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第7巻プロローグ

マヤの部屋で

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「んんっ……」

 マヤがゆっくりと目開けると、そこはいつものベッドの上だった。

「あれ、私いつの間に寝たんだっけ?」

 マヤが身体を起こすと、ベッドの脇に置かれていた椅子の上で、ウォーレンが眠っていた。

「え……? なんでウォーレンさんが私の部屋に……というか、私なんでパジャマ上しか着てないの?」

 マヤはやたらと下半身がスースーすると思い布団を持ち上げると、予想通り下半身は何も身に着けていなかった。

「せめてパンツくらいは履いてないとだめだよねえ……本当に何があったんだっけ? 昨日は確か……」

 マヤはそんなことを考えながらベッドから降りて立ち上がろうとする。

 しかし……。

「うわっ……わわわっ…………わっ!?」

 立ち上がると同時にふらついたマヤは、慌てて足を踏み出したものの、そちらの足にも力が入らず、結局そのまま床に向かって顔から倒れていってしまう。

 とっさのことで強化魔法も使えず、原初の魔王と互角かそれ以上に戦えるにも関わらず、なすすべなく転ぶしかなかった。

 思わずギュッと目をつむったマヤだったが、その身体を痛みが襲うことはなく、硬く太い何かに受け止められた。

「…………全く、突然立ち上がろうとするからだ」

 マヤがゆっくりと目を開けると、そこには椅子で眠っていたはずのウォーレンの顔があった。

 マヤを受け止めたのは、ウォーレンの腕だったのだ。

「ウォ、ウォーレンさん!? お、おお、起きて、たんだ……」

 マヤはウォーレンが起きていたことに同様が隠せなかった。

 それもそのはずで、マヤは今下半身裸なのである。

 だからこそウォーレンが自分の部屋にいる理由とか、なんでパジャマの上しか着ていないのかとか、そんな疑問をいったん無視して、パンツやパジャマの下が入っている棚に向かおうとしたのである。

「さっきマヤが転びそうになって声を上げただろ? あれで起きたんだ。でも良かった、受け止められて」

「あ、うん、それはありがとう……。ありがとうなんだけど、そろそろ離してくれると……恥ずかしい、から……」

「っっ! わ、悪い!」

 ウォーレンは勢いよくマヤから手を離すと、そのまま距離を取って背を向けた。

「ウォーレンさん、その……また立ち上がって転んじゃうといけないから、その……」

「あ、ああ……なんだ?」

「その、ね? 私の、その……パンツを、取ってきて……くれないかな?」

「お、おう……わかった。待ってろ……」

 真っ赤な顔で頼むマヤに、同じく顔を真っ赤にしたウォーレンが応じる。

「あっ……」

 場所を教えようとしたマヤだったが、ウォーレンはマヤが呼び止める前に迷わずマヤの衣装棚がある隣の部屋へと歩いていった。

(なんで私の部屋にあんなに詳しいんだろう? カーサに聞いたのかな?)

 マヤの部屋に入ったことがあるのは、マッシュを除けばすべて女性のみだ。

 特にオリガやカーサなどはよくこの部屋でおしゃべりしたりするので、妹のカーサから教えてもらったのだとしたら、あの迷いないウォーレンの動きにも説明がつく。

「マヤ、これで合ってるか?」

「う、うん、それでいいよ……」

(なんでよりによってそんなセクシー系を選ぶかな!?)

 この時間を早く乗り越えたくてそれでいいと言ったマヤだったが、ウォーレンがマヤに見せたのは、マヤが持っている中でも一番大人っぽいパンツだった。

 確かレオノルとオリガと3人で買い物に行ったとき、レオノルから男を虜にする方法を教えてもらおうとかそんな話になってその場のノリで買ってしまったのだ。

 当時の軽率な自分を引っ叩いてやりたいところだが、今さらどうしようもない。

「ウォーレンさんパジャマの下もお願い……」

「わ、わかった……」

 程なくしてウォーレンは、例のセクシーパンツと、パジャマの下を持って戻ってきた。

 ちなみにマヤは床に女の子座りしているため、パジャマの上だけでもなんとか隠すべきところは隠せている。

「ありがと……あっち向いててくれる?」

 ウォーレンは頷くとマヤにパンツとパジャマの下を渡して背を向ける。

 マヤは座ったままパンツとパジャマの下に脚を通した。

「ふう……これでもう大丈夫。もういいよ、ウォーレンさん」

「はああああああ…………」

「ちょ、なんでウォーレンさんがそんな大きなため息つくのさっ」

 確かにウォーレンにも迷惑をかけたかもしれないが、パジャマの上だけの姿を見られた上に、履いていない状態とはいえパンツもバッチリ見られたマヤに比べれば、ウォーレンが受けた被害など微々たるものだろう。

「ひとまずマヤをまともな格好にできて安心したんだ。あの格好のままじゃ、その……俺が困る……」

「え……それって…………ううん、どうせあれでしょ? 風邪ひきそうで心配とかそういうのでしょ? わかってるよー、ウォーレンさんはそういう人だってー」

「いや、理性を保つのが大変だった」

「なっ!? な、なな……」

 あまりにもストレートな物言いに、マヤは思わず言葉を失ってしまう。

「本当だ。そもそも最初マヤを風呂で助けてから、マヤの裸を見てしまってから……その…………」

「えっ? えっ? 裸? お風呂? えっ!?」

 ウォーレンが言っている意味が分からず混乱するマヤだったが、風呂という言葉に昨晩の記憶が蘇ってくる。

(そういえば私、お風呂に入ってからの記憶がないな……もしかして、お風呂で寝ちゃってた?)

 もしそうだとしたら、ウォーレンのさっきの言葉にも説明がつく。

 さらに言えば、マヤがパジャマの上だけしか着ていなかったのも、部屋にウォーレンがいたのも、ウォーレンがマヤの部屋の衣装棚の場所を知っていたのも、すべて説明がつく。

 湯に浸かったまま寝てしまったマヤを、たまたまウォーレンが見つけ、すっかりのぼせていたマヤを引き上げ、身体を拭き、部屋に運び、なんとかパジャマを着せようとしたものの下を着せるのは流石にハードルが高く、パジャマの上だけ着せて布団をかけて寝かせた、といったところだろう。

(あれ? ってことは私ウォーレンさんに全身拭かれたってこと!?)

「っっっ~~!?」

 マヤは思わずポカポカとウォーレンを殴り始める。
  
「ちょ……おいっ、マヤ! や、やめ……やめろ……って…………痛っ、痛い痛い」

「っっっっ~~~!」

 マヤは声にならない唸り声を上げながら、しばらくの間ウォーレンを殴り続けた。

***

「それで、あんな時間に私を探してまで確認してほしかった資料って何なのさ」

 ウォーレンをひとしきり殴って落ち着いたマヤは、ウォーレンからマヤを探していた事情まど聞いていた。

「ああ、これなんだが……」

 マヤはウォーレンが取り出した紙を受け取ると、ざっと目を通す。

「ええっと、どれどれ……うーん……ふーん、なるほど……これが本当ならもうちょっといろいろ急がないといけないかもね」

 ウォーレンが持ってきた書類には、オーガに伝わる伝説として、原初の魔王3人と聖剣を持ったオーガの王族が協力しても倒せるかどうかわからない化け物がやってくる、というものがあるらしいという報告だった。

 それだけなら、例の復権派の神のことだな、で終わりなのだが、問題はその時期である。

「ちょうど半年後、か。思ったよりも早いね……」

 半年でどうにかなるだろうか、マヤは一抹の不安を感じながら、朝日が登る空へと目をやった。
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