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第7巻第2章 連携

エメリンに勝てた?

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「落ち着いた?」

「うん、あり、がとう、パコ」

 しばらく抱き合ったままだったカーサとパコは、カーサが落ち着いたタイミングで身体を離した。

「それで、その……俺と姉ちゃんはこれで恋人同士ってことなのか?」

「うん、たぶん? 私も、恋人が、いた事、なんて、ない、から、わから、ない、けど」

「それは俺も同じだ。でも、姉ちゃんが俺のこと好きで、俺も姉ちゃんのことが好きなら、恋人同士ってことでいいんじゃないか?」

「そう、だね。ねえパコ、その、「姉ちゃん」って、呼び方、変えて、ほしい、な」

「呼び方を変える? 例えばどうするんだ?」

「その…………カーサ、って、呼び、捨てで、呼んで、ほしい」

 パコは一瞬躊躇ったが、すぐに決心したのかカーサへと目を向ける。
 
「呼び捨てかぁ……えーっと、カーサ?」

 パコが呼び捨てにしただけで、カーサの表情がぱあっと明るくなり、パコはやってよかったと思った。

「うん、なに、パコ」

「なんだか恥ずかしいけど、カーサがこの方がいいって言うなら、これからはそうしたいと思う」

「うん、そう、して、くれる、と、嬉しい」

 カーサは満足げに頷く。

「じゃあ、私は、これで、帰らせて、もらう、ね?」

「えっ? もう帰っちゃうのかよカーサ。どうせなら泊まっていけばいいのに」

 カーサが今までパコたちのところを訪れた際は、基本的に1泊して帰っていた。

 なので、泊まっていかないのか? というのは、パコは何気ない言葉だった。

 しかし、その言葉でカーサは凍りついたようにその場で動きを止めた。

「パコ、恋人が、一つ、屋根、の下で、泊まる、と、子供が、でき、ちゃうん、だよ?」

 真剣な表情で語るカーサに、パコは驚愕する。

 それは、カーサの認識が間違っていることに気がついたから――ではなく。

「なんだって!? 確かにどうやって子供ができるのか不思議に思ってたんだけど、まさか恋人同士が同じ家で寝るだけでできるなんて……」

 といった調子で、カーサの言ったことをそのまま信じていた。

 当然、年長者であるカーサとパコがこんな調子では、エマが知るわけもなく……。

「そう、なん、だよ、パコ。だから、恋人、同士に、なった、以上、安易に、泊まって、いったり、は、できないん、だよ」

「わ、わかった。それじゃあまたな、カーサ」

「うん、また、ね、パコ。エマ、ちゃんも、元気で、ね」

 カーサはそれだけいうと、パコの家をあとにした。

 パコの家を出てしばらく歩いた道の脇、少し休憩できるような草原で、カーサは両手で顔を覆ってうずくまった。

「~~~っっ!? よかった~~……」

 カーサはその後もしばらく、道端の草原で、告白が成功した余韻に浸っていたのだった。

***

「はあああああっ!」

「うおおおおおっ!」

 マヤとシャルルは、完璧な連携でエメリンへと攻撃を仕掛ける。

 朝から続いた訓練もすでに終盤で、今日あと1回エメリンに回復魔法を使わせれば、今日エメリンが使うことができる治癒魔法は、それで最後、というところまで来ていた。

(これはいけたでしょ!)

 シャルルとマヤのタイミングは完璧。

 それだけでなく、それぞれの動きも完璧だった。

「くっ、まさかここまでの追い詰められるとは」

 そしてついに、エメリンが最後の治癒魔法を使って立ち上がる。

「よっし! あと一回だよシャルルさん!」

「そうだな! このまま一気にいくぞ!」

「うん!」

 マヤとシャルルは気合を入れ直すと、勢いそのままに、エメリンへと向かっていった――。

***

「お、おまたせ……」

 訓練を終わった後、夕方から夜へと移ろうの街角にマヤの姿はあった。

「おう、遅かったな」

「もう、そこは「待ってないよ、俺も今来たところだから」じゃないの?」

「何だそれは……待ち合わせ時間より1時間近く遅れてきておきながら、よくもまあそんなことが言えるな」

「あはは~~ごめんごめん。だから一応言ってあったじゃん? 訓練の状況によっては遅れるかもしれないって」

「まあそれはそうだったが、限度ってもんがあるだろう? ちなみに具体的には何をしてたんだ?」

 歩き出したウォーレンの隣に並んだマヤは、そのままウォーレンの腕に自身の腕を絡めて抱きしめる。

「今日訓練の時間が伸びたのはね、エメリンさんをついに倒せるかな、って思ったからなんだよ」

「ほう、エメリンさんをか。すごいじゃないか」

「うん、まあ私達もすごいとは思ってるんだけど、実は今日も結局勝てなかったんだよね」

「何かあったのか?」

「まあ言っちゃえば私達の経験不足だよ。エメリンさんが昔言ってた事を素直に信じちゃったのかいけなかったというかなんというか」

「どういうことだ?」

「つまりね? ――」

 マヤたちは、以前エメリンが自分で言っていた治癒魔法の使用回数の限界をもとに、エメリンの治癒魔法の使用可能回数を考えていた。

 そして今日、マヤたちの計算上の限界回数以上の回数、エメリンに治癒魔法を使わせたのだ。

 しかしながら――。

「そもそも私達が前提にしていた、エメリンさんの治癒魔法の使用上限回数が、嘘だったんだよ」

「つまり、その時点からエメリンの戦いは始まっていたってことか」

「そういうことだね。おかげでぬか喜びでまだまだ限界じゃないエメリンさんに、最後だと思って畳み掛けて、そのままスタミナ切れで負けるっていうね」

「はははっ、やはりすごいんだな、エメリンさんは」

「もう、笑い事じゃないよ~」

「ははっ、すまんすまん。でも、着実に強くなってみたいで安心した」

「まあ強くはなってるよ。でも、なになに? 心配してくれてるの?」

「もちろんだ。恋人を心配しないやつなんていないさ」

「……も、もうっ。ありきたりな言葉でドキドキさせてくれちゃって」

 マヤは頬を染めながら、肘でウォーレンの脇腹をつつく。

「ははっ、あはははっ! くすぐったいぞマヤ」

「ふふっ、ならもっとやっちゃおうかな?」

 マヤは腕を伸ばして両側からウォーレンの脇腹をつつく。

「あははははっ! マヤ、おい、やめ……っ。あははっ。」

 マヤとウォーレンはそんな他愛もないやり取りをしながら、言ってしまえばイチャイチャしながら、夜の街へと消えていったのだった。
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