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第6巻第4章 セシリオの狙い

セシリオVSマヤ

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「はははっ、どうしたどうした! 受け流すだけか!」

 セシリオは距離を無視した魔法を矢継ぎ早に繰り出して来る。

 マヤがどこにいようと、その攻撃はマヤの至近距離に出現し、マヤを襲う。

「そんなこといわれても、こんな状況で近づけるわけないじゃん!」

 マヤは突然現れるセシリオの魔法にギリギリで対応しながら、なんとかセシリオへの攻撃の機会を伺っているのだが、セシリオの魔法をまともに食らわないようにするのがやっとで、それどころではなかった。

「そんなことでどうする! お前は原初の魔王に負ける程度の雑魚魔王なのか?」

「原初の魔王に負ける程度って、そんなの当たり前じゃん! 原初の魔王は世界で一番強いんでしょ!」

「はっ! お前は知らないかもしれないが、原初の魔王より強い者は存在するんだよ! だからお前も俺を超えてみせろ!」

「それってどういう……」

 セシリオの言葉の意味が分からずマヤが少し集中を切らしたすきに、マヤへと魔法が集中する。

「やばっ!?」

 マヤはセシリオの魔法の集中砲火をもろに食らい、そのまま吹き飛ばされる。

「なんだ、本当にこの程度の魔王なのか? それではオーガの女はあのままだな。あれに頑張ってもらうしかないか……」

 勝負は決したとみたセシリオが踵を返そうとした時、マヤの魔力が膨れ上がるのを感じた。

「舐めてもらっちゃ、困るよ……っ! 強化ブースト!!」

 マヤが叫ぶと、その全身から光の粒子が溢れ出す。

 そのままマヤを中心に半球状に広がった光の粒子は、やがてマヤへと収束していく。

 淡い光をまとったマヤを見たセシリオは感心したように眉を上げた。

(さっきの魔法は直撃だった。正視に耐えない怪我を追ったはずだ……あれが噂の治癒もできる強化魔法というやつか)

「なるほど、なかなかやるな。それでは、続けさせてもらう!」

 セシリオは遠隔での魔法攻撃をやめて、マヤの背後へと転移して拳をマヤへと叩き込む。

 いや、正確には、拳を叩き込もうとしたところで――。

「十の剣、一の型、転~草薙~」

「……っ!?」

 直前でマヤの斬撃を察知したセシリオは、空間転移で斬撃から逃れる。

 とっさに上空に転移したセシリオは、マヤの斬撃がマヤの中心とした広範囲を切り刻んだのを確認した。

(まさか俺の転移を読んでいたのか? それとも、容易にかわせない範囲攻撃で一気に片付けようとしただけか?)

「面白い、もっと見せてみろ!」

 マヤは上空にセシリオがいることを確認すると、再び剣に手をかける。

「言われなくても見せてあげるよ!」

 マヤはセシリオの気配をしっかりと確認する。

(セシリオさんは突然現れるけど、魔力は大きすぎてどこにいるかは比較的どこにいるかはわかりやすい。問題は、転移先がさっぱりわからないことか……でも、あの転移もエスメラルダさんと同じなら――)

 マヤはセシリオが転移した瞬間にその出現位置を斬れるように全神経を集中する。

 セシリオの姿が消えたの同時に、マヤは剣を抜いた。

「十の剣、七の型、剥~薄羽~!」

 マヤの斬撃が何もない空間を斬り裂いた瞬間、消えていたセシリオの姿が元の場所に現れる。
 
「ほう、そうきたか」

 マヤは空間が僅かに繋がった瞬間、その穴を通じて感じたセシリオの気配を頼りに剣を振ったのだ。

(俺の空間転移の出口を斬って破壊するとは……何だあの技は? まさか、あの時俺の壁を斬って中に入ってきたように見えたのは、見間違いじゃなかったのか?)

 セシリオの空間転移の能力は、世界の法則そのものである。

 セシリオは空間転移ができるもの、と世界の法則がそうなっているのである。

 そのセシリオの空間転移を妨害すると言うことは――。

(さっきのマヤの技、あれはもはやすべてを斬るという概念の域に達している。あれで斬られれば、俺でも死ぬだろうな)

 セシリオの予想が正しければ、マヤの「剥~薄羽~」は切っ先で極めて狭い範囲しか斬らないかわりに、その範囲においてはあらゆるものを斬る、という概念に届いている。

 つまり、原初の魔王であるセシリオでも、急所に喰らえば死ぬ技だということだ。

「やっぱり、セシリオさんの空間転移も基本はルースやエスメラルダさんと同じなんだね」

「それは違うぞマヤ。俺が聖魔石の扉やエスメと同じなんじゃない、あいつらが俺と同じなんだよ」

「まあそれは私にはどうでもいいけど。とりあえず、空間転移は封じられるってことだよね。これなら普通に近接戦をするしかないわけだけど、どうする?」

「確かにそうかもしれないな」

「近接戦が苦手なら降参してもいいよ? 私はシャルルさんを治してくれるならなんでもいいからね」

「まさか。いつ俺が近接戦が苦手だと言った?」

 セシリオは別の空間から演りを取り出すと、そのままマヤへと構える。

「へえ、セシリオさんの得物は槍なんだね」

 セシリオが構えたのは、白銀の槍だった。

 オーガの聖剣とよく似た意匠が施されているところを見るに、同じルーツを持つ武器なのかもしれない。

「原初の魔王以外で、俺にこれを構えさせたやつはお前が初めてだ」

「そうなんだ」

 マヤはセシリオの僅かな動きも見逃さないよう、改めて意識を集中する。

「行くぞっ!」

(速いっ!?)

 思考速度が何倍にも加速されていることで、景色がスローに見える今のマヤでも、目で追うのがやっとなスピードで、セシリオはマヤへと肉薄する。

(空間転移の気配はなかったから、単純に速すぎるだけか!)

「くっ!」

 マヤは喉へと迫る槍先を剣の柄で弾きあげ軌道をそらし、そのまま横に跳ぶ。

「甘い!」

「ちぃっ!」

(速いだけじゃなくて上手い! くっそ、これはまずいなあ!?)

 セシリオは速度も技量もマヤと同等かそれ以上だ。

 原初の魔王といえど、得意不得意はあると思っていたのだが、強化魔法を最大にしたマヤ相手にこの動きというのは正直予想外だった。
 
「どうしたどうした! 近接戦には自信があるじゃなかったのか?」

「そのつもりだったんだけどね! セシリオさんのせいで自信なくしちゃいそう!」

 マヤは軽口を叩きながらも、超高速で繰り出されるセシリオの攻撃をなんとかさばいていく。

 とはいえ、マヤにはこれ以上どうすることもできない。

 しかも、マヤはすでに強化魔法を最大にしている。

 つまりこれ以上の強化はできず、その上ただ戦っているだけでどんどんと魔力を消耗していくと言うことだ。

(やばいやばいやばいやばい! どうしよどうしよどうしよどうしよ! 万策尽きてないかなこれ!?)

 マヤは混乱する頭をなんとか整理しようとしつつ、眼の前に次々迫るセシリオの攻撃をさばき続けた――。
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