307 / 324
第7巻第3章 決戦
誰にも言っていなかったこと
しおりを挟む
「ねえ、まだ起きてる?」
ルーシェにこてんぱんにやられた日の夜、マヤは隣のベッドに声をかけた。
「ん? どうした?」
おやすみ、と挨拶を交わしてからそれなりに時間が経っている気がしたが、ウォーレンの声は以外にもはっきりしていた。
「ちょっとそっちのベッド行っていい?」
マヤはウォーレンの返事も待たず、自分のベッドから出ると、すぐ隣のウォーレンのベッドに潜り込む。
「また潰されても知らんぞ?」
マヤとウォーレンは恋人同士で、同じ部屋で寝てもいるのにベッドが別々なのは、同じベッドで寝ると高確率で小柄なマヤが大柄なウォーレンの下敷きになってしまうからだ。
「寝る前には出ていくからさ」
マヤは頭からウォーレンの布団に潜り込むと、ウォーレンの隣から顔を出した。
「で、どうしたんだ、急に」
「うーん? ちょっと、ね……」
マヤは布団の中でウォーレンの手を探し出すと、その指に自分の指を絡める。
「マヤ……?」
マヤがベッドに潜り込んできたので、そういうことかと思ってドキドキしていたウォーレンだったが、絡められたマヤの指先の冷たさに、ウォーレンの熱は吸い取られてしまう。
「あのね……」
マヤはウォーレンの手を握る力を強める。
なんでマヤがこんなに緊張しているのか、何がマヤをここまで不安がらせるのか、それは分からないウォーレンだったが、ただマヤを安心させるためにウォーレンもマヤの手を握り返した。
「ありがと……実は、さ。私みんなに秘密にしてることがあってね」
ゆっくりと話すマヤに、ウォーレンは静かに頷いた。
「実は私、この世界の人間じゃないんだよ」
「それは、なにかの冗談か?」
ウォーレンはマヤの言う事がにわかには信じられずそんなことを言う。
もちろんウォーレンはマヤを馬鹿にしたわけでは無いが、だからといってこの世界の人間ではないなどと言われてすぐに信じろという方が無理な話だ。
「冗談じゃないよ。本当の話。私の本当の名前は如月真也って言うんだ。ついでに、元々は男の人なんだよ?」
今にも泣き出しそうな顔で笑うマヤに、ウォーレンはなんと声をかけたものか分からず、その手を強く握ることしかできない。
「ある朝目が覚めたらさ、突然女の子の身体になってて、その上見たこともないところにいて、その上マッシュと一緒に囚われててね」
マヤはそれからのことをウォーレンに話していく。
マヤはわざとらしく明るく話しているが、ウォーレンにはそれが無理してそうしているのだとわかってしまった。
だから……。
「もういい……っ」
ウォーレンは話すマヤの頭を自分の胸へと抱き寄せる。
「ウォーレンさん……?」
「無理に話さなくてもいい……」
ウォーレンの寝間着が少しずつ濡れていく。
マヤはその時初めて、自分が涙を流していることに気がついた。
「あれ……おかしいな……?」
マヤは涙を拭うが、それが止まるとはなかった。
「泣きたいだけ泣いていい」
マヤは小さく頷くと、そのままウォーレンの胸を借りてしばらく泣いていた。
***
「それで、なんで突然あんなことを言い出したんだ?」
「それは……その前に、ウォーレンさん、信じてくれてるよね、私の言ったこと……」
「信じてるさ。あんなに辛そうなのまで演じきって嘘をつけるような女を好きになった覚えはない」
「もう……褒めても何も出ないからね? で、なんで今話したか、だったね」
マヤの言葉にウォーレンは頷く。
「ウォーレンさんには、秘密にしておきたくなかったんだよ。特に、私はこの世界の人間じゃないってことと、私が元の世界では男だったってことはね」
「この世界の人間じゃない、か。なあマヤ、マヤのもといた世界はどんな世界なんだ?」
「そうだなあ……例えば――」
マヤは現代日本のことを色々とウォーレンに話して聞かせた。
「魔法もなしにそんな文明を築いているとは、凄まじいな……」
「私からすれば魔法があるこの世界のほうがすごいけどね」
「その世界でマヤは男だったのか……マヤが男……」
「……っ! やっぱり、気持ち悪い? もしそう思うなら……」
マヤが、出し切ったと思っていた涙が再び溢れそうになるを堪えながら、続きを口にしようとした瞬間、その口はウォーレンの口に塞がれていた。
決して激しく情熱的というわけではないが、ウォーレンの優しさが感じられるキスに、マヤは静かに目を閉じる。
「気持ち悪かったら、こんなことできないだろ?」
「ウォーレンさん……」
「にしても、不安そうだった原因はこれだったんだな」
「だって……男だったんだよ? ううん、今でも心の何処かに、私は男だ、って気持ちがないわけじゃないんだよ。だから私は今だって男といえば男なわけで……」
「そんなもん誰だってそうだろ。俺にだって女みたいなところがあるぞ?」
「いや、それとこれとは――」
マヤが言い終わる前に、ウォーレンはマヤの頭に手を乗せる。
「違わねえよ。それに、こんなに可愛い男がいてたまるか」
ウォーレンはマヤの髪をわしゃわしゃと大きく撫で回す。
なんだか子供扱いされた気がして、マヤは頬を膨らませる。
「もう、私は真面目に言ってるのに……」
「俺だって真面目だ。昔のマヤがどうだったか、ってことがどうでもいいとは言わないけどな、俺が好きなのは今ここにいるマヤだ。昔のマヤじゃない。だから、昔のマヤがこの世界の人間じゃなかろうが、元々男だろうが、そんなことで今のマヤを嫌いになったりしないから安心しろって」
マヤはその言葉を聞いた途端、胸が温かくなるのを感じた。
ウォーレンと付き合うことになってからずっとずっと心にひかかっていたものが、その温かさで溶かされていくような、そんな気がした。
「ウォーレンさん……」
「安心したか?」
「うん……」
マヤはそのままウォーレンの腕を抱きしめるとゆっくりと目を閉じる。
「また潰されても知らないぞ?」
注意するウォーレンに、マヤは小さく首を振ると、上目遣いいたずらっぽく笑う。
「いいの、今日は。それに、ウォーレンさんなら潰さないでいてくれるでしょ?」
「無茶なことを言ってくれるなあ、うちの彼女様は」
心底幸せそうに笑うマヤに、ウォーレンは寝不足になる覚悟をして苦笑する。
マヤはウォーレンの温もりの中で眠りに落ちていったのだった。
ルーシェにこてんぱんにやられた日の夜、マヤは隣のベッドに声をかけた。
「ん? どうした?」
おやすみ、と挨拶を交わしてからそれなりに時間が経っている気がしたが、ウォーレンの声は以外にもはっきりしていた。
「ちょっとそっちのベッド行っていい?」
マヤはウォーレンの返事も待たず、自分のベッドから出ると、すぐ隣のウォーレンのベッドに潜り込む。
「また潰されても知らんぞ?」
マヤとウォーレンは恋人同士で、同じ部屋で寝てもいるのにベッドが別々なのは、同じベッドで寝ると高確率で小柄なマヤが大柄なウォーレンの下敷きになってしまうからだ。
「寝る前には出ていくからさ」
マヤは頭からウォーレンの布団に潜り込むと、ウォーレンの隣から顔を出した。
「で、どうしたんだ、急に」
「うーん? ちょっと、ね……」
マヤは布団の中でウォーレンの手を探し出すと、その指に自分の指を絡める。
「マヤ……?」
マヤがベッドに潜り込んできたので、そういうことかと思ってドキドキしていたウォーレンだったが、絡められたマヤの指先の冷たさに、ウォーレンの熱は吸い取られてしまう。
「あのね……」
マヤはウォーレンの手を握る力を強める。
なんでマヤがこんなに緊張しているのか、何がマヤをここまで不安がらせるのか、それは分からないウォーレンだったが、ただマヤを安心させるためにウォーレンもマヤの手を握り返した。
「ありがと……実は、さ。私みんなに秘密にしてることがあってね」
ゆっくりと話すマヤに、ウォーレンは静かに頷いた。
「実は私、この世界の人間じゃないんだよ」
「それは、なにかの冗談か?」
ウォーレンはマヤの言う事がにわかには信じられずそんなことを言う。
もちろんウォーレンはマヤを馬鹿にしたわけでは無いが、だからといってこの世界の人間ではないなどと言われてすぐに信じろという方が無理な話だ。
「冗談じゃないよ。本当の話。私の本当の名前は如月真也って言うんだ。ついでに、元々は男の人なんだよ?」
今にも泣き出しそうな顔で笑うマヤに、ウォーレンはなんと声をかけたものか分からず、その手を強く握ることしかできない。
「ある朝目が覚めたらさ、突然女の子の身体になってて、その上見たこともないところにいて、その上マッシュと一緒に囚われててね」
マヤはそれからのことをウォーレンに話していく。
マヤはわざとらしく明るく話しているが、ウォーレンにはそれが無理してそうしているのだとわかってしまった。
だから……。
「もういい……っ」
ウォーレンは話すマヤの頭を自分の胸へと抱き寄せる。
「ウォーレンさん……?」
「無理に話さなくてもいい……」
ウォーレンの寝間着が少しずつ濡れていく。
マヤはその時初めて、自分が涙を流していることに気がついた。
「あれ……おかしいな……?」
マヤは涙を拭うが、それが止まるとはなかった。
「泣きたいだけ泣いていい」
マヤは小さく頷くと、そのままウォーレンの胸を借りてしばらく泣いていた。
***
「それで、なんで突然あんなことを言い出したんだ?」
「それは……その前に、ウォーレンさん、信じてくれてるよね、私の言ったこと……」
「信じてるさ。あんなに辛そうなのまで演じきって嘘をつけるような女を好きになった覚えはない」
「もう……褒めても何も出ないからね? で、なんで今話したか、だったね」
マヤの言葉にウォーレンは頷く。
「ウォーレンさんには、秘密にしておきたくなかったんだよ。特に、私はこの世界の人間じゃないってことと、私が元の世界では男だったってことはね」
「この世界の人間じゃない、か。なあマヤ、マヤのもといた世界はどんな世界なんだ?」
「そうだなあ……例えば――」
マヤは現代日本のことを色々とウォーレンに話して聞かせた。
「魔法もなしにそんな文明を築いているとは、凄まじいな……」
「私からすれば魔法があるこの世界のほうがすごいけどね」
「その世界でマヤは男だったのか……マヤが男……」
「……っ! やっぱり、気持ち悪い? もしそう思うなら……」
マヤが、出し切ったと思っていた涙が再び溢れそうになるを堪えながら、続きを口にしようとした瞬間、その口はウォーレンの口に塞がれていた。
決して激しく情熱的というわけではないが、ウォーレンの優しさが感じられるキスに、マヤは静かに目を閉じる。
「気持ち悪かったら、こんなことできないだろ?」
「ウォーレンさん……」
「にしても、不安そうだった原因はこれだったんだな」
「だって……男だったんだよ? ううん、今でも心の何処かに、私は男だ、って気持ちがないわけじゃないんだよ。だから私は今だって男といえば男なわけで……」
「そんなもん誰だってそうだろ。俺にだって女みたいなところがあるぞ?」
「いや、それとこれとは――」
マヤが言い終わる前に、ウォーレンはマヤの頭に手を乗せる。
「違わねえよ。それに、こんなに可愛い男がいてたまるか」
ウォーレンはマヤの髪をわしゃわしゃと大きく撫で回す。
なんだか子供扱いされた気がして、マヤは頬を膨らませる。
「もう、私は真面目に言ってるのに……」
「俺だって真面目だ。昔のマヤがどうだったか、ってことがどうでもいいとは言わないけどな、俺が好きなのは今ここにいるマヤだ。昔のマヤじゃない。だから、昔のマヤがこの世界の人間じゃなかろうが、元々男だろうが、そんなことで今のマヤを嫌いになったりしないから安心しろって」
マヤはその言葉を聞いた途端、胸が温かくなるのを感じた。
ウォーレンと付き合うことになってからずっとずっと心にひかかっていたものが、その温かさで溶かされていくような、そんな気がした。
「ウォーレンさん……」
「安心したか?」
「うん……」
マヤはそのままウォーレンの腕を抱きしめるとゆっくりと目を閉じる。
「また潰されても知らないぞ?」
注意するウォーレンに、マヤは小さく首を振ると、上目遣いいたずらっぽく笑う。
「いいの、今日は。それに、ウォーレンさんなら潰さないでいてくれるでしょ?」
「無茶なことを言ってくれるなあ、うちの彼女様は」
心底幸せそうに笑うマヤに、ウォーレンは寝不足になる覚悟をして苦笑する。
マヤはウォーレンの温もりの中で眠りに落ちていったのだった。
0
お気に入りに追加
561
あなたにおすすめの小説
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
異世界なんて救ってやらねぇ
千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部)
想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。
結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。
色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部)
期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。
平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。
果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。
その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部)
【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】
【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる