転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第6巻第4章 セシリオの狙い

シャルルVSマヤ

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「見つけた!」

「………………」

 マヤはルーシェの案内でシャルルのところにやってきた。

「シャルルさん、私だよ、マヤだよ! わかる?」

「………………」

「おそらくですが、シャルルさんの意識はここにはありません」

「ここにはないってどういうこと?」

「セシリオは人の意識を取り出して他の場所に保管することができるんです。おそらく今、シャルルさんの意識は……」

 ルーシェが言うには、セシリオは人の身体の中を1つの空間とみなすことで、その中にある意識をまるごと他の空間に移すことができるらしい。

「なにそれ、そんなことまでできるの?」

「彼も原初の魔王ですから」

「そうだった、秘密をバラされそうになって思わず時間を止めちゃうルーシェと同じ原初の魔王なんだから、それくらいできても驚いちゃだめだね」

「ちょ、ちょっとマヤさん!? 今あれは関係ないじゃないですか!」

「あはは、ごめんごめん、冗談くらい言ってないとやってられなくてさ」

 マヤたちがのんきな会話をしていると、シャルルが静かに聖剣を構える。

「聖剣はもう一振りが揃って初めて本来の力を発揮するはずなんだけど、何か今の状態でもかなり強そうなんだけど」

 マヤの頬を冷や汗が伝う。

 オリガたちをルーシェの配下たちの救助に向かわせたのは失敗だったかもしれない。

(いや、オリガたちがいたところで、今のシャルルさん相手じゃ足手まといか……)

 マヤが剣を抜こうとした瞬間、シャルルが無感情につぶやく。

「………………ルーシェ、殺す」

「っっ!?」

 マヤはすんでのところでシャルルの斬撃を防ぐ。

(ちょっとちょっとちょっと!? 別人じゃん!? 速すぎるでしょ!?)

 シャルル本来の重い一撃のまま、速度が段違いに上がっているため、マヤは体勢を崩しそうになってしまう。

「邪魔する?」

「当然!」

「じゃあ、まずは、マヤを、殺す」

 シャルルは力任せにマヤを吹き飛ばすと、すぐさま次の斬撃をマヤへと繰り出す。

「わわっ、と!? めちゃくちゃ強くなってるじゃん! これでまだ聖剣片方しか持ってないんだよね!? 話が違くないかな!?」

「大丈夫ですかマヤさん! 何なら私がシャルルさんを止めても……」 

「いや、それはまだ大丈夫! 本当にやばくなったらお願いする!」

 マヤはシャルルの剣撃をなんとか受け流しながら対応を考える。

(殺すだけなら別に難しくないと思うけど、シャルルさん相手にそれはできないよね……。武器を壊す……のもできればやめたほうがいいっぽいよね……)

 マヤとしてはシャルルが無事でさえあれば聖剣などどうでもいいのだが、マルコスがわざわざシャルルを過去から呼び寄せたということが、マヤの中で少し引っかかっていた。

 なぜマルコスがかつては滅ぼそうとしたオーガの王族を過去から呼び寄せたのか。

 そのオーガの王族が聖剣を手にすることで原初の魔王をも殺す力を持つことは偶然なのか。

 マヤはその全てに何らかの意図があり、ここで聖剣を破壊することで、何か取り返しのつかない事態になるのではないかという気がするのである。

「仕方ない。ちょっと痛いかもだけど、我慢してね」

 マヤは強化魔法を最大にしてシャルルを横薙ぎの剣で吹き飛ばす。

 今のシャルルなら一瞬で詰められてしまう程度の距離しか離せなかったが、それだけあれば十分である。

「十の剣、三の型、減~朧斬~」

 マヤは迫りくるシャルルへと、高速かつ連続の峰打ちを叩きこむ。

 聖剣で強化されているシャルルでさえ捌ききれないほどの速度と回数で迫るマヤの峰打ちに、シャルルは次第にダメージを負っていく。

「くっ!」

「まだまだ!」

 シャルルが膝をついてもマヤの峰打ちの嵐は続く。

(ごめんね、シャルルさん!)

 マヤは心の中でシャルルに謝りながら、シャルルが完全に再起不能になるまで峰打ちの手を緩めなかった。

 やがて、シャルルは完全に地面に倒れて動かなくなってしまう。

「ふう……もう大丈夫かな」

 マヤは額の汗を手で拭うと大きく息を吐いた。

「その、マヤさん、大丈夫なんですかシャルルさんは……」

「うん、大丈夫なはずだよ。死んじゃう前にやめてるはずだからね。ただ、治癒魔法を使わないで置いといたら死んじゃうと思うから、ひとまず拘束したら軽く治癒魔法をかけてあげてくれるかな」

「ですよね……わかりました、任せてください」

 マヤは収納袋から出したロープでシャルルを手早く拘束していく。

「これでよし」

 肩や股関節などの固定し、四肢の根本から動かせないようにしたため、シャルルの力がどれほど強くなっていても、力づくで拘束を解くことはできないだろう。

「それにしても、マヤの十の剣は随分色々な状況に対応できるようにしてますよね」

「やっぱりルーシェさんは知ってるんだ」

「それはまあ。デリックと一緒にどんな技にするか考えている時から見ていますから」

「一応奥の手だから、他の人には内緒にしてね?」

「わかりました。さて、回復も終わりましたし、私たちも城の皆を救出に――」

「行かせると思ったか?」

「その声は……」

 ルーシェが声の方に視線をやると、何もない空間が歪んでその歪みから人影が浮かび上がる。

 人影はそのまま男性の姿へと変わり、現れたのはセシリオだった。

「どうするつもりですかセシリオ。まさかあなた自身が私と戦うと?」

 威圧感をはらんだルーシェの問いに、セシリオは肩をすくめる。

 そのままセシリオは笑って頭を振った。

「あなたと私が戦えば、この辺り一帯は無事では済まない。だから、こうさせてもらおう!」

 セシリオは指を鳴らすと、マヤとセシリオが別の空間へと飛ばされる。

「私に用があるんだ。てっきりシャルルさんを助けに来たのかと思ってたよ」

「俺にとってシャルロット姫のことなんて今はどうでもいいのさ。マヤ、お前は聖剣を携えたオーガの王族っていう原初の魔王を倒せる力を持った存在を打ち倒したんだ。俺にその力を見せてほしい」

「どういうこと? セシリオさんの目的は一体何なの?」

「それは今は教えられないな。とにかく、俺と戦ってくれ」

「いや、私的には戦う理由がないんだけど?」

「本当にそうか? シャルロット姫の意識は俺が持ってるんだぞ? 俺を倒さないと、あのオーガの娘はずっとあのままだ。それでもいいのか?」

「むっ……それは困るね」

「だろう? なら、俺と戦え」

「戦ったらシャルルさんの意識をもとに戻してくれるの?」

「それはお前の戦いぶり次第だな。なんでもいいから死ぬ気で来い。でないと、死ぬぞ?」

 容赦のないセシリオの攻撃から、マヤとセシリオの戦いは始まった――。
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