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第6巻エピローグ

魔王同盟?

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「というわけで、俺はマヤの配下に加わろうと思う」

「突然何を言い出すんですかセシリオ!?」

 唐突にとんでもないことを言い出したセシリオに、ルーシェは驚いて声を上げる。

 原初の魔王が、ただの魔王の配下になるなどと言ったのだから、同じく原初の魔王であるルーシェが驚くのも当然だ。

「突然でもないだろ? さっきも言ったが俺はマヤに負けたんだ。負けた俺がマヤの配下に加わるのは何もおかしなことじゃないと思うけどな」

「それはっ……! そうかもしれませんけど…………しかし、あなたも原初の魔王の一人なのです! もう少し考えて行動するべきではないのですか?」

「考えた結果の行動だ。それに、原初の魔王が特別なのは、同じ原初の魔王以外では太刀打ちできない力があるからだろう? でも俺は原初の魔王じゃないマヤに負けた。なら、もう原初の魔王は特別じゃないってことになるだろう? だから俺は俺の好きにさせてもらう」

「そんな屁理屈を……」

「それにルーシェ、お前には言われたくないぞ? そもそもお前、マヤに亜人の国を作るように依頼しただろ? その上聖魔石にドアも直してやってたよな? 俺もマルコスも文句は言わなかったが、あれは厳密にはルール違反だぞ?」

「ぐぬっ……それは…………」

 セシリオの言うルールと言うのは、原初の魔王は極力世界に干渉してはいけない、というものだ。

 原初の魔王も配下を使って何かをすることはあるが、ルーシェのように本人自ら亜人の国を作るように依頼したり、頼まれたからと言って聖魔石のドアを直してあげたりはしない。

 前者の建国依頼は言わずもがな。

 後者の聖魔石のドアもといルースを治してあげた件についても、そのドアが聖魔石でできており、空間転移を可能とするものであることを考えると、どんな条件があったとしても、対応してはいけないものだったと言える。

「何も言い返せないだろう? まあそういうわけだ、俺は俺の好きにさせてもらう」

「…………はあ、わかりました」

「ありがとよ、ルーシェ。ってことでマヤ、俺はお前の配下になりたいんだが、構わな――」

「ただし!」

 マヤと話を進めようとするセシリオの言葉を、ルーシェの声が遮った。

「うおっ……びっくりさせるなよルーシェ……なんだ、まだなにかあるのか?」

「当然です。あなた一人がマヤの配下になるのではバランスが悪すぎます」

「どういうことだよ」

「あなたを倒せるマヤと、原初の魔王であるあなたがどちらもキサラギ亜人王国の所属になってしまえば、パワーバランスが崩れると言っているんです」

 ルーシェの指摘に、指摘されたはずのセシリオは、なぜだか口角をあげる。

「なるほど、確かにそれはそうだ。だがそれならどうする? そっちはそっちでルーシェとマルコスで同盟でも組むか?」

「それも一つのやり方ですが…………」

「それじゃ世界が2つに分断されるだろうね。私たちに味方するか、ルーシェさんたちに味方するかで、それぞれの国家は2つのグループに分かれる。そして、そうやって分かれると往々にして……」

「戦争、だろうな。しかも、この戦争は最悪なことに、最後には原初の魔王同士が激突する。そうなれば、冗談抜きでこの世界はおしまいだ」

 原初の魔王とそれに匹敵する力を持つマヤが本気で戦うことになれば、セシリオの言う通りこの世界は大変なことになるだろう。

「では、どうしろと?」

「簡単だ、ルーシェもマヤの配下になればいい」

「いやいや、それは流石にまずいでしょう? キサラギ亜人王国に力が集まりすぎてしまいます」

「それのどこが問題なんだ? キサラギ亜人王国が圧倒的力を手に入れれば、むしろ世界は安定するはずだ。もちろん、王であるマヤが他国に戦争を仕掛ける気がなければ、だが」

「そんなつもりはないよ。というかそもそも、私はまだセシリオさんを配下にするって言うところすら了解してないんだけどね?」

 マヤノは以下になるならないに話にも関わらず、当のマヤを完全無視で話を進めるセシリオへの精一杯の嫌味だったのだが、セシリオはそれを軽く受け流す。

「それはひとまず置いといて、だ。マヤは力を持ってもそれを戦争に使ったりはしない。なら、マヤのところに力が集まっても問題ない。そうだろう?」

「うーん……そう、なの、かも……しれません…………私も配下に加わって監視すればあるいは…………」

 ルーシェはしばらくぶつぶつ何言か言っていたが、やがて決心したように顔を上げた。

「マヤさん、私もマヤさんの配下にしてください」

「いや決心してもらったところ悪いんだけど、そもそも私はまだセシリオさんすら配下にするとは言ってないからね?」

「そうでしたね……セシリオ、マヤさんが望まないのであればこの話は……」

「いいのかマヤ? マヤが俺を配下にしないなら、俺はまた今すぐにお前と戦わないといけなくなるんだが」

「脅し!? とてもこれから配下になろうという人も態度じゃないんだけど!?」

「で、どうする?」

「どうするもこうするもないじゃん、拒否権なしじゃん……」

「別にもう一回戦ってもう一回マヤが勝てば済む話だろ?」

「いやそれは……」

 さっきはセシリオさんが手加減してたからでしょ、と続けようとしたマヤを、セシリオが視線で制する。

「………………はあ、わかったよ。セシリオさんを配下として迎えるよ。ついでにルーシェさんもね」

「流石マヤ、いい判断だ」

 セシリオの言葉に、マヤは「どの口が」という感じだったが、もうどうでも良くなってしまったのでツッコむのはやめておく。

「ありがとうございますマヤさん」

「ごめんねルーシェさん、巻き込んじゃって」

「いいんですよ、むしろ私たち原初の魔王の事情にマヤさんを巻き込んでしまってすみません」

「良いよ別に。でもこうなると、マルコスさんをどうするかだよね。私の配下になると思う?」

「無理だろうな、マルコスは」

「ええ、無理でしょうね。そもそも彼はセシリオを殺そうとしていたようですから」

「えっ、そうなの? なんでまた……」

「セシリオが私とマルコスを殺そうとしてた理由と同じです」

「まずそっちも初耳なんだけど、なんでそんなことしようとしてたのさ」

「2人を殺してその力を取り込んで俺が魔神になるためだな」

「魔神?」

「魔神っていうのは、私たち原初の魔王を生み出した存在です。自らの権能を3つに分けて私達を産み出し、消滅しました。その関係上私達を原初に魔王は――」

 それからしばらく、ルーシェの原初の魔王と魔神に関する解説は続き、マヤは時折質問しながら、耳を傾け続けた――。
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