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第6巻エピローグ

マルコスの回答

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「まさかルーシェとセシリオを配下に加えてやってくるとはな……」

 マヤから説明を受けたマルコスは、驚き呆れた様子だ。

「まあそういう反応になるよね。その、だめだった?」

「駄目ではない。予想外ではあったが。そうだ、セシリオ、お前、私とルーシェを殺そうとしていたな?」

「なんだ、マルコスにはバレてたのか」

「当たり前だ。セシリオ、私がオーガの王族を過去から呼び寄せるきっかけを作ったのはお前だな?」

「さて、なんのことやら」

 セシリオは目をそらして口笛を吹き、わざとらしく知らないふりをする。

 そこまであからさまだと、問い詰めてくれと言っているようなものだ。

「とぼけるな。ヘンダーソンの王子が子供になった件、あれはお前の仕業だろう?」

「ええっ!? そうなの? ジョン王子を子供にしたのってセシリオさんだったの?」

 マヤとマルコスの視線に、セシリオは肩をすくめる。

「なんだよ、やっぱりわかってて治してやったのか。お前らマヤに甘すぎねえか?」

「私はマヤが私の依頼を達成した見返りとして治してやっただけだ。無条件でお願いを聞いていたルーシェと一緒にするな。まあ、私が条件を出すことまで、お前の計画の内だったようだが……」

「ご明察。マルコスなら見返りに何か条件を出すと思っていたからな。俺が怪しい動きをしてるらしいことを知っていたマルコスは、いざとなれば俺を排除できるカードを用意する必要があった。そんなところに、過去に送っても問題ない唯一無二の存在であるマヤがやってきたわけだ。当然、マルコスはマヤを過去に送り、オーガの王族を連れてこさせる。それが、俺たち原初の魔王を殺せる唯一のカードだからな。後は聖剣さえ手に入れれば、いつでも俺を殺せる」

 つまり、ジョン王子が子供になってしまい、それを助けるためにマヤが奔走し、過去に送られた上過去の世界で色々な事件に巻き込まれながら、なんとかシャルルを連れ帰った一連の騒動は、すべてをセシリオの策略によるものだったわけだ。

 いい加減にしろ、と怒りたいマヤだったが、これがなければシャルルと出会うことも、オーガたちを救うことも、エメリンの過去を知ることもできなかった。

 そう考えると怒るのも違うような気がして、マヤは微妙な表情になってしまう。

 さてどう反応したものか、とセシリオの言葉を思い出して考えていたマヤの頭の中に、ある疑問が湧いてきた。

「唯一なの? その原初の魔王を殺せるっていうオーガの王族を殺した人がいたじゃん? いや、人じゃなくてドラゴンだけど。龍帝様なら原初の魔王に匹敵するんじゃないの?」

「マヤさんの言う通り、龍帝は私たち原初の魔王に匹敵します。しかし、一方的に私達を殺せるほどの力はありません」

「え? じゃあ最後に聖剣を持ってたオーガの王族はなんでやられちゃったの?」

「それはおそらく、聖剣を持っていない時に不意打ちされたのでしょう。ゾグラス山は強力なドラゴンで溢れています。オーガの王族も聖剣がなければ普通のオーガと変わりません。何らかの理由で聖剣を手放さざるを得なくなり、その間にドラゴンに襲われて亡くなった、と考えるのが妥当でしょう」

「聖剣を使わないと勝てないような相手がうじゃうじゃいるようなところは苦手、ってことだね」

「そういうことです。とはいえ、聖剣を持っている間であれば私達を殺すこともできるのですから十分驚異的な力なのですが」

「まとめると、セシリオさんはマルコスさんを上手く使ってオーガの王族を過去から連れてこさせて、聖剣を持たせたオーガの王族を使ってルーシェさんとマルコスさんを殺そうとしてて、マルコスさんはマルコスさんで、なにか企んでるらしいセシリオさんを、もしもの時に殺せるようにオーガの王族を用意してた、ってこと」

「まあそういうことだな」

「その通りだ」

「いやギスギスしすぎでしょ。ねえルーシェさん、この2人って昔から仲悪いの?」

「いえ、以前はこうではなかったんですが……おそらく2人とも焦っていたのでしょうね」

 ルーシェの言葉に、場の空気がガラリと変わる。

 先程までどこか緩い空気から一転、場を重苦しい空気が支配する。

 その原因は、セシリオとマルコスだった。

 2人が突然深刻な雰囲気を醸し出し始めたのだ。

「え? え? ど、どうしたのさ2人とも」

 マヤの質問に2人が答えることはなかった。

 2人は、マヤを無視して話し始める。

「セシリオ、お前はどこまで把握している?」

「少なくとも、マルコスと同じくらいにはわかってるつもりだ」

「なるほど。それでマヤの配下になったのか?」

「そういうことだ。奴に対抗するには、俺たちが争ってる場合じゃないからな」

「私とルーシェを殺して魔神になろうとしてたやつがよくもまあそんなことを」

「場合によっては俺を殺して能力だけ取り込んで、残った連中で協力してなんとかしようとしてたマルコスには言われたくねえな」

 協力しないといけないと言ったそばから険悪な2人の間に、マヤが身を滑り込ませて手を挙げる。
 
「あの~、さ? 喧嘩する前に、もうちょっと説明してほしいかなあ……なんて……? 正直さっぱりわからないんだけど、セシリオさんとかマルコスさんが協力しないと対抗できない敵って、何?」

 その気になれば他の原初の魔王を除く全世界を相手取っても勝つことができる原初の魔王が、協力して対応しなければならない敵、というのは、正直想像できない。

「それはな――」

「「「神だ」」」

 世界最強格である原初の魔王は異口同音に、これから相対することになる敵の名を口にした。

「神……」

 マヤは時間停止中に出会った産みの神を思い出す。

 彼女が言うには、再び人間を支配しようとしてる復権派とかいう派閥の神が近々やってくるらしい。

「そうです、神です。私たちを産み出した魔神様が力を失い私達を産まざるを得なくなった原因。その神が復活する日が迫っているのです」

(どうやら産みの神が言ってた復権派の神様のことで間違いないっぽいね)

 となると、おそらくだが原初の魔王を産み出して消滅した魔神様とやらは産みの神と同じ隠居派の神なのだろう。

「そういうわけだ、マヤ。だから俺たちは協力しないといけないわけだな。だからマルコス、お前もマヤの配下になれよ」

「なぜ私が……」

「俺たち2人が配下なんだ、マルコスだけそうじゃないのは不公平だろ?」

「お前たちが勝手に配下になっただけで私は関係ない……と言いたいところだが、そうだな、私もマヤの配下に加わろう。問題ないな、マヤ」

「いや問題あるよ……はあ……なんて言っても聞いてくれないんでしょ? わかったよ、マルコスさんも私の配下ね」

「ああ、よろしく頼む」

 こうして、ルーシェ、マルコス、セシリオの原初の魔王3人がマヤに配下となった。

 後にこの日は、魔王同盟結成の日として歴史に残るのだが、この時のマヤたちは、当然そんなことは知る由もないのだった。
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