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第6巻第4章 セシリオの狙い

合体の力

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「ふんっ!」

 槍をかわしたマヤは、そのまま槍に横から肘を叩き込む。

 飛ばされた槍に引っ張られる形でセシリオがバランスを崩したすきに、マヤは大きく飛び退って距離を取った。

「うおぉ……めちゃくちゃ跳ぶじゃん……」

 マヤや自分の後ろ跳びが予想以上に大きかったことに冷や汗をかく。

 気をつけないといつか何処かに激突してしまいそうだ。

「まさかあれをかわすとはな」

「色々聞こえるからね、なんとなくあそこに来るのがわかったんだよ」

「なら、今度はできるだけ音を立てないようにしてしてみるか」

 セシリオは地面を蹴ると一気にマヤへと肉薄する。

 そのまま正面から突き込んでくるように見せかけて、セシリオは後ろに回り込んでマヤの死角から槍を突き込んでくる。

「たしかに静かだけど、聞こえてるよ!」

 マヤは振り返らずにセシリオの槍を避けると、そのまま後ろ蹴りを食らわせる。
 
「ぐっ……!」

「まだまだっ!」

 マヤは最初の蹴りで膝をつきそうになったセシリオへと間髪入れずに蹴りを食らわせていく。

「舐めるなっ!」

 防戦一方だったセシリオは、セシリオとマヤの間に空間を生み出しそれを拡張することで強制的に距離を取る。

 マヤは距離を詰めようとしたが、マヤの移動速度を上回る速度で空間が拡張しているのか、距離は開くばかりだった。

「逃げるの? シャルルさんをもとに戻してくれるなら私はそれでもいいけど?」

「まさか。久々にこんなに楽しい戦いなんだ、逃げるわけ無いだろ? お前の力はよくわかった。お前たちの力は俺たち原初の魔王に匹敵す。だからこそ、その限界を見ておきたい」

 セシリオは全身に魔力を纏わせると、その手のひらに魔力を集め始める。

「限界とか言われても、今でも十分全力なんだけど?」

(そうだな。驚くべきことだが、マヤは私合体して得た身体能力をほぼ完璧に使いこなせている。それは裏を返せば、これ以上のパワーアップはないということだ)

「だよね……何か大技打つっぽいじゃん、あれ。どうにかやめてもらえないかなあ……」

「やめるわけがないだろ。頼むぞマヤ、死んでくれるなよ?」

 セシリオはそのまま手のひらに凝縮した魔力を地面へと叩きつける。

 瞬間、マヤたちがいる空間の床のあちこちに亀裂が入り、その隙間から何かが飛び出してきた。

「なんかよくわからないけど当たるのはまずい気がする!」

 マヤはその直感に従って大きく跳んで亀裂が無いところへと避難した。

 マヤが急激に動いたせいか、それまでの戦いですでに限界だったのかは分からないが、マヤが羽織っていたローブの裾が大きく破れて飛んでいってしまう。

 そしてそのローブの切れ端が亀裂から飛び出た何かに当たった瞬間――。

「…………やばいね、あれは……」

 ローブの切れ端は、亀裂から飛び出した何かに当たったと思われるところから、空気に溶けるように消えていった。

 どういう原理かは全くわからないが、亀裂から飛び出したなにかに触れるとまずいということだけは確かだろう。

「さてどうするマヤ、俺はまだシャルロット姫をもとに戻してやる気はないぞ? 早く俺を降参させなくていいのか?」

「簡単には近づけないようにしといてよく言うよ……でも、そうだね、諦めるわけにはいかないからね。マッシュ、さっきの物が消える空間の位置は把握できるかな?」

(おおよそはな。だが多少の誤差はある。大きくかわすのが賢明だろうな。場所は、今のマヤなら自分の耳でわかるはずだ。目で見えないものも、そこにあるなら多少なりとも音を反射する。それを聞き分ける耳が今のマヤにはある)

「了解!」

 マヤはマッシュの言葉を参考に、自身の足音の反響音からセシリオの魔法が存在するだいたいの位置を把握しながら進んでいく。

「ここだあっ!」

 そのままセシリオの目の前に来たマヤは、セシリオの顔面に拳を繰り出した。

 その瞬間、セシリオの口角が上がった気がした。

「ぶべらっ……!?」

 マヤの拳をもろに受けたセシリオは、そのまま情けない声を上げて吹き飛んでいく。

 触れたものを消してしまう何かの方に殴り飛ばしてしまったので、セシリオも消えてしまっていないか心配だったマヤだが、どうやらあの技は本人には無効らしかった。

「この技がセシリオさんには効かないなら、さっきの私のパンチも普通に避けれたんじゃないの?」

「…………なんだ、もうそこまで気がついたのかよ、可愛げのないやつだな」

「こんな絶世の美少女を捕まえて可愛げがないとは酷いなあ。でも本当になんでわざと受けたりしたの?」

「そりゃお前、一応原初の魔王にも勝ったってことにしてやるためだよ。そうした方がこれから楽だからな」

「どういうこと?」

「まあそのうちわかる。それと、ほれっ」

 地面に大の字で寝転がっているセシリオは、懐から小さな瓶を取り出してマヤへと投げてよこす。

「なにこれ?」

「シャルロット姫の意識が入ってる瓶だ。これを外のシャルロット姫の首にかければ意識は勝手に身体に戻る」

「そんな大事なもの投げないでよ」

「投げてどうこうなるものじゃないから安心しろ。そもそも、あんな激しい戦闘に間中俺の懐にあって無事だったんだ。かなり丈夫だぞ、それ」

 そう言われるとたしかにその通りである。

 外でやったら地面がクレーターだらけになるような戦闘を経て無事だったのだから、この瓶はセシリオの言う通りかなり丈夫なのだろう。

「それじゃあさっそくシャルルさんを助けたいから、ここから出してくれるかな」

 マヤに言葉に頷いたセシリオは、指を鳴らしてマヤとセシリオが戦っていた空間を解除する。

「マヤさん!」

 元の部屋に戻ってきたマヤにルーシェが駆け寄ってくる。

「おまたせ。なんとかセシリオさんに勝って来たよ」

「ええっ!? セシリオに勝った、んですか? まさかそんな……それに、なんですかその耳と尻尾……」

「まあ勝ったというか勝たせてもらったっていうのが正しい気がするけど。それからこの耳と尻尾はね――」

 マヤはマッシュとマヤの合体、人魔合体について、わかっていないなりにルーシェに説明した。

「それはマッシュさんと合体して生えてきた耳と尻尾なんですね」

「まあ極めて簡単に言うとそういうことだね」

「しかし、その力で原初の魔王であるセシリオに勝ったと言うのは流石に信じがたいですんね」

「いや、俺は確かにマヤに負けた。ルーシェ、これは俺が証明する」

「セシリオ、本当なのですか?」

 口調こそ落ち着いているもののルーシェの顔には驚きがありありと浮かんでいた。

「ああ、本当だ。だからなルーシェが、提案なんだが、マヤをトップにして俺たち原初の魔王で同盟を組まないか」

 セシリオのその言葉に「一応原初の魔王にも勝ったってことにしてやるため」という戦いの後のセシリオの言葉の意味を早速理解したマヤは、何やら面倒事に巻き込まれそうな気配を感じて、頬を引きつらせたのだった。
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