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第7巻第5章 キサラギ亜人王国

ウォーレン

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 セシリオの力でルーシェたちと合流したウォーレンは、ドアに変身したルースのドアノブに手をかけた。

「準備はいいか?」

 ウォーレンの言葉に、その場にいた全員が無言で頷く。

 それを確認したウォーレンは、勢いよくドアを開け放つ。

「マヤっ!」

 先頭に立っていたウォーレンが最初に目撃したのは、ボロ雑巾のようになって倒れているマヤの姿だった。

 マヤはわずかに顔を動かしてウォーレンを視界に収めると、バツが悪そうに顔を背ける。

「マヤ……」

 それを見て駆け寄るのを躊躇ったウォーレンの背中を2つの手が叩きつけるような勢いで押し出した。

 あまりの強さに、ウォーレンはそのままつんのめってしまう。

「お兄ちゃんが躊躇してどうするんですか!」

「うん、お兄、ちゃんは、マヤさんの、こと、信じて、あげないと、駄目」

 オリガとカーサから強烈な後押しにウォーレンはしっかりと頷いた。

「そう、だよな。行ってくる」

 ウォーレンはマヤへと駆け出す。

 未だにウォーレンの方を見ようとしないマヤに、ウォーレンはまた少し不安になってしまうが、それでもウォーレンは足を止めることはなかった。

「まさか再び貴様らが戻って来るとは思いませんでしたが、もう手遅れです」

 リーダー格の神はやってきたウォーレンたちに告げながら、ウォーレンの進路を塞ぐ。

 しかしウォーレンは足を止めない。

 それがわかっていたように、ルーシェたちがウォーレンと復権派の神々の間に空間跳躍で現れ、ウォーレンがマヤのところに辿り着けるように進路を確保する。

「行ってください」

「おうっ!」

 ウォーレンは力強く応えると、マヤへと近づいていく。

「マヤ」

 マヤのすぐ脇に立ったウォーレンからの呼びかけに、マヤはビクッと肩を震わせる。

 マヤは誰よりも近くにいて欲しかったはずのウォーレンが直ぐ側にいるにも関わらずその顔を見ることすらできなかった。

「すまなかった!」

「…………えっ? どうしてウォーレンさんが謝るの…………?」

 マヤはウォーレンからを顔を背けたままウォーレンに問いかける。

「俺の説明が足りなかったせいで、マヤを不安にさせたんだよな? オリガやカーサ、それにマッシュから教えてもらった。俺のつまらないプライドのせいで、勘違いさせちまったみたいだ。本当にすまなかった」

「だから……それってどういうこと……?」

 普段のマヤであればここまで聞けば事情を察することができるだろうが、今のマヤの精神状態では、ウォーレンの言葉だけでは何がなんだかさっぱり分からなかった。

「だって……ウォーレンさんは、エスメラルダさんと駆け落ちしたんでしょ?」

「いやそれは――」

「そんなわけないじゃないですかっ! やっぱりそういう勘違いを……っ! 私はリオ一筋ですっ!」

「その通りだ! 俺のエスメが浮気なんてするわけねえだろっ! 勘違いだったとしても、二度とそんなこと言うんじゃねーぞ、マヤ!」

 ウォーレンの言葉をぶった切ってマヤの言葉に反応したのは、復権派の神々と戦っているエスメラルダとセシリオだった。

 ちなみに大勢の前で叫んだ最初のエスメラルダの言葉にセシリオは耳を赤くしており、続くセシリオの言葉にエスメラルダは頬を染めていたが、激しい戦闘の最中にそのことに気がついた者はいなかっただろう。

「――と、言うことだ。マヤ、俺はエスメラルダさんと駆け落ちなんてしてない。エスメラルダさんは確かに魅力的な女性だが、俺が好きなのはマヤだけだ」

「ウォーレンさん……で、でもっ! 私が見た時、ウォーレンさん、エスメラルダさんに愛してるって……」

 マヤの言葉に、事情を知らないセシリオやマルコスの視線がウォーレンへと集まる。

 その様子に、事情を知るエスメラルダはセシリオの頭を引っぱたき、同じく事情を知っているルーシェは楽しそうに笑っていた。
 
「それも誤解だ。出発前にエスメラルダさんと話してた時のことだろ? あの時の会話は確か……」

 ウォーレンは覚えている限りの会話の内容をマヤに説明する。

 途中で誤解であったことを理解したマヤがエスメラルダに視線を向けると、エスメラルダもマヤの方を見て頷き返した。

「…………じゃあ、私は別に振られたわけじゃなかったんだ……」

 生きる希望を失っていたマヤの目に光が戻る。

 ウォーレンは屈み込むと自分を見上げるマヤの背中に手を入れてその上体を起こす。

「当然だ。そもそも、俺がエスメラルダさんと一緒に各国を回ってたのだって、もっとマヤの役に立ちたかったからだしな」

「………………そう、なんだ……」

 マヤは勘違いしていたことと、変わらずウォーレンが自分のことを好きでいてくれることとを自覚し、急速に恥ずかしくなってウォーレンから顔をそらした。

 その耳は真っ赤に染まっている。

「今回は俺の言葉が足りなかったんだ。最初から正直に話していれば、マヤを不安にさせることもなかったわけだしな。それは本当にすまなかった」

 ウォーレンがマヤに向かって頭を下げる。

「いやいやっ、私が勝手に勘違いしたんだし……謝るのは私の方で……今だってこんな汚い私を抱き起こしたせいでウォーレンさんの服汚しちゃってるし……」

 慌て始めたマヤに、ウォーレンは苦笑してその頭に手を置いた。

「それじゃあお互い様ってことにしとかないか?」

「…………それは…………うん、そう、する」

 マヤは俯いて小さく呟いた。

 2人の間に一件落着、という空気が流れ始めた瞬間、マヤの頭にもふもふの小さな前足が叩きつけられた。

「いでっ……!?」

「何を和んでいる! 調子が戻ったならお前も戦いに加われ!」

「ちょっ……!? ちょっと酷いんじゃないのマッシュ! 私さっきまでめちゃくちゃ落ち込んでたんだからねっ! もうちょっといたわってくれてもいいじゃんっ!」

「そんなことは嫌というほどわかっている! お前は私の名付け親だろ! お前の感情は私にも流れ込んできておるのだ。お前が死ぬほど落ち込んでいたことも、今はさっきまでの落ち込みが信じられなくなるほど上機嫌なのも、わかっているから言っているのだ! ………………全く、心配掛けおって……」

「マッシュ……」

「こらっ! 私のことを撫でている場合かっ! さっさと始めるぞ」

 マヤの手を振りほどいたマッシュは、マヤの頭に乗る。

「うん…………ありがとね、マッシュ」

 マヤが人魔合体を使うおうとしたした瞬間、マヤに全身を魔法の光が包み、破れた服が修復されていき、汚れた髪や身体があっという間に綺麗になった。

 マヤが振り返ると、こちらに手をかざしていたオリガが微笑む。 

「好きな人の前なんですから、綺麗にしないといけませんよ?」

「オリガ…………ありがとう。それとごめんね、後でちゃんと謝るからっ!」

 マヤは改めて人魔合体を発動し、マッシュと合体して復権派の神々と戦うルーシェたちへと加勢した。
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