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第6巻第4章 セシリオの狙い

マヤとマッシュの連携

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「来て! マッシュ!」

 マヤは時間が動き出したと同時に叫びながら魔力を放出する。

 するとマヤの手のひら近くの空間が歪み、中からマッシュが飛び出してきた。

「おおっ!? 何だ一体!?」

 キサラギ亜人王国でマヤやオリガ不在の中国の防衛の責任者としてマヤから借り受けた魔物を指揮していたはずのマッシュは、突然マヤの前に転移させられて困惑する。

「よっし成功!」

「よっし、ではない! 突然私を召喚するとは何事だ?」

「いやー、ごめんごめん。ちょっとピンチでさ。マッシュがいないと不味いんだよね?」

「ピンチだと? お前がか?」

 マヤの実力を誰よりも知ってるマッシュは、ピンチだと言うマヤの言葉を信じられず、首を傾げる。

 しかし、すぐに強大な魔力を感じマッシュは総毛立ち、マヤの言葉は嘘ではないことを理解した。

「私がピンチだってわかった?」

「ああ、わかった。しかしマヤ、あれはそもそも敵対することが間違いなタイプの敵だぞ? どうして戦うことになってしまったのだ?」

 マッシュの言う通り、この世界において原初の魔王といえば神のような存在だ。

 敵対しないようにするのが定石であり、戦わなければいけなくなっても一撃離脱でなんとか逃げられることにかけるのが常識である。

 正面から戦うなどというのは愚にもつかない選択だ。

「それは私が教えてほしいよ。何か、私の力を試す、みたいなこと言って突然ここに飛ばされて攻撃されたんだよ」

「何だそれは、わけがわからんな」

「でしょう? でも、私の力を確かめたいって言うのは本当みたいだよ? だってさっきからずっとマッシュと喋ってて隙だらけなはずなのに、全く攻撃してこないでしょ?」

「言われてみればそうだな。ただ殺すつもりなら、こんなチャンス逃す手はないはずだ」

「だよね。ねえセシリオさん、やっぱり解放してもらうわけには……」

 マヤはダメもとでセシリオに戦いをやめてもらえないか交渉してみる。

「それはできないな。お前の力がその程度なら、ここで殺しておいた方がお前のためだ。そんなこと言ってる暇があったら、せっかく呼んだそのうさぎと協力して俺に攻撃してこい」

「はあ、やっぱりそういう感じだよねえ~。ってことでマッシュ、戦うしかないっぽいから、さっそく試したいことがあるんだけど」

「おい、本当に原初の魔王と戦うのか? 正気か?」

 マッシュはセシリオをマヤを交互に見ながらマヤに問いかける。

 マヤよりもこの世界の常識が染み付いているマッシュにとっては、原初の魔王と戦うのは自殺行為でしかないのだから、無理からぬことだろう。

「そんなこと言ったってやるしかないだよ、交渉の余地がないんだからね。マッシュも男なら覚悟決めるっ!」

 マヤの言葉に、マッシュは頭をぶんぶんと振ってから一つ大きなため息をついてマヤを見上げる。

「はあ…………仕方ない。こんな時でも魔物使いとしての命令は使わないとは、相変わらずおかしなやつだな、マヤは。いいだろう、女にそこまで言われてうじうじ食い下がるようでは男がすたる。やってやろうじゃないか」

「それでこそマッシュだよ! じゃあ早速私の頭に乗ってくれるかな」

「ああ了解だ! ………………って、ん? 今なんて言った?」

「いやだから私に頭に乗ってって!」

「…………すまん、なんでそうなるのだ?」

 至って真剣なマヤと、心底呆れた様子のマッシュ。

 原初の魔王と敵対しているという絶体絶命の状況でも平常運転すぎる2人に、セシリオは思わず苦笑する。

(俺と戦ってる最中にあんなふざけたやり取りができるのは、ある意味才能かもな)

 マヤの力を測ることが目的のセシリオは、攻撃することなく1人と1匹のやり取りを見守る。

「それはやればわかるって。あ、そうそう、できるだけお腹をしっかりつけるように乗ってね。私の頭を前足と後ろ足で抱え込む感じで」

「ますますわけがわからないんだが……わかったひとまず言うとおりにしよう」

 マッシュは不承不承ながらもマヤの言う通りマヤの頭を上に乗る。

 そして前足と後ろ足をそれぞれマヤの顔と後頭部に垂らしてマヤの頭を抱え込んだ。

「これでいいか?」

「うん、もっふもふで最高だよ!」

「はあ!? おいマヤ! まさかお前それが目的じゃ……!?」

「流石にそんなことないって。いくよっ! 強化ブースト!」

 マヤが強化魔法を唱えると、マヤの手から溢れた光の粒子がマヤとマッシュに吸い込まれていく。

 ここまでは普通に強化魔法を使った時と同じだが、ここからいつもとは違うことが起こり始めた。

 マヤの頭に乗っていたマッシュの姿がどんどんとなくなっていき、かわりにマヤの身体に変化が起こり始めたのだ。

 マヤの頭からは大きなうさぎの耳が生え、お尻にはうさぎのような丸い尻尾が生えていた。

(おいマヤ、これはどういうことだ?)

 マヤは頭の中に直接響くマッシュの声に頷く。

「これはね、人魔合体っていうらしいよ。って言っても、私とマッシュでしかできないらしいから、名前なんてあっても意味ないかもしれないけど」

(人魔合体? 聞いたことがないな……しかし、これは解除できるんだろうな?)

「うん、たぶん? 強化魔法の効果が切れたら勝手に分離する気がする」

(気がするとはなんとも不安になるが……しかしまあ、これでセシリオに勝てなければどうせ死ぬのだ、考えるのは後でもいいな)

「うん、その通りだね。それじゃ、さっそくいかせてもらうよ」

 マヤはいつも通り地面を蹴って駆け出した……つもりだったのだが――。

「うわっ!? うわわわっ!? わわわわわっ!?」

 予想以上の速度と力強さで飛び出した自分の身体を、マヤは制御しきれずにそのままセシリオへと頭から突っ込んでいく。

「なにっ!? はや――ぶべらっ!?」

 不意打ちだったとはいえ、セシリオは反応しきれずにマヤの体当たりをくらって、そのまま突き飛ばされる。

「うわっ!? だ、大丈夫セシリオさん?」

(敵の心配をしている場合か! そいつは殺しても死なないような化け物だ! あれくらいでどうこうなるものか! それより構えろ! 次が来るぞ!)

 マッシュの言葉にセシリオへと意識を向けたとたん、セシリオのあらゆる音が耳から頭へと流れ込んでくる。

 息の音はもちろん、心臓の鼓動、骨のきしみ、筋肉の伸縮、あらゆる音が聴こえる。

(これなら、セシリオさんの次の動きがわかるかも?)

 マヤは音からの予想に基づいて半身になる。

 セシリオの槍がマヤのいた場所に襲ったのはその直後だった。

 その槍の軌跡は、マヤが半身になっていなければ、マヤを確実に仕留めていた――。
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