわい、そう、だから」
「それで、今日はどうしたの?」
「そう、だった。これ」
「手紙? もしかしてオリガから?」
「うん。昨日、届いた」
「どれどれ……」
マヤは手紙の内容に目を通して、いたずらっぽく笑った。
「ウォーレンさん、数日シンヤの面倒を見ててくれるかな?」
「…………はあ、またか……」
マヤの言葉に、ウォーレンはやれやれと肩をすくめる。
そのやり取りに何かを察したパコは、カーサが何か言う前にため息をついた。
「パコ、酷い。まだ、私、何も、言って、無い」
「はあ…………言わなくてもわかる。行くんだろ?」
「うん、パーリを、よろしく」
「よっし、そうと決まればさっそくオリガを手伝いに行こうか!」
「うん、久し、ぶりに、戦える。ちょっと、太って、きてた、から、助かる」
カーサはお腹の肉をつまみながら、無表情でそんなことを言う。
「えー、全然わからないけどなあ……」
「そんな、こと、ない。マヤさん、も、ちょっと、太って、るよ?」
「なっ!? た、確かにちょっとお肉がついてきちゃったかなあ、って思ってたけど、太ったほどじゃないでしょ?」
マヤは慌てて自分のお腹や二の腕などを揉んだり摘んだりする。
「ううん、太った。それは、それで、可愛い、けど」
気にするほどじゃない、と言う視線でマヤの身体を見ながらフォローするカーサの言葉に、マヤは余計に傷ついた。
「う~~、フォローするってことは本当に太ってるってことじゃんっ。こうなったら、本気で戦って、ちょっとでも痩せてやる! マッシュ!」
マヤが地面に手をかざして叫ぶとマッシュが強制的に召喚される。
「…………まさかマヤ、また出るのか?」
突然召喚されたにも関わらず、マッシュは驚いた様子もなくマヤに尋ねる。
「うん、今回は本気でいくからね。マッシュにも来てもらうよ!」
「ふふっ、マヤさんが、本気、って、相手が、かわい、そう」
今回オリガが戦っているらしい相手は、キサラギ亜人王国と同盟関係にあるヘンダーソン王国内の有力貴族らしい。
亜人でオリガの妹でもあるハーフエルフのクロエを妻に迎えたジョン王に対する反乱らしく、強さは大したことはないが、数の多さと範囲の広さが厄介で、手伝ってほしいらしい。
SAMASを派遣してもいいのだが、一応キサラギ亜人王国の正規軍である彼らを同盟国とはいえ他国の内戦に派遣するのははばかられる、ということでマヤとカーサが向かうことにしたのだ。
と、言うのは建前で、マヤがただたんに久しぶりに身体を動かしたいだけである。
「さっ、行くよ、マッシュ! カーサ!」
「はあ、了解だ」
「うんっ」
マヤに続いて、マッシュとカーサもシロちゃんに跳び乗ると、マヤたちは高速で街道をかけていく。
あっという間にオリガのところにやってきたマヤたちは、すでにたくさんの敵を魔法で無力化しているオリガを見て思わず笑ってしまった。
「あははっ、相変わらずすごいね、オリガは。これ、私たち必要だった?」
「必要でしたよっ。まだ何箇所もこういう戦場があるんですから」
「そっか。それにしても、なんだか久しぶりだね、こういうの」
マヤが楽しそうにそう言って――
「久しぶりなものか。半年くらい前にもこうして出撃していたではないか。全く、お前いつまで経っても国王としての自覚が足りんぞ?」
マッシュが呆れ気味にマヤをたしなめ――
「ふふっ、やっぱり、マヤさんと、いると、退屈、しない」
カーサがわずかに笑って――
「確かに、お二人が結婚する前に戻ったみたいですね。昔みたいにお願いしますよ?」
オリガがからかうようにマヤたちへと問いかけ――
「「まかせて」」
マヤとカーサが異口同音に答える。
ある日突然異世界に女の子として転生し、如月真也からマヤになった彼、もとい彼女の異世界生活は、これからも続いていく。
~おしまい~
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(7件)
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遣りってなんだよと思ったら槍の事か
文節変換だとなんでその変換なんだよとIMEにツッコミたくなるね
偶にある
マヤはセシリオを切りつけた
じゃなくて
マヤはマヤを切りつけた
みたいなキャラの名前間違いよりはたいした事じゃないけど
マヤは何処に?🤔
中空を見つめてるのがハッセルになってるし先ほどの態度はラッセルじゃなくてハミルトンじゃないのか
感想、というか誤字報告? ありがとうございます。
(アルファポリスは誤字報告機能がない(なろうにはあったような気が?)ので、やり方としては感想で送ってもらうしかないんですよね(もし誤字報告のような機能があるなら誰か教えていただけると))
以前感想くれた方ですよね。
まずは、最新話まで読んで下さってありがとうございます。
そして、ご指摘全くそのとおりでした。
先ほど修正しておきました。
申し訳ありません、大変助かりました。
それにしても投稿前に読み返した時は全く気が付きませんでした……。
書き上げた直後に読み返してそのまま上げるのが良くないのかもしれません。(そもそもストックがないのがいけない気もしますが)
書いた直後なので、話が全部わかってるのもあって、じっくり読み返してるつもりで流し読みになっちゃってるのかもです。
できるだけ無くそうとは思いますが、今後も投稿を続けていく限り出てくる可能性はあるので、見つけたら教えてくれると大変助かります。
最後にもう一度、誤字報告も大変助かりましたが、何より最新話まで読んでくれているようで嬉しかったです。
ありがとうございました。
これからも楽しんでもらえると嬉しい限りです。