転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第7巻第3章 決戦

襲撃の気配

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「ここがキサラギ亜人王国ですか。なんとも平和ボケした国ですね」

 神が封印される前に唯一生み出した男は、キサラギ亜人王国を上空から見下ろして吐き捨てる。

 男は国境を警備しているらしい魔物達を、上空を通ることで難なく回避し、キサラギ亜人王国への侵入を成功させていた。

「この調子なら、マヤを始末するのも難しくないかもしれません」

 男は地上近くまで下がると、キサラギ亜人王国の王の屋敷を目指して進み始める。

「見ない顔ですね?」

 森の中を進む男の進路を塞いだのは、1人のエルフの女だった。

「邪魔だ」

 男はそのエルフの女性をかわして進もうとするが……。

「誰だか知らないけれど、ちょっとお話しましょうよ」

 エルフの女性の言葉に、男は思わず動きを止めていた。

 男にはその女性の言うことを聞く理由などなかったはずだが、なぜだか無視できない。

「あら、お話してくれるの? 嬉しいわ」

「何者だ、貴様……いや、貴様は……っ!?」

「自己紹介がまだだったわね。私はレオノル。ほら、あなたのお名前は?」

「レスリーだ」

 男、改めレスリーは拒むこともできず名乗ってしまう。

「レスリーさん、ね。それじゃあ向こうでお話しましょう。いい木陰があるのよ」

 踵を返して歩き出すレオノルに、レスリーはついていくことしかできない。

(くそっ、迂闊だった。まさかこいつの魅了がこれほど強力だったとは……)

 レスリーは後悔するが、もう遅い。

 すでに完全にレオノルの魅了は完了しており、レスリーはレオノルの言うことに逆らえなくなってしまっていた。

 レスリーの誤算は、レオノルがマヤの強化魔法で数段強くなっていたことだろう。

 それを知らずに、安易にレオノルに近づいてしまったばかりに、レスリーは魅了されてしまったのだ。

 こうしてマヤの知らないところで襲撃は未然に防がれたのだった。

***
 
「見えてるのにかわせないーーーーっ!」

 マヤは予測できている攻撃にもろに食らって床に倒れたまま、声を上げた。

「本当に、見えてるからと言ってそれがかわせるかは別問題なんだと実感する」

 同じくルーシェの攻撃をくらい続けているシャルルも、マヤの隣でつぶやく。

「未来予測に慣れるまでは時間がかかるからね。さあさあ、立って立って。戦うしか慣れる方法はないよ」

 ルーシェはマヤたちに休憩する間を与えずに攻撃を仕掛けてくる。

「ああもうっ! ルーシェ厳しすぎ!」

「時間がないから。ほら、寝っ転がってちゃ死んじゃうよっ!」

 マヤは大きく跳躍したルーシェに殴られる映像が頭に浮かび、慌てて立ち上がると迎え撃つべく構える。

 構えたはいいものの、マヤは見えていた攻撃を受けて吹き飛ばされたのだった。

***

「よっし! これで今日は勝ち越しだね!」

 マヤは床に倒れるルーシェを見下ろして、ニッと笑った。

「まさかこんなに早くものにするとはね」

 ルーシェは回復魔法で傷を治して立ち上がる。

 誰かが回復魔法を使わないといけない状態になるまでを1つの試合として、毎回誰が回復魔法を使わないといけなくなるかで勝ち負けを決めていたマヤたちは、今日初めてルーシェに勝ち越して訓練を終えたのだ。

「あんなスパルタなやり方としいてよく言うよ。おかげで何度死ぬそうになったか」

「マヤの言う通りだ。ルーシェ、時間がないのはわかるが、あれはやりすぎだ」

 ちなみに訓練の日々を通してシャルルもルーシェと仲良くなっており、今ではルーシェのことを呼び捨てにしている。

「そうそう。まだ後1ヶ月位はあるはずでしょ?」

「1ヶ月? なんのこと?」

「え? 神が攻めてくるまでの時間だけど……確か、オーガの王族に伝わる伝承に書いてあったのがあと1ヶ月後だったんだよ。だから、まだ後1ヶ月位あると思ってたんだけど……」

「オーガの伝承ではそうかもしれないけど、実際にいつ来るかはわからないよ。あの伝承だって何百年も前に書かれたものだから、数ヶ月くらいのズレがあってもおかしくないだろうし」

「えっ……それじゃあもしかして今日明日神が襲ってきたりするかもしれないってこと?」

「うん、否定はできない」

 ルーシェの言葉にマヤとシャルルは息を呑む。

 ちょうどそれを見計らったかのように、ルースの封印空間のドアが開き、レオノルが入って来た。

「あれ? どうしたの急に? なんか用事あったっけ?」

 マヤは突然現れたレオノルに、首を傾げる。

 レオノルがマヤに会いに来るのはSAMASサマス関係の話がある時だけなので、何かあっただろうか、と記憶を探ってみるが、何も思いつかなかった。

「陛下、急ぎお耳に入れておきたいことがあり参りました」

「別にそんなにかしこまらなくても……まあいいや。で、何を伝えに来たの?」

「はい、陛下とシャルロット姫、そして原初の魔王のお三方が戦うという神の、その下僕を名乗るレスリーという男を捕らえて色々聞いてみたところ、神はあと3日ほど復活し、世界を襲い始めるようです」

「………………」

 伝承より早く神が復活する可能性を聞かされた矢先の出来事に、マヤは言葉を失ってしまった。

***

 知らせを受けた直後、マヤは早々にキサラギ亜人王国の中心人物を招集し、対策を会議を開いた。

 事態が事態なので、ルースやセシリオの力も借りて、キサラギ亜人王国の中心人物に加えてジョンヘンダーソン王やモーガン・アブロシア皇帝などできる限りの各国首脳も集めている。

「集まってもらって早々本題だけど、3日後に世界滅亡の危機が来る。今日はその対策を考えたい」

「発言よろしいか」

「許可するよ、王子様」

「私はもう王子ではない。マヤ王よ」

「これは失礼、ヘンダーソン王」

 マヤの言葉にジョン王は頷くと話し始める。

「世界の危機とはなんだろうか? 見たところ、この場には原初の魔王と呼ばれる最強の魔王を含めたすべての魔王がいらっしゃるようだ。それだけの戦力があってなお、危機と言える敵が来るとでも?」

 ジョン王の言葉に、他国の首脳たちも一様に頷く。

「残念ながらその通り。敵はかつて原初の魔王を生み出したとされる魔神が命がけでなんとか封印した神。これが人の世界を終わらせに来る」

 にわかには信じがたいマヤの言葉に、会場は騒然とする。

 しかしながら――。

「嘘ではないですよ、マヤが言っていることは」

 とルーシェが告げ。

「俺もマヤが嘘をついてねえって保証する。嘘なら良かったんだがなあ……」

 とセシリオがため息混じりに話し。

「私もマヤの言葉に嘘がないと宣言しよう」

 とマルコスが宣言したことで、会場は一転して静まり返る。

「信じてもらえたみたいだから、さっそく今できることをやっていこう」

 会場を見渡して言ったマヤに、その場にいた全員が真剣な面持ちで頷いた。
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