転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第7巻第2章 連携

神の下僕とオリガの研究

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「無駄なことを……」

 男は水晶玉に映し出していたマヤたちの訓練の様子を見て、そう吐き捨てた。

「何をやっても我が主には勝てはしない」

 男は背後の扉を振り返る。

 かつて魔神が命がけで神を封印した時、男はこの世界に生み出された。

 魔神が今際の際に自らの力を3つに分けて原初の魔王を生み出したように、神もまた別世界に追放される直前に男を生み出していたのだ。

 男の使命は神が復活するためのドアを守ること。

 原初の魔王やマヤが使っている白銀の聖魔石のドアとは対照的に、男が守っているドアは漆黒だった。

「約束の時は近づいていますよ、我が主」

 復活すると神が告げた時まであと数ヶ月。

 数ヶ月というと長いように感じるかもしれないが、永遠にも感じられる長い長い時間を待ち続けていた男からすれば、数ヶ月など一瞬だ。

「しかし、まさか我が主の復活を知った上で、あろうことか我が主を倒そうとする輩が出てくるとは……」

 男は再び水晶玉に目を落とす。

 映し出されていたのはちょうど、マヤとシャルルがエメリンに膝をつかせたところだった。

「原初の魔王が逆らってくるのは予想通りでした。その元側近のエメリンもまあ逆らってくるでしょう。しかし、それ以外は完全に予想外です」

 そもそも何者かさっぱりわからない魔王マヤ、男の記憶では大昔に滅んだはずのオーガの剣士、魔王ステラに魔王デリックまで。

 世界中の強者という強者がマヤを中心に集まっていた。

「万に1つも主には勝てないでしょうが…………流石に目障りですし、できる限り私の方で片付けておきましょうかね」

 男は水晶玉を持物インベントリにしまうと、漆黒のドアに一礼して部屋を出ていった。

 男は部屋を出るなり部屋を何十にも魔法で封印する。

 慣れているのか、男は高度な封印魔法を何種類も手際よく施していった。

「さて、それでは不届者を掃除しに行きましょうか」

 男は屋敷を出るなりふわりと浮き上がると、そのまま空を飛んでキサラギ亜人王国を目指して移動し始めた。

***

「こんにちはー」

「マヤさん!」

 マヤが久しぶりに大学にやってくると、オリガが駆け寄ってくる。

 マヤがやってきたのは、オリガが中心となって、科学技術と魔法を融合できないか、という事を研究している研究室だ。

「どう、順調?」

「順調といえば順調ですけど、順調じゃないといえば順調じゃないです」

 オリガは嬉しいけど素直に喜べないようなそんな複雑な表情をする。

「どういうことなのさ……」

 マヤは何が言いたいのかさっぱりなオリガに思わず苦笑した。

「あはは、ごめんなさい。研究自体は順調なんです。でも、こんな大変な時にすぐに役に立つわけじゃないものを研究してていいのかなって……」

「ああ、そういうことね。それなら気にしなくていいよ。だって、オリガたちのやってる研究がうまくいけば、世界中の沢山の人が幸せになりはずだもん」

 オリガたちがやっている研究、それは魔法が発動すまでの流れを、科学で再現する、というものだ。

 そんなことをしてどうするのか、という話だがそれができればあらゆることに応用することができる。

 例えば今まで全く魔法が使えなかった人でも、魔法の発動を道具が肩代わりしてくれるなら、魔力さえあれば誰でも魔法が使えるようになる。

「そう言ってくれると嬉しいですけど、やっぱり今だけでもより戦力強化につながるような研究をしたほうが……」

 真剣な表情でそんなことを言うオリガに、マヤは苦笑する。

「いや、オリガは今のままでいいって。なにせ私のほうが酷い研究に時間を取らせてるから。ついてきて」

 マヤはオリガを連れて研究室を出ると、廊下を歩いていき、別の研究室の前で止まった。

「ここは?」

「ここは私が頼んだものを作ってる、いやもうずっと作ろうとし続けてる、って感じの研究室なんだけど……」

 マヤはノックして反応がなかったので、そのままドアを開けて中に入る。

「うわっ…………相変わらずきったないなあ……」

「んんっ? マヤさんですか?」

「そうだよ。久しぶりだね」

「んんんんーーーっ! はあああ……。はい、お久しぶりです。すみません、いつの間にか寝ちゃってたみたいで……他のみんなも今起こしますね」

「いやいや、いいよいいよ。どうせ徹夜続きでぶっ倒れて寝てたんでしょ?」

「その通りです。それで、マヤさんはどうしてここに?」

「ちょっと進捗が知りたくてさ。どう、パソコンできそう?」

「そうですね――」

 その後始まった専門的な説明は、オリガにはさっぱり分からなかった。

 それだけに、時折質問しながら研究室で寝ていた研究者の男性と話しているマヤをオリガは尊敬の眼差しで見ていた。

「――ということでして、まだまだ問題は山積みです」

「そっか、わかった。まあ特に急ぐものでもないから、あんまり無理して身体壊さないようにね」

「はい、ありがとうございます」

 マヤはひらひらと手を振ってそのまま研究室を出た。

「すごいですねマヤさん、あんなに難しい話がわかるなんて」

「え? あー、さっきのやつ? あんなの私にはさっぱりだよ?」

「ええっ!? だって、質問とかしてちゃんとしててわかってる感じだったじゃないですか」

「そりゃ何回も聞いてるからちょっとは理解してるけど、実際半分も理解できてないよ」

「それであんなにふうに話せるって、それはそれですごいですね……」

 オリガはマヤの意外な才能に感心する。

「それよりオリガ、どうだった?」

「どうだった、とは?」

「ほら、あの研究室で研究してる内容って、完全に役に立たないじゃん? 少なくとも今は全く」

「そうですね……」

 倒れるように眠ってしまうまで頑張っている様子だったので、なんとも肯定しづらかったが、マヤの言う事が事実なので仕方がない。

「で、それを主導してるのは、私なんだよね」

「そ、そうなんですか……」

「だからさ、とりあえず今は役に立たないことでもいいんだよ。むしろ、今役に立たないことの方がいいとさえ思ってる」

「どうしてです?」

「今役に立つものって、ほっといても誰かが作ると思わない?」

「確かにそうですね」

「でも、今役に立たないものは、ほっといたら誰も作らないでしょ」

「ですね」

「でも、今役に立たなものは、将来役に立つかもしれないじゃん? だから、頑張って今役に立ってないものを作るのは大切だと思うんだよ。未来のために今役に立たないものでも研究する。私はね、そんな考えもあって大学を作ったんだよ」

「未来のために今役に立たないものでも研究する……」

 オリガはマヤのその言葉を噛みしめるように繰り返した。
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