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第7巻第2章 連携

マルコスの魔力

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「というわけで、マルコス様にお越しいただきました」

「うわー、本当に次はマルコスさんなの?」

 マヤはエメリンが連れてきたマルコスを見て顔をしかめる。

「せっかく来てやったというのに何だその態度は。帰るぞ?」

「ああっ、ごめんごめんごめんなさい! でもさあ、やっとセシリオさんに勝ったっていうのに、今度はマルコスさんと戦えって言われたんだからちょっとくらい文句も言いたくなるじゃん?」

「何だマルコス、貴様わざわざマヤと戦ったのか?」

「戦った戦った~。マルコスの旦那も知ってるだろ? 空間跳躍は実際に戦ってみとかねえとやばいってさ」

 ひらひらと手をふるセシリオに、マルコスは鼻を鳴らしてマヤへと向き直る。

「残念だが、私はマヤと戦ったりはしない。手を出せ」

「えっ? うん……」

 マヤはマルコスの意図はわからないまま手を差し出す。

 マヤの手をマルコスが握った瞬間、その手から魔力が流れ込んできた。

「どういうこと?」

「私の魔力をマヤに与えたのだ」

「いや、それはなんとなくわかったけど……」

 マヤが聞きたいのは、どうしてそんなことをしたか、ということである。

「説明するよりやったほうが早いだろう」

 マルコスはそう言うと大きく一回手を叩いた。

 ぱあああん、という気持ちのいい音が響いた瞬間、世界が完全に停止した。

「時間を止めたの?」

「そうだ」

「じゃあなんで私は動けてるのさ。マルコスさんが私だけ動けるようにしてるとか?」

 マヤは以前、マルコスの力で過去に送られた際に、マヤとマルコス以外の時間が止まった状態、というのを経験している。

 そのため、マルコスが時間停止を操って特定の者だけ動けるようにすることもできるということをマヤは知っている。

「今回は違う。私は私以外のすべてのものの時間を止めようとした。その上でマヤは動けているのだ」

「じゃあもしかして、これがマルコスさんの魔力をもらった効果?」

「そういうことだ。これで少なくとも、私レベルの時間停止には対抗できる」

「マルコスさん以上だったら?」

「わからん。もし無理だった時は諦めるしかあるまい」

「だよねえー……」

 マルコスはマヤたちの側で最も時間の操ることに長けている。

 そのマルコスの全力の時間停止に対抗できるようにしておいて、それでも駄目ならそれはもう仕方ないだろう。

 世界の命運がかかっている戦いでそんなことを言うな、と思うかもしれないが、相手の時間停止で停止してしまうようならまず勝ち目はないのだから仕方ない。

「ではオーガの姫君にも魔力を渡しておくとしよう」

 マルコスは時間停止したままシャルルにも魔力を渡すと、再び一回大きく手を叩いた。

「それではな」

 そのままマルコスは踵を返してルースの封印空間から去っていってしまう。

「えーっと……マヤさん、マルコス様は何を?」

 時間停止中のことがわからないせいで、マルコスがマヤの手を握ってその後手を叩いたと思ったら、次の瞬間にはもう帰ろうとしていたようにしか見えないエメリンはマルコスの背中とマヤの顔を交互に見る。

「マルコスさんは魔力をくれたんだよ。私とシャルルさんにね。で、このマルコスさんの魔力があれば相手の時間停止に対抗できるんだって」

「それでさっき手を握っていたんですね」

「ちょっと待てマヤ、私は魔力をもらってない気がするんだが?」

「ああ、シャルルさんには時間停止中に渡してたよ。ちょっと自分の中に集中してみて?」

「時間停止中にって……確かに、言われてみれば自分のものじゃない魔力がある、気がする」

「でしょ? そうだセシリオさん、セシリオさんもシャルルさんに魔力をあげて欲しいんだけど――」

 瞬間、エスメラルダの眼光が鋭くなり、マヤを射抜く。

「――もちろん手を握ったりとか、そういうやり方で……」

「へいへい。ほれエスメ、やましいことなんかしねーから安心しろって。なんならいつもみたいに腕に抱きついてていいからよ」

「なっ……! い、いつもじゃないわよっ。週に7回くらいしか抱きついてないわ」

 フンッと鼻を鳴らして顔をそらすエスメラルダ。

 その言葉に、それは毎日なのではないだろうか? と周りの誰もが思ったが、やぶ蛇になりそうなので全員スルーした。

 セシリオはサッとシャルルの手をとると、魔力をシャルルに分け与える。

「念のため確認するか。シャルル、俺の魔力が見えるはずだから見逃すなよ?」

 セシリオはエスメラルダとアイコンタクトだけしてエスメラルダを空間跳躍させる。

 周囲をキョロキョロしていたシャルルは、セシリオの魔力を見つけ、次の瞬間そこにエスメラルダが現れた。

「よし、問題ないみたいだな」

「ありがとうございます」

 頭を下げるシャルルに、セシリオはやりにくそうに苦笑する。
 
「そうかしこまらなくてもいいぜ? なにせ2人は俺らに勝ってるんだからな」

 セシリオの言葉に、シャルルは頷いたが、突然砕けた感じで話すのも難しいのか、何も言わなかった。

「エメリンさん、これで私たち2人共空間跳躍と時間停止には対処できるようになったけど、やっぱり最後はルーシェさんとなにかする感じ?」

「そうですね、最後はルーシェ様です。ちなみに、こうなることが予想できてたみたいで……」

「こんにちは、マヤさん」

「なんだ、来てたんだねルーシェさん」

「今日セシリオと決着がついて、マルコスは魔力を渡して終わりだとわかっていましたから……その前にマヤさん、2人だけの時と同じ話し方でもいいですか?」

「うん? ルーシェさんがいいなら私は別にいいけど……」

「ふう……それじゃあマヤ、さっそく魔力を渡すからこっちに来てくれるかな。シャルロット姫もね」

「どうしたんだルーシェ様は……?」

 魔王様モードじゃない時のルーシェを初めて見たシャルルは何事かと戸惑っているようだ。

「あー、これがルーシェの素なんだよ。まあすぐ慣れるよ。ほら、エメリンさんとかセシリオさんとか驚いてないでしょ?」

「確かに……」

 シャルルは周りを見て異常事態の類ではないことに納得すると、ルーシェに歩み寄って手を出した。

 ルーシェは2人の手を握ると、自分の魔力を分け与える。

「さっ、後は実戦あるのみー!」

 ルーシェは2人の手を離すやいなや、持物インベントリから取り出したレイピアを2人へと突き出した。

「おわっ!?」

「うおっ!?」

「今のを避けたのは流石だね。だけど~」

 ルーシェは2人に回避先が分かっていたかのようにすでに回り込んでいた。

 その時、マヤはルーシェの次の動き――ルーシェがシャルルへとレイピアを突き刺す動き――が脳裏をよぎる。

(何、今の…………いやっ、今はなにか考えてる場合じゃない!)

 マヤは脳裏に浮かんだ映像を現実のものとしないため、マヤはシャルルの腕を引いて一緒に床を転がって距離を取る。

「へえ、流石マヤ、もう未来予測が使えるようになったんだね」

「やっぱりさっきのはそういうことか……」

 マヤはエメリンをしてルーシェには一度も勝てたことがない、というのが嘘でもなんでもないのだろうということを、身をもって感じたのだった。
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