転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴

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第6巻第4章 セシリオの狙い

空間を隔絶する壁

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「流石ルースさんですね」

 すっかり開き直って魔王として話しているルーシェは、感心したようにつぶやく。

 マヤたちはルースの能力で、ルーシェの城の近くまでやってきたのだ。

「ところで、ルーシェさんがいなくてお城の皆は大丈夫なの?」

「それは大丈夫ですよ。いざとなったら自分の命だけはなんとして守るように伝えてあります。仮にマルコスやセシリオが攻めてきても生き残ることだけはできるように訓練していますから、死んではいないはずです」

「ならよかった。きっと今攻めてきてるのは私の知り合いだから」

「心当たりがあるんですか?」

「うん。というか、ルーシェさんって世界中いつでも見れるんじゃなかったっけ? 何で誰が攻めて来てるかわからないの?」

「それはおそらく、セシリオかその部下が、私の城を空間的に隔絶しているからだと思います。ほら、見えてきました、あれです」

 ルーシェは前方を指差す。

 そこにはつい先日ゾグラス山で見た謎の立方体の表面と同じ黒い壁が遥か上空までそびえ立っていた。

 マヤが近くに広げていたカラスの魔物の視界を覗いて壁を上空から確認すると、それはどうやら半球状に広がっているようで、ルーシェの城をすっぽりと覆っていた。

「あれはエスメラルダさんが展開してたやつと同じか」

 マヤは壁の前にたどり着くと、その壁をぺたぺたと触って確信する。

「マヤさん、下がっていて下さい。私が吹き飛ばします」

「ううん、大丈夫だよ。私が入り口を作るから。それに、そんな盛大にふっとばしたら襲撃犯に「ルーシェはここにいるぞ」って言ってるようなものだしね」

「入り口を作るってどういう……」

 ルーシェがマヤの言葉の意味を理解できないでいるのを無視して、マヤは剣に手をかける。

「十の剣、七の型、剥~薄羽~」

 マヤが剣を振るい、四度の閃きの後、壁が長方形に切り取られた。

「まさかっ…………」

「ルーシェ様? どうしたんですか?」

「い、いえ……なんでもありません……」

 オリガが驚いていないのを見て、ルーシェはその場をなんとか取り繕う。

(まさか空間を完全に分離している壁を斬るとは……あれはもはやただの斬撃ではないですね……)

 マヤが容易く斬っているように見えるため、ルーシェ以外は気がついていないのだろうが、あの壁はただの壁ではない。

 セシリオが空間を操る能力を用いて作った、空間を完全に隔てる壁。

 本来であれば、ありとあらゆる攻撃は、あの壁にはダメージを与えることはできない。

 なぜならどんな攻撃も空間の中を進むため、その空間を完全に隔絶する壁には影響を与えられないからだ。

 なので、ルーシェがやろうとしたように、セシリオと同格であるルーシェの魔力で吹き飛ばすくらいしかやりようがないはずなのだが、それをマヤが斬ったのだ。

(いつの間にやらとんでもない芸当を身につけてますね、マヤは…………しかし本人も気がついていないようなので、黙っておきましょう)

 ルーシェはマヤの斬撃の異常さをそっと胸にしまって、マヤが開けた入り口から壁の内側に入った。

「とりあえず、みんな無事のようですね」

 同じ空間に入ったことで城の中の様子が一気に確認できるようになったルーシェは、配下の無事を確認してほっと胸をなでおろす。

「それは良かった。それで、襲撃犯は誰かわかる」

「シャルルさんですね。何だか普通じゃない感じですけど……」

「やっぱりか。ルーシェさん、案内してくれる?」

「わかりました、こっちです」

 マヤはルーシェの案内でシャルルの元へと向かった――。

***

「セシリオ様、シャルロット姫をルーシェ様のところにお届けしました」

「ああ、確認した。ご苦労だったなエスメ」

「エスメラルダです。それでセシリオ様、ルーシェ様を倒してどうしたいのです?」

「どうしたい、か。そういえばまだお前には話していなかったな」

「ということは、ただ倒したい、というわけではないのですね?」

「ああ、当然だ。俺の目的は、俺が魔神となることだからな」

「魔神、ですか?」

「魔神だ。この世界には最初、1人の絶対的な魔神がいた。そいつは世界のすべてを観測し、時間と空間を支配していた」

「その力は、セシリオ様たち原初の魔王のお力と同じですね」

「そうだ。しかしある時、何かが起こって魔神は3つに分裂した。そして俺たち原初の魔王が生まれた」

「そんな経緯でセシリオ様が生まれたとは驚きです」

「俺も驚きだよ。たまたま見つけた碑文に書かれてなかったら分からなかったからな」

「たまたま見つけた碑文? なんですかそれは?」

「俺の一番古い記憶にある場所で見つけた碑文だ。昔ルーシェとマルコスと住んでた頃にいた場所なんだが、特殊な空間に封じられていたからな、俺にしかわからなかったんだろう」

「それではセシリオ様はルーシェ様とマルコス様を殺し、その力を取り込んで魔神になろうとしている、ということですか」

「そういうことだな」

 セシリオの思惑を聞いて一瞬納得しかけたエスメラルダだったが、1つ疑問が生じた。

「しかしセシリオ様、なぜセシリオ様は魔神になりたいのですか?」

「それは……まあエスメにもそのうちわかる。嫌でもな」

「それは一体どういう……」

「それよりエスメ、どうやらマヤが獲物を連れて戻って来たようだぞ?」

 あからさまに話題を変えられたエスメラルダだったが、セシリオの言う通り、セシリオが映し出しているルーシェの城の映像の中に、マヤがルーシェを連れて姿を見せたところだったので、エスメラルダの興味もそちらに移る。

「エスメラルダです。それより、マヤ様はどうやってあの壁を?」

「わからん。見てた限り斬っていたようにだったが……」

「斬った? ありえませんそんなこと」

「ああ、だろうな。大方ルーシェがなにかやって穴でも開けたのだろう」

「ですよね……」

 ルーシェはセシリオと並ぶ原初の魔王だ。

 セシリオの力で作った空間を完全に隔絶する壁でも、穴を開けるくらいはやってのけるだろう。

「さてエスメ、お前はどちらが勝つと思う?」

「どちらが勝つ、というと、マヤ様とシャルロット姫が戦ったらどちらが勝つか、ということですか?」

「そうだ」

「それはシャルロット姫でしょう。シャルロット姫はルーシェ様を殺しに行ったですよ? マヤ様ごときの遅れを取っているようでは話になりません」

「なるほど。それは確かにそうだな。しかし、マヤは何をしでかすかわからんところがあるからな」

 クツクツ喉を鳴らして笑うセシリオの顔には、純粋に勝負の行方を楽しみにしているとしか思えない笑みが浮かんでいた。

(セシリオ様はシャルロット姫が負けてしまっても良いのでしょうか?)

 主の真意が分からず、エスメラルダは首を傾げるのだった。
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