転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

文字の大きさ
上 下
309 / 324
第7巻第3章 決戦

神の襲来

しおりを挟む
「防ぐ方法はない、か」

 マヤは諜報部隊からの報告を受けて覚悟を決めた。

 レスリーから得た情報をもとに、神が復活するという黒いドアの在り処を捜索してもらったのだが、そこはいくつもの魔法で封印されており、簡単には近づくことができなかったらしい。

「すみません。僕たちがその魔法を解除できればよかったんですが……」

「ううん、ラッセル君のせいじゃないって。そんな大量の魔法、私やルーシェとかが力ずくで壊すか、オリガやエメリンさんに解除してもらうしかやりようがないわけだし」

 実際にマヤか原初の魔王のうちの誰かがその魔法を破壊しに行くことも考えたが、神の復活が明日であることを考えると、万が一魔法の破壊で消耗するだけ消耗して、結局復活を止められなかったりすると取り返しがつかない可能性があるため、この方法は断念することになった。

「ありがとうございます。それで陛下、明日、僕たちは何をしていればいいんでしょうか」

「諜報部隊のみんなには、それぞれの担当地域を警戒しておいてほしい」

「戦わなくて良いのですか?」

 ラッセル率いるキサラギ亜人王国の諜報部隊は、戦闘を専門とするSAMASサマスに比べれば強くはないが、それでも他国の軍隊ぐらいは圧倒できる実力がある。

 ラッセルが戦わなくていいのか、と尋ねるのも当然の反応だった。

「戦わなくていいよ。というか、今回はSAMASサマスも後方支援だから」

「なるほど……僕たちでは足手まといですか」

「うん、正直に言えばそういうこと。でも、神はどこから来るかわからないからね。例のドアだって存在自体が私たちを惑わすための罠かもしれないし、原初の魔王に出来ることが全部できるなら空間跳躍も使えるはずだから、本当にどこに出てくるかわからない。だから、諜報部隊に世界中を警戒してもらうのは重要なんだよ。だから、お願いね」

「わかりましたっ! 神が現れたら即座にお知らせします!」

「期待してるよ」

 マヤの言葉にしっかりと頷いたラッセルは、そのまま部屋を出ていった。

「さて、出来ることはやったし、後は神が復活するのを待つだけか……」

 マヤは分厚い雲が垂れ込める空を見上げ、神妙な面持ちでつぶやいた。

***

 神が復活する日とされた日、その正午、それは突然始まった。

「なんだあれは!?」

 世界中の都市で、突然光を柱が地面から吹き出したのだ。

 それはジョンとクロエがいるヘンダーソン王国の王都も例外ではなかった。

「始まったか……」 

 ジョンが見下ろす市街では、突然の出来事に市民が騒然としていた。

 ジョンは国王としての礼服ではなく、軍の最高司令官として軍服に身を包んでいた。
 
「私も出たほうがいいかな?」

 ジョンとともにマヤから話を聞いていたクロエが、ジョンの隣にやってくる。

 王妃のティアラに手をかけ、今にもドレスを脱いで飛び出して行きそうなクロエをジョンは制止する。

「いや、クロ姉はここにいて」

「でも……」

 ジョンの王位継承とともに王妃となったクロエは、もう王立魔導師団の団長ではない。

 実態としては未だにヘンダーソン王国最強の魔法使いであることは確かなのだが、それでも王妃は王妃であり、今のクロエは守る側ではなく守られる側だ。

「でも、じゃないよクロ姉。気持ちはわかるけど、クロ姉までいなくなったら僕のいる前線以外の兵は誰の指示で戦えばいいんだい?」

「それはそうかもしれないけど……」

「クロ姉ならここからでも僕が戦ってるのが見えるでしょ? だから、本当に危なそうだったらその時は助けに来て。それまではここで兵の指揮と市民の避難誘導をお願い」

「わかった。気をつけてねジョンちゃん」

「うん、クロ姉もね」

 ジョンはクロエの肩をポンと叩くと、そのまま王の執務室を出ていった。

***

「始まったみたいだね」

 マヤは各地の諜報部隊員から寄せられる報告を聞きながら地図にバツを書き込んでいっていた。

「どんどんと近づいて来ているな。我々の居場所がわかっているのか?」

 いつでも人魔合体ができるようにマヤの近くに控えているマッシュが地図を見ながら言った。

「私たちの居場所がわかっているって言うより、あのレオノルさんが捕まえったって言う、神の部下? みたいな人がいる場所を目指しているんじゃないかな? まあ、そのためにあえて拘束したまま生かしておいたわけなんだけど」

「では、ここまでは狙い通りだと?」

「そうとも言えるね。ここまで世界中で同時多発的に神の攻撃が発生するとは思ってなかったけど」

 諜報部隊の報告が正しければ、世界各国の主要都市で、地面から光の柱が吹き出し、そこから白銀の魔物が次々現れて人々を襲っているらしい。

 その白銀の魔物というのが、マヤが操る聖魔石の魔物達とそっくりの見た目らしく、万が一マヤが予め神の襲来を各国首脳に伝えていなければ、今頃この騒ぎはすべてキサラギ亜人王国の仕業だと誤解されて、神から襲撃を受ける前に、人間国家からの総攻撃を受けて収集がつかなくなっていただろう。

「空間跳躍も時間停止も可能なのだろう? これくらい起きてもおかしくあるまい。最初から時間停止を使われなかっただけましだ」 

「それはそうだね。というか、神はしばらく時間停止を使わないんじゃないかな」

「どうしてそう思うのだ?」

「私が産みの神から聞いた情報だと、今襲ってきてる神は復権派なんだよ。つまり、神が再び人を支配しよう、っていう連中なわけだよね。ってことは、時間停止中に襲撃なんてしても、人々は神の力を知ることができないわけで、神の力を知らなかったら従う気にもなれないよね」

「そういうことか。確かに一理あるな。しかしそれだと、神に抵抗する者には時間停止をつかう、ということになる。つまり結局我々には時間停止をつかう、ということだろう?」

「そういうこと。だから油断できるようになった、とかそういうことじゃないよ。ーーーっと、来るみたいだね。マッシュ!」

 マヤがマッシュに声をかけた瞬間、マッシュの身体を光が包み込み、その光がマヤへと降り注ぐ。

 一瞬マヤが強烈な光に包まれたかと思った次の瞬間、マヤはうさぎ耳と丸いうさぎの尻尾が生えた姿に変身していた。

「貴様がマヤか。神の前でそのような珍妙は格好をしおって、神への敬意が感じられん。平伏せよ」

 空間跳躍で現れた初老の男性の言葉は、言葉それ自体が力を持っており、マヤは一気に体重が重くなったように錯覚する。

 人魔合体の上に自身への強化魔法をかけていなければ、今の言葉だけで地面に突っ伏していただろう。

「珍妙って酷くない? 可愛いって言ってほしいな、おじさんっ!」

 マヤは聖剣を手に、同じく聖剣を持つシャルルと連携して、神へ攻撃を仕掛けたーーー。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。 旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...