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第7巻第1章 聖剣の扱い方

マヤの悩み

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「いただきまーす」

 マヤはエメリンが用意してくれた昼食を早速口に運んだ。

「相変わらずマヤは美味しそうに飯を食べるな」

「そうかな? ウォーレンさんもいい食べっぷりだと思うよ」

 今日の昼食は、マヤとウォーレンの2人だけだ。

 午前中の訓練ではオリガやマッシュも一緒だったが、今日の午後は休みということにしたので、2人以外は家に帰ったり出掛けたりしていなくなってしまったのだ。

 昼食を用意しておいてくれたエメリンも、学校関係の用事があるとかで、オリガを連れて出掛けて行ってしまった。

「俺は男だからな。身体が大きい分腹も減る。マヤよりもたくさん食べるのは普通だろ?」

「まあ確かにそうかも。それにしてもウォーレンさん、ウォーレンさんは特に用事ないの? 今日の午後はお休みなんだから、どこか出掛けて来てもいいんだよ?」

「あー、まあそうだな…………と言っても出かけるところもないしな……」

「ええー、流石にどっかあるでしょ? そうだなあ、例えば新しい剣を見に行く、とか?」

「剣か。でも今の剣が気に入ってるからな、見に行ってもしかたなくないか?」

「そんなことないと思うよ? 新しい発見があるかもしれないじゃん」

「うーん、そういうもんか? そういうマヤはどうなんだ? 買い物でもなんでも行ってくればいいじゃないか」

「あー、うーん…………いや、うん、そうだねっ! ご飯食べたら出掛けてくるよ」

「ああ、そうするといい」

(変な間があった気がするが…………)

 ウォーレンはマヤの返しに違和感を感じた。

 しかしながらウォーレンは、それに踏み込んでいいものか迷ってしまう。

(なんとなく聞いてほしくなさそうだしな…………それに俺は……)

 ウォーレンがマヤの告白に対する回答を保留していることもまた、ウォーレンを躊躇わせた。

 マヤの気持ちに答えていない自分が、踏み込んでいいのか、と。

 結局、ウォーレンはマヤの様子がおかしかったことを追及することはなく、2人は他愛もない話をして昼食を終えたのだった。

***

(はあ、ああいった手前とりあえず買い物に来てみたけど……)

 マヤはすっかりキサラギ亜人王国一の商業施設となったショッピングモールにベンチの座って買い物を楽しむ人々を眺めていた。

 マヤが日本のショッピングモールを参考に設計したので当たり前といえば当たり前だが、歩いている人の中にエルフやドワーフ、オークやオーガなどがいなければ、ここが異世界だと言われても誰も信じないだろう。

(私はいつまでここにいられるんだろう……)

 マヤはここ最近悩んでいることをぼんやりと考え始める。

 向こうの世界とよく似た光景が広がっているこの場所の来たのも、この悩みのせいかもしれない。

(産みの神は、私が向こうの世界で死んだって言ってた。だから、向こうの世界に戻るってことはない、と思う。でも…………)

 こちらの世界に来て割とすぐにわかっていたことだが、マヤの力は異常だ。

 魔物の強化魔法以外使えないかわりに、魔物の強化魔法だけで大抵なんとかなってしまうほどの効力がある。

(この力は神様がくれたもの、何だよね。つまり、この世界に本来あるべき力じゃない)

 マヤの力は、神が神を退けるために与えたものだ。

 そんなこの世界にあるべきではない力を与えられた自分は、神が目的を果たしたらどうなるのだろうか。

 神を退けたと同時に、マヤもこの世界から消えてしまうのではないだろうか。

 マヤは最近そんなことを考えていた。

(あの神は、産みの神は、隠居派だって言ってた。隠居ってことは、自分たちは関わらないってことだから、不必要に力を与えたもしないってことだろうから……)

 原初の魔王にしろマヤにしろ、その強大な力の出処は隠居派の神なのだ。

 その神が目的を果たした力を回収したら? そうしたらマヤはこの世界に存在し続けられるのだろうか。

「はあ、考えてもしょうがないのかもしれないけど、何も考えないでいれるほど、お気楽にもなれないから困ったもんだね~」

 無理やり苦笑してみたマヤのつぶやきは、子供連れの家族などの声で賑わうショッピングモールの喧騒に溶けていく。

「考えてもしょうがないなら、考えないで済むようにするしかないんじゃないか?」

「それができたら苦労しないんだよ~…………で、いつからそこにいたの、ウォーレンさん」

 マヤはマヤが腰掛けるベンチの隣にいつの間にか立っていたウォーレンを微苦笑で見上げる。

「マヤが隣に立たれていることにも気が付かないとは、相当重症だな」

「ウォーレンさんくらいの達人相手じゃ、私だって強化魔法を使ってない時は気がつけないよ。それで、なんか用?」

「いや、用ってほどじゃないんだが、その…………なんだ、デートでもしないか?」

「…………どういう風の吹き回し?」

 マヤはウォーレンの発言が突然過ぎて訝しげにウォーレンを見やった――マヤとしてはそのつもりだったのだが、マヤは舞い上がる胸のうちを隠しきれず、少しニヤニヤしてしまっていた。

「マヤにしては珍しく黄昏れていたからな、元気づけられれば、と思ったのだが……」

「なーんだ、そういうことかー。てっきり私はウォーレンさんも私のこと好きになってくれたのかと思ったー」

「そ、それは、その……すまん、まだわからん」

「いいよ、別に。もとから急かすつもりないし。それじゃあ、ほら」

 マヤは勢いをつけて跳ねるようにベンチから立ち上がると、振り返ってウォーレンに手を差し出した。

「なんだ?」

「もう、察しが悪いなあ……手だよ手っ。手を繋ごうってこと」

 マヤは頬を染めながら説明すると、もう一度ウォーレンへと手を差し出した。

「お、おう。それじゃあ……」

 ウォーレンはおずおずとマヤの小さな手を握った。

「えへへ、これでちょっとは恋人同士に見えるでしょ」

「まだ恋人じゃないけどな」

「いいんだよ細かいことは。とりあえず今日は恋人同士、いいね?」

「わかったよ」

 上機嫌なマヤに、ウォーレンも細かいことは気にしないことにした。

「………………まだ恋人じゃない、ね…………そっか、まだ、ってことは……えへへ……」

「ん? なにか言ったか?」

 マヤが何言か言っていたようだが、ショッピングモールの喧騒にかき消され、ウォーレンの耳まで届くことはなかった。

「ううん、何でもない。それじゃあ行こうか! 実はあっちも服屋さん気になってたんだー」

 マヤは楽しそうに、ウォーレンの手を引いてショッピングモールの中を進んでいった。
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